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ポケモントレーナー爆誕
萌え 2019/12/09 01:50


・ポケモン剣盾に突っ込んでみた
・ゾル兄さん:ガラルの姿
・ポケモンのチョイスは完全に趣味





 その日の夜、ククルーマウンテンは霧に包まれていた。そんな時に俺は帰宅したのだが、遅くなったのは“仕事”帰りだからではなく、単純に職場の飲み会帰りだからである。アルコールに酔うことなど不可能レベルの腎臓持ちである俺であるが、だからといって堂々と飲酒運転を披露するわけにもいかず、バイクは学校の駐車場に置いてきた。だがうっかり、拾ったタクシーの運転手に「ククルーマウンテンのゾルディック家の正門まで」と言った直後、運転手に引き攣った恐怖の顔を向けられたのでとても後悔した。俺、暗殺依頼者とか自殺志願者(闇討ちを狙う挑戦者)とかではないです……純粋に帰宅希望者です……。タクシーの運転手をしているだけなのに突然の恐怖をプレゼントしてしまって申し訳ない。こうなるなら、こっそり執事の迎えでも頼めば良かった。

 こうして一人の犠牲者を生みつつも正門に辿り着いた俺は、タクシーが走り去ったのを確認してから正門を開いた。飲み会直後に数トンの門を抉じ開ける謎のパワープレイだが、これが我が家の正式な帰宅方法である。そうして山道をマイペースに歩いている最中、周囲が徐々に霧に覆われてきたのだ。

 霧には嫌な思い出がある。視界を霧で塞がれた直後、某魔法少女の異世界にぶち込まれた挙句に召喚獣扱いされたことがあるのだ。俺を呼び出したのが絶世の美少女であることは何の慰めにもならなかった(年上趣味の嘆き)。さっさと家に帰ろうと足を速めたその時、遠くから狼の遠吠えのようなものが聞こえた。

(……随分イキった奴がいるな)

 我が家が聳え立つククルーマウンテン。そこでの食物連鎖の頂点に君臨しているのは、ゾルディック一族に仕える番犬・ミケである。俺の身長よりも高い体高を持つので犬という概念を疑いたくなるが、名目は番犬である。そんなミケがパトロールしている山に棲む動物たちは、可能な限り存在感を露にしないようにしている。実際にミケと対峙してみれば分かるのだが、侵入者を前にしたミケの気配は無機質な殺意に溢れている。通常の生き物とは一線を画したヤバい何かだ。俺がミケとの散歩中、間抜けにも俺狙いで飛び出してきた野犬が、ミケを見た瞬間に尻尾を丸めて震え上がった光景は今でも忘れられない。つまりは、そんなミケ親分が統べる山で自己主張をする奴は、よっぽどの間抜けかやべー奴なのである。

 そんなことを考えていると、再び遠吠えが聞こえてきた。先ほどよりも距離が近い。おまけに、一気に霧が深くなった――遠吠えに導かれるように。

(このまままた異世界とかないよな……? ないって言ってくれ……)

 しかしまあ、俺がこういうことを考えるときほど事態は嫌な方向に進むものである。

 案の定、視界を白く染めていた霧がどうにか周辺10m程度が見える程度に薄くなった頃、俺はここがククルーマウンテンではないことを悟った。何故なら、山を登っていたはずの俺の足元から、斜面の感覚が消え失せて平らな草むらが現れたからだ。それも、結構広い。

(また帰宅難民かよ……)

 思わず遠い目になりながらも、素早く自分の状況を確認する。念能力や体調に問題はない。無線機と携帯電話は持っているが反応なし。電源は入るがネットには繋がらないし電話もかけられない。周波数やら何やらが違うか、それも届かない程人里離れた場所なのだろう。教師としての仕事帰りなので、防御力ゼロのラフな格好であり、武器はジャケットに仕込んだ僅かなスローイングナイフのみ。色々と仕込んでいるいつもの飾り玉付きの髪紐も、職場には派手過ぎるので一般的な黒の髪紐だ(むしろ長髪が許されていることが温情すぎる)。いつもならブーツナイフやら頑丈過ぎる靴底を持つブーツも履いておらず、ただのスニーカーだ。スーツ姿でないことが不幸中の幸いだろう。……未だかつて、ここまで丸腰同然の状態で異世界に飛ばされたことはあっただろうか。

(世界観によっては俺死亡決定だぞ……どうする……?)

 霧が徐々に晴れていくと同時に、周囲に何かの生き物の気配が増えていく。霧が完全に晴れることはなかったが、やがて周囲が随分と広い草原であるとはっきりする程度に視界が回復した。

 ――俺が運命の出会いを果たしたのは、そのタイミングだった。

「キュ?」

 草を鳴らしながら足元に寄ってきた小さな生き物が俺を見上げる。30pもない大きさの黄色い布の塊。大きな頭と胴体という二頭身のぬいぐるみのようなそれは、尻尾じみた木の棒を揺らしながら確かに俺を見ていた。

(ぴ、ピカチュウじゃねぇか!?)

