更新履歴・日記



蛇は謳歌する
萌え 2019/08/04 23:23


・景光さんと麻衣兄同居シリーズIF
・蛇人間教授視点(オリキャラ)
・↑はブラックバイト麻衣兄編で出た、組織と関わりのある教授
・全くエロくないものの、教授が(ある意味)性的な目で麻衣兄を見ている



 ジンニキと麻衣兄さんが初めて会った話の時にいた蛇人間とか、裏掲示板でたまに出る蛇人間教授の設定を膨らませた話です。年齢制限ないところでは一瞬の命だったので「誰だよお前」状態になること間違いないと思います。その一瞬の命を別のルート扱いにして延命したような話です。完全に自己満足なのでご注意を。
 この話の麻衣兄はブラックバイトしてないです。SPRで健全なバイトしてます(健全とは)。





 弥蛇山要(みだやま かなめ)は蛇人間である。それもスリーパーに分類される、極めて優秀な存在だ。スリーパーとは、平たく言えば遥か昔、蛇人間が栄えていた時代から現代まで眠り続けている者であり、当時の彼らが持つ非常に高い知性や魔術技能を引き継いでいる。蛇人間という種族は概ね衰退の一途を辿っており、現代に残っているのは知性も姿も退化してしまっている者が大半だ(幻夢境などの場所を含めるとまた話は変わるが割愛する)。そのため、繁栄していた時代の力を持つ蛇人間は非常に好ましく、崇拝しているイグという神からの覚えもめでたい。弥蛇山の場合、幼い頃に眠りにつき、日本が開国してしばらく経った世で目を覚ました。それから人間の群れに紛れるようにして激動の時代をやり過ごし、戦後から本格的に人間としての戸籍を作成して表舞台に立つようになった。あの頃は、架空の人間の戸籍を紛れ込ませるには持って来いのいい時代だった。

 直立する蛇という姿を隠すのは簡単だが、蛇人間に寿命はないため、寿命のある人間に成りすまし続けるには程よいところで“世代交代”する必要がある。そのため、彼は弥蛇山家の人間として何度も世代交代を繰り返した。大往生してみたり、若くして死んでみたり、子を残すための妻の設定もその都度考えたりと、彼はそれなりに楽しんでいた。蛇人間の血がそうさせるのか、人間のことは基本的に無能な猿扱いして嫌っていたが、経験値が積み重なれば扱いも心得るものである。彼らの社会に紛れて遊ぶのは非常に上手いものだった。

 そうして何度目かの世代交代をして、今度はやり手の若手教授として東都大学に潜り込み、教授業の傍らで趣味の製薬を楽しんでいる頃だった。同胞が事件を起こして粛清されたとの情報が流れてきた。どうやらこの国の政界に手を伸ばそうとしたものの、欲を張って手を広げ過ぎたせいで失敗したらしい。間抜けだと思いながらも、念のために情報を収集していると、事件の関係者の中に年端も行かない人間の少女が紛れ込んでいることに気付いた。運良く賢い子どもならば、防衛省から直接、あるいはその指示を受けた警察の特殊部署から固く口留めされる程度で済んでいるだろうと思いつつ詳しく調べてみると、意外にも少女はその特殊部署に可愛がられる存在になりつつあると分かった。可愛がられる、とは好意的な表現で、実際のところは緩やかな囲い込みだろうか。明らかにおかしいと判断し、独自の伝手を駆使して調べを進めると、彼女が随分と様々な呼ばれ方をしていることが判明した。曰く、地獄の窯の蓋、魔法少女、知恵袋、諸々。さすがに厳重に管理している捜査資料までは手が届かなかったが、何故彼女が警察の中の特定の人間たちに親しまれているのかは推測できる。彼女は、何らかの魔術を扱える。

 弥蛇山は少女の来歴を可能な限り遡った。その中に特殊な事情は何もなく、彼女は幼い頃に父親を、中学二年生の頃に母親を亡くした天涯孤独な身であった。資産家でもなく、由緒のある家系でもなく、ごく一般的な日本人でしかない。つまり、魔術という特殊な知識に触れる機会がないはずだ。それにもかかわらず、彼女には恐らく魔術技能がある。それが意味することは、彼女は僅かな魔術資料を研究した末に習得した一般的な魔術師ではなく、天から才能を授かった生粋の魔術師であるということだ。猿から進化した人間の血しか持たない身でありながら、その種族が後天的にしか持ちえないはずの才能を先天的に身に宿していることになる。

