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似非文学少女とスパダリ
萌え 2018/05/25 15:44


・沖矢視点
・魔術師麻衣兄さんは変態ホイホイ
・似非文学少女はしぶといの後日
・中途半端に終わる





 偉大な小説作家と大女優、そして彼らの息子の邸宅におひとり様で居候するという実に贅沢な隠居生活を送る沖矢昴だが、いかに屋敷が豪華であろうと、勝手に食料や生活必需品が湧いて出ることはない。世間の目を掻い潜る都合上、ハウスキーパーを雇えるはずもなく(沖矢自身、自分のことは自分でやりたい性格でもある)、定期的に外へ出て必要なものを調達する必要があった。

 有希子に教え込まれた変装術で完璧な沖矢昴を作り上げると、財布とスマホ、小型の銃をジャケットに入れてふらりと居候先を出る。ふらりと、とはいうものの周囲への警戒は怠らない。あくまで自然体で、警戒していると悟られないように外出する必要があった。高級住宅街は一般的なそれよりも人の出入りは激しくないが、人目がないわけではない。死角となる場所はいくらでもある。過不足なく自然体を装えるのは、赤井秀一が優秀なFBI捜査官である証左だ。

 昼下がりの日本の道路は平和だ。怒鳴り合う声もなければ発砲音もない。灰色の優秀な脳細胞を持つ少年と行動を共にする時は事件と遭遇することが多いと感じるが、一人で過ごすとそうでもないと気付く。彼の少年――江戸川コナンは何かを引き寄せる力でも持っているのだろうか。彼は積極的に事件に首を突っ込むだけでなく、事件に巻き込まれることも少なくなかった。事件の神に愛されているとでもいうのだろうか。

 曲がり角に差し掛かったところで、人の声が聞こえた。記憶を刺激しないものなので、知己のそれではないだろう。気にせず角を曲がろうとしたところで、誰かの声が妙な発言をしていることに気付き、沖矢はぴたりと足を止めた。

「可愛いお嬢さん、どこへ行くんだい?」

 まるで職務質問対象者の発言の雛型(テンプレート)だ。何かに遮られたようなくぐもった声には、ねっとりと滴るような喜色が滲んでおり、端的に評すれば不愉快だ。性的な期待と悪意を隠しきれない様子からは、これからもたらされる不穏な展開を想起させられる。平和だと思った矢先に厄介事かと内心で独り言ち、沖矢はブロック塀の陰から曲がり角の先を窺った。

 そこでは、ビーチボールでも仕込んでいるのではと疑いたくなる腹回りの中年男性が、小柄な少女に声をかけていた。くぐもった声は、首回りにもたっぷりとついた脂肪のせいだろう。対峙している少女の、黒いハイソックスに包まれた華奢な足は、先を急ぎたそうに右へ左へと動いている。だが、中年男性が行く先を遮っているため上手くいかないらしい。

「所用がありまして」

 少女らしい声は落ち着き払っており、年齢不相応の事務的な返答を吐き出している。冷たさよりも投げやりさを感じられる雰囲気だ。自棄になっているようでもなく、乱暴な気配もない。ただ、中年男性の問いかけに論点をずらして答える辺り、断固とした拒絶の意思はあった。

「お嬢さん、重そうな荷物だね。おじさんが持つのを手伝ってあげるよ」

 沖矢は少女の手元を見る。彼女は右手に大きな紙袋を持ち、左手にスクールバッグを持っていた。軽装とは言えないが、心配するほどの荷物ではない。彼女の両手の指先の変色具合や肩の傾き具合を観察しても、さほど重い様子は見受けられなかった。中年男性の気遣いは完全に空回っている。まあ、そもそも男性は少女を気遣うのが目的ではないだろう。

「いえ、お構いなく。一人で大丈夫です」

 顔見知りでもないだろうに、少女は動揺一つ見せず今度こそ分かりやすく中年男性の申し出を断った。色素の薄いショートカットの隙間からちらりと見える細い首や、カーディガンの袖から覗く小さな指、長めのスカートから伸びる若木のような華奢な足のどれもがか弱い少女めいているのに、見た目に反して肝が据わっているようだ。

