更新履歴・日記



人里を探すポケモントレーナー(仮)
萌え 2019/12/11 00:17


・ポケモン剣盾に突っ込んでみた
・ゾル兄さん:ガラルの姿
・ポケモンのチョイスは完全に趣味





 霧、という天候は厄介だ。自分の位置関係が分からないのもそうだが、周囲の見通しも悪いし、空を見上げて方角を確認しようにも、立ち込めた霧は夜空の星を遮る。そもそも、この世界に北極星が存在するかも微妙なラインではあるし、太陽と月、地球の位置関係を俺の知識と当て嵌めていいのかも分からないが。ポケモン世界がそこまで特有の世界観を練られていないと期待するしかない。……そういえば新しめのポケモンって、天候を操れたりしなかっただろうか。局地的な異常気象待ったなしとは恐ろしすぎる。ともかく、月明りのお陰か完全な暗闇でないのはありがたい。

 本来であれば、見知らぬ場所で霧に巻かれた際にウロウロと動き回るのはあり得ない。霧が晴れるまでその場でじっとしているのが得策だ。それでも俺が辺りを探索して回ったのは、ゾルディック一族として訓練を積んでいた故に行動体力・防衛体力が抜群に優れていたこと、そしてそれなりに意思疎通が出来るミミッキュが傍についていたからである。何故か俺に初見から懐きまくっているミミッキュに、同じ場所に戻れるかどうか確認したところ元気よく肯定されたのだ。まあ、ウロウロとは言っても東西南北に動き回ったわけではなく、推定東の方向へ進んでいたので、案外最初からミミッキュにモンスターボールが落ちている場所に案内されたのかもしれない。ちゃっかり者め。俺がこの世界にいる間は全力で幸せにするので覚悟して欲しい。ちなみに、行動体力は文字通りの意味であり、防衛体力とは外界からの刺激(ストレス)に対応する力や免疫力等を指す。これらが高くなければゾルディックなんてやっていられないし、そもそも高くなるように両親祖父母から尻を叩かれる。世間一般では虐待レベルだが目を背けるしかない。

 モンスターボールでミミッキュをゲットした後、俺は適当な木陰で胡坐を掻き、ミミッキュと一緒に採取した木の実を齧った。木の実はピンク色をしており、開きかけた花のような見た目で、齧ると濃厚な甘さがある。だが、じっくりと噛んでいると渋みが出てくるので、渋みが苦手ならあまり噛みすぎない方がいいだろう。ミミッキュは嬉しそうに木の実を齧っていたが、突然ブルブルと震えてしょんぼりとしたので、渋みが苦手なのかもしれない。可愛いが過ぎる。美味しいものを腹いっぱい食べさせたくなるが、ミミッキュは木の実以外に何を食べるのだろうか。黒い手を伸ばして木の実を胴体の下に持っていっているので、汁物はあまり向かないかもしれない。

 そんなことを考えていると、近くの茂みがガサガサと音を立てた。そちらを見ると、ミミッキュと同じくらいの大きさの蝋燭が立っている。……蝋燭が、立っている。かなり太くてずんぐりとしており、黄金色の片目で俺をじぃっと見つめている。右目はドロリと融けた蝋に遮られており見えない。胴体の両側に垂れ下がった蝋は腕かもしれない。頭に紫色の炎を灯した、お化け屋敷に置いてありそうなその蝋燭はポケモンなのだろう。名前を知らないポケモンは、草むらの影から俺を見つめてソワソワしている。……ミミッキュと言い、どうして何か物言いたげに俺を見るのだろうか。途中で見かけた、ダイオウグソクムシからムキムキの胴体と手足が生えたようなヤバそうな奴(身長が2m近くもあったのでなおさら見た目がヤバい)なんて、ビビった俺がちょっと睨んだだけで全力で逃げられたのだが。俺が何をした。……あ、睨んでたわ申し訳ない。

 蝋燭があまりにもじっと見つめてくるので、俺はもう一個持っていた木の実を差し出した。すると蝋燭の目が木の実に釘付けになる。木の実を持ったまま腕を左右に揺らすと、蝋燭の胴体も左右に揺れる。可愛い蝋燭って初めて見たぞ。空いた手で俺がちょいちょいと手招きすると、蝋燭はおずおずと草むらから出てきた。再度木の実を差し出してやると、胴体にぶら下がった両手を上げ、そっと木の実を受け取った。そのままじーっと俺を見上げるので、「食べていいぞ」と言ってやると、控えめにカリカリと齧り始める。……最近の蝋燭には口がついているらしい。リスのような蝋燭とは一体。そもそも蝋燭って木の実を食べるのか。ポケモンは謎が深い。

「さて。腹ごしらえもしたし。ミミッキュ、人里の方向って分かるか?」

「ミミッキュ!」

 自分の分の木の実を飲み込んだ俺が尋ねると、ミミッキュは「任せて!」と言いたそうに胸を張った。分かるのなら最初から聞いておけばよかった。胸を張った拍子に頭ががくんと揺れたので少し心配になったが、恐らくそこに本体は入っていないので大丈夫だろう、多分。すると、立ち上がりかけた俺の傍にころりと木の実が転がってきた。先ほどの蝋燭だ。蝋燭は齧っていた木の実をぽろっと手から落としてしまったらしく、どこか呆然とした様子で俺を見上げている。

