更新履歴・日記



エンジンシティの就活者
萌え 2019/12/16 00:33


・ポケモン剣盾に突っ込んでみた
・ゾル兄さん:ガラルの姿
・ポケモンのチョイスは完全に趣味





 結局、巨大な城壁に囲まれた町――エンジンシティにはあっさり入ることが出来たし、町の入口にあるポケモンセンターも無料で利用できた。ポケモンセンターはピンク色が目立つ建物で、モンスターボールの電飾をでかでかと掲げていたので秒で分かった。アレがポケモンセンターでなければ何だと言うのかレベルで分かりやすい。ポケモンの急患もいるだろうし、目立つ方がいいのだろう。夜間も営業しているのは本当にありがたかった。

 受付にいた若いお姉さん(ピンク髪の彼女はとてもジョーイさんに見える)によると、ポケモンセンターは主に各地から集まる寄付で運営されているらしく、ポケモンの治療だけは誰でも無料で受けられるという。センター内にあるポケモン専用のアイテムショップはさすがに金がかかるが、良心的な金額で購入できるらしい。……持っている通貨はハンター世界でのみ使えるジェニーなので、無一文の俺には関係ない話である。ちなみに、この世界の通貨は円だったが、紙幣と硬貨は俺の記憶にある現代日本のものではなかった。まあ、世界が違うので紙幣に印刷される偉人も違って当たり前である。ちなみに、俺にとってのポケモン界の偉人といえば、原点にして頂点たる初代主人公、レッドさんだったりする。別作品で雪山にこもってたって聞いたが、この世界でもこもっているのだろうか。そもそも、この世界の時間軸だと彼らは何歳くらいかも分からないが。なんにせよ、やっぱりYAMAにいる奴ってやべーんだな(自分から目を逸らしつつ)。

 今更であるが、俺が真っ先にポケモンセンターに向かったのは、ミミッキュと蝋燭――ヒトモシというらしい――の健康診断のためである。意思疎通が出来る相手とは言え、詳しい生態が分からない野生ポケモンだ。俺が分からない部分で怪我をしていたり病気にかかっていたりするかもしれない。それを受付のお姉さんに伝えると、彼女はほわほわとした笑顔で「トレーナーとして立派な心掛けですね」と褒めてくれた。ナイチンゲールを彷彿とさせる清楚なロングスカートの看護師衣装を着ていることも相まって、白衣の天使を通り越して最早バブみを感じる。俺がポケモンだったらオギャるしかないが、残念ながら人間なので全力で控えよう。無論、こんなことを考えている間の俺は人好きのする笑顔である。ポーカーフェイスは任せろ。そんなお姉さんのおっぱい? 恐らくCで美乳である。なお、おっぱいに対する観察力はゾルディックのスペックと一切関係はない。弟のキルアが「あのねーちゃんのおっぱいはDだぜ!」とか言い出したら俺はちょっと泣く。ミルキとならフィギュアの乳と尻の脚線美を熱く談義できるというのに……。イルミ? あいつは論外だよ。

 まだボールでゲットしていない状態のヒトモシも、ミミッキュと同じ条件で預かってもらえたのでほっとした。お姉さん曰く、バトル用ではなく愛玩用のポケモンはボールを使っていないことがたまにあるらしい。ボール内の環境はポケモンにとって快適であることと、怪我や体調不良のポケモンを素早く搬送できること、そして他人に奪われてしまわないためといった理由で、モンスターボールでマーキングしておくのを勧めているという。そうか、対戦相手のポケモンをゲットできないのは、マナーの問題だけでなくボールによるマーキングのためでもあるのか。なるほど、過去のゲームで対戦相手のポケモンにボールを投げようとしても無駄なわけだ。……むしろポケモンではなく、対戦相手本体(例:ミニスカートちゃん)に投げたかった男は俺だけではないと信じている。

 しかしながら、無一文の俺はヒトモシに割り当てるモンスターボールを持っていない。俺はお姉さんに荷物を全部町の外で落としてしまったことを伝え、ボールのことを相談してみた。お誂え向きに、この町の周囲はワイルドエリアという、強いポケモンがうろついている上に天候も激しく変わる過酷な環境だったらしく、お姉さんは荷物のことをすんなり信じてくれた。さらには、センター内のアイテムショップから、搬入の際に汚れてしまった物で良ければという条件で、モンスターボールを1つ譲ってくれた。優しすぎないか? さすが白衣の天使。稼げるようになったら俺もポケモンセンターに寄付しよう。そしてヒトモシ、ゲットだぜ。俺の手持ちになったからには、散々可愛がって養ってやろう。もしかすると進化してアロマキャンドルになるかもしれない。すごく癒されそうだ。あるいはウエディングキャンドルかもしれないな、おめでたいぞ。いやいや、あからさまなゴーストタイプなので、あの世への道標的な方向性に進化するパターンだろうか。あり得そうだ。