 少女は恐らく高校生だろう。身に付けている制服はこの辺りのものではないので、どこの学校の生徒なのかは分からない。だぼっとした栗色のカーディガン以外は真面目に整えられた制服が、同年代の女子高生たちよりもあどけなさを主張している。それでいて不審者を見る鼈甲飴の眼差しは、幼さの欠片もなく大人の冷静さを孕んでいた。

 しかしいかに度胸があろうと、非力な少女であることに変わりはない。筋肉の付き方や姿勢、体重移動の様子から、彼女が何らかの護身術を嗜んでいる様子は見受けられなかった。もし中年男性が良からぬことを強引にやろうとすれば、彼女の身が危ういのは火を見るよりも明らかである。中年男性が懐に何かを隠し持っているらしいことも見逃せない。沖矢――赤井秀一は必要であれば冷徹な判断を下せる男だが、情のない人間ではない。目の前で今にも中年男性の毒牙にかかろうとしている少女を見捨てることはできず、沖矢は慣れた動作で気配を消して成り行きを見守ることにした。

「そんなこと言わないで。おじさんが手伝ってあげた方が楽だろう?」

「間に合ってます」

「お礼にタイツを履いてくれるだけでいいから。あとそれを破かせてくれればなお良いな」

「結構です」

 中年男性の発言の奇妙さに、沖矢は自然と眉間にしわを寄せた。話の展開に前後の繋がりが全く見えない。男が性的な目で少女を見ているのは分かり切っていたが、こうもストレートに自分の欲望を押し付けてくるとは思いもしなかった。それでいてその欲望が、何というか……変態的だ。アメリカにも変態はいるが、日本の変態もなかなか強烈だな、とどうしようもない感想を沖矢は抱いた。それから、変態の言動を小気味よく切り捨てていく少女の豪胆さもまた強烈だと。明らかに場慣れしているが、彼女は一体どんな経験を積んできたのだろうか。

 そうこうしていると、不意に中年男性が懐を探り、くたびれた薄手のコートの内ポケットから黒い塊を取り出した。どうやら隠し持っていたのはそれらしい。

「ほら、ちょうどタイツも持っているんだ。40デニールのセクシーなものだよ!」

「そうですか。要りません」

「色んな破き方ができるように、10足用意しているんだ!」

「ご自分で重ね着してください」

 重ね着とは。沖矢は胸中でツッコミつつ、何故かラリーが続いている変態と女子高生の会話を聞いていた。とりあえず、脂ぎった中年男性がタイツを重ね着した姿は視界の暴力なのでやめて欲しい。そして、懐に入れていたのが武器の類でなくタイツの塊だったことに、安心していいのかどうか微妙に分からない。銃よりは遥かにマシだろうという判断が冷静な頭の片隅にある辺り、沖矢は自分と中年男性の生きる世界の厳然たる違いを感じた。中年男性の方が平和的なのかもしれないが、沖矢は全く羨ましくなければ見習いたくもない。何しろ、平和的ではあるが変態的だ。沖矢はかつての交際相手に変態だと詰られた経験はなく、今後もそちらの世界に足を踏み入れるつもりはない。

「もしかして一人で履けないのかい? それじゃあおじさんが履かせてあげるよ!」

「嫌です」

 今にも涎を垂らすのではなかろうかといった様子の男を、鼈甲飴の双眸が心からの侮蔑の色を浮かべて見つめた。家畜の豚にもなれない穀潰しを詰るような眼差しだった。しかし沖矢は、少女の強靭な精神力を称えつつも、それがあまり意味のない行動ではないだろうかと感じた。良心の欠片が残る者の心には容赦なく突き刺さる視線は、だが一部の性癖を持つ者にはご褒美にしかならないのではないかと。案の定、興奮で息を荒げる男を目の当たりにした沖矢は、何故自分が閑静な住宅街で変態と女子高生の対決を見守っているのか理解できなくなってきた。沖矢をこの場に留めるのは、一人の大人として少女を放置できないという義務感だけだった。

 予想以上に女子高生の精神力と会話継続能力が高いからか、変態中年の食いつき具合が凄まじかったからか、なかなか沖矢が割って入る隙が生まれない。むしろこれに割って入れる者は相当な兵(つわもの)だ。それでもこのままずっと見物しているつもりはなく、中年男性がじりじりと少女との距離を詰め始めたこともあり、この辺りが潮時だと沖矢は判断した。

