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呑まれようにも呑まれまい
萌え 2019/08/03 00:23


・ブラックバイトゾル兄さん
・ゾル兄さん視点
・カルバドスとバーで話すだけ





 繁華街から少し外れた場所にある、一件のバー。傍から見ると店舗とは判別しがたい地味な外見をしており、入店するのに勇気が要る。だがドアを開けてすぐにある地下への階段を降りると、シックで落ち着いた雰囲気の店内が出迎えてくれるのだ。ダウンライトが生かされたバーは、まさに隠れ家的な魅力がある。犯罪組織の幹部がお気に入りにしている面では、正しく隠れ家の意味を成しているのかもしれないが。

 パーカーに着いたフードを目深に被り、顔にはガスマスク、手には黒い皮手袋、足元は暗めのジーンズにミドルブーツという露出を抑えに抑えた某犯罪組織のアルバイターである俺、ラスティネイルは、同組織の幹部(ネームド)であるカルバドスという男に連れられてこのバーに足を踏み入れていた。そうでもなければ、バーなどというオシャンティーなスポットに足を伸ばせる性質ではないのが俺である。酒を飲むなら居酒屋という庶民派だ。安い焼き鳥を齧りながら自分で酒を注ぎに行くのもいいし、賽の目を転がして無料で一杯か大ジョッキ一杯の賭けをするのもいい。……どれがどこのチェーン店とは言わない。

 ともかく、慣れないバーに連れてこられた俺は、カルバドスと隣り合ってカウンターに座った。慣れないとは言うが、バーに行ったことはある。何事も経験との名目で、偉大なる親父殿に連れていかれたのだ。お陰様でこんなお洒落スポットに連れ込まれてもポーカーフェイスが……ああうん、ガスマスクしてたから関係なかったわ。ついでに言うが偉大なる親父殿と祖父殿。貴方たちに修行の一環として風俗店街に放り込まれたことは一生忘れない。頼むからそれを俺以下の弟妹達にまで適用しないで欲しい。でもおっぱいはすごく素敵でした。

 隣に座るガスマスクが過去のおっぱいを思い出していることなど知る由もないカルバドスは、慣れた様子でバーテンダーに注文している。俺に選択権はないらしい。いやまあ、出されたら何でも飲みますが。俺はしがない()アルバイター風情ですからね、職場の役員から酒を出されたら呑むしかあるまい。白乾児(パイカル)でもなんでもどんとこい。そういえば実際に販売されたコナン君印の白乾児風ドリンクが、赤まむしドリンクに見えたのは俺だけ?

 すっと流れるような動作で目の前に酒が給仕される。ロックグラスに入った琥珀色の液体だ。

「飲め」

「……いただきます」

 言われるまま、ガスマスクを少しずらして一口飲む。カルバドスは凄腕の狙撃手であり、仕事にプライドを持っている。コードネーム持ちという異例のアルバイター()とはいえ、いきなり俺を毒殺しようとはしないだろう。仮に毒が入っていても、APTX4869以外なら俺の体はどうにでもなる。いやほんと、アポトキシるのは勘弁な。大体の毒物はオッケーな俺だが、さすがに異世界固有の毒物は何が起こるか分からないので遠慮したい。そもそも毒物自体を遠慮したくはあるが。

 甘い酒だ。甘さの割にアルコール度数がなかなか高い味わいである。もう一口飲んだ俺は、これが“俺の酒”であることにようやく気付いた。一度だけ飲んだことがある、ラスティネイルだ。自分のコードネームが決められた後、ベルモットにご馳走してもらったのだ。甘いな、という感想で終わってしまった覚えがある。

 すると、酒を飲む俺をじっと観察していたカルバドスが口を開いた。

「……やはり男か」

 顎のラインか喉仏辺りでも見たのだろう。そもそも俺のガタイで女性というのはあまりいないと思うのだが。いや、この世界は怪盗キッドが男に変装したり女に変装したりと自由過ぎるので、女性が男性に変装している可能性だってあるのかもしれない。なお、俺は純粋に男であり、顔以外を隠そうとはしていない。実家で暗殺の英才教育は受けてきたが、変装の教育は受けていないのだ。イルミの変装(ギタラクル)に関しては……何というか……変装というか、変形に近いと言っておく。あれはイルミ固有の念能力を利用したものなので、俺には真似できない。そして本人のコミュニケーション能力自体がさほど高くないのに加え、他人と会話すること自体がほぼない上、他人も寄り付かない見た目なので、演技力もクソもない。

「男以外に見えました?」

「男は蒸留酒に分類される酒が名前になる。女はワインをベースにした酒だ。お前は蒸留酒じゃない」

「なるほど。言われてみればそうですね」

 指摘されて思い出してみれば、確かにそんなルールのもとにコードネームが決められている。とりあえず酒だろ、くらいにしか考えていなかった。さすがに八海山とか、日本酒の名前をぶち込まれることはないだろうとは思っていたが、その程度の認識だった。

「ラスティネイルってカクテルでしたか?」

「自分の酒も知らないのか? スコッチウィスキーとドランブイを混ぜた酒だ」

 なお、カルバドスの方は知っている。リンゴを原料とした蒸留酒で、ググってもらえると分かるが、ボトルの中にリンゴが丸っと入っていたり、ボトルの形がリンゴだったりと特徴的なものがいくつかある。しかし、可愛い材料や見た目に反してアルコール度数はかなりお高めなので、フワフワした気持ちで飲むと面食らう羽目になる。ただ、カルバドス自体は結構お菓子で使われているので、知らぬ間に口にしている頻度は高いかもしれない。