 幸運にも、ミミッキュもヒトモシも全くの健康体だった。ついでに、ポケモンのスペックも調べられるということなので(いわゆるレベルや技の種類だ)、さっそく調べてもらった。調べるのは、センター内にいる専門家だという男性だ。姓名判断だとか使える技の整理もできるらしい。恐らくそれは、ゲーム中ではニックネームの変更とか技の入れ替えのことだろう。便利な世の中になったものである。ニックネーム変更なんて、真面目に考えてみると、一緒に暮らしているペットに「ポチ、お前の名前はこれからタマだ!」というようなものなので、なかなかやべーことではあるが。ポケモン界の闇を見た。

 ともかく、見てもらった結果は以下の通りだった。


ミミッキュ(♀・Lv.60)特性:ばけのかわ
タイプ1:ゴースト/タイプ2:フェアリー
・シャドークロー
・かげうち
・じゃれつく
・いたみわけ

ヒトモシ(♂・Lv.26)特性:もらいび
タイプ1:ゴースト/タイプ2:フェアリー
・おどろかす
・たたりめ
・おにび
・ほのおのうず


(分からん……)

 技名や特性を見ても大体分からない。知っているのは“ほのおのうず”くらいで、後は特に“いたみわけ”が分からない。後で技の中身を教えてもらおう。それから、ミミッキュのレベルが恐ろしく高いのは分かる。何だこれ初期レベルおかしくないか。ストーリー終盤クラスじゃないか。小さく可愛い見た目に反して、うちの子は一匹要塞だった……? 見た目が紙防御っぽいし、結構素早いので要塞というより回避盾っぽいが。何はともあれ、そのレベルの高さがあれば、序盤とタイプ相性が合致したジムリーダーを全抜きできそうな気がする。なお、いつものことながら提示された文字はさっぱり読めなかった。内容を把握できたのは、男性がご丁寧に読み上げてくれたからである。会話できればいいだろという安定の文盲モードに、涙目が禁じ得ない。文字が読めないと職探しが大変なんだぞ……。

(それにしても、まさか圧倒的ゴースト推しパとは)

 狙っていたわけでもないのに、ゴーストタイプが寄ってきたのは俺のせいか偶然か。ゴーストタイプといえば、初代組の俺にとってはシオンタウンの印象が強い。あの町はポケモンも極まっていたが、トレーナーもだいぶイッていたし、シナリオもトラウマ製造機だった。俺にくっついてきた2匹は可愛いオブ可愛いなのだが、実はポケモン図鑑の説明がヤバい勢だったりするのだろうか。読んでみたいようなそっとしておきたいような。まあ、これから一緒に過ごすのだから、きちんと生態は知っておくべきなので機会があれば読もう。……ここってオーキド博士いるか? そもそもポケモン図鑑って概念がある時代か? 町並みはスチームパンクと近代が組み合わさった感じだったので、カントー地方のド田舎マサラタウンより余程都会ではあるが。あ、そうだよここカントー地方じゃないわ。ゲームボーイでこんな街を見たことがない。第一、ミミッキュもヒトモシもカントー地方のポケモンではない。

「とっても強いミミッキュなんですね。頼もしいですね」

「キュッキュ〜」

 俺の元に返されたミミッキュをボールから出してやると、ミミッキュはお姉さんの言葉に照れたように体をくねらせた。この姿からは、レベルの高さなど一切窺えない。見た目の話は優男扱いされがちな俺にも言える話なので、人もポケモンも見た目には依らないということだろう。

 我が家のお嬢さん(ミミッキュ)を撫でながらお姉さんに聞いたところ、ここはガラル地方のエンジンシティという場所らしい。巨大なエンジンスタジアムはカブさんという男性がジムリーダーを務めており、スタジアムはポケモンリーグの開会式にも利用されるとか。なるほど知らない。俺が知らない世代のポケモン界で確定らしい。話を聞いていると、ガラルのポケモンリーグは世界的に有名でテレビ中継までされており、スポーツの祭典レベルに整備・運営されているようなので、初代よりは現代的に思える。初代のポケモン図鑑は数台しかなかったが、もしかすると誰でも見られる時代になっているかもしれない。