「――そこで何をしているのですか?」

 沖矢は、今ちょうど通りがかったという風情で彼女たちに声をかけ、するりとその場に入り込んだ。両手にタイツを握り締めた中年男性と、バッグを抱えた女子高生が硬直して沖矢を見る。傍から見ると地獄絵図であった。普段からさほど表情が豊かでない沖矢でも、表情筋が引き攣りそうになる危機を迎えた程である。その衝動に打ち勝った沖矢は、目を丸くして見つめてくる少女に微笑みかけ、彼女を背中に隠した。

「僕の知人に何か用でも?」

 ハイレベルの変装をしているとはいえ、身長を低く装うのは難しい。180pを軽く越える高身長で、肩幅もしっかりしている沖矢に見下ろされた相手は大抵委縮する。柔らかい表情を装えば多少は変わるが、不審と警戒を露にした今はなおさら恐怖を感じるだろう。怯えた様子一つ見せずに、大人しく背後に収まる少女は少し珍しいかもしれない。ともかく、こうでもすれば中年男性はさっさと尻尾を巻いて消えると考えていたのだが、予想に反して男は食い下がった。

「ちょっと、本当にちょっとだけ用があるだけだから! そこをどいてくれないかな!?」

 口角泡を飛ばしながら焦ったように訴える中年男性に、沖矢はぴしゃりと言い放った。

「彼女は嫌がっているようですが」

「とても嫌です」

 追撃とばかりに、間髪入れずに少女が合いの手を入れる。中年男性が左右に動いて沖矢の背に隠れた少女を見ようとするのを、少女は左右に動いてかわしていた。沖矢は何となく、今なら電柱の気持ちになれるかもしれないという、とてもくだらないことを一瞬だけ考えた。懇意にしている小学生探偵がそれを知れば、彼はきっとこう言ってくれるだろう――疲れてるんだよ、昴さん。寝酒はしないようにね。

(違うんだ、ボウヤ。晩酌はしても寝酒はしていない)

 全く意味のない言い訳を脳内でしつつ、沖矢はやや声を強くした。

「これ以上彼女に絡むようなら、警察に通報しますよ」

 中年男性の執着に付き合うのにうんざりして最後通牒を突きつけると、彼の体がぶるぶると震え始めた。こちらに襲い掛かって来るだろうかと警戒して見ていると、中年男性は両手のタイツを胸の前で握り締めて叫んだ。

「お、おじさんは! その子のタイツになりたいだけなんだ!!」

 ――沖矢は混乱した。この男、タイツを履かせて破きたいと言っておきながら、タイツになりたいとはどういうことだ?

「ちょっと下半身と仲良くするだけじゃないか! その子のタイツになって何が悪い!」

「精神衛生上悪いです」

 逞しくも冷静に言い返す女子高生の精神力が羨ましい。一方の沖矢は考えるのをやめた。頭脳明晰な男の行動として思考停止はあり得ないことだが、この瞬間、沖矢は思考を放棄したのだ。既に沖矢の長身に隠れて少女がスマホで警察に通報していたこともある。しばらくの後、駆け付けた警察官によって中年男性は引き摺って行かれた。少女と警察官が顔見知りらしく、若い警察官が酷く憐れんだ目で少女と話していたのが印象的だった。

「ありがとうございました」

 ひと段落すると、少女は沖矢に頭を下げた。沖矢は「いえ、大したことではありませんよ」と答えたが、どこか声が遠くなりそうだった。普段決して交流を持たない類の人間との会話は、潜入捜査官としての経験を持つ強靭な精神力すら疲れさせるものだったようだ。

 先ほどの警察官のやたらと慣れた様子や、妙に落ち着き払った貫禄すらある少女の態度から、彼女がこういった輩に絡まれるのは何度もあったのだろう。それを推測しながらそのまま別れるのは気が引けたため、沖矢はそのまま立ち去りそうな気配の彼女に声をかけた。

