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似非文学少女と誘拐犯
萌え 2018/06/10 23:20


・魔術師麻衣兄さん
・コナン視点
・どこかの島のどこかの洋館で麻衣兄さんが失踪
・海に面した崖で遺留品(仮)を見つけたでござる
・親友の名前は***
・親友のメンタルはいつもの豆腐





 崖の先端に、手入れされた小さなスニーカーが揃えて置かれていた。靴の中には一枚の紙片が入れられている。コナンはそれを摘まみ上げてかざした。紙片にはボールペンで、綺麗とも汚いとも言えない平凡な文字で、たった一言だけ書かれてある。

 ごめんなさい。

 コナンは崖の下を覗き込んだ。影の下は岩礁となっており、白い波が打ち寄せては砕け、飛沫をあげている。ゴツゴツとした岩には、遠目からでも分かる真っ赤なものがべたりと付着しており、それを海水が少しずつ洗い流そうとしていた。血、だろうか。

「自殺、かな?」

 コナンの背後から崖の下を覗いていた安室が、目を細めながら呟く。波間に小さな人影が見えないだろうかと探しているのだろう。コナンも辺りに目を光らせたが、残念ながら彼女らしき姿は見つからない。安室の目を無視して眼鏡の望遠レンズ機能を使用したところで、見つかるようなものでもなかった。

「そんなことするような人には思えないよ」

 安室の呟きに、コナンは視線を崖下から逸らさないままそう言い返す。彼女は見た目こそ弱々しい少女だったが、中身は生命力に溢れた逞しいものだった。何かを思い詰めた末に世を儚むような精神の持ち主とは思えない。大人びた面があったので内心を隠し通していたのだと推測できなくもないが、彼女が失踪する直前までの態度を思い返すとやはりそうとは考え難い。

「そうだね。――下に降りてみよう」

 コナンは安室と共に、脇にある坂道を伝って崖下へ降りた。崖下に降りてもやはり少女の姿はなく、叩き付けられたような血痕だけが空しく残っているだけだった。

「――麻衣お姉さん!」

 試しにコナンは叫んでみたが、返事はない。少し考えてから、コナンはスマホで崖下の血痕を撮影した。時間が経てば経つほど、血痕が波によって洗い流されて手掛かりが消えてしまうからだ。コナンがスマホをポケットに納めると、今度は安室がハンカチを取り出し、岩壁に付着した血痕を採取する。彼女が本当にこの崖から落ちたかどうかはともかくとして、この血液が誰のものか確認する必要はあるだろう。

「ねえ、安室さん。やっぱりボク、麻衣お姉さんがここに落ちたとは思えないな」

 コナンはへばりついた血痕を見ながら呟く。安室も険しい顔をしながら頷いた。彼の手には、いつの間にか何かが摘まみ上げられている。指紋を付けないようにと、ジャケットの裾を使って摘ままれたそれは、破けたビニール袋だった。どうやら岩に引っかかっていたらしい。

「血痕の形状は、岩場に落ちて弾けたように見える。けれど“体が岩に叩き付けられて出血する”とそんな状態にはならない――ということだよね、コナン君?」

「うん。姿がないなら、叩き付けられた後に海に落ちたんだろうけど、体を擦ったような跡がない。まるで――そういうビニール袋に入れた血液が、この場所で弾けて飛び散っただけのように見える。ここで死んだと見せかけたいみたいに」

 コナンは安室に頷き、眼鏡の奥の青い目を光らせた。

「麻衣お姉さんは自殺を偽装されて、別のどこかにいる。恐らく誘拐されたんだ」





 犯人を油断させて尻尾を出したところを掴む。そのために、麻衣が自殺したことを否定しない方がいい。そう安室と話して決めたコナンが崖の上に戻ると、二人の青年がいた。麻衣の連れである***とリドルだ。どちらも大学生で、リドルの方はアメリカからの留学生で飛び級しているらしく、実際は高校生程度の年齢らしい。二人は揃えられたスニーカーを見つめていた。***の顔色は非常に悪く、まるで紙のように白い。友人の自殺を思わせる物があれば、そうなるのも頷ける。彼はスニーカーの前で膝をついた。メモはコナンが回収しているためそこにはないが、それは彼を安心させる要素にはならない。***はスニーカーに触れようとして手を伸ばしたが、触れないまま拳を握り込んだ。そして自身の胸を押さえて俯く。

「そんな……まさか、おいていかれ、た……?」

 言葉の意味がよく分からないが、今にも後追いしそうな、危険な雰囲気だ。コナンと安室が目を合わせたのは一瞬で、すぐにでも引き留めようと飛び出しかけたところで――リドルが蹲る***の脇腹を蹴り飛ばした。蹴り飛ばした?

