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アッシュが見たルク兄さん
萌え 2019/03/04 02:46


・アッシュ視点
・ルク兄さんに対するアッシュの評価
・タルタロス襲撃→コーラル城IF





 観察してみて、多少使えそうなら協力者として引っ張り込もうとは思っていた。そのため、イレギュラーの事態でマルクト軍籍の装甲艦にレプリカが乗っており、しかもそれをレプリカとは別件で訪問(襲撃)することとなったのは渡りに船であった。

 ――しかし、艦橋(ブリッジ)の物陰から赤毛の青年を一目見たアッシュは、心の底から目を疑う羽目になった。

(……あれは本当に俺のレプリカか?)

 マルクト帝国の軍人に守られている、自分とは正反対のなよやかな印象の強い深窓の令息に、アッシュは顔を引き攣らせた。艦橋の強い風に吹かれて今にも吹き飛びそうにも見えるし、風で体を冷やしたと倒れそうにも見える。歯に衣着せぬシンクが傍に居れば、「オリジナルよりよっぽど上品な血統書付きの猫だね」と評してアッシュを激昂させていただろう。なお、レプリカルークの護身術を指南しているリグレットの評価は、「頭脳労働に関しては間違いなく二番弟子(レプリカルーク)が上」となっているので、知った場合のアッシュの怒りの程度はこちらの方が大きかったりする。だが実のところ、アッシュの短気な面には師であるヴァンも手を焼いている面があるため、レプリカルークの方が思慮深くはあるという認識についてはヴァンですら副官と一致していた。

 アッシュのレプリカは外見にそぐわぬ武骨な譜銃を右手に携え、しかしそれを使う様子はなくひたすら周囲の軍人に守られていた。さすがにその表情は緊張感が滲んでいるが、それでも温室育ちのお坊ちゃんの割には落ち着いているようにも見える。だが、当初より彼に含むところのあるアッシュにとっては、大事に守られている様子や自分よりも薄いように見える体躯に苛立ちを覚えざるを得なかった。

(あんななよっとした奴に俺の居場所が奪われたのか……)

 アッシュは物陰で舌打ちするが、当のルークがそれを聞けば「俺の立ち振る舞いはお前の家庭教師が原因だからな」と全力で抗議していただろう。しかし細身の体に関しては、彼自身の体質と生活習慣に原因がある。そして体を鍛えることよりも頭を鍛えることに比重を傾けた成果だ……とは、一見しただけのアッシュに分かるはずもない。

 苛立つアッシュの眼下では、神託の盾騎士(オラクルナイト)を率いたリグレットがマルクト軍と対峙していた。すると、彼女と師弟関係にあるレプリカが瞠目して口を開く。

「――リグレット奏手。何故こちらに」

 リグレットは逡巡したようだが、表向きはレプリカの師であり軍人だ。他国と言えども王族の問いに黙秘を貫くことはせず、言葉を選びながら答えた。

「我が教団の導師が誘拐されたとの知らせを受け、馳せ参じた次第です。まさか、かの軍がルーク様の御身までかどわかしていたとは存じ上げませんでした」

「おや。随分と穏やかではありませんね。我々を誘拐犯呼ばわりとは」

 リグレットに言葉を返したのはジェイド・カーティス大佐だった。レンズの奥の赤い双眸を嫌味たらしく眇め、口の端を片方だけ吊り上げている。金髪の軍人の、胡散臭い見た目を裏切らず性格も一筋縄ではいかない様子に、アッシュは密かに顔を顰めた。会話をするだけで神経を削られそうな男だ、自称薔薇のディストとは違う方向性で。

 すると、予想外にもレプリカが口を挟んだ。いや、流れからするとむしろ口を挟んだのはカーティスの方か。彼はすっと片手を上げてカーティスを制した。

「――カーティス大佐。あなたの心中は察して余りありますが、今は抑えていただきたい。リグレット奏手、導師の御身がご無事であらせられるのは私が保証しましょう」

 予想よりも理性的な口調に、アッシュは思わず苛立ちを忘れた。リグレットからは決して目立つなと口を酸っぱくして言い含められていたのだが、どうやら怒りのあまりあの場に飛び出していく心配はなさそうだ。

「どうやらお互いに並々ならぬご事情がおありの様子。せっかくこうして顔を合わせたのです、落ち着いた場所でお話ししたいですね」

 口調こそ提案のそれだが、不思議とレプリカからは強制力のようなものを感じた。場にそぐわない彼の笑顔は、どこか母であるシュザンヌを彷彿とさせる。

「私としても、双方の御仁とお話しする機会を是非ともいただきたいものですから」

 ――気味が悪い。結局は同じ顔だからだろうか、アッシュが使わないような美しい口調と奇妙に威圧的な笑顔に対して、抱いた感想はそれだった。ただ、キムラスカの権力者の言葉はそれなりの効力を発したらしく、その場にいたマルクト・ダアト双方の軍人たちに動揺が走った。気味悪くは思えど、言葉のみで周囲に影響をもたらす力は侮れないようだ。アッシュは自身に同じことができるだろうかと考え、すぐに頭を振る。10歳の頃から神託の盾騎士団の中で生きてきたアッシュと、キムラスカの鳥籠で生きてきたレプリカでは比べるのがおかしいのだ。……すぐに振り払ったものが嫉妬だと、認めたくなかった。





