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異世界カレシとゾル兄さん
萌え 2019/05/04 23:15


・アプリ「異世界カレシ」にゾル兄さんを突っ込む
・特に理由のない乙女ゲームが兄さんを襲う





 前世が平凡まっしぐらのフツメンだとしても、今世は泣く子も失神するゾルディック家の長兄である。それなりに鍛錬は積まされているので、不意打ちにもそこそこ対応できると自負している。しかしだ、唐突に、何の脈絡もなく、足元に魔法陣が出現されるととても困る。

(鏡の次は魔法陣か――!!)

 いきなり出現した鏡の向こう側で異世界のルイズと出会った次は、いっそシンプルに魔法陣ときた。もう何というか、召喚される予感しかしない。どこかの誰かが蛍光塗料で落書きしただけなら諸手を上げて喜ぶが、残念ながら現在地はククルーマウンテンの山道でありゾルディックのお膝元。そんな場所で命がけの落書きをするチャレンジ精神旺盛なyoutuberはさすがに存在しない。

(せめて拒否権をくれ!)

 与えられたところで行使する暇を貰えない気もするが。現に、突如足元に現れた魔法陣は、ノータイムで白い発光を強め、俺の視界を奪ってしまった。さすがに目を焼かれるわけにもいかないので瞼を閉ざすが、その一瞬後には靴底の感覚が変わる。柔らかい土から平坦な布地へと。

 ――目を開けると、白亜の宮殿といった風情の廊下が正面に伸びており、足元には長い長い赤絨毯が敷かれていた。ゾルディック家の趣味ではないので間違いなく我が家ではない。

(すごく……ロイヤルです)

 ここ異世界ですよね知ってる。1秒で分かる。

(……嘘だろ武器がない)

 ただ、今回は着の身着のままだった今までとは違い、服こそ着ているものの武器がない。いつものジーンズにミドルブーツ、ハイネック、パーカー姿だが体が軽い。もしかすると、パーカーのポケットに入れていた財布や無線機、携帯電話もないかもしれない。靴底の超小型スローイングナイフまでないのかまでは、調べてみなければ分からない。オーラは使えるようなのだが。それに、同伴者がいるようだ。

「え!?」

 俺のすぐ隣で、いつの間にか現れた女性が驚愕の声を上げていた。そちらを見ると、肩甲骨辺りまで伸ばした栗色の髪と同色の瞳をした、大学生くらいの女性が立っていた。俺よりも頭一つ分は低い身長で、運動してませんというのが一目で分かるほっそりとした体つきだ。なかなか可愛らしい顔立ちをしているが、今は驚愕と不安に染まっている。肌の色といい顔立ちといい、日本人に見える。そうではないにしてもアジア系人種だろう。オーラの気配がないので非能力者だ。着ている服は周囲にそぐわない現代的なものなので、もしかしなくても俺のように召喚されたのかもしれない。……数秒で召喚されたと断言できる自分の経験値が改めてつらい。西暦や総理大臣の名前を聞いてみたいが、状況的に今は避けた方がいいだろう。そもそも日本人に見せかけたジャポン人かもしれない。

 彼女は隣にいる俺に気付くと小さく悲鳴を上げ、それから「あなたは……?」と不安と疑心が混ざり合った声で問いかけてきた。数歩後ずさるというおまけつきである。うん、白黒メッシュの長髪男という、親しみやすいとは言い難いロックな外見で申し訳ない。長髪はともかく髪色は遺伝子の悪戯だから諦めて欲しい。俺は出来る限り優しく見えるように、かつ困ったように苦く微笑んだ。実際、困っている。場慣れしているだけで。

「俺はルイです。どうしてここにいるのかさっぱり分からないんですけど、あなたは分かります?」

 彼女は目を瞬かせると、周囲を見回して首を横に振った。それから何事かを言おうと口を開きかけたが、その前にこちらに近付いてくる気配を感じた俺は、彼女を背後に庇った。彼女が戸惑った顔で俺を見上げたちょうどその時、廊下の角から走り寄ってきた金髪の男が大きな声を上げた。

「誰だ貴様らは!」

 背中越しでも彼女が驚きと恐怖で震え上がったのを感じる。現れた男は俺と同年代くらいだろう。西洋の騎士服のようなものを着ており、帯剣していた。ここが貴族の邸宅か王宮で、彼が護衛の騎士だと言われても納得がいく。随分と顔のいい男は切れ長の薄青い眼を鋭く細め、抜いた両刃剣の切っ先を俺に突き付けた。こちらは不可抗力とは言え不法侵入の形だ、当然の成り行きではある。俺の背中から少し顔を出した彼女は、向けられた剣先に気付いて小さく悲鳴を上げた。

