更新履歴・日記



似非文学少女とメカニック
萌え 2018/07/09 00:54


・コナン視点
・魔術師麻衣兄さん
・リン→麻衣兄
・どこかの事件現場(現場の描写はない)
・ゼロの執行人後(大したネタバレはない。単にコナン君と安室さんがナチュラルに協力してるだけ)





 絶世の美少年である所長の存在感で忘れられがちだが、その助手であるリンという男も大概顔がいい。安室よりも高い身長と人嫌いかと疑わせる程の寡黙さ、社交性が死に絶えた無表情の合わせ技のせいで威圧感ばかりが強調されるが、それを差し引けば陰のある美形である。所長と並んで立っているだけでなかなか見栄えのする光景であるし、そこに安室まで加われば、イケメン好きの園子が納得して昇天する輝きを放つ(なお、そこに赤井を含めると輝き以上に危険が伴うので含めない)。他人事のようにそんな評価を下すコナンとて、イケメン高校生探偵という約束された未来を持つ紅顔の美少年なのだが、いまいち自覚が薄い。全てにおけるコナンの優先事項が、謎の探求という探偵の性(さが)に集約するからだろう。幼馴染も認める推理オタクっぷりは根深い。

 そんな彼らと出くわすのは今のところ、100%事件現場である。黒いスーツを常用する所長と助手が遊興する姿など想像もつかないし、想像を裏切らず彼らはいつでも仕事中だ。一度は黒尽くめの組織の関係者かと疑いそうになったこともある。灰原が何の反応も示さず、彼らも至って普通の(普通の心霊調査など分からないが)仕事っぷりのため、今のところは無関係だと考えているが。ともかく、今回コナンが彼らと遭遇したのもやはり事件現場だった。向こうからすれば、調査業務に当たっていたら勝手に殺人事件を起こされたという迷惑な話だろう。数回ほど彼らと遭遇した後からは、時折所長から視線を貰うことが増えたが、その謎は大抵一緒に行動している麻衣が解き明かしてくれた。曰く、「コナン君の事件遭遇率の高さを超心理学的な意味で検証してみたいんだろう」と。意味が分からない。「遭遇回数がナル君の目の前で10回を超えたら、多分ESP実験の協力依頼が入るよ」と言われ、コナンは曖昧に笑って誤魔化したことを覚えている。コナンは非科学的なことを信じない現実主義者(リアリスト)だが、所長は非科学的と言われる現象を検証可能な土台に乗せることを一つの行動目的にしているらしい。つまりは非常に論理的であり、彼もまた現実主義者(リアリスト)だ。心霊現象なんて、と雑な考えで口を出すと、ぐうの音も言えない程整然と論破される羽目になることをコナンはよくよく知っていた。

 所長と助手は常にセットで、さらに9割の確率でアルバイトの麻衣が一緒にいる。そしてたまにミュージシャン兼坊主という滝川や、自称巫女の松崎、霊媒師の原、聖職者のジョンが加わる。他にも緻密な背景調査が必要な場合に、優秀な調査員が追加されることもあるらしい。今回は所長と助手、麻衣というよくある組み合わせだった。所長はやはり興味深そうな目でコナンを見つめ、麻衣は「後は任せた探偵君」と謎の信頼をコナンに寄せ、助手は無言の無表情だ。麻衣に関しては「ええ〜? ボクじゃなくて小五郎おじさんか安室さんでしょ?」とすっとぼけたい衝動に駆られたが、否定するだけ無駄なのは経験上知っていたので控えた。頼りにされるが、特に探りを入れられる様子もないので放置が一番なのだ。

(……ん?)

 コナンはふと、リンの様子が少し気になった。正確に言うと、リンの挙動が少々不自然だ。無言で無表情というのはいつもと変わらないが、何かを気にしているように見える。コナンはリンの隻眼の行方と立ち位置、周囲の様子を観察し――あることに気付いた。

(麻衣を隠してる?)

