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似非文学少女と国家の狗
萌え 2018/06/24 23:59


・バーボン視点+ジン視点
・出番的には降谷さんがよく喋る
・麻衣兄さんはクトゥルフ2010収録シナリオ「奇妙な共闘」経験済み設定
・故にシナリオの一部ネタバレあり
・親友の名前は□□□(名字)***(名前)





 今夜、また人が死んだ。東都のある路地裏で、バーボンは冷たい眼差しをビルに向ける。一見すると巨大なビジネスビルは、組織に加担したが切り捨てられた男の墓石だ。バーボンは外からそれを見届けることしかできない/しない。今夜の仕事は殺しではなく、ビルから組織の関係者が身を潜めて出てこないかどうかの監視だからだ。ジンがビルに入ってからたっぷりと時間をおいて訪れたのは、組織の目のないところで関係者を確保できれば、公安に身柄を回せる可能性があるからだ。

 ビルの周辺を油断なく観察していたバーボンは、陰に隠れるように止められている車に気付いた。黒いボディのポルシェ356Aはジンの愛車だ。周囲に人影はなく、車内も一見すると誰もいない。しかし何かが置かれているような影が見えたため、バーボンはそっと車体に寄り添って中を覗き込み――背筋が凍り付くほどの驚愕に背骨を貫かれた。

 2シートのため狭い車内。その運転席と助手席を跨いで小さな人間が丸まって横たわっている。黒いジャケットが被せられているので顔は見えないが、伸びる素足はジャケットと不釣り合いに白く細い。そしてはみ出ている柔らかそうな色素の薄い髪には見覚えがあったのだ。たまに安室透のアルバイト先に訪れる女子高生のものととても似ている。ゆっくりと僅かに上下しているのが見えるので、死体ではなく眠っているだけらしい。だが髪の持ち主が知人であろうがなかろうか、ジンの愛車で眠っているのは異常事態である。

(誘拐されたのか? これは誰で何のために?)

 もぞ、と黒いジャケットが動く。その拍子に見慣れた少女の顔が見えたため、バーボンは今度こそ確信した。谷山麻衣。特に犯罪歴もない高校生だ。故に誘拐される理由が分からず、そして誘拐されたと考えるには無防備すぎる。彼女の口元は何にも覆われておらず、覗いた手首にも拘束は見られない。睡眠薬を飲まされているのかもしれないが、それにしても彼女が逃げ出す可能性を一切考慮に入れていない無警戒さだ。組織の誰よりも警戒心が強いジンの行動パターンとしてはあまりにも考え難い。本当に誘拐するのなら、隙なく縛り上げてトランクに入れるはずだ。

 バーボン/安室の脳裏を、降谷が手を回して調べた少女のデータが過ぎる。何も、ないはずだ。彼女は若くして両親を亡くした孤児の学生というだけだ。心霊調査事務所のアルバイトというのが変わっているだけで。そのアルバイトはやたらと給料が良いようだが、仕事自体に違法性がないことは調べがついている。さすがに事務所の金の流れまでは調べていないが、調べるまでもないという結論に至っていた。公安は多忙だ。降谷が気になったからというだけで、管轄外かつ限りなく白の学生のバイト先の裏事情まで調べる時間も人手もない。

 その時、バーボンの耳に金属音が届いた。セーフティーを解除する音だ。そちらに視線を遣ると、闇夜に紛れて銃を構える銀髪の男が立っていた。隣には黒いボルサリーノの男もいる。そちらは白いシャツ姿のため、ジャケットを少女に被せたのは彼らしい。

「――何をしている。離れろ」

 煙草を噛みながら低い声で告げるジンに、バーボンはゆっくりと体ごと振り向きながら冷たい笑みを浮かべた。

「宗旨替えでもしましたか、ジン? あなたがエスコートするには随分と幼いレディですね」

「聞こえの悪い耳は風通しを良くする必要があるか?」

「それには及びませんよ」

 ひらりと両手を上げて肩をすくめて見せる。そのまま脇に逸れてやると、ジンは鼻を鳴らしてようやく銃を下した。歩み寄ってくるジンと入れ替わりで車から離れつつ、バーボンは尋ねる。