「何が目的でここにいる」

「目的なんてないですよ。気づいたらここにいたので」

 むしろそちらに心当たりはないのか小一時間ほど問い詰めたい気分である。ルイズの時は原因が目の前にいたので大変分かりやすかった。

 敵意がないことを示すために両手を頭の高さまで上げながらそう言うと、男の目つきがさらに悪くなった。うん、俺もこんなことを言われたら「ふざけてんのか?」と言いたくなる。

 すると、その視線が見えていない女性が俺の背中に隠れたまま口を開いた。

「そんなの知らない……気が付いたらここにいたんだから。逆に私が聞きたいよ……」

 全面同意である。

「揃いも揃って、正直に言わないつもりか?」

 案の定、男の声にじわりと怒気が滲み出た。俺は全然平気なのだが、背後の彼女は大丈夫だろうか。現代日本のような世界で暮らしていたとすると、剣を突きつけられて威嚇されるなんて経験はないだろうに。廊下には俺たちを中心として野次馬の人垣が出来始めている。幸い、廊下は外に面しており、いざというときは女性を抱えて窓をぶち破って逃げられるだろう。まだ様子見していてもいい。

「待て! オルテオ!」

 するとその時、騎士風の男の背後に出来た人垣が割れ、褐色の肌の男が現れた。銀髪赤目で貴族風の服を着ており、いかにもファンタジーっぽい。声の主は彼のようだ。彼もまた整った顔立ちであり、垂れた目尻が柔和な印象を与える優男だ。事態の変化を感じたのか、女性が俺の背中からまた顔を出した。

 金髪の男――恐らくオルテオは、こちらから切っ先を逸らさないまま銀髪の男に声を掛けた。

「アーネスト様、このような不審者に不用意に近づくのは危険です。お下がりください」

 すごく……偉そうである。いや実際に、銀髪の男――アーネストは地位が高いのだろう。少なくとも、オルテオとやらに敬称で呼ばれ、守られる程度には。

(見た目通りの貴族と騎士とか、いっそのこと王子と騎士とかだったら笑うしかない)

 とてもテンプレ過ぎるので。召喚勇者は大体王族にお願い()されて魔王退治に旅立つものだと勝手に思っている俺である。実際に魔王退治に放り出されそうになったら前金を億単位で要求してやろう。大丈夫、ゾルディックは報酬の取り立てもきっちりやる。さすがに俺の背中に庇っている一般人女性まで放り出さないとは思いたい。

 アーネストは、オルテオの一歩後ろで立ち止まりこそしたものの(それでも不審者との距離が近いと思います……)、俺と女性を見て眉をひそめた。

「お前こそ下がれ。見たところ彼らに敵意はないし、女性が怯えている」

(そのレディーファーストは発揮していいのかなー)

 経緯はともあれ、彼らにとって俺たちは不審人物。反応としてはオルテオの方が正しい気がする。あえての行動なのだろうか。……敵意がないのは確かなので、その辺りの感覚が当てずっぽうでなければあり得る。

 一方、オルテオは眉間のしわを深くした。

「女性の演技力の高さをご存じないんですか?」

(お前、女性不信なの?)

 男だろうが女だろうが、演技力が高い奴は高いし、そいつらは総じてヤバい。それが俺の結論である。もちろん、演技力に関係なくヤバい奴はどこまでもヤバい。思い浮かべてみれば、俺の周辺はなかなかのやべー奴フェスティバルだった。行動範囲を広げたら、万国ヤバい奴博覧会でも開けるかもしれない。誰が得するんだそんなの。

 苦言を呈するオルテオに、しかしアーネストは動じることなく、それどころか興味深げな様子で俺と女性の姿をしげしげと眺めた。

「だがこの見たことのない服……彼らは、我が国の歴史に度々登場する異世界人ではないか?」

(度々来るのかよ異世界人!!)