「ウィスキーベースの辺りは法則通りと言えるかもしれないが……“満足できる酒”を混ぜられたのは大層なことだ」

「はあ……」

 お疲れ様です、という言葉を禁じ得ない。俺よりも俺の酒に詳しいってすごいですね、調べたんですかと聞いてみたい。聞いたらスナイプされそうだから黙っておく。とりあえず、ドランブイの方は満足できる酒という呼び名もあるのだろう。俺は雇い主がホワイト企業ではないので不満足です。

 カルバドスが俺の隣でロックグラスに口をつける。絵になる男だ。彼は分類ではFBIのイケメン捜査官に近い、クール系のイケメンだ。サングラスの下に隠された目は絶対切れ長のイケメンだと信じている。年頃は俺と同年代か多少上くらいだろうが、内心がゆるゆるの俺と違って大人びていて落ち着きがある。落ち着きがないと狙撃手なんてやっていられないだろうとツッコミがあるかもしれないが、はっちゃけキャラのキャンティが同僚にいるので何とも言い難い。狙撃手には強い忍耐力が必要なのだが、彼女に足りていなそうなそれはコルンが補っているのだろうか。

「俺はお前が気に喰わない」

 唐突に爆弾をぶち込まれ、俺は酒を噴き出しかけた。

「異例のネームドで不安定な立場のお前が、いつかベルモットの足を引っ張るんじゃないかと気が気じゃない」

 俺はベルモットと距離が近い。彼女は名前を言ってはいけない例のあの方のお気に入りだが、俺も似たような枠でアルバイター扱いされているからだ。ジンやウォッカ、バーボンなどといった幹部との顔合わせに同行してもらったりもしている。いくらアルバイターとはいえ、俺が何かやらかせば彼女にも責の一端が行くと思ってもさほど間違いではないだろう。原作をある程度知るこちらとしては、彼女自身も何かやらかす立場だが。

「大切な人なんですね」

 口元だけで微笑み、さらりと言葉を返す。すると、カルバドスもふっと小さく笑った。

「惚れた女だ」

(ヒエッ……どストレート……)

 あまりのストレートさに不意を突かれ、関係ない俺まで赤面しそうになった。ベルモットお姉さまのおっぱいを(無表情で)吟味して(内心で)歓声を上げている俺とは別格である。いや比べること自体が失礼レベルだ。ガスマスクのお陰でおっぱいガン見してもバレないぜヒャッホゥとか本気で思ってる俺は、彼からヘッドショット喰らっても文句は言えない。……うん、絶対に言わないでおこう。最近の暗殺者は空気も読めるのだ。イルミは読む気がないけど。とりあえず空気は読むし、バレないように努力するので、今後もおっぱいの鑑賞は続けさせて欲しい。いやだって彼女、仕事によってはおっぱい放り出した……じゃない、深い谷間を露わにしたえっち、いや見ごたえのあるドレスを着ていることもあるのだ。最高かよ。まあ、そういう社交場でネームドがパートナーに選ばれるとしたら、大体はジンかバーボンだけどな! イケメンばっかりずるい。俺? ガスマスクが選ばれるわけないじゃない。

「お前も同じネームドである以上、仕事の邪魔をする気もない。それに腕の良さも聞いている。だが、中身を見極めるくらいはいいだろう?」

 惚れた女に一途でクールなイケメン、おまけに仕事は仕事で割り切れるっていい男じゃないか。変に絡んでくる系の男ではなくて本当に良かった。バーボン辺りなんて、目的があったら適当に理由作ってでも絡んできそうで嫌すぎる。

「……どうすれば?」

「付き合え。カルバドスの度数は40%……お前に引けは取らない。洗い浚い吐いてもらおうか」

 え……それは俺と一緒に仲良く酒飲もーぜ! という解釈で合っているだろうか。いや本当は合ってないだろうが、酔い潰し対決(勝ち確)の一環で一緒に飲むのは間違っていないだろう。ウイスキーやカクテルでやるなら、アルコール度数は結構なことになりそうだ。

「喜んで。俺、酒飲み仲間欲しかったんですよね」

「ぬかせ」

 とまあ、カッコイイ男ムーブをかましてくれたカルバドスだが、相手はゾルディックの暗殺者である。大概の毒が効かない体に、アルコールなど水同然だった。もちろんそれを知らないカルバドスはノリノリで俺と同ペースで酒杯を進め、案の定カウンターに沈んだ。そんな彼を狙撃手仲間のコルンとキャンティが迎えに来てくれたのは良かったのだが、潰されたカルバドスを見てキャンティがリベンジに燃えて俺に挑み、更にカウンターに屍が増える事態になったのは残念極まりない。無口のコルンのしょんぼりとした様子を見ると、勝負を吹っ掛けられたのは俺だが、何となく申し訳ない気分になってくる。最終的には俺がカルバドスとキャンティを担ぎ、コルンの先導で退店するという謎の光景を演出することとなった。酔い潰れた二人にはウ●ンの力を贈った方がいいかもしれない。あれ、飲む前に使う奴だったか?



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悲報:カルバドス、原作で死す。



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