更新履歴・日記



似非文学少女とミュージシャン
萌え 2018/06/24 23:59


・ぼーさん視点
・魔術師麻衣兄さん時空なので、SPRメンバーは一部しかコナン君たちと会ってない
・一部:所長と助手
・「ようこそ! 冒涜的な居酒屋へ」後の時系列
・時代背景がごちゃごちゃ。GH本編よりも未来の時代の日本。




 米花町の喫茶店に、ギターが弾ける人気イケメン店員がいるらしい。そんな噂を自分のファンの女子高生から聞いた滝川は、ある日気まぐれにもその喫茶店に行ってみようと考えた。ギター担当が足りていないわけではないが、上手いというなら気になるのがミュージシャンだ。その喫茶店の名前はポアロ。かの有名な眠りの小五郎の探偵事務所と同じビルの1階にある、街角の喫茶店だ。

 TVで見た覚えのある探偵事務所を遠目に眺めた後、滝川はガラス張りのドアを開いて入店した。いらっしゃいませ、という穏やかな男女の声が滝川を出迎える。店内は今時のお洒落な雰囲気はないものの、少し懐かしいような落ち着いた作りだ。時間帯も良かったのか、賑やかな学生たち――言ってしまえば女子高生もおらず、数人の客が静かな時間を楽しんでいる。滝川はカウンター席に腰かけた。店員に話しかけるのなら、カウンター席が一番適している。

(ほー。あの兄ちゃんか。確かにハンサムだわな)

 カウンターの向こう側には、黒いエプロンを付けた件の青年がいた。褐色の肌と金に近い茶色の髪というエキゾチックな組み合わせだが、物腰が柔らかいせいで軽薄には見えない。某心霊調査事務所の若き所長のような美しい系統とはまた違い、微笑みを湛えた表情もあって甘さが強い端正な顔立ちだ。童顔に見えるが、滝川と同じくらいか下の年齢だろうか。しかし優男然とした顔立ちとは裏腹に、肘までまくった袖から覗く腕はなかなか筋肉質で、背丈も滝川並にあるので意外と体格がいい。彼の垂れ目がちの青灰色の目はくるくると良く動き、店内の隅々まで把握しているようだ。注文しようとする客が手を上げかけた頃にはすでに反応しているし、お冷を切らした客もいない。案の定、滝川の視線に気づいた彼は愛想のいい笑みを浮かべて歩み寄ってきた。男としては可愛らしい女性店員の方が嬉しいが、本日のお目当ては男性店員の方なので悪くはない。

「ご注文はお決まりですか?」

「そうだなぁ〜」

 小さな喫茶店にしては意外と洒落たフードメニューがあるが、それ以外は至ってシンプルなお品書きを流し見た滝川は、店に入る前から決めていた注文を告げた。

「それじゃあ、噂のあむサンドとホットコーヒーで」

「え?」

「あ」

 男性店員――JK(女子高生)にあむぴと呼ばれている彼が目を瞬かせたのを見て、滝川は失言を悟った。噂で聞いた呼び方そのままで注文してしまっていた。

「違った、ハムサンドだった。悪いなお兄さん」

「構いませんよ。そんな呼ばれ方をしているんですね」

 くすくすと笑う青年に悪感情は見られない。自分の噂をある程度把握しているのかもしれなかった。メジャーデビューしていないミュージシャンの滝川とて、自分の評判くらいは多少耳に入れている。他人から見られる商売は、他人からの評価が重要だ。

「喫茶店ポアロの安室さんのイチオシ料理だって、女子高生から大人気らしいな」

「人気だなんて。ありがとうございます」

 顔も良くて、人柄も良さそうで、ギターもできるらしいとは。恐らく仕事もできるだろう。会話らしい会話をせずとも滲み出ているハイスペックさに、滝川は内心で肩をすくめた。世の中、出来る奴は出来る。

 少ししてから運ばれてきたハムサンドは、確かに美味かった。安室青年のお手製らしい。コーヒーは女性店員が淹れたもので、こちらも文句なしだ。サンドイッチのふんわりとした食パンとしゃっきりとしたレタスの食感が素晴らしいし、ハムに絡まる謎のソースもまた美味い。合間に熱くて濃いコーヒーを飲むと気持ちが落ち着く。若い店員二人の見た目と滲む人柄だけでなく、純粋に料理に惹かれるリピーターも少なくなさそうだ。

 噂の美味しいハムサンドの感想をとっかかりに、安室に話しかけてみようかと滝川が考えた時だった。レトロなドアベルが涼やかに鳴り、新しい客が入ってきた。タイミングが悪いので、もう少ししてから話しかけようかと開きかけた口を閉じた滝川は、安室の言葉で閉じたばかりの口をあんぐりと開いた。