 それから数ヶ月後。あらゆる手段を駆使して全力でコーラル城へ連れ出した(連れ出したのだ、拉致ではないと主張する)レプリカが、タルタロスでの立ち振る舞いとなよやかな見た目を裏切る俗っぽい性格であることにアッシュは撃沈した。平然とした顔でフォミクリー装置に腰かけ、ディストと会話に興じるレプリカの図太さに頭痛を覚えつつ(何故か主治医と患者、もしくは教師と生徒の会話に聞こえる)、アッシュは彼の披露した恐ろしいまでのギャップの真相を問い質す。するとレプリカは小首を傾げてから、艦上での言動の真意をあっさり吐いた。

「あれはさ、ジェイドに“王族の問答に割って入るのやめようぜ”っていうのと、“マルクトもダアトも後で締め上げるからネタよこせ”っていうのを遠回しにお上品っぽく言っただけ」

「悪魔か貴様」

 思わず口をついて出た本音を聞き、壁にもたれていたシンクがくっと短く笑う。すぐにそちらを睨んだが効果はなかった。一方のレプリカも「貴族ってそんなもんだぞ」と面白くなさそうにさらりと付け加えただけだった。曰く、レプリカの対応はむしろとてもとても優しいものだったらしい。貴族生活から離れて久しいせいか、アッシュの感覚が鈍ったのだろうか。

「どこの国も、上流階級の世界は魑魅魍魎が跋扈すると相場が決まっているのですよ。私の頭脳の素晴らしさを理解できない輩のなんと多いことか!」

「あぁ〜それ分かりますよディスト先生。俺も家庭教師から狸爺と狐婆に全身齧られるって脅されるんですけど、最近は他にも宮廷雀がつついてくることを知ったんです。お陰様で宮中はワクワク動物園らしいですね。飼育員さん大変だな〜」

 ……訳知り顔で頷くディストに、これまた知った顔で相槌を打つレプリカの発言内容がやたら毒を含んでいるのは気のせいだろうか。そして、飼育員とはまさかと思うがアッシュの叔父(キムラスカ王)を指しているのではなかろうか。お前は本当に俺のレプリカなのかと問い質したくなる。

「ところで、そこでウロウロしている子を触ってみてもいいですか。さっきからすごく気になってるんで」

 アッシュが密かに引いていると、レプリカはあっさり興味を他所に移した。勝手に動いて勝手に喋る、ディストの自作機械へと。

「ほーう、この私のタルロウに目を付けるとは、アッシュのレプリカとは思えないセンスの良さじゃないですか!」

「ってオイ! ディストてめぇ!」

 さらりとレプリカの出生をバラすディストにぎょっとしたアッシュだが、大きなリアクションをしたのは悲しいことに彼だけだった。

「あ、展開と会話の流れで俺がアッシュのレプリカだってことは分かってたからお気遣いなく」

 断じてレプリカを気遣ったつもりはない。ただ、暴露するならタイミングを選びたいし自分でやりたいと思ってもいたので、肩透かしもいいところだった。だがレプリカに案じるような目を向けられる謂れはない。あと気遣うならせめてタルロウの頭を撫でる手を止めろ。それからタルロウも呑気に喜ぶな。

「オリジナルより頭が回るレプリカとか笑える」

「黙れシンク、茶々を入れるな!」

 基本的には黙って話を聞いている割に、碌でもないところで余計な口を出してくるシンクに怒鳴るが、やはり効いてはいない。おまけにレプリカは予想以上に賢かったらしいタルロウに本気で感心し始めた。

「えっ何この子。まさか人工知能? 完成度高すぎだろチートじゃん。オールドラントの技術レベル、局地的におかしくね?」

「ハーッハッハッハ! もっと褒め称えなさい! このっ、薔薇のディストを!」

「薔薇かどうかは知らないけど、これはマジで国家レベルで研究者を保護する案件だろ。キムラスカにチクっていい?」

「薔薇です!!」

 唐突に真顔になってアッシュ……ではなくシンクに尋ねるレプリカに、若干苛立ちを覚える。確かに参謀総長を兼任するシンクの方が立場は上だが。こんなくだらないことを問われても困るが。

 シンクは一瞬硬直してから首を横に振った。

「そんなんでも一応ウチのだから、遠慮してくれる」

 ディストがぞんざいな扱いに抗議の声を上げる。それを聞き流しながら、アッシュはいつの間にか主導権をレプリカに握られている事実にようやく気付いて震えた。そして、予想の遥か斜め上を行くレプリカの図太さとずる賢さをどうしたものかと途方に暮れた。こんな訳の分からない人間は、案外アッシュの周りにはいなかったのだ。根本的な部分では、レプリカよりもアッシュの方が余程お坊ちゃまなのだが、それを正確に理解しているのはレプリカの中の人だけである。



+++



ルク兄さんはディスト先生ならガンダムとか初音ミクが作れるんじゃないかと割と本気で思ってる。
そうじゃなくてもタルロウの人工知能はすさまじいと思います。時代の最先端過ぎる。
アッシュは根本的にはお育ちが良いので、雑草のようなルク兄さんの扱いは困るような。


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