 リンは常に麻衣の隣に立ち、しかし目立ち過ぎない程度に少しずつ立ち位置を変えているのだ。そしてリンを間に挟んだ麻衣との直線状には一人の青年がいた。たまたま事件現場に居合わせたように思える若い男だが、一度気にしてみると彼は何故か麻衣を見ようとしているように思える。見つめ続けるようなことはしていないが、ちらちらと麻衣に送る視線の回数が異常に多かった。

 リンは青年の視線から意図的に麻衣を隠している。コナンがそう判断したのは、安室とほぼ同じタイミングだったらしい。自然に顔を見合わせたコナンと安室は、ぼそぼそと小声で会話した。

「ねえ安室さん。あのお兄さん、ボクの目には普通の人にしか見えないけど……いつもの変態だと思う?」

「……どうだろうね。僕にも普通の人間にしか見えないけれど、彼女に寄ってくるのはキワモノばかりだからなぁ」

 事件の関係者を疑う前に変態を疑うのは、最早仕方のないことであった。谷山麻衣という少女は、それほどまでに変態との遭遇率が高いのである。コナンよりも彼女との付き合いが長いリンの行動も頷ける。むしろ、厭世的な人物像を思わせていたリンにしては、意外なほど面倒見が良い。一筋縄ではいかなそうな所長の助手を務めるだけあって、世話焼き気質が備わっているのだろうか。そう考えるとリンは案外、降谷零の部下である風見と似た面を持っているのかもしれない。

 一瞬で行動を決めたコナンと安室は、自然と分かれて動いた。コナンはリンへ、安室は件の青年へ向かう。コナンは腕を伸ばし、リンのジャケットの裾をくいくいと引いた。

「ねぇねぇ、リンさん」

 リンは小学生に呼ばれるとは思ってもみなかったらしく、コナンを見下ろすと切れ長の目を見開いて硬直した。棒立ちの状態で「……何でしょうか」と絞り出すように問う低い声は固い。本物の小学生なら泣くかもしれない威圧感である。しかし、好奇心旺盛な元高校生現小学生探偵のコナンには大したことはない。ジンの殺気立った気配の方が余程威圧的であるし、何よりリンには麻衣を庇う優しさがあることを察している。恐れる必要などないのだ。

 緊張しているのか慣れないのか、大きな背中を丸めたり膝を折る様子を見せない男の高い位置にある顔を、コナンは精一杯見上げながら告げた。内緒話をするように、片手を自分の頬に当てながら。

「リンさんって、麻衣姉ちゃんのことを守ってるんだよね?」

 動揺で男の肩が揺れる。当然聞こえていたらしく、麻衣がリンの背後からひょっこりと顔を出してコナンを見た。

「あ、やっぱりコナン君もそう思う?」

 どうやら彼女は、隣に立つ男の挙動不審さにはさすがに気づいていたらしい。

「リンさんのことだから、何か気を遣ってくれたんだろうなーとは思ってたけど、聞くタイミングがなくてさ」

 そういえば麻衣はアルバイト先の上司に何度も助けられたことがあると聞いている。その上司がリンなのだろう。絶句したままやはり棒立ちの上司を見上げた少女は、にこっと人好きのする笑顔を浮かべた。

「ありがとうございます、リンさん」

「…………いえ」

 少女を見ようとしてやめた黒い隻眼がそっと逸らされる。表情は相変わらず淡白だが、薄い唇の端が何かを堪えるように引き結ばれるのが見えた。伏せた睫毛が影を落とす白い皮膚が、うっすらと血色を良くした気がする。

(……あれ? この人、もしかして)

 恋愛関係についてはポンコツ迷探偵も、目の前の鮮やかな変化の理由には察しがついた。手掛かりを一から十まで並べられ、さあ推理しろと言われればどんな人間だって気付ける。