「探り屋としては気にかかりますね。誘拐したわけでもないのでしょう? 何故あなたが一般人の少女を」

「コイツは探るな」

 バーボンの言葉はジンに遮られた。今度は銃口を向けられなかったが、言葉遊びさえ付き合う気のない拒絶の意思だった。探り屋に向けるにしては珍しい、直接的な命令だ。

「テメエは気に喰わねえが、これは忠告だ」

 どういう意味なのか余計に気になるものと分かるはずだが、ジンはあえてそう告げた。それしか言いようがなかったとも受け取れる。ジンはウォッカを促して車に乗り込むと、バーボンを置き去りにしてその場を立ち去った。少女をジャケットごと抱えるウォッカの手が意外にも丁寧だったが、その疑問を増やしただけで答えは与えられなかった。




 バーボンの行動は早かった。あの後、少女が無事に自宅に帰っていることを確認した彼は、夜明けを待たずに風見に谷山麻衣の身辺の追加調査を命じた。公安が本気を出せば、一般人の素性調査など一日あればお釣りがくる。そのはずだ。しかし、風見がある程度の報告をまとめられたのはその日の夕方頃だった。電話をした降谷に対し、風見は今まで調べがついていた通りの事柄に加え、新たに判明したことを伝えてきた。

「――彼女は中学3年生の頃に、一週間欠席しています。病欠ということで診断書を学校に提出してあるようですが、発行元が中野区の東都警察病院でした。インフルエンザで短期入院と自宅療養ということになっているようです」

「警察関係者が手を回したということか。入院記録はどうなっている」

 谷山麻衣の居住地からその病院は近くない。受診するのなら交通費を考慮し、別の病院になるはずだ。ならば警察関係者が口出しをした可能性がある。降谷が尋ねると、電話口で風見が一瞬言い淀んだのを感じた。

「実態はありませんでした。カルテの記録は残されていましたが、当時の食事の配膳数や薬剤の使用数との不一致が確認されました。何者かがカルテの虚偽記載を仕向けたと思われます」

「担当医は」

「共犯です。ただ、警察の指示であり、担当者に問い合わせろとしか言いません。担当が分からないのであればそれまでだと」

「そいつと接触している奴は」

「特命捜査対策室の捜査員が数名。しかし口を割りません」

 それは警視庁捜査一課に設置されている部署で、過去の重要未解決事件を取り扱っている。コールドケース解決のために必要不可欠だが、それが彼女の不可解な空白期間に関わる理由が不透明だ。

「上からの圧力もかけられ始めています。確実に何かがあるようですが、これ以上の捜査は危険が伴うかと」

「――防衛省だな」

「ご存知でしたか」

「ああ。つい数時間前、ウラ理事官から釘を刺されたところだ。無関係なことを嗅ぎ回るなと」

 降谷が風見に連絡するのが夕方までずれ込んだのもこれが原因だ。釘を刺されたことで防衛省が絡んでいることを察した降谷は、2年前に起きた事件を思い出した。2年前、当時の防衛省大臣が突如拳銃自殺を図った日と、谷山麻衣が姿をくらませた時期が重なっている。これは偶然の一致だろうか、と。

 だが、上官から直々に止められた以上、これ以上の捜査は難しい。降谷は内心で舌打ちした。組織の壊滅のために情報はいくらあっても足りない。ジンに繋がるものが意外なところから見つかりそうだというのに、国家機関からの足止めを食らうのはもどかしかった。直接彼女を探るのはこの辺りが引き際ということだろう。

「これ以上深入りすると、彼女への接近禁止令が出かねない。安室透の生活に支障が出るだろうから、しばらくは大人しくするのがいいだろうな」

「組織側から調べるおつもりで?」

 すぐにこちらの意図を掴んだ風見に、降谷は口角を吊り上げた。

「警察が駄目ならな。あのジンが目を付けているなら、慎重にならざるを得ないが――そもそも彼女はポアロにたまにくる客だ。何とでも言い訳してみせる」

 そう。彼女が安室透のアルバイト先に現れるのはこちらの意図ではない。あくまで彼女の自由意志だ。安室透が谷山麻衣とポアロで接触することには何の不自然もない。

「風見。お前は彼女の友人を洗え。何か知っている可能性がある」

「□□□***とトム・リドルですね」

 直接本人を探れないのならば、その周囲を探ればいい。降谷はちょうど探るに値する人物たちを知っていた。千葉県の男子大学生と、アメリカからの留学生、そして都内の女子高生。生活圏がバラバラで共通点もない、本来ならば接点が生まれるはずもない奇妙な三人組。