 ――運命。それはまさしく弥蛇山にとっての運命だった。

 魔術に関する知識や技能は、弥蛇山にとっては生物としての価値を定める強烈な一要素だ。蛇人間という種族は、衰退につれて魔術の力を失いつつある存在である。自らの種が再び返り咲くことを願う者として、強い魔術の才を持つ存在は価値が高い。無能な猿として捨て置くなどとんでもないことであり、積極的に交流を持つべき相手であると弥蛇山は認識した。

 こういう時、東都大学の教授という立場は社会的信用があってやりやすい。偶然を装って数回彼女と接触し、会話をすることに成功した。驚くべきことに、彼女は会話が通じる。当たり前のように思えるが、魔術に身を浸し過ぎた人間は良識や常識を引き換えに知識を体得していることが大半のため、どこかしら狂っていることが多い。先天性と後天性の差かもしれないが、少しずつ入ってくる彼女の情報で魔術技能の高さが明らかになるにつれ、その稀有さが目に付いた。そこまで理性的で賢いのなら、警察が把握していること以上の知識や技術を隠し持っている可能性すら出てくる。その隠し事をどうやって引き摺り出そうかと会うたびに胸を躍らせている頃には、弥蛇山はすっかり少女に夢中になっていた。いつか本気で腹を割って話してみたいと願うくらいには。

 弥蛇山は男であり、少女は女である。魔術技能の高い雌雄が揃った以上、優秀な遺伝子を用いて種族の繁栄を試みようと考えるのは当然の成り行きだった。運のいいことに、少女は繁殖に適した年齢を目前にした10代半ばだ。母体に最も負荷がかからず、胎児へのリスクも少ないのは20代。その年代に到達する前に少女を口説き落とし、日本警察ではなくこちらの首輪付きにしてしまおうと弥蛇山は企んだ。ディープ・ワンやゾ・トゥルミ=ゴといった種族と違って繁殖例がないが、子孫の高い魔術素養を確保するために研究する価値がある。

 さらに都合のいいことに、今回の弥蛇山は少女と出会った時点で28歳の若き大学教授という設定だった。70歳のベテラン古物商などといった設定よりも遥かに口説きやすい。人間社会の中では14歳の少女が相手なので、14もの年齢差が目に付くかもしれないが、蛇人間である弥蛇山にとってはないも同然だ。加えて、少女が16歳を越えればこの国では婚姻関係を結べるので、合法的に囲い込める。2年で口説き落とし、成人するまでの6年で異種交配の方策を完成させればいいか、と全方位の人間をドン引きさせるようなことを決意した弥蛇山は、非常に上機嫌で子猿の篭絡に励んだのである。なんなら、人間をできる限り良い状態で長持ちさせる薬の研究さえ本格的に検討を始めたくらいにはご機嫌だった。

 しかし、(一方的に)運命を確信した少女と交流を始めてから約一年後。目をつけていた将来(予定では来年)の嫁が、いつの間にか血縁関係でもなんでもない若い男と同居を始めた。同棲ではない。あくまで同居である。同棲と表現すると、3年以上続けられると内縁関係と見做されかねないため、弥蛇山としては意地でも認めない。いや、来年は弥蛇山と結婚している予定(未定)のため、3年も続けさせるつもりはないが。なお、少女が住んでいたアパートに放火して雄猿と同居する理由を作ったクソ人間については、後ほど社会的に報復することにした。

 どうやら少女は、緑川唯と名乗る男と仲良くやっているらしい。髪の色を変えて髭を剃り、眼鏡をかけていたためすぐには分からなかったが、その男の顔には見覚えがあった。二代ほど前から時たま絡んでくるようになった、日本国外でも手を広げている犯罪組織に所属している人間だ。その組織は弥蛇山家の研究や頭脳に興味を持っているらしく、時折思い出したように幹部をよこしては勧誘したり共同研究を持ち掛けてきたりする。もちろん、人間に好意など持っていない弥蛇山はそれらを断り、しかし絡まれ過ぎて面倒ごとが起きない程度の距離を保ってきた。とはいうものの、最近は無礼が服を着て歩いているような幹部二人――ジンとウォッカといったか――に腹が立ちすぎて、個人的に所有している研究棟の警備システム(ムーンビースト)の玩具にしてやろうかと半ば本気で考えた覚えがある。そんな彼らの後に交渉に来たのが件の男と他二名だったが、彼らは思いのほか礼儀正しかったので見逃してやったのだ。確か、コードネームはスコッチだったか。

