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諸伏景光は心配する
萌え 2019/07/22 00:56


・景光さんと麻衣兄同居シリーズ
・景光さん視点
・麻衣兄さんがSPRでバイトを始めました





「あ、そうだ」

 住居選びで恐怖のトラブルが続発するも、どうにかこうにか落ち着いて住める場所を見つけ、麻衣も無事に高校の入学式を終えてから二週間後。顔を合わせての夕食の席で、麻衣がコンビニにでも行くような口調で声を上げた。ちなみに夕食のメニューは景光特製の肉野菜炒めとキャベツの味噌汁である。特製とは言ったが、別に器用で凝り性な幼馴染と違う上に料理男子でもないので、隠し味も何もない至ってシンプルな野郎飯だ。なお、麻衣が料理をしてもたまに似たような仕上がりになるのは少し面白いと景光は思っている。

「自分、アルバイト始めました。それなりの収入も見込めそうですし、家賃とか生活費の折半くらいはさせてください」

(この子、本当にしっかりしてるなぁ)

 炊き立ての白飯を口に運びながら、景光はこっそりと感心した。景光は現在、杯戸町にある小料理屋と米花町にある古本屋を掛け持ちでアルバイトしている。それは麻衣にも伝えていることだ(成り行きとは言え保護者として、万が一の連絡先として伝えるのは当然だ)。どちらも監視カメラを設置しておらず、閑古鳥が鳴くほどではないが繁盛しているわけでもないという、絶妙な具合の店舗である。わざわざ掛け持ちしているのは、前述の理由のため単独でのバイトでは懐が寒いからだ。……実際は佐枝からの個人的な援助があるものの、それに頼り切るわけにはいかないし、何より麻衣はそれを知らないので不審がられる行動は避けたい。景光は何かにつけて佐枝に感謝することが多くなった。部署の関係か佐枝の人柄か、あるいはその両方故なのか、個人主義が強い公安内におけるこういう援助は非常に得難い貴重なものだ。麻衣にしても、景光が何らかの理由でまともな職につけず、アルバイトに勤しむしかないことを察した上で黙っていると思われる。組織から逃げ出した後の周囲の人間の巡り会わせには、信じ難いほど恵まれていると景光は実感していた。……人間ではないものの巡り会わせが最悪だが。

 ともかく景光は、麻衣にはあらかじめ、少なくとも高校卒業までは絶対に面倒を見るので心配しなくていいと伝えている。景光は組織に見つかれば殺される身であり、景光に何かあった場合は佐枝が引き継ぐ手筈になっているので、景光自身が最後まで面倒を見るという言い方はしなかったが、三年間は生活の心配はいらないと彼女には伝わったはずだ。それでもアルバイトをして少しでも家に入れようとする自立心はすごいな、と景光は感心しているのである。まだ遊びたい盛りだろうし、やりたいこともたくさんあるだろうに、彼女は放課後に友人と遊ぶことや部活に励むことより、生活費を稼ぐことを選んだ。それはあくまで彼女自身の決断であり、哀れだと思うことは侮辱に等しいので否定しようとは思わないから、独立心を称えるに留めていた。

「へえ、そうなのか。家賃とかはともかくとして、どういう仕事にしたんだ?」

 景光は肉とキャベツとモヤシをまとめて箸で掴む。惣菜は一度白飯にワンバンさせてから食べる派だ。汁が染み込んで白飯が上手くなると確信している。警察学校時代の同期とはワンバンするかしないかで争ったことがあるが、景光の考えは最初から最後まで変わらなかった。そんな景光の向かいで肉野菜炒めを咀嚼して飲み込んだ麻衣は、やはり軽い口調で答えた。

「心霊調査事務所の事務員兼調査助手です」

「今すぐやめよう???」

 景光は恐怖した。必ず、かの魑魅魍魎の巣窟を除かねばならぬと決意した。景光にはオカルトがわからぬ。景光は、公安警察である。犯罪組織に潜入し、悪を成すことで正義を貫いてきた。けれども冒涜的な現象に対しては、人一倍巻き込まれやすかった。

 ……混乱と動揺のあまり、特に意味のない太宰治の文章のパロディが景光を襲ったが、それ以上の事態に麻衣が首を突っ込んでいるように思えた。なにゆえ麻衣は、目の前の少女は、しっかりしていると感心したばかりの彼女は、冷やし中華始めましたと同じくらい軽すぎるノリでニッチすぎるアルバイト先を告げるのだろうか。星の数とは言わないがそれなりに多種多様にあるアルバイトの中で、マイナー過ぎるものを選んだのだろうか。