「いらっしゃいませ。お久し振りですね、麻衣さ……ああ……」

 安室の声が途中からトーンダウンする。滝川が慌てて入口に振り向くと、想像通りの姿があった。安室が麻衣と呼んだ相手は、滝川も知るアルバイト少女・谷山麻衣だった。彼女はどういうわけか、小学生くらいの少年と手を繋いで苦笑している。天使の輪がかかった艶やかな黒髪と、宝石のような青い双眸が印象的な美少年だ。しかし二桁も届かない年頃だろう少年の浮かべる表情は、年齢にそぐわない疲労感に満ちている。

「コナン君、またなのかい?」

「またなんだよ、安室さん」

 二十代と思しき美青年と幼い紅顔の美少年が、妙に分かり合った様子で頷き合っている。滝川は彼らの表情にとてもとても見覚えがあった。一方の麻衣は誤魔化すようにへらりと笑う。

「いやーすごいのは自分じゃなくて、コナン君の事件遭遇率じゃないかと」

「コナン君のせいにするのは良くないと思うな」

「自分のせいでもないですよねでもごめんなさい」

 安室に穏やかな声色ながらぴしゃりと言い返され、麻衣はすっと目を逸らす。彼女と手を繋いだままの少年も、どこか諦め切ったような微笑みで安室に追従した。

「麻衣お姉さん。ボク、いろんな事件に遭って来たけど変態は経験ないんだ」

「ホントすいませんでした江戸川様」

 ……全てを理解した滝川は、自分の顔が死んでいくのを悟った。これは谷山麻衣という少女とある程度親しくなった人間が等しく経験するアレだ。間違いない。

 安室の横からひょいと顔を出した女性店員――榎本梓というらしいと女子高生ファンから聞いた――が、心配そうな顔で麻衣に声をかけた。家庭的な魅力のある美人なので、まるで姉のような態度だ。

「麻衣ちゃん、大丈夫? 通報する?」

 すると、少年がにっこりと梓に笑いかけた。

「もう通報してきたから大丈夫だよ! いつものお巡りさんが来てくれたし!」

「さすがコナン君ね。とっても頼もしいわ」

 少年と女性の微笑ましいやり取りに見えるが、内実は物騒である。麻衣は恐らくいつものように変態に襲われ、それをコナンと呼ばれている小学生が助けてここまで連れてきたのだろう。きちんと通報まで済ませて。普段はアルバイト先の上司の男に助けられることが多いが、エリアが変わると小学生に助けられるようになっていたとは。滝川は片手で額を押さえ、渦中の女子高生に話しかけた。

「麻衣……またなのか……」

 滝川に声をかけられた麻衣は、そこでようやくこちらに気付いたようだ。少女は鼈甲飴のような目を丸くして首を傾げた。

「あれ? ぼーさん? どうしてここにいるんだ? 干された?」

「干されてねーから! 挨拶代わりに暴言吐くのはやめよう麻衣ちゃん!?」

 無邪気そうな声色でなんてことを言ってくれるのか。滝川は声量を抑えつつも叫んだ。自分の稼ぎで身を立てている者として、いっぱしのミュージシャンとして、その辺りはきちんと否定しておきたい。

 麻衣の視線と共に、コナン・安室・梓の視線も滝川に集まる。雀の尾羽のような特徴的な癖毛をぴょこんと揺らし、小学生が興味半分警戒半分の目で滝川に振り向いたのが何とも言えなかった。警戒心を捨てていない辺り、彼は麻衣に絡む面倒くさい人種をよく理解しているらしい。対応としては100点満点であった。

「麻衣お姉さん、あのお兄さんは知り合いなの?」

「そうだよ。な、ぼーさん」

「おう。俺は滝川法生っていうんだ。気軽にぼーさんでいいぜ」

 一刻も早く小学生からの変質者疑いを晴らすため、滝川はにかっと明るく笑って片手を上げて見せた。元々コナンはそれほど滝川を疑っていなかったのか、あっさりと子どもらしい笑顔になった。

「ボクは江戸川コナン。よろしくね、ぼーさん」

 コナンはあだ名ではなく本名らしい。今時のキラキラネームというやつかもしれない。麻衣と繋いでいた手を離したコナンは、いかにも無邪気そうな様子で首を傾げて見せる。

「ねぇねぇ。どうして“ぼーさん”なの? 法生(ほうしょう)って名前なら“ほーさん”じゃない?」

「いーいところに目をつけるな、坊主」

 あっさりスルーされるかと思いきや、コナン少年は知りたがりボウヤらしい。

「俺は高野山にいたことがあるんでな、それで坊さんって呼ばれてるんだ」

「まさか、修行してたとか?」

「一応な」

 滝川は霊能者であり、いわゆる拝み屋である。昔と違って視えないものの、今でも除霊することができる。しかしそれは拝み屋の仕事場でもない限り、自分から告げることはない。本物の霊能者ならばこそ、告げることによって押し付けられる周囲の目の重苦しさを厭うからだ。それでも僧侶の修行をしていたことを簡単に告げるのは、僧侶は霊能者とイコールではないからだ。僧侶は特定の思想に準じた生き方をする者であり、現世の霊をどうにかする者ではない。思想の中に霊の捉え方が含まれるだけなのだ。冠婚葬祭に従事する仏門の者が霊能者だと認識する者はいない。文化的思想的な儀式を行う仕事の人と考える。つまりそういうことだ。