 コナンは思わず我が目を疑った。リドルは時によって途轍もなく意地の悪いことをさり気なくする性格だと理解していたが、他人を蹴り飛ばすような人間だとは思えなかった。彼の内心はともかく、実際に足が出るとは。

 友人を蹴り飛ばしたリドルは、地面に仰向けに転がった青年を腕組みをして見下ろした。まるで悪役だな、とコナンは思った。滅多に見ない美形のため、なおさら威圧感が凄まじい。

「寝言は寝て言うんだね。あの生き汚い奴が、自殺なんて可愛らしい真似をするはずがないだろう。君のメンタルは本当にモヤシだな。あいつの形状記憶メンタルを見習いなよ、このヘタレ」

 フォローといえばそうなのだろうが、結構な暴言だ。そこまでボロクソに言うかとツッコミたい。

「どうせまた誘拐でもされたんだろう。全く、厄介事に事欠かないな」

 またって何だ。変態によく絡まれるのは知っていたが、誘拐された経験まであるのか。彼女は本格的にお祓いに行った方がいいのかもしれない。非科学的でも効果があるなら行った方がいい。

「心配いらないよ。あの人畜無害そうな顔面と口八丁で犯人を絆して仲良くなった挙げ句、仕上げに自首を勧めるまでがワンセットだ。そうでなくとも、何もできない女子高生面して油断を誘ってから、意地汚く時間稼ぎしまくるに決まってる」

 信頼の証というにはやはり暴言が過ぎる。リドルの性格が酷いのはもちろんのこと、ここまで言われる麻衣の実態も酷い。やたらと実感のこもった暴言のため、本当にやりかねないと思わせてしまうところがなおさら酷い。***も同じ気持ちになったのか、地面に転がっていた彼はむくりと起き上がった。

「……大丈夫な気がしてきた」

 相変わらず顔色は悪いが、今の***は後追い自殺はしそうになかった。コナンはほっとした。死ぬのは良くない。被害者も、加害者も、関係者もみんな。

「じゃあ、俺たちは犯人が自首するか、尻尾を出すのを待つのか?」

「甘いな***。尻尾を“出させる”んだよ」

 地面に座り込んだままリドルを見上げる***に、彼は口の端を吊り上げて凶悪な笑顔を浮かべた。この美青年、つくづく悪役に向いている。「それにね」とリドルは目を眇める。

「自首なんてさせたら刑が軽くなるかもしれないだろう。勿体無い」

 コナンは「うわっ」と言いそうになるのを堪えた。安室の顔も引き攣っている。リドルは友人に容赦ないが、犯人にはもっと容赦がないらしい。彼は残されたスニーカーを睨み付けて吐き捨てる。

「出来る限り長く檻の中にぶち込んで、うっかり獄中死でもすればいい」

 こいつ、すげー性格悪い! コナンは思わず自分の腕を抱きしめ、さすがの安室も苦々しい顔をした。そのタイミングで、リドルがふとこちらを向いた。崖下へ行く道は一本のため、彼がそちらへ行こうと望めばコナンたちと鉢合わせするのは当然だった。むしろ、リドルがこちらを背にする立ち位置でなければ、そして***がショックで放心していなければ、コナンたちの存在はもっと早く知られていただろう。二人の、特にリドルの本性を目の当たりに出来たのは、コナンにとって果たして幸運だったのだろうか。

 リドルはコナンと安室を順番に見ると、驚いた顔をゆっくりと微笑みで溶かした。

「――聞かれちゃいましたか」

 どこから見てもうつくしい笑顔だが、それだけにコナンの背筋に冷たい汗が滲む。自分の酷い言動を見られていたにも関わらず、全く気にした様子がない。まるで獲物に舌なめずりをする蛇のようだ。普段の至って品行方正な好青年とのギャップに、安室のトリプルフェイスとは似て非なるものを感じる。

「この通り、僕らは友人が自殺したとは思えない。攫われた可哀想な友人を助けるために、探偵さんの力を貸してくれませんか?」

 言葉こそ尋ねるそれだが、断ったら容赦なく蹴り飛ばされそうな気配がする。元より探偵として断るつもりなどないが、それでもコナンはぶるりと震えた。小学生が大人に蹴られたら、痛いでは済まないのだ。

 しかし、コナンの意識はすぐに別のことに奪われた。

「頼む、助けてくれ」

(え……?)