「でも、金払いがいいんです。安めの社会人の初任給くらいはもらえます」

「金払いがいいのはそれ相応の理由があるはずだよね? どうしてそんなにもらえるのかな?」

「調査に同行する場合、内容によっては別途手当てもつきます」

「調査助手はさらに高くなるのか!?」

 景光は震え上がった。取り扱うのが心霊現象というのもよろしくなければ、女子高生への金払いの良さも不安過ぎる。危ないバイトですよと言われているようなものだ。景光は麻衣に対して妹のような愛着を感じ始めているので、そんな少女を不穏なバイトにつかせたいとは欠片も思わなかった。

「危険なんじゃないか? オカルトが途轍もなくヤバいってことは身をもって学んでる。それをわざわざ調べるために首を突っ込む仕事なんて、オレは反対だ。麻衣ちゃんに危ない目に遭って欲しくない」

「全く危なくないとは言いませんけど、所長が結構しっかりしてるので大丈夫だと思います」

「大丈夫って、どう大丈夫なんだ」

 あっけらかんと告げる麻衣に目を細めて尋ねると、彼女は少し微笑んだ。

「超論理派です。カメラとかサーモグラフィーとか調査機材を駆使して、データを基に心霊現象を調査する人なんですよ。幽霊屋敷には無暗に突っ込まないで、周辺調査から入念にやるような慎重派でもあります。その辺の自称霊能者とは比べ物にならない切れ者ですよ」

 ……景光が想像していたのはまさに自称霊能者のインチキ霊視調査だったので、思いのほか科学的な調査方法を提示されて瞠目した。心霊調査と聞いた瞬間に胡散臭いとは思ったが、実はかなりしっかりした職場なのかもしれない。景光は身をもって心霊現象が現実にあると知ってしまったので、その被害者に向けた適切な調査・ケア業務と言えるのだろうか。それならば麻衣に向いていると思われる。実際、景光は麻衣に何度も助けられ、励まされてきたのだから。

 それでも心配であることに変わりはない。麻衣に向いていようがいまいが、所長が慎重派だろうがどうだろうが、通常の事務員とは別種の危険があることは確かなのだ。大切な同居人を預けるに相応しいのか、この目で確かめておきたい。いっそ、何かあった時速やかに連絡を貰えるよう、ある程度の面識を持っておいた方がいいだろう。そう判断した景光は、麻衣にアルバイト先の所長と一度会いたいと申し出た。麻衣は少し考えこんだものの、大丈夫だと快諾してくれたので、景光は胸を撫で下ろした。高校生のアルバイト先に保護者が出張るのはおかしいと思ってもいたので、承諾してくれて安心したのだ。

 しかし後日。景光は未成年の所長と自分と同年代の助手という男二人組と対面し、オカルトとは別種の不安を抱く羽目になるのであった。





+ + +





景光さんがSPRの調査業務にだけお手伝いで同行するのもありでは?と思いましたが、記録機材を使いまくる調査にはあまりホイホイ参加できないよなと思い直しました。公安だからね。

景光さんは「そこの所長とか助手は大丈夫な奴? 仕事ヤバすぎない??」と不信感+心配するでしょうが、所長と助手の方も麻衣の身辺をそれなりに調べてそうなので、孤児の谷山麻衣の兄のふりをする緑川唯のことを怪しんでいるオチ。でも素性を隠しているのはお互い様なので黙ってるという。そして麻衣兄さんは黙っている辺りまで推測済みなので、まあいいかと判断して景光さんを所長に合わせる予定。お互い、痛い腹は探らないでいようね(にっこり)

原作の麻衣ちゃんは会話の流れでさらっと孤児だとイレギュラーズに告げてますが、この麻衣兄さんの場合は景光さん抱えているのでそれはしないと思われます。兄? ハハハ、見た目も中身もイケメンなんだぞ羨ましいでしょー?(兄妹とは明言しない)(いつもの)

これでいつぞやのようにリン→麻衣(兄)フラグ立ったら、リンさんはめちゃくちゃヤキモキする羽目になる罠。自分と同世代の男が気になる子と同居しているなんて、現実は非情である。


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