「せっかくですし送っていきますよ。一人で出歩くのは危ないようですから」

 すると、少女はぽかんと口を開け、些か間の抜けた顔で沖矢を見上げた。頭一つ分以上の身長差があるので、首が痛そうだ。

「こ、これがスパダリ……!」

「はい?」

「いえ、ありがとうございます」

 少女は誤魔化すように咳払いをしてから、ちょこんと頭を下げた。しかし困ったような顔で再び沖矢を見上げる。

「でも喫茶店に行く途中で、家に帰るわけではないんです。さすがに突き合わせるのは申し訳ないですよ」

「でしたら、その喫茶店まで送っていきましょう。今のあなたは心配です」

 そう言ってやると、少女は苦笑して受け入れた。

 道すがら、少女と自己紹介をし合い、軽く会話をした。彼女の名前は谷山麻衣。高校二年生で、江戸川コナンとも知り合いらしい。意外なところで繋がりがあるものだ。今度時間があれば、彼女の話をしてみるのもいいかもしれない。恐らくこの少女は、残念な意味で話題に事欠かないだろう。

 そして少女めいた見た目に反して性別不祥な風情のある子だ、と沖矢は思う。脳裏に過ぎる、彼女と同年代のボーイッシュな妹とはまた違う。喉の奥に引っかかるような違和感は何だろうか。すぐ隣を歩く少女はどう見ても女子高生でしかないというのに、そうではないような予感がする。まるでギフテッドの少年探偵のようなアンバランスさ……とまではいかないが。性別不祥な雰囲気と大人びた態度が、幼げな見た目と合わないのだろう。

 そうして辿り着いた喫茶店はポアロだった。ここまで来ると因縁だろうかと思わないでもないが、途中から目的地がここだと分かっていた沖矢は、大して動揺もせずに喫茶店のドアを麻衣のために開いてやった。彼女は紳士な態度の沖矢に恐縮するように軽く頭を下げて扉を潜る。出迎えたのはベビーフェイスの男性店員だった。

「いらっしゃいませ、麻衣さん。……沖矢さんも」

 ミシ、と彼が持つトレイが悲鳴を上げた。人目がなければ見事な二つ折りになっていただろう。沖矢の手前に立つ麻衣が僅かに動揺したような気配を感じた。安室の変化を察したらしい。沖矢の名を完全に付け足しで呼ぶ声色が、少女を呼ぶものよりワントーン低い辺り、分かりやすかったかもしれない。彼も相変わらずだな、と沖矢は内心で飄々と肩をすくめた。公安としても、組織の探り屋としても、私立探偵としても優れた男の疑心から完全に逃れるのは不可能だと分かっている。決定的な証拠を掴ませないように立ち回るのが精々だ。顔を合わせるたびに安室が反応するのはもう仕方がないだろう。折れないトレイはよく頑張っている。

 麻衣はくるりと沖矢に振り向き、にっこりとした。背後の圧力は一旦無視するようだ。

「せっかくですから、沖矢さんもどうぞ。何か奢りますよ」

「お構いなく。年下のお嬢さんに奢られるのは気が引けますし」

「それこそ気にしないでください。お礼にコーヒー一杯どうです?」

 そこまで言われれば断るのも悪いだろう。沖矢は「ではご馳走になります」と返し、麻衣と一緒にボックス席に座った。カウンターを避けたのは、安室の手が意図的に滑る確率を減らしてやろうという、本人が聞けば怒り狂うこと間違いなしの余計な気遣いだった。

 接客をしようとした女性店員の榎本梓を言い包めたのか、メニュー表と二人分の水を持ってきた安室が輝かんばかりの笑顔で麻衣に話しかけた。

「……麻衣さん、その男に何か妙なことをされていないかい?」

「そんなまさか。変態に絡まれたところを助けてもらったんですよ」

「またなんだね……」

 沖矢は、人の目が一瞬で死ぬ光景を目の当たりにした。空の色をした双眸が淀んだ泥水に変わる瞬間を知ってか知らずか、その原因である少女はあっけらかんと続ける。

「変態から助けてくれた人が変態だったっていう二段オチの経験もありますけど、沖矢さんはまともな人です」

「二段オチ」

 安室は沈痛な面持ちになり、片手で頭を押さえた。その気持ちは沖矢にもよく分かった。この少女、道すがらに変態被害遍歴を聞いたが、いくらなんでも被害を受けすぎている。もしかすると、全国各地の変態が彼女に吸い寄せられているのかと疑いたくなる。彼女がいれば変態番付もできるだろうし、変態のジャンル分けもできるかもしれない。引っかかった変態を調べ上げていけば、変態ハザードマップすら作成できるのではないだろうか。FBIの敏腕捜査官と思えない思考である。ポアロの常連である小学生探偵がそれを知れば、彼はきっとこう言ってくれるだろう――疲れてるんだよ、赤井さん。煙草の本数を増やす前に早く寝て。

