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とある新人捜査官の日常
萌え 2018/08/13 00:53


・モブ捜査官視点
・対策班にはきっとこんな捜査官がいる
・魔術師麻衣兄さん





 彼は昔から間が悪かった。霊感があるかと問われればいや別にと答えるが、運が悪いかと問われればそれなりにと答え、間が悪いだろうと言われればその通りなんですと全面同意する程度には。ファミレスで運ばれてきた料理が、目の前に置かれた瞬間に小さな羽虫が死のダイブを決行するとか、友人たちと示し合わせて買ったアイスバーが自分だけハズレ棒だとか、そんなことは割とよくある。ただ、その程度で済んでいれば人生幸せなんだと思わされる職場に就職する予定はなかった。警察官が遭遇するのは犯罪の危険だけだと思っていたのである。

 始まりは、勤務中に車でとあるトンネルに差し掛かったことだった。中頃に差し掛かったところで、誰も載せていないはずの後部座席に一人の女性が座っているのを、彼はバックミラー越しに見付けてしまったのだ。その時咄嗟に考えてしまったのはオカルト的なことではなく、「ヤベェ部外者に忍び込まれたのに気付かなかった」であった。助手席に乗る先輩刑事の前でちょっとイイ格好をしたかった心理が、斜め上に働いた結果である。

 そしてハンドルを握ったまま、出来るだけ冷静に話しかけようとして出たセリフが非常に頭が悪かった。

「すいません、これ、警察車両なんで。無断乗車はやめてもらえますか?」

 後に同乗していた先輩刑事から、「そういうことではないがその度胸は有用だった」と言われ、頭を抱えた。「オメー、今のは幽霊だからな」と当たり前のように申告されたのも辛かった。その度胸と、何よりそういう世界を知っているという事実が、後に対策班だの零(霊)課だの怪異現象のゴミ箱だの、知る者から好き勝手に呼ばれる部署に引き抜かれる原因となったのである。ちなみに、カウンセリング利用率がやたらと高い部署であり、特殊すぎる事情のため対応できるカウンセラーが万年不足状態である。要は、それだけストレス負荷が高いお仕事が待っていた。ものすごくポジティブに見てみれば、陰ながらこの国を守るカッコイイ任務と言えるかもしれない。だが実際は世間に公表したら国家転覆レベルでヤバい真実を隠しながらどうにかするという、無茶振りが過ぎる業務である。

 対策班は、縦社会である警察組織では異例の部署である。部署、と表現するのも正確ではないのだが、便宜的にそう呼ぶことにする。というのも、常識を超えた奇妙な事件は様々なことに絡んでいるので、警察のどの部署にも最低一名以上の対策班捜査員が密かに所属しているのだ。表向きはただの捜査員として動き、裏では対策班の人間同士で情報を交換し、場合によっては事件の担当をもぎ取る。そして事件へ対応後、出来事自体を隠蔽して闇に葬る。そんな仕事だ。

 話は変わるが、彼は捜査一課が羨ましかった。彼も表向きは捜査一課に所属する刑事だが、投げられる、あるいはもぎ取ってくるのは曰く付きの事件ばかりである。同僚が羨ましい。特に、強行犯捜査三係が。というのも、彼らには非常に素晴らしい協力者がいるからだ。

 ――高校生探偵工藤新一。それが協力者の名前である。世界的に有名な推理小説家の工藤優作と、一世を風靡した大女優藤峰有希子を両親に持つ、生粋のサラブレッドだ。彼は美しい容姿とずば抜けた頭脳を併せ持つ、親のいいとこ取りのような人物で、度々捜査一課の事件を推理しては解決へと導く。迷宮知らずの名探偵、日本警察の救世主。マスコミに持て囃されるのも納得のハイスペック高校生と強行犯捜査三係は懇意にしていた。

