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タクシーチケットが欲しい話
萌え 2019/01/01 00:32


・ゾル兄×コナン
・ホワイトバイトしてる
・キッド追跡のためのタクシー勧誘してるコナン君





 漫画、あるいはアニメだからと言ってしまえばそれまでの話だが、それを差し引いて彼――黒羽快斗扮する怪盗キッドの頭の回転の速さを証明するのがハンググライダーではないかと俺は思う。ワンタッチでキッドの背中に展開するコンパクトなそれは、彼の逃走手段としてよく用いられるものだ。本来、ハンググライダーはあんなコンパクトサイズでは人間を支えきれないし、風向きと風力が安定した広い斜面での運用を想定されたものであるが、キッドは堂々と市街地で使ってのける。実はアレ、ヤバいなんてものではない。例えばビル風。軽くWikiっていただけるだけで察せられるだろうが、その種類だけでざっくり8種も存在する。その様々な風がビルの間を複雑に吹き抜けているというのに、キッドは安定した飛行を成功させている。それは彼が、複雑極まる風向きを完全に計算しているからだろう。風向きも風力も、一瞬ごとに絶えず変化するというのに。彼の頭の中ではハイスペックなPCが稼働していると解釈しても過言ではない。

 そんな、常人では想像するもおぞましい計算を軽々とこなし、鮮やかに逃走してのける平成の大怪盗。彼に対抗心を燃やす平成のホームズが、ビルの間を擦り抜け上空を羽ばたく怪盗の予想を越える移動手段があると分かっていて放置するはずもなかった。

「ねぇ類お兄さん、いいでしょ? ボクと一緒に行こうよ〜」

 ある日の昼下がり。もうすぐ安室さんと入れ替わりでシフト終わりとなる俺を、小学生の演技が板につき過ぎた少年の猫撫で声が襲う。さすがは大女優の息子だけあって、文句なしに可愛らしい。しかし言っていることはとても容赦がない。

「コナン君さ、この前のやつで味を占めてない?」

 客が退店した後のテーブルを拭きながらそう返すと、カウンターの常連席で足をぶらつかせたコナン君は「えへへ」と悪びれる様子が一切なく笑った。恐らく、その仕草は高校生の彼がやってもイケメン補正で許されそうな気がする。ただ、同僚のイケメン店員がやっても似合いそうで怖いので、そちらには心の中でキン肉バスターをかましておきたい。個人的に、成人男性がやってはいけない仕草だと思います。例えば某FBI捜査官がやろうものなら……こ、これはひどい……。

 それはともかくこの前のやつとは、コナン君が逃走車を追いかける際、ポアロに顔を出して俺を召喚・乗者(車ではない)して人力カーチェイスした件である。普段は暗殺者としてダークサイドな役割を担う俺が、正義の探偵助手(手というか足)を務める事態にちょっとばかりテンションが上がり、本気は出さないもののそれなりに張り切って追跡させていただいた。具体的にはビルの壁面を蹴り上がって屋上を飛び移ったり飛び降りたりして車に追いついたりした。普通の人間なら「こいつヤベーよ」となって人間関係が迷宮入りしそうな案件だが、小さな名探偵にとっては、真実が明らかになって犯人が無事お縄につけば、多少の廃スペックには寛容らしい。そもそも彼自身も幼児化するというトンデモ体験持ちなので、おかしなことには耐性があるのかもしれない。

 お陰様で地上にはターボエンジン付きスケートボード、上空ならポアロの新人お兄さんという認識がコナン君に芽生えたようだ。なお、ハムサンドお兄さんの方は国産スポーツカーの超絶ドラテク付きだが、撮影クルーの目もあるキッド事件は圧倒的管轄外なので協力してくれない模様。ゼロなので当たり前である。

 コナン君は美しい双眸をキラキラさせて俺を見ている。君、この前、その目が死んでたよね? お兄さん、ちゃんと見てたぞ? 多分心の中で“紐なしバンジー”とか考えてただろ? 知っているかコナン君。俺の故郷では崖から飛び降りるのに命綱を使うのは甘えだ(ハンター基準で)。

「だって類さん、すっごく足が速いんだもん。絶対キッドにも追いつけるよ!」

「すごいじゃないですか、類さん。キッドキラーのお墨付きですよ?」

 カウンターの向こうで食器を拭きながら、梓さんが「私も行ってみたいな〜」とうっとりしている。さすがキッド、女性のハートを盗んでいく男。ただし梓さんはある意味地に足のついた女性なので、キッドを実際に目の前にしたら惚れ惚れする前にSNSの炎上を心配する。彼女も苦労人なのだ。

「キッドの予告状の日って、ポアロのシフトは昼で終わりですよね? もし用事が無かったら行ってみるのもいいじゃないですか? 本物のキッドが見られるかもしれませんよ」

「ええ〜」

 台拭きを畳んで綺麗な面を表にしながら、俺はあからさまに面倒そうな声を上げた。

「怪盗キッドって男じゃないですか。そんなに興味ないなぁ」

「類さんって、園子姉ちゃんと逆の女好きなの?」

「コナン君、その言い方は誤解しか招かないからやめようか」

 呆れたような半眼で俺を見る小学生に、俺は慌てて弁解した。

「どうせ見に行くなら野郎より綺麗なお姉さんがいいじゃん、男としては。あ、コナン君がいるのに蘭姉ちゃんを変な目で見るとかしないから安心してくれ」

「どうしてそこで蘭姉ちゃんの名前が出るの!?」

 俺がぽろっと付け加えた余計な言葉に、あっという間に茹蛸と化す少年探偵。うん、チョロい。恋愛が絡むと本当に初々しくて何よりだ。原作では既に告白していると聞いたが本当だろうか。もしそうなら、俺はいつかの日のためにエンダアアアァァイヤアアァァァと歌う準備をしておいた方がいいかもしれない。歌を披露した瞬間、俺が培ってきた気さくな優しいお兄さんという地位は完全崩壊するだろうが。壊滅的音痴という意味ではない。

「蘭姉ちゃんのことはいいから! 類さんも一緒に来てよぉ〜!」

 話題を逸らすためか、いい加減俺を落とすためか。コナン君が被っていた猫を二つ三つほど追加してきた。君、ねこ鍋でもするつもりなのか?

「そうは言っても俺は無関係だからな。現場に入れてもらえないよ」

「ボクが園子姉ちゃんにお願いするから大丈夫!」

「鈴木財閥のパイプ持ってる小学生ってすごいねー……」

「類さんだって、園子姉ちゃんに顔でお願いすれば絶対大丈夫だと思う!」

「こら小学生。本音がはみ出てるからしまいなさい」

 本当に、これだから顔で得してる奴は!



+++



でもコナン君は顔で勝負してるわけじゃなくて、お子様パワーで勝負してるつもりだと思います。
コナン君の「ボクトイレー!」からの家宅侵入ですが、あれは別に新一君でも通用する気がしてならない。公式イケメンにトイレ貸さない奴っているの???
兄さんズの中で、意図的にイケメンパワーを使いこなせるのは多分ルク兄さんだけじゃないかなと。ゾル兄さんはイケメンだけど、それを使って自分から何かしようという気概がない(いまいちやり方が分かってない)。基本受け身。



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