 それにしても、最近の小学校低学年の子どもは、高野山の坊さんと聞いてあっさり納得するものだろうか。少年の口振りだと高野山と坊主はきちんと一本のラインで結ばれている。普通の子どもならば高野山の坊さんって何? となるのではなかろうか。そればかりか、コナンは無邪気な顔でさらに突っ込んだことを滝川に尋ねた。

「真言宗の僧侶って、まず得度(とくど)式で剃髪しないと駄目だよね?」

「ほぉ。高野山ってだけで真言宗だって分かるのか。しかも得度式までとは。ちまっこいのによく知ってんなぁ。もしかして寺の息子か?」

 寺の息子というのならば分からなくもない理解度ではある。理知的すぎることに変わりはないが。麻衣や梓などは「得度式って何」と言いたげな顔をしている始末だ。安室は変わらない笑顔だが、変わらなすぎて意外と内心が読めない。安原のような独特の胡散臭さは感じられないが。

 滝川に尋ね返されたコナンは、少し慌てたように「テレビで見たんだ!」と言った。寺の息子ではないらしい。この賢い少年は僧侶というより、モデルの方が向いてそうだと思うくらいには将来有望な見た目なので、まあそうなのだろうと滝川は適当に納得した。都会の子どもは賢いし、テレビはたまにマニアックなことを取り扱うのかもしれない。

 すると、梓が人のいい笑顔を浮かべたまま口を挟んだ。

「コナン君はとっても頭がいいんですよ」

 安室も悪戯っぽい笑みでコナンを見やる。

「少年探偵団のメンバーですからね、コナン君?」

「アハハ……まあね」

 何とも言い難い顔をする小学生である。男前で枯れ果てた女子高生と相応しからぬ頭脳の小学生は、どちらがより特異的だろうか。どっちもどっちか、と適当極まりない結論に落ち着いた滝川は、コナンにニヤリとしてみせた。

「江戸川乱歩とは、最近の小学生は粋だねぇ。コナンはさしずめ小林少年ってところか」

「ボクはホームズの方がいいな。ホームズは世界一カッコイイ探偵からね!」

「ほぉ、シャーロックホームズときたか。こいつは将来有望だ」

 日本では名探偵の代名詞の一人として名が挙がるホームズを好む少年探偵とは。最近はメディアで見かけなくなったが、平成のホームズと呼ばれる高校生探偵もいるのだから、利発なコナンはその次世代を担えるようになるのかもしれない。面白いものを見たと滝川は機嫌を良くした。

「ま、今は山を下りてるから伸ばしてたって構わないんだ。この色だって染めてないしな」

 最終的にコナンの問いにそう答えた滝川は、気を取り直してコナンを手招きした。元来滝川は子どもが好きな方であり、なおかつコナンは面白いし麻衣の恩人だ。

「お前さん、うちの麻衣を助けてくれたんだろ? お礼にお兄さんが何か奢ってやろう」

「わーい! ぼーさん、ありがとう!」

 あざといほど可愛らしい歓声を上げて喜んだコナンは、小さな足で滝川の元に走り寄ってきた。そして意外と器用に高い位置にあるカウンター席に座る。慣れているのだろう。床に届かない足を揺らしながら「何にしようかな」という姿は純粋に微笑ましい。滝川はきょとんとしている麻衣に声をかけた。

「ほれ、麻衣もこっちに来な。お前も奢ってやるから」

 すると、麻衣はすっと微笑みを浮かべた。なんというか、静かな微笑みを。滝川は直感的に嫌な予感がした。彼女がこういう顔をする時は大抵碌でもない。

「……今日は諭吉が家出していませんか、社会人のお兄さん?」

「ぐふっ!!」

 唐突過ぎるボディーブローを避けられず、滝川は呻き声を上げた。彼女がいつぞやのことを言っているのは明らかだ。大人の見栄で奢ってやろうとして彼女を居酒屋に連れて行ったものの、妙な料理を出され続け、最後には財布の中身が寒すぎてリンに立て替えてもらうという残念過ぎる一件を。もちろん、自分の分の食事代はその後きっちりリンに返した。返したのだが、そもそも財布がスカスカだった事実は変えられない。この話題で滝川は綾子に散々笑い飛ばされ、安原にも「おやおや」と何とも言えない微笑みをいただいた。真砂子は「あら」と目を瞬かせ、ジョンには「大変でしたね」と労われたのだが、それらの穏やかな反応すら悲しかった。