 つまり、組織の幹部であるスコッチが弥蛇山の嫁(仮)を丸め込もうとしているのだろうか。それとも変装をしている辺り、組織から離反した後に、何らかの理由で隠れ蓑よろしく嫁(仮)のもとに転がり込んでいるのか。

 ――不快である。弥蛇山は極めて不愉快である。将来の嫁(仮)は優秀だ。交流を初めて半年くらいで弥蛇山が蛇人間だと気づく知識があり、しかし穏便に会話が出来るからという理由で平然と付き合いを続ける度胸もある。弥蛇山の素顔を見ても「思ったより蛇ですね」の一言で感想を終えた強心臓の持ち主であるし、ディープ・ワン(半魚人)の女友達すら持つとんでもない子猿だ。チンケな犯罪組織にくれてやるにも、身持ちを崩した男にくれてやるにも勿体ない。あり得ない。そもそも、弥蛇山の人生設計の中に間男に邪魔されるという予定は組み込まれていない。今までの世代でもそういう設定をしたことはなかった。

 弥蛇山は悩んだ。弥蛇山には嫁(仮)を養う準備がある。高校生活どころか一生養うつもりであり、何世代もかけて溜め込んだ財産の準備は万端だ。しかし自立心が強く頑固な少女のことなので、見返りを気にしてこちらを頼ろうとはしないだろう。いっそのこと、支配血清を使って嫁(仮)自ら間男を家から叩き出させるのが良いのではないかと思いもするが、そもそもこちらの手の内をある程度察しているらしい彼女は、弥蛇山が差し出したものを飲み食いしない。未開封の缶コーヒーを差し出したら笑顔のまま受け取りを拒否され、挙句の果てには目の前の自販機で缶コーヒーを購入された時の虚しさは記憶に新しい。これが来年結婚する予定(未定)の夫(自称)にする仕打ちだろうか。

 かくなる上は、スコッチの方に何らかの策を練るべきだろうか。そのためには、スコッチの組織での立ち位置をできる限り正確に把握する必要がある。しかし組織と関わるのは面倒臭い。何より、モヤシ頭のトリガーハッピーとそのお付きの人間と関わるのが凄まじく嫌で仕方がない。かといって、代わりにスコッチと一緒にいた金髪の人間をよこされるのも煩わしい。アレはアレで別種の厄介そうな臭いがする。

 弥蛇山は研究室で一人、深いため息を吐いた。今回の人生は、なかなか面倒ごとが多そうだ。



+ + +



景光さんは半魚人から恋される(可能性が高い)上に、蛇人間から嫉妬されるなんて大変ですね(他人事)。
なお、麻衣兄さんからの弥蛇山教授への認識は完全に知人止まり。邪なことを考えているのは察しているけど、関係を切ろうとしても切れないことも察しているので、ほどほどにやり過ごしてお茶を濁している(いつもの)。

蛇教授からの矢印は魔術技能があってこそなので、純粋な好意とは言い難いし、兄さんもそれを把握している。理由が理由なので出来る限り借りを作りたくない相手。一方の景光さんに関しては純粋にいい人だと分かっているので、借りを作ることに(申し訳なさ以外は)さほど抵抗はないし、困っていたら力を貸すくらいは好感度が高い。

どうでもいいですが、蛇教授は賢い人間については好意的なので、高校生探偵工藤新一の新聞記事を読むのは好きだし、工藤優作の傑作ミステリーを読むのも好きです。工藤父子のファンかよ。恐らく怪盗キッドも嫌いじゃないと思われます。


そういえばさらりと出ていた神話生物について↓

蛇人間:言葉の通り。二足歩行で人間サイズの蛇。人間より進んだ技術を持っていて、薬学に秀でた種族。

ディープ・ワン:深きもの。要は半魚人。千葉に集落があるらしい。

ゾ・トゥルミ=ゴ:クトゥルフ界におけるエロモブおじさん。大人の人はググってどうぞ。

ムーンビースト:別名拷問狂のやべーやつ。人間が捕まったら大体原型留めない。


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