「ああ。あの二人は特に彼女と仲がいいが、きっかけがまるで分からない上、聞いてもはぐらかされる。恋愛感情があるわけでもなく、時折妙な仲間意識が見られる。特に□□□の方は彼女に対して依存傾向がみられるから、崩すならそちらだ。リドルは人心掌握に長けている可能性があるから、本人への接触は避けろ」

「はい。降谷さんもお気をつけて」



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 体を丸めた状態でジャケットごとウォッカに抱えられていた少女が目を覚ます。自己申告通り1時間半程度で目を覚ました彼女は、本当にいわゆる魔力切れというやつだったのだろう。目を覚ました後も、ぼんやりとした様子でウォッカの腕におさまっている。数分後には「後部座席に下ろしてください」と言い出したが、ジンがトランクしかないと告げると死にそうな顔をする辺り、メンタルの余裕はありそうだ。一方のウォッカは、あからさまに嫌がられたのを気にしたのか、唇を真一文字に引き結んで消沈している。化け物絡みの事件に遭遇しては慰められている男は、回を追うごとに少女に気を許しつつあるのだ。普段は大抵のことをこなす有能な男だが、化け物が絡んだ途端に堅気の反応になるのはそう簡単に変わりそうもない。似たようなことを言ったところで、「兄貴がすごいんです」と返されて終わったが。

 ジンはハンドルを握りながら少女に声をかけた。

「世話になったな。何が欲しい?」

 借りを作っておいてそのままというのは非常に気分が悪い。誰が相手でも借りを作りたくないジンは、嫌な予感がするからという理由で自宅から引き摺り出した少女にも報酬を与えるつもりだった。少女はしかめっ面で考え込んでから、苦し紛れで絞り出す。

「えー……あー……ファミチキください……?」

「あ゛?」

 思わずブレーキを踏み抜きそうになるのを堪える。何がファミチキだふざけているのかと横目で睨み付けると、「いきなりは思い浮かばなかったんですよ!」と怯む様子もなく言い返してきた。

「それにお兄さんたちのお金って……何というか……」

「はっきり言え」

 ぼそぼそと言い淀むのが面倒臭いので促すと、彼女は言い淀んだのは何だったのかと言いたくなるほどきっぱりと白状する。

「地中海辺りで優雅に海水浴してそうなお金ですよね」

「マカオだ」

「要らない情報!!」

 マネーロンダリング先をさらっと言ってやると、少女は飛び上がって叫んだ挙句に頭をウォッカの顎と強打して呻いた。ウォッカはなけなしのプライドで呻くことは耐えたようだが、痛みで肩を震わせている。どうしようもない連中だ。

 ジンは隠さず舌打ちすると、吸っていた煙草を車内用灰皿に押し付け、新しく取り出したものを咥えた。ウォッカが火をつけようとするのを待たずに自分で点火し、深く煙を吸う。

「面倒臭ぇ。適当にその辺の奴を什器ごと買ってやる」

「什器は食べられないので中身だけください」

「食えたらもらうのか……?」

 少女の真顔の訴えもウォッカの呟きも途轍もなくどうしようもない。ジンがため息を吐き出すと、車内に紫煙が舞った。



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設定としては特命捜査対策室の特命捜査第零係(通称ゼロ班ならぬ霊係)が絡んでいる感じで。人間業じゃねーぞって感じの未解決事件をゴミ箱のごとく放り込まれる部署だと思います。神話生物絡んでね?という解決事件の後始末も放り込まれてるかと。アメリカにデルタグリーンがあるなら、日本にもそのくらいあると信じてる。
「奇妙な共闘」は防衛省の不祥事も絡んでるので、余計なことを探ろうとするお巡りさんはしまっちゃおうねーとなります。特命捜査第零係の皆さんは、日本の首都の地下にやべーもんがいるのは黙っとかないと治安がやべーという正義感で黙ってます。
あのシナリオは探索者が生き残れても、お国のために緘口令をお願い()されると思います。そんなわけでシナリオ経験済みの三人組は警察の一部署とお知り合いではなかろうかと。


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