「あの時は所持金が1000円もなくて、結局リンさんが全員分支払ってたよな? 本当に奢れるのか?」

 女子高生から疑心を含んだ微笑みを向けられて胃袋が捻じれる滝川の隣で、幼い少年が上目遣いで大人を見上げる。キラキラとした宝石の双眸が、成人男性・滝川の心に突き刺さる。

「ぼーさん、大丈夫? ボク、奢ってもらわなくても平気だよ?」

「小学生にまで所持金を心配される屈辱……!」

 滝川はカウンターに突っ伏した。こんな扱いはあんまりだ。滝川だって大人のお兄さんだ。プライドがある。もっと優しくしてほしい……と願うのはプライドがないか?

「あの時は税金支払った直後だったから仕方がないの! 今日は大丈夫だから信じて!」

「はいはい。それじゃあ喜んでご馳走になります。高いの頼もうかなー」

 麻衣はそれ以上からかうつもりはなかったらしく、あっさりと滝川の財布を信用した。彼女は小さな手で丸くなる滝川の背をぽんと叩くと、コナンの隣に腰かける。彼女は「高いの」とは言うものの、放っておけば結局遠慮して安さ優先で選ぶ天邪鬼だ。本当に財布に余裕がある滝川は、それを見越して麻衣に声をかけた。

「高いのでもいいから、いっぱい食べて大きくおなり」

「ミートボールとキャベツのミルクトマト煮で!」

「気持ちいいほど遠慮しないね麻衣ちゃん」

 遠慮はするが、許可か出たらそのギリギリを攻めてくるのも麻衣という少女である。注文されたのは、ポアロの中でも高額メニューである。相変わらず清々しい変わり身の早さに滝川が半眼を向けると、麻衣は爽やかな笑みを浮かべた。

「当たり前だろ。自分の金だろうが他人の金だろうが、飯は変わらず美味い」

「男前だね、麻衣お姉さん……」

 お隣の小学生も半眼になっていた。しかし滝川にとってはいつものことなのであっさり常を取り戻すと、柔らかい黒髪をぽすんと撫でた。

「コナンは何がいいんだ?」

「うーん。じゃあボクは半熟ケーキがいいな!」

「よし、決まりだな」

 滝川は少年少女の注文にさらに飲み物を勝手に追加してやると、放置されていたハムサンドをもう一口齧った。やはり美味い。

「そういえば、ぼーさんはどうしてここに?」

 梓に出された水を一口含みながら麻衣が尋ねる。知り合いならちょうどいいと考えた滝川は、特に隠しもせずに答えた。

「ポアロの店員さんがイケメンでギターもできるらしいって聞いたからな。視察に来たんだよ」

「勧誘?」

「どうだろうな」

 ギター担当は足りているので、あくまで様子を見に来ただけた。首を傾げる麻衣に曖昧に答えると、コナンが大きな目で滝川を見上げた。

「それって安室さんのこと?」

「そうそう。“あむぴはめっちゃイケメンだし噂だとギターもできるんだって!”って若い娘が言ってた」

「若い娘って」

 コナンは半ば呆れたような顔をした。

「ぼーさんだって若いお兄さんでしょ」

「えー。俺26だし。高校生にとっちゃおっさんだろ? 安室さんみたいな若いハンサム君はまだしも」

 するとコナンはしょっぱい顔になった。何故か隣の麻衣も同じ表情をしている。カウンターの向こう側では梓が苦笑しており、安室は笑顔が少し引き攣っていた。明らかにおかしな空気になったことに気付いた滝川は、集まる視線に狼狽えた。

「え? 何? 俺、変なこと言った?」

「あのね、ぼーさん」

 コナンがしょっぱい表情のまま滝川に告げた。

「安室さん、29歳だよ」

 一瞬の沈黙の後、言われたことを理解した滝川は安室を見た。奇跡の童顔青年が乾いた笑い声を上げている。

「俺より年上ぇ!?」

 思わず叫ぶ滝川に、麻衣がぼそっと「あれでリンさんと同年代って詐欺だよな」と呟いた。



+ + +



詐欺だと思う(真顔)

よく考えてみたら麻衣ちゃんの周りには二人も偽名使いがいるのですが、コナンとクロスしたら偽名の人がまた増えるってスゲーと思いました。主人公からしてまず偽名(震え声)


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