 何だそれずるい、というのが正直な感想だ。こっちはオカルトでファンタジーなヤバい案件に死ぬ気で当たらなければならないというのに、あっちはイケメン高校生探偵の協力つきで事件捜査である。その名探偵を貸してくれ、俺だって工藤君をヨイショしたい、と半ば本気で願う対策班所属の捜査員は彼だけではなかった。なにせ彼ら対策班は、迷宮の入口を調査してから綺麗に隠すお仕事なのである。真実を暴いて迷宮化を防ぐ名探偵なんて羨ましさしかない。しかし相手は大事な大事な名探偵だ。下手に常識外れの意味不明な事件に関わらせて、彼の輝かしい推理力に陰りが出来てはならない。かの平成のホームズはあくまでも人間が起こす犯罪を紐解く、表舞台の救世主である。そんな理由で、工藤新一の頭脳を頼るという甘い夢は潰えた。

 しかしだ。しかしである。推理力が半端ないウルトラ高校生探偵との縁はなかったが、菩薩力が高い高校生魔術師とは縁があるのだと彼が知ったのは、着任からしばらく経ってからのことだった。時系列では、警察に存在をまともに認識されたのが実は高校生探偵が名を馳せるよりも前らしいが、それだけ彼女が秘匿されているということでもある。対策班の間では秘匿どころか知れ渡っているが。

 谷山麻衣。リアル魔法少女とも囁かれる彼女は、一見するとただの女子高生である。ちょっと可愛いがすぐに雑踏に埋没してしまうような外見で、まだ幼さを残すあどけない少女だ。しかしその小さな頭の中には、文字通り人智を越えた知識が詰め込まれているらしい。彼女を地獄の窯の蓋と呼ぶ者もいれば、蜘蛛の糸と呼ぶ者もいるし、未承認生物の翻訳家と呼ぶ者もいる。彼の場合は、半ば本気で天使とか菩薩の類だと思っている。一度、事件現場で彼女に助けられて以来、彼はすっかり彼女のファンだ。大の大人が情けない話だが、それでも彼女はとても男前で格好良くて頼りたくなるのだ。ガチゾンビに遭遇した直後、「大丈夫、何とかなりますよ!」と満面の笑顔と溢れる自信で言い切る女子高生なんて菩薩過ぎる。先輩刑事に思わずそう零したら、気持ちは分かるが警察官のプライドを持てと言われた。確かに彼女はあくまで民間人、守る側が守られては本末転倒だ。あと未成年はやめろとも言われた。それには全力で否定した。初めて彼女の男前さを見た時は、ほんの少しだけ嫁に欲しいと思わなくもなかったが。……そう思ったら彼女の友人にぶちのめされそうな気がしたので、考えていないということにしているのだ。

 彼女には特に親しい友人が二人いる。対策班の捜査員たちに一気に名前が広まるきっかけの事件で、共に死地を切り抜けた仲であった。一人はイケメン大学生霊能者で、もう一人は超絶イケメンのイギリス人留学生だ。イケメンが過ぎるので、フツメンの彼はとても妬ましい。彼女が欠片もときめいていないのが信じがたいほど彼らはイケメンなので。それを先輩刑事に告げると、人種が違うから諦めろと言われた。日本人とイギリス人の違いではなく、文字通り人間としての顔面偏差値の格のことだろう。口さがない先輩だ。しかし彼も先輩刑事に色々と零し過ぎである。





とここまで書いて唐突に力尽きました。
ここでの対策班は麻衣兄さんのスキルを結構知ってる感じで書いてます。
対策班の皆様はきっとハイスペック高校生探偵工藤に協力してもらえる強行犯捜査三係が羨ましいに違いない。工藤君と入れ替わりで眠りの小五郎が登場したことも羨ましいに違いない。大阪府警の対策班なら高校生探偵平次に協力してもらえる奴らが羨ましいはず。
心霊現象ならSPRもいるじゃんと思わなくもないですが、ナル君はジーンの一件から日本警察への信用度が低そうなので、よほど興味深い案件でなければ協力してくれなさそう。
……ちょっとしたクリーチャーなら、YAIBAの沖田総司君でどうにかなる気がしてならない。五段突きはさすがに人間越えてる。やったね京都府警! コナン世界の高校生連中はハイスペックが過ぎるぞ。

高校生であれだけハイスペックだから、彼らが成長したら降谷零のようなハイスペックの塊が爆誕するのかもしれない。なるほど納得。日本の未来は明るい。


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