 この世界のセキュリティはガバガバじゃないですかね。もうちょっと口をしっかり締めておいて欲しい。思いっきり人為的に見える魔法陣だったので、誰かが意図的に引き摺り込んだ説も強かったのだが、この様子だと自然発生説も捨てきれないようだ。

 その時、また人垣を割って今度は二人の男が歩み寄ってきた。紺色の短髪の若い男と、緑色の髪を持つ童顔の男だ。前者の格好は貴族っぽく、後者は魔法使いっぽく見える。彼らもまたタイプの違う美形……どいつもこいつもイケメンかよいい加減にしろ。箸休め(フツメン)をくれ。口を開いたのは紺色の髪の男だった。

「そうだよオルテオ。こんな奇妙な服は見たことがない。僕も兄さんの意見に賛成。彼らは異世界人だよ」

「レティシウム様まで……」

 オルテオの表情に困惑が強く滲む。どうやら銀髪のアーネストと紺色髪の男――レティシウムは兄弟らしい。すごい、似ている要素が性別とイケメンしかない。異母兄弟とかそういうものだろうか、興味はないが。

 レティシウムはどこか斜に構えたように見える態度で、しかし淡々と自分の考えを挙げた。

「てか普通に考えてそうじゃない? この国に恵みの水をもたらした大いなる水使い、150年前の王妃は異世界人だったって話だ。それ以外にも歴史上異世界人が来たって話が多いんだし、普通はまずその可能性を考えるでしょ」

(いやそれは普通じゃない……ってかそんな話が多いのかよ異世界!)

 それは召喚される側にとっては迷惑極まりないのではなかろうか。そんなにホイホイ神隠しやら不審な失踪を遂げられるのは、本人も周囲も困る。異世界のために働いても、自分の世界では休日出勤手当もつかないんだぜ……? おまけに失踪期間によっては、戻れたとしても社会的に死ぬ。

 困っていそうなオルテオは、それでも頑張って反論をした。

「確かに、私もその可能性を一度考えました。間者の割には堂々と姿を現しておりますし。しかし、我々に異世界人と思い込ませ、城に上手く入り込むつもりである可能性もあります」

 その言葉を受け、アーネストは魔法使い風の男に目を遣った。

「……どう思う? ベルナール」

「ふむ……」

 魔法使い風の男――ベルナールは、考え込むように顎に手を遣り唸った。

「異世界人か否か確定するのは難しい。なぜなら、彼らの目や髪や肌の色は、この世界にもある色じゃ」

(逆はあり得ないんだけどな)

 俺の知ってる常識では、緑色の髪も紺色の髪もないのだが……なお、ハンター世界の常識は除いておく。幻影旅団のマチの髪はピンク色だが、彼女は可愛いからいいんだよ!!

 あと、ベルナールの口調が若々しい見た目にそぐわないのじゃ口調なのが気にならないでもないが、本人の趣味かもしれないのでそっとしておく。

「持ち物も、直前に何を持っていたとしても、この世界に持ち込めるのはその身と纏っていた衣服のみ」

(ああー……武器も財布もなさそうなのは、そのルールのせいか)

 この分だと、靴底に仕込んである超小型ナイフも存在が危ういかもしれない。操作系能力者の俺にとって、使い慣れた武器は発の生命線だ。この世界の武器で代用できるかは試してみないと分からないが、発は使えないと考えていた方が良さそうだ。とんだ縛りプレイである。

「そして彼らが使う言葉や文字は、何故かこの世界のものに変換されてしまうらしいからじゃ」

(そこは俺の異世界トリップの標準装備よりいいじゃん!)

 俺に備わるのはその世界の共通語の聞き取りと発話能力であり、文字まではカバーしてくれない残念仕様である。つまり自動的に文盲になる。例えば、目の前に自分の進退がかかった大事な契約書を出されても、内容が全く分からないし、共通語のサインも書けないのである。その点、こちらの心配はないらしいのは羨ましい。今回の俺にそちらのルールが適用されていることを願う。武器が取り上げられたのだから、そのくらいのサービスは欲しい。

「それに、彼らは皆、何かしらの属性の魔法を、元の世界にはないにも関わらず使いこなす」

(俺、イギリス人魔法少年を履修済みだからその辺のサービスはいらないです)

 いらないから家に帰して欲しい。しかし使えるというのなら何ができるのか気になる。闇の炎に抱かれて消えろとかは恥ずかしいから遠慮したい。それにしてもここまで情報をペラペラと喋ってくれるのはベルナールが良い人なのか、抜けた人なのか。

 アーネストは顔を曇らせた。

「……どれもこの世界の住人にあり得ることだな……」

「そうじゃ。次の次元の歪みが起こった時に、元の世界に帰ったら、確かに異世界人じゃったと分かる」

 レティシウムは肩をすくめた。

「元の世界に帰らないと確定できないって、ダメだね」

「うむ、ダメなのじゃ」

(もっと頑張れよ!!)

 ダメとか言わないでさ! こっちは立場が懸かってるんだから!