 そんなこんなで優しいお姉さん相手に情報収集に励んでいると、窓から朝日が差し込んできた。夜が明けたようだ。日光を避けるようにくっついてきたミミッキュをボールに戻した俺は、お姉さんに礼を言ってポケモンセンターを出た。目指すは日雇い労働で当座の資金をひねり出すことである。しばらくは野宿になりそうな予感に、俺は思わず遠い目をした。ああ、何か都合のいいバイトがないだろうか。この際、ハイリスクハイリターンでも構わないので。でも内臓を売る系は勘弁な。

 明るくなった町をあてどもなく彷徨う。レトロかつ都会的なエンジンシティはところどころに昇降機が設置されているが、それがまた傍から見ると殺意の溢れる昇降機だった。歯車のように下から上へダイナミックに足場が半回転する仕組みなのだが、申し訳程度の手摺があるだけで壁も天井も安全ベルトもない。子どもやお年寄りが乗ったら吹っ飛んで死にそうだ。手摺さえしっかり掴んでいれば大丈夫だったが、そうであったとしても必要以上に利用したくない。そんなスリリングな街をぶらりと見て回り、ざっくりとした街の位置関係を頭に叩き込む。大通りを歩いて町を一周してポケモンセンター近くの商店街に差し掛かる頃には、随分人通りが多くなっていた。同時に人々と共存するポケモンたちも姿を現し始め、賑やかになった。子どもの頃から慣れ親しんできたポケモンがすぐ隣にいる世界には、さすがにオタク魂が震える。朝日の下、遠くにバタフリーが飛んでいるのが見えて感動した。

 そんなタイミングだった。俺が喫茶店の目の前を通り過ぎようとしたその時、店から一人の男性が飛び出してきた。

「待った! ちょっと待ったそこの君!」

 スルーしようとしたが、どうやら俺に声を掛けていたようなので立ち止まる。中年に手が届いたくらいの男性は、朝食らしきトーストを無理やり飲み込み、ジャケットを慌ただしく整えてから再び俺に声を掛けた。小奇麗な格好だが、普通のサラリーマンにしてはカジュアルすぎるジャケットだ。

「ねぇ君、どこかの事務所に所属してる?」

「……特に所属はないですね?」

 何の事務所だよ、と言いたいところだが、そもそもこの世界に来たばかりの俺に所属もクソもないので首を横に振る。すると男性は、懐から名刺を取り出して俺に差し出した。

「君、絶対にいい線行ってると思うんだ! 僕の事務所で働いてみない!?」

 俺は反射的にそれを受け取ったものの、やはり文字はさっぱり読めないので、一体何の勧誘を受けているのか分からない。犯罪系だったらここまで人目につく場所で大っぴらに勧誘しないとは思われ……いやどうだろう。堂々としていた方が怪しまれないものであるし。

「できればナックルシティに来てもらいたいんだけど、家はエンジンシティかな? 引っ越ししてくれるなら不便な思いは――」

 どうやって聞き出そうか考えようとしたその時、再び喫茶店のドアが開いた。だが今度飛び出してきたのは人間ではなかった。ピンクがかった白のモフモフ、まるで綿あめのような姿の推定犬らしきポケモンだった。わたあめワンコは口から白い糸を吹き出し、俺の目の前に立っていた男を瞬く間に絡め取った。……絡め取った。犬じゃなくてクモだったか?

 次いで店から出てきた小太りの店員らしき男性が、困ったような笑顔を浮かべて口を開いた。

「困りますよ、お客さん。食い逃げはご法度ですよ」

「ち、違うんです! 食い逃げじゃなくて勧誘です! ビビッと来たから逃がすまいと!」

「お話は店の中で聞きますねぇ」

 俺の目の前でズルズルと引き摺られ、喫茶店に飲み込まれる男。店員の朗らかな笑顔が逆に怖い。

「……お邪魔しまーす」

 多少悩んだが、俺も便乗して喫茶店に入ることにした。何しろ、仕事の気配がビンビンするので。だが、何らかの仕事を貰う前に、まずは雇用主が食い逃げでお縄にならないように弁護すべきだろう……まっとうな職場なら。



+ + +



ミミッキュたちが覚えていたのは、うろ覚えの初期技です。うろ覚えだから多分一部が違うはず。

ポケモントレーナー資格は図鑑を貰えば得られて、公務員扱いになる→ポケセンの施設を自由に使えるらしいですが、この時空のガラル地方では治療だけなら誰でも無料でOK設定にしてます。なお、兄さんはジョーイさんたちに「ワイルドエリアで荷物が全部吹っ飛んだ可哀想なトレーナー」と思われてます。

バトルカフェのマスター相手に食い逃げできる奴がいたら見てみたい。わたあめワンコはペロッパフです。



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