 ***が心からの真摯な声で頼み込んできたからだ。地面に腰を下ろしたままの彼は身を乗り出し、こちらを――コナンを見つめている。私立探偵の安室透ではなく、小学生に過ぎない江戸川コナンだけを。彼はコナンと同じ高さの視線を、真っすぐに向けている。

「コナンなら事件を解明できるだろう? 俺に出来ることなら何でもする。だから力を貸してくれ」

「えっと……どうしてボク? ボク、小学生だし。安室の兄ちゃんとか小五郎おじさんだっているのに」

 戸惑いながらそう尋ねると、***は視線をそらさないままきっぱりと言った。

「そっちの兄ちゃんは正直よく知らない」

「あ、そう……」

 身も蓋もなかった。安室は「はは……」と苦笑を漏らす。小五郎と一緒にいる時の安室だって、何度も鋭い推理を披露しているのだが、彼の目には全く入っていないらしい。安室とて目立つのは本意ではないだろうが、かと言ってここまでスルーされるのも引っかかるだろう。何とも言えない苦笑が安室の本音の一端かもしれない。

「でもお前がすごい奴なのは知ってる」

「ぼ、ボクが? ……キッドキラーで有名だから?」

「誰だそれ」

「……やっぱり何でもない」

 コナンの疑問をばっさりと切り捨てた***に、コナンは思わず半眼になった。キッド本人が聞いたら「はぁー!?」と素っ頓狂な声を上げるに違いない。あの怪盗は結構な目立ちたがり屋だ。

「俺が一番信じてる探偵は江戸川コナンだ。だからお前に頼みたい」

 理屈なんてどうでもいい、と言わんばかりの様子で、***は真正面からコナンにぶつかってきた。飾らない言葉でストレートに信頼を向けられ、コナンは半ば呆然と青年を見つめた。本来の自分よりも年上の男が、小学生を相手に馬鹿正直に信じていると言い切っている。

「コナン。俺の大事な友達を助けたい。力を貸してくれ」

 最早「小五郎おじさんが」などと誤魔化す言葉など言えなかった。***は目の前のコナンしか見ていない。まるでリドルとバランスをとるかのように、彼には裏表が無さ過ぎた。荒削りの純粋な信頼を素手でコナンに差し出している。彼にとっては、江戸川コナンが最高の探偵なのだ。だから彼は当たり前のように、最良の選択肢を掴んでいるだけだった。彼が必要としているのは眠りの小五郎でもその弟子でもなく、ただ一人の江戸川コナンだ。それを理解した瞬間、コナンの顔にじわじわと体中の血液が集まってきた。

 こうまで言われて応えないなんて、探偵じゃない。

「――任せて。麻衣さんは必ず助け出してみせるよ」

 江戸川コナンは、彼にとって最高の探偵でありたい。そんな気持ちを込めて、コナンは***に不敵な笑みを返した。



+ + +



でも犯人は変態なんだぜ(言ってはいけない真実)

力尽きたのでここまでです。本当は洋館の地下に監禁された麻衣兄さんが旦那様の指示を受けたナイスミドルの執事にお世話されつつ助けを待つところもあったんですが無理でした。ついでに言うと真犯人はその執事の方で、旦那様が黒幕と見せかけつつ麻衣兄さんの信頼を買おうとしたり、分かりづらく変態行為に及ぶ予定だったりするのですが書けませんでした(ネタを吐き出して誤魔化すスタイル)。

親友の探偵選別基準:主人公最強に決まってんだろ(断言)安室透? そのキャラは知らない。
安室透は一応後発キャラクターである。赤井さんもほぼ認識していない男が、安室さんを知っているはずがなかった。その人おまわりさんです。親友がやたらと彼らの個人情報に詳しいとしたら、それはほぼ幽霊情報である。
キッドのことは知らないわけではないですが、突然聞かれたら名前が出てこない程度です。哀ちゃんのことはちゃんと知ってる。偉いね。



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