 その時、アーネストが近くに寄ってきた兵士風……いやもう普通に兵士の男に「陛下に報告を」と囁いているのが聞こえた。案外、ここは王城とかなのかもしれない。王城への不法侵入者なんて犯罪者扱いの未来しか見えないので、この際どうにかして可哀想な異世界人扱いされたい。頑張れベルナール。俺と彼女の未来はのじゃ魔法使いの弁舌にかかっているかもしれない。

 俺が内心で勝手に応援しているベルナールは、視線を俺と彼女に向けた。

「ところでお二人さん。今、自分が置かれている状況は分かっておるかの?」

「恐らくは」

 俺が肩をすくめて見せると、彼女が意外に淡々と口を開いた。

「……私たちは次元の歪みによってこの世界に来た、異世界人なんですよね?」

 リア充めいた普通に見えるお嬢さんの割に、ファンタジー耐性があるのかもしれない。もしくは自分の身を守るために、色々と納得できないことを無理やり飲み込んだ故の冷静さだろうか。

「おおっ! 理解が早いの! お嬢さんもとても冷静な判断じゃ!」

 ベルナールは両手を打って喜んで見せたが、剣先こそ下したものの未だに目つきが鋭いオルテオは、舌打ちでもしたそうだった。

「それこそ、この者たちが異世界人ではなく、良からぬ目的で城に忍び込んだ証明ではありませんか?」

「いやいや、これが意外と冷静に受け入れる者が多いのじゃ。そういう物語を読んだことがあるとかでの」

(心当たりしかない)

 お兄さん、知ってる。ラノベっていうんだろ。トラック転生とか通り魔転生とかするアレだろ。トンネルの向こうが異世界とか、畳の下が異世界とか、そういうソレだろ。日本人の異世界慣れが深刻にヤバい。というか、この世界に放り込まれた異世界人というのは、オタク文化に造詣の深い連中が多いのかもしれない。8割日本人だったら笑いを通り越して真顔になる自信がある。少子高齢化の一因は異世界トリップだった……?

 俺が少し意識を遠くに飛ばしていると、彼女がおずおずと尋ねた。

「あの……次の次元の歪みが起こって、私たちが元の世界に帰れる日は、いつごろになるのでしょうか」

 それは俺と彼女にとって重要なことである。俺と彼女がやってきた世界が同一のものか確信がないため、次元の歪みとやらがどちらかの帰還を取りこぼす可能性もあるが。すると、ベルナールが紅茶のような色の目を細め、目尻を染めた。……どこに恥じらう要素があった。異世界の慣習はちょっと分かりませんね。

「賢いお嬢さんじゃのう。賢い娘は大好きじゃ。ワシの嫁にならんか?」

「え? えっと……」

(セクハラはないわ。というかチョロすぎだろじじいキャラ!)

 俺は「ハハハ」と白々しくも乾いた笑い声を上げながら、戸惑う彼女をベルナールから隠した。えっちなことはいけないとおもいます。

「じじい、年を考えろ。彼女が困ってる」

「ほっ、ほっ、ほ」

 レティシウムがベルナールを嗜めたが、彼は満更でもない様子で朗らかに笑っている。……というか、ベルナールに限らずオルテオ以外の彼女への好感度がやたらと高すぎないか? 俺のそんな憶測を裏付けるかのように、アーネストが美しい微笑みを浮かべた。彼の赤い双眸は人外的なものを感じさせるが、穏やかな表情を浮かべているとその雰囲気が霧散する。

「私の名前はアーネスト・ウォーリア。この国、ウォーリア国の王太子だ。君たちの名は?」

(近い近い! 王太子様、不審者の前に出過ぎです帰って!)

 貴族っぽいとは思っていたが、まさかの王太子殿下だった。ということは、レティシウムは第二王子とかその辺りなのだろう。オルテオはさぞかし彼らに下がっていて欲しいだろうに。

「……ルイです」

「えっと……ゆうなです」

 名前だけを名乗る俺と女性――ゆうなさんに対し、名字はと促す声はない。この世界では名前だけという人間もあり得るのだろう。ルイズと出会ったゼロ魔の世界も、平民は名前しか持っていなかった。

 思いのほか友好的で逆に気が引けてきたところで、オルテオが眉尻を上げた。

「アーネスト様。この者たちの対応は私に任せてお下がりください」

「ならまずは彼らに自己紹介しろ」

(嘘やん)

 異世界の流儀があるのかもしれないが、俺の感覚ではオルテオの反応の方が普通に見える。こちらが丸腰(推定)だからといって、油断し過ぎではなかろうか。俺なんて素手でクマ狩れるぞ。オルテオが段々可哀想に見えてきた。オルテオはそんな同情を求めてなどいないだろうが。

