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ゾルディック家の華麗じゃない食卓
萌え 2018/09/25 00:03


・ゾル兄さん視点
・ゾルディック家のお食事事情
・添える程度のコナン要素





 毒、と一言にいっても生物毒から化学毒と多岐にわたるので説明が難しいが、ともかくゾルディック家では幼い頃から耐毒訓練が日常的に行われる。そのため、ゾルディック家の長男として生まれ直してしまった俺にとって、冗談抜きで毒物とは料理におけるスパイス、あるいは食材である。

 例えば、七草粥は日本人の方はご存じだろう。人日の節句(1月7日)の朝に食べる、春の七草を使った粥のことだ。ジャポン被れの気があるゾルディック家では、まさに七草粥のような野草粥が出されることがある。問題は、春の七草であるセリではなく、ドクゼリが使用される点だろう。シクトキシンという毒を含んでいるため、摂取すれば腹痛や痙攣、呼吸困難、意識障害を経て死ぬ。だがゾルディック家では常食である。今日は軽めに行っとこうぜ、じゃあドクゼリ粥な。そんなノリである。嘘だろ。

 ちょっとガーリックな料理にしとこうとなると、大体ヒ素がぶち込まれている。香ばしく焼かれた鶏肉だとか、そういうものにはしれっとニンニクと、ニンニク臭がする黄色ヒ素がふんだんに使われるのだ。もちろん猛毒であり、古来から暗殺に使われていたりする。なお、ヒ素は純度が高ければ高いほど無味無臭という特性があるので、ガーリックに限らず色んな料理にぶち込まれて消費者(俺)の胃袋を強襲してくる。

 キノコたっぷりシチューなんて出た日はヤバさの極みである。もちろん毒キノコフェスティバルだ。テングタケだとかスギヒラタケだとか、ドクツルタケとかヒトヨタケとか、たまに変わり種と称してカエンタケまでぶち込まれていることもある。ヒトヨタケはたまにバター炒めで出されたりもする。……言いづらいが、正直めっちゃ美味い。カエンタケとかシャグマアミガサタケはともかく、それ以外で挙げたキノコは全部美味い。テングタケとかドクツルタケは、丸ごと焼いて酒の肴にするのも美味い。なお、あらゆる毒キノコのごった煮という悪夢のシチューは、食べると普通はえげつなさの極みを体現して死ぬ。嘔吐するわ幻覚見るわ内臓から出血するわ呼吸困難を起こすわ、まあ酷い。ククルーマウンテン産の採れたてキノコは大概ヤバいが美味い。そもそも採取しているキノコのまともな食用キノコ率がまあ低い。普通にシイタケ焼いて食おうぜ。

 実は、たまにグラスに入った水もヤバい。美しい流線型を描くグラスに注がれた水に、これまた美しい花を落としていることがあるのだ。イメージはレモン水のレモンの切り身とか、中国の花茶の中身を、白く連なる花に変えている感じで良い。見た目はとてもお洒落で、上品なレストランで出されていそうなのだが、その花はスズランである。コンバラトキシンという猛毒が含まれており、その水を飲んだら嘔吐や頭痛を引き起こし、心臓麻痺で死ぬ。水でさえ油断できない。

 それから、執事にコーヒーに添えてはどうですかと勧められたことがあるのがまた毒物だった。トリカブトの花である。青紫の花弁は一見すると美しい。例えばコーヒーの上に白いクリームをたっぷり乗せ、さらにその上に花弁を添えると何となくお洒落に見える。しかし猛毒である。含まれているアコニチンは、摂取すると嘔吐と呼吸困難が起こり、内臓の機能不全で死ぬ。そして口に含むと苦い。いや、苦いだけでなく灼熱感というか、そんなスパイシーな味でもある。もうそれコーヒーじゃない。トリカブトを使う時はチャイとか、スパイスを使っている飲み物のときにすることにした。うん、分かってる。そういう問題じゃないよな。

 衝撃を受けたのはデザートだ。俺は小さい頃から、赤い実が入ったゼリーやホットケーキ、ピンクのババロアが好きだった。というのも、ベリー系のぷちっとした美しい実は甘くて美味しかったからだ。しかし、少しずつ食べさせられるのでヤバいのだろうなと思っていたら、案の定ヤバかった。それはドクウツギという植物の果実で、コリアミルチンという猛毒を含んでいたのだ。摂取すれば嘔吐や痙攣、呼吸困難を起こして死ぬ。なお、毒性の割にやたらと繊細で弱々しい箱入り娘の如き植物らしく、ククルーマウンテンの一角で大切に育てられた自家製である。嬉しくない。しかし、毒性植物の中ではトップクラスに美味しいので、ポイズングルメランキングがあったら、キノコ類を含めて上位に来る。付け加えると、キキョウママは俺がドクウツギの実が好きだと盛大に勘違いをしており、たまにドクウツギパイとかドクウツギケーキを焼いてくれる。すまない母さん、好きな食べ物を言えと言われたら、俺は少なくとも毒物は真っ先に除外する。普通に苺のケーキにしておいて欲しい。

 ――とまあ、毒物に関しては残念な方面でプロフェッショナルな俺である。そして大抵の毒物が効かなくなった体なので、利き毒というトチ狂った得意技さえ持っている。そのため、目の前で毒殺された死体とかあったら、その辺のコーヒーとか何やらをちょっとペロッとすれば何の毒なのか分かる。

(でもやらかしたら今度こそコナン君にドン引きされる!!)

 レストラン内で突然ぶっ倒れた哀れな被害者を熱心に観察する江戸川コナン少年を尻目に、俺はそっと顔を明後日の方向へ向けたのだった。



+ + +



コナン君にドン引きされる案件:既に手遅れ。
世の中にはいろんな毒があるんですね(白目)



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