(大丈夫だ、ボウヤ。依存するほど吸ってはいない)

 この一時間足らずの時間で、一年分以上の変態という単語を耳にしたせいか、沖矢は思考回路が落ち着かないのを察した。これがジャパニーズ・カルチャーかと軽口を叩こうものなら、間違いなく目の前の公安警察が殴りかかってくるに違いない。降谷君、この国を変態から守ってやってくれ。

 最早慣れ過ぎて何も感じていないのか、けろっとしている麻衣が紙袋を安室に差し出した。

「これ、コナン君に渡してもらえたらと思いまして。この前のお礼です。安室さんの分もあるので、仲良く分けてください」

 恐らく彼女は、コナンと安室にも助けてもらったのだろう……変態から。どんなポンコツ探偵でもできる推理の結果に、沖矢はそろそろ始まりそうな頭痛の気配を感じた。恐らく安室はとっくに感じている。

「気にしなくてもいいのに」と言いながら受け取った安室は、愛想のいい笑みを彼女によこした。彼の任務の性質上、その贈り物が安室の懐に入ることはないだろうが、少なくともコナンには渡るだろう。

 コーヒー二杯の注文を受けて、安室がカウンターの向こうへ下がる。しばらくすると、ドアベルをにぎやかに鳴り響かせて一人の少年が店に入ってきた。

「こんにちは、梓さん! 安室の兄ちゃんもこんにちは!」

「おかえり、コナン君」

「あらコナン君、おかえりなさい。今日はいつもより早いのね」

「宿題がいっぱい出たから、早めにやりたかったんだ」

「えらいわねぇ」

 カウンター越しに梓と微笑ましい会話をしたコナンは、くるりと沖矢たちの方を振り向いた。可愛らしい小学生の皮を被っているが、沖矢にはすぐに分かった。彼が最初から沖矢と麻衣が目当てでポアロに入ってきたことが。その証拠に、沖矢を見るコナンの目は「こんなところで何やってるんだよ」と言いたげな色を帯びていた。

「麻衣お姉さんと昴さん? こんなところで何してるの?」

「ちょっとお茶してるだけだよ」

 麻衣はへらっと笑って返すが、コナンの目は疑わしげなものを見るそれになる。

「まさかお姉さん、また変態に絡まれたの?」

「ああ。今度はタイツになりたい奴だった」

「パンツの次はタイツなんだ……」

 沖矢は思わずコナンを見た。二度見した。パンツという発言を彼がするのも信じがたいが、彼女の下着に立候補する変態が存在していたことも信じがたかった。この分ではブラジャーになりたい変態やスカートになりたい変態が現れそうだと想像したところで、沖矢は自分の思考回路をそっと捨てたい衝動に駆られた。実はそんな変態と彼女が既に遭遇していそうだとまで考えてしまったのがとても嫌だった。

「昴さん、大変だったね……」

 沖矢を見るコナンの目は完全に憐れんでいた。そのセリフと目は沖矢ではなく麻衣にこそ向けられるべきではと思ったが、慣れ切った女子高生よりも慣れない人間に与えられるものだったのかもしれない。沖矢は曖昧な笑みを零して言葉を濁した。



+ + +



なんだかんだで日本の変態は日本の案件とばかりに公安ゴリラに丸投げするFBI。実際、変態も被害者も日本人である。降谷さんはキレていい。

ちなみに麻衣兄さんは初対面で「嘘だろFBIのスナイパーが何でいるんだよ」と普通にビビってる。正直、ポアロに行くときも「公安のやべーやつに会わせたらやべーことになるんじゃね?」と普通に躊躇っている。案の定、安室の血管が破裂の危機を迎えている。

コナンはコナンで、ポアロの外から店内に沖矢さんがいることに気付いて「なんでだよやべーじゃん!」と慌てて入店。しかし麻衣兄さんが遭遇した変態の話で微妙に空気がうやむやになっているのを察し、今度はいくらでも湧いて出る変態の脅威に震える。奴ら、謎とかトリックとか関係なく、ただただストレートに変態なのである。探偵の扱う分野ではない。


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