 オルテオは、それはもう苦虫を数匹まとめて噛み潰したような顔をして、渋々と名乗った。

「……オルテオ・ランドロスだ。俺は騎士として主君を守る義務がある」

(お疲れ様です)

 護衛って、すごく気を遣う仕事だよな。分かる分かる。俺も別の世界で公爵子息とか公爵令嬢の護衛をしたことがあるから分かる。護衛対象が王太子ならさらに気を遣っていることだろう。今まさに。

 オルテオの胸中を知ってか知らずか、アーネストは朗らかに彼を紹介した。

「この者は名門貴族の嫡男で私の近衛兵隊長を務める騎士だ。警戒心が強いだけで、根は悪い奴ではない」

「は、はぁ……」

 ゆうなさんが生返事をする。分かるぞその気持ち。次元の歪みのことを聞いたら、全然違う言葉が返って来たもんな。なお、俺は余所行きの薄い笑顔を作り、「そうでしたか」と言って流した。スルーである。そういえば俺もゆうなさんも、王太子に対する言葉遣いがグダグダだが、何の指摘もないので遠慮なく丁寧語止まりにしている。俺、異世界の平民だから王族に対する礼儀が分からないなー(棒)

 いつの間に自己紹介パートに移っていたのか、続けてレティシウムとベルナールが順番に口を開いた。

「僕はレティシウム。この国の第二王子」

「ワシの名前はベルナールじゃよ。この王国の宮廷魔術師をしておる。よろしくの」

 レティシウムは予想通りであり、ベルナールはなんだかとてもレベルが高そうな魔法使いだった。そのレベル高そうな人に、ゆうなさんが困ったように再度尋ねる。

「はい……あの、私が帰れる日を早く教えていただいてもいいですか?」

「それは占ってみないと分からん。今日が次元の歪みの日だってことも知らなかったしのぉ……」

 どうやら、異世界人がたまに来る世界柄の割に、次元の歪みの日は碌に把握されていないらしい。なにそれ怖い。あと統計とかそういう話ではなく、占いで算出するものらしい。その精度が某占い学教授のように数年単位でしか仕事しないレベルでないことを祈る。どうやって占うのだろうか。鹿の肩甲骨を焼くような古代の占いとかだろうか。

「じじい、仕事しろ」

「お前ものう」

「僕はいいんだよ」

「ワシもいいんじゃよ」

 レティシウムとベルナールがじゃれ合っている。仲良しか。俺は薄い笑みを浮かべたまま、彼らに遠慮なく割り込んだ。

「お手数ですが、次元の歪みの発生時期をすぐに占っていただけませんか?」

「おお、もちろんじゃ。ちょっと場所を移動しようかの」

「はい!」

「ありがとうございます」

 ようやく話が進展したので、ゆうなさんがパッと顔を輝かせる。俺もお礼を言って、踵を返すベルナールにしれっとゆうなさんと一緒について行こうとした。しかし、その前にアーネストに呼び止められる。

「申し訳ないけど、陛下がすぐに君たちに会いたいと言っている。私について来て」

 彼のすぐ後ろには先ほどの兵士が控えていたので、そういう伝令が来たのだろう。こちらとしてはそんなことより占いしてくれという気分だが、さすがに国王命令なら逆らわせてもらえまい。ゆうなさんが目に見えてがっかりしたのを見たベルナールは、彼女を慰めるように言った。

「占いの結果が分かったらすぐに知らせるから、先に王との謁見を済ませるのじゃ」

「はい……」

 ゆうなさんはしょんぼりとしたまま頷く。こうして俺と彼女は、あれよあれよという間に異世界の王様と謁見することになったのである。



+ + +



そして王様の軽すぎる態度に戦慄を覚えるゾル兄さんであった。なろう系でたまにあるゆるゆる王族かな???と内心で突っ込むまでがセット。
なお、公式設定で「主人公の世界と異世界の人達は遺伝的に補完関係にあるため、異世界のイケメン達には主人公が魅力的に見え、攻略はイージーモードです」とあります。いっそ清々しい。もちろん、主人公とゾル兄さんの世界は別物なので、異世界人にとってゾル兄さんが特別魅力的に見えることはないです。普通のイケメン。ゾル兄さんにも対応が甘いのは、主人公のおまけです。

無料で攻略できますし、立ち絵の動き方とか画面の見せ方とか工夫が結構あるなーと思うゲームです。今はオルテオ(騎士)とアーネスト(王太子)ルートが攻略できるので、興味を持った方はどうぞ^^

……個人的に、オルテオはアーネストルートの方が魅力的に見える気がする。


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