「ほら、落としたぞ」

 落ちた木のみを拾って渡そうとすると、蝋燭は木の実ではなく俺の手に触れた。俺の指2、3本分からの太さの蒼白い手は、俺の指にぴとりとくっついて離れそうにない。意外にも小さな手はほんのりと温かかく、近づいても灯った炎は手を焼くような熱さを感じなかった。紫色の炎が不安そうに震えるのを見ると、もしかしてという思いが込み上げてくる。ミミッキュのように、一緒にくっついて来たいというのだろうか? 尋ねてみると嬉しそうに鳴いたので、俺は少し困った。

「悪い、空のモンスターボールを持っていないんだ。それに、君まで養えるか分からない」

 なし崩しでミミッキュをゲットしたものの、意思疎通が出来る小動物なら大丈夫だろうと楽天的に考えた俺である。しかし2匹目、しかも謎の蝋燭となるとさすがに躊躇する。木の実が食べられるのは分かったが、2匹分も用意できるかは分からない。俺がそう言うと、蝋燭は円らな瞳で俺を見上げたまま“何か”をした。繋がれた手を伝い、俺から蝋燭に向けて生命力(オーラ)が僅かに移動する。すると紫色の炎が一回りほど大きくなり、輝きが増した。

「……もしかして、オーラを食べられる?」

 蝋燭がこくりと頷く。なるほど、一般人ならともかく、念能力者であり鍛えている俺なら、食事代わりにオーラを提供するのは十分可能だ。もしかすると、ミミッキュより燃費がいいかもしれない。頭の炎であちこちに放火して回りそうなヤバそうな性格にも見えないし、一緒にいても問題はなさそうだ。もしかすると、この蝋燭は俺のオーラに誘われて寄ってきたのかもしれない。

「それじゃあ、ボールは後回しになるけど一緒に来るか?」

「……モシ!」

 蝋燭は、短い両手を上げて大喜びした。なんだこの可愛い蝋燭。後で名前を調べておこう。

 こうしてミミッキュと蝋燭という謎の組み合わせを連れ、俺は人里へ向かった。蝋燭はさすが蝋燭というべきか、移動速度が遅かったので俺が抱き上げ、ミミッキュの先導で草原を移動する。意外にも人工物に突き当たるのは早く、俺が恐らく元居たと思われる場所から南に少し歩いた場所にあった。ダムレベルの大きさの巨大な橋脚の下に出たのだが、それに気づかなかったというのは霧の恐ろしさを感じる。橋脚の上には大きな道路らしきものがあり、推定東西方向へ伸びている。それを潜り抜けると幅が10mほどの川に出た。川に掛かった木製の橋を渡る頃にはすっかり霧が晴れ、周囲が恐ろしく広い平原であることと、すぐ傍に巨大な城壁に囲まれた町があることが分かった。少し歩いた先には、町の中に繋がる広い階段が伸びているのも見える。すんなり町に入れてもらえるか分からないが、ひとまずの目的地はそこだろう。

「……モンスターボールを買う金を作らないとなぁ」

「キュキュー!」

「モシモシ……」

 一般的なポケモントレーナーなら、その辺を歩いているトレーナーに因縁でもつけて合法的にボコボコにして金を巻き上げるという手段もあるが(残念ながら事実である。目が合っただけでバトルを吹っかけてくるのがトレーナーの常識だ)、今の俺がゲットしているのはミミッキュだけ。さらにそのミミッキュの持ち技などさっぱり分からない。ポケモンセンター辺りで健康診断がてら調べてもらえるかもしれないが、ゲームのように利用料を無料にしてくれるだろうか。実は歴代主人公たちが未成年だから無料でしたというオチだったら俺は泣く。先程のように、その辺にモンスターボールや金が落ちてないだろうか。もしくは親切なニャースが猫に小判とかやってくれないだろうか。

(就職活動、頑張ろう……)

 そもそもまっとうな履歴書を作れるような身の上ではないが。住所不定の不審者でも雇ってくれるところって、ロケット団くらいでは? いやロケット団でも断わられるか? ポケモン世界では犯罪行為なしで生きていたいのだが。

 俺の足元ではミミッキュが、腕の中では蝋燭が不思議そうに俺を見上げて首を傾げた。俺の手持ちが可愛すぎる問題。くじけずに頑張って養おう。

 ……少し離れた場所の草むらに、体長2mはありそうな二足歩行でピンク色のクマがいるのは気のせいだと思いたい。夜中に着ぐるみで草むらをうろつく奴でなければアレもポケモンだが、文字通りベアハグで背骨を折られそうな予感がしてならない。見つからないようにして町へ逃げ込もう。



+ + +



こうしてゾル兄さんはエンジンシティで就職活動をするのである。

きのみの好みでミミッキュの微妙な性格アピール。なお蝋燭=ヒトモシは辛い味が苦手設定。

ダイオウグソクムシみたいなやべー奴はグソクムシャですが、単純に特性のききかいひが発動して逃げただけです。野生の勘ってすげー!

ヒトモシについては、めっちゃ美味そうな人間がいると思って寄って来てます。美味そうな人間が美味そうな木の実をくれたので、最&高でくっついてきました。生命力食べる系のゴーストポケモンにとって、念能力者って美味しそうだと思います。同じ理由でゾル兄さんはゴーストタイプのポケモンホイホイ。しかもオーラをムシャムシャしてもほぼ怒らないという撒き餌。

キテルグマはマジでヤバい(震え声)

なおこのミミッキュ、ハシノマ原っぱ(霧)の固定シンボル君なのでレベル60です。クソ強い。
ヒトモシはは26〜28くらい。でも剣盾主人公ちゃんがワイルドエリアに辿り着く辺りでは強キャラ感があるレベル。



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