 彼はきっと、年下の彼女が好きなのだ。それも、恋愛的な意味で。だから何度彼女が妙な輩に襲われようと率先して助け、穏やかな笑みで礼を言われれば秘かに胸を焦がす。けれど彼女を想って自身の気持ちを口に出さない。考えられそうなのは年齢差だろうか。断られることを想定し、彼女が職場に居づらくなる要因を減らすためかもしれない。彼女は孤児の苦学生だから、実入りの良いアルバイトを簡単にやめるわけにはいかないのだから。

(安室さんとは逆の、口下手なイケメンかよ)

 コナンとしてはもう、「ハイハイごちそうさま」と言って離れたい気分になった。しかしカップル認定をしようにも麻衣の方の気持ちが分からないし、そもそも問題は解決していない。あの青年が変態であろうがなかろうが、数々の変態を相手取ってきたリンを警戒させるのだから白黒はっきりさせるべきだ。

「あそこのお兄さんが、麻衣姉ちゃんのことをちらちら見ているせいだよね」

「……よく気づきましたね」

 リンが感心した声を漏らす。

「あの人、いつも麻衣姉ちゃんのことを襲ってくる奴らと同じかなぁ?」

「さあ、どうでしょうか。谷山さんのことを気にしているのは確かですが」

 どうやら、リンの変態センサーは灰原の組織センサーよりは鋭敏ではないらしい。小さく首を横に振るリンに対し、麻衣は大きなため息をついた。彼女は面倒そうに無造作に頭を掻く。

「いっそ話しかけてきます。その方が分かりやすいし手っ取り早いですよ」

「ちょっと麻衣姉ちゃん!?」

 ぎょっとしたコナンが慌てて引き留めようとする前に、リンの手が麻衣の肩にかかった。筋張った大きな手がすっぽりと細い肩を捉え、華奢な体を黒いスーツに引き寄せる。

「谷山さん、迂闊なことはしないでください」

「そうだよ。安室さんが探りに行ってくれてるから、麻衣姉ちゃんは大人しくしてて」

 リンとコナンに諭された麻衣は、スーツの胸元に顔を突っ込ませたまま「はい」と従順に返事をした。基本的にコナンより聞き分けが良い彼女は、これでひとまず単独で突撃することはないだろう。コナンが安堵のため息をつくと、リンもため息をつこうとして――ひゅっと息を呑んだ。ようやく少女を抱き寄せたことを自覚したのだろう。ぎこちない動作で少女の肩から手を外し、しかしそこからどう動けばいいのか測りかねたのか電柱のように固まる。幸か不幸か、麻衣は未練の欠片も照れもなくさっさと体を離したのだが、それでもリンは哀れなほど硬直したまま視線のやり場に困っていた。その一連の様子を目の当たりにしたコナンは、呆れるよりも前にヒヤリとした。

(この人の恋愛偏差値、俺と同レベルじゃねえか?)

 恐らく、コナン――新一も同じようなシチュエーションで我に返ったら照れまくる自信がある。この人よりはマシじゃないかと思わないでもないが、同じ穴の狢に落ちないとも限らない。

(人って見かけに寄らねえな)

 コナンといい、安室といい、リンといい、麻衣といい。つくづく見かけを裏切る要素を持っている。ヤのつく自由業の若頭並みの威圧感を持つ男が、女子高生の一挙手一投足で勝手に照れて翻弄されるなんて予想外もいいところだ。

(俺は余裕のあるカッコイイ男になろう。ホームズみたいに)

 同じ轍は踏むまい、とコナンは密かに決心した。大人はやっぱり、余裕がある方が格好良いのだ。



+ + +



リン麻衣(兄)が書きたくなったので。

コナン君の麻衣兄の呼び方がいつの間にか麻衣お姉さん→麻衣姉ちゃんに変更されてる件
>変態に遭遇し過ぎた&麻衣兄の軽い態度で段々気安くなった結果。


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