 まさに俺の背筋に電流が走る! ……と言いたいところだが、何かがおかしい。確かに黄色いぬいぐるみはピカチュウの姿かたちを取っていたが、あまりにも人形らしすぎる。へろへろの耳、グラグラと傾ぐ頭、幼児がクレヨンで描いたような顔。何より、手足が見当たらない胴体。よくよく見てみると、胴体部分には黒い豆粒のようなものが二つ付いている……これ、目に見えるのだが。そう、ピカチュウのぬいぐるみを被った何者かの目のように。

(なんだっけこれ……俺、こういうの見覚えがあるぞ)

 大体初代付近で記憶が終わっているポケモン知識を総動員した俺は、考えた末に目の前の何かの名前を思い出した。

「もしかして……ミミッキュ、か?」

「ミミッキュ!」

 俺の言葉に、彼、もしくは彼女は自己紹介のような鳴き声を嬉しそうに上げた。





 その後、ミミッキュは草むらの中を滑るように移動して俺にくっついて回った。初見で敵意ゼロかつあまりにも人懐っこく、こちらを見てソワソワする様子が可愛すぎたのでつい撫でてしまったのがお気に召したのかもしれない。頭より胴体を撫でた方が喜ばれたので存分に撫で、ついでに胴体の下から伸びてきた黒い手と握手までかましたのが効いたのだろう(黒い手を見た時は笑顔のまま結構ビビった。ミミッキュの胴体の中身については事前情報なしである)。なし崩しでミミッキュと共に周囲を見て回り、キノコやらわさび(後日、水辺のハーブと呼ぶことを知った)、謎の木の実(ミミッキュに催促された)を少し採取した俺は、ここがポケモンワールドであることを完全に理解した。何しろ、見かける奴がどいつもこいつもポケモンなのである。正確に言うと、ポケモンっぽい動物ばかりなのだ。知識が初代で止まっている俺には名前まで分からないが、湖でギャラドスというポケモン界の出世魚がゆったり泳いでいたので間違いない。ギャラドスに関しては見かけた後、はかいこうせんをぶち込まれる前にそっと退散した。

 そうしてうろうろしていると、モンスターボールが落ちているのを見つけた。トレーナーの落し物かもしれない。幸いにも中にポケモンはいないものだったが、俺が本物のモンスターボールに感動して手に取って眺めていると、ミミッキュが俺の足にまとわりついてきた。どうしたのだろうかとしゃがみ込むと、ミミッキュは黒い手を伸ばしてモンスターボールにツンツンと触れる。

「ボールが欲しいのか?」

「キュ〜」

 俺が尋ねると、ミミッキュはそうじゃないとばかりに困ったような鳴き声を上げる。今更だが、意思疎通が出来るのって凄すぎないか。

「……もしかして、俺のポケモンになりたいとか。なーんちゃって」

「キュキュー!」

 冗談のつもりで言った言葉が正解だったらしい。ミミッキュはたちまち嬉しそうな様子で体を揺らした。……いやいや待て待て。異世界に来たばかりの俺に生き物を養う余裕なんてないぞ、多分。そして俺にはボールの使い方がさっぱり分からない。しかしミミッキュは「早く早く」と言いたそうに、俺の膝にフカフカの頭を擦り付けてきた。やめろ可愛すぎる。一生養いたくなるからやめてくれ。俺は押しに弱いんだ。

 ……俺はお試しのつもりで、手の平からころりとボールを転がり落とした。赤と白の、日本人なら滅茶苦茶見慣れたボールはこつんとミミッキュの頭にぶつかると、勝手にパカリと開いてピンク色の光を出す。思わず「マジか」と漏らした俺の目の前で、ミミッキュはしゅるりとボールの中に吸い込まれた。地面に落ちたモンスターボールはピクリともしない。圧倒的無抵抗である。マスターボール張りの捕獲率だ。

 こうして俺は、異世界に落されて半日も経たないうちにポケモントレーナーデビューしたのである。そして、最初にゲットしたミミッキュがゴースト・フェアリータイプだったせいなのかは分からないが、ゴーストタイプのポケモンがやたらと手持ちに加わり(あくタイプとも縁があったのは職業柄だったら俺は泣く)、ゴースト・あくタイプのトレーナー扱いされていた。さらには気づいたらジムチャレンジャーになり、さらにはラテラルタウンでジムリーダーをやっていた。俺にもちょっとよく分からないが、いつの間にかなっていた。内気すぎる少年オニオン君と仲良くなったことが原因かもしれない。将来的には有望なオニオン君と交代する予定のジムリーダーである。それにしても超展開すぎないか?

 それにしても、チャンピオンカップでガラル全土に放映されるの、ハチャメチャに恥ずかしいので穴があったら入りたい。ちょっとそこのディグダ君、ちょうどいい穴を掘ってくれないだろうか?



+ + +



ポケモンとガチバトルできそうなトレーナーとは。
知識ないゾル兄さんにモノズをよしよししながら育てさせて、進化したサザンドラを見て真顔にさせたい。
あとニダンギルってゾル兄さん持てる? と明後日なことを考えてしまった。でも80pだから短剣ではないんだよなぁ。



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