更新履歴・日記



まあこうなるわなの続きの続き
萌え 2018/04/15 21:29


・ゾル兄さんがコナン世界に突っ込まれた続き
・探偵ものにあるまじきアクション展開になったら
・→コナンだからアクションでもええんやでという自己暗示
・事件解決直後の話
・コナン視点





 工藤新一改め江戸川コナンは、凄まじい風圧で吹き飛びそうになる追跡眼鏡を両手で押さえながら、青年の整った横顔を見上げた。妙な雰囲気の青年だとは思っていたが、予想の斜め上の展開を披露されて正直困惑を禁じ得ない。

 結局、同僚から散々怪しまれた彼――類(るい)は犯人ではなく、その同僚こそが犯人であった。それはいい。犯人の男が旅館の裏手にある山奥へ逃げ出したことは、良くないがまあ分かる。いつもの眠りの小五郎で暴いたはいいものの、土砂崩れのせいで警察が未だに旅館に辿り着かず、逮捕されないまま一晩明かすことになったのだ。結局のところ、外は雨風で酷い状態だったことと、犯人の男が意気消沈して逃げ出す気力もなさそうだということから、外から鍵が掛かる部屋に彼を入れたのが誤りだった。夜の間に男は窓から外へ飛び出し、暴風雨にも拘わらず山に入ったらしい。消えかけた足跡からそれが推測された。

 捜索に行こうにも、行った先から二次災害が起こりかねない状態でどうにもできない。小五郎はもちろんのこと、地理に詳しい従業員も、そして安室でさえも難色を示し、せめて雨風が収まるまでは旅館内で待機するしかないという結論に至った。

 ――そんな中、単独で山中へ捜索しに行こうとする青年を偶然にも見つけたので、コナンは呼び止めたのだ。「お兄さん、外は危ないよ」と。しかし彼は振り向くと、にっこりとしてコナンを見下ろした。探しに行こうとしているのだから逃げた男の身の危険を案じているのだろうが、少なくとも自身に降りかかる危険は全く気にしていないような様子だった。そもそも犯人にされかけていたというのに、こんな天気の中探しに行こうだなんて酷いお人好しだ。そんなコナンの心境を知ってか知らずか、類は告げた。

「大丈夫。お兄さんは頑丈だからね」

 コナンは思わず「そういう問題じゃねーよ」と半眼で言いそうになるのを堪え、引き攣った表情筋を叱咤して心配そうな顔を作る。実際に心配ではある。青年は随分な軽装備だった。白いYネックシャツにジーンズ姿で薄手のパーカーを羽織り、足元は頑丈そうなミドルブーツである。仮に快晴日和であっても山登りに適した格好ではない。「危機感が死んでるんじゃねーかバーロォ」と呟きそうになってしまう。それでも何を言っても止められそうにない雰囲気だと察せられたので、せめてもの抵抗で「ボクもついていく!」とコナンは食い下がった。すると彼は笑顔を深くし、コナンの身長に合わせてしゃがみ込んだ。

「――ついてきて、君は一体何ができるのかな?」

 アンタに言えたセリフか、という言葉が出なかった。たとえ新一の姿でも言えなかっただろう。度を越したお人好しが浮かべる笑顔にしては、奇妙なほどに人を黙らせる圧力があったのだ。珍しい氷の色をした切れ長の双眸は、冷たい光を帯びてコナンを見つめている。それでも探偵を自称する者として言葉で負けるわけにもいかず、コナンは口を開いた。

「人を探すのなら、目は多い方がいいよね」

「目の力を期待する前に、風に吹き飛ばされそうだよな」

 一瞬で言い返されて唇を噛みそうになるが、そこで黙っていては探偵をやっていられない。コナンは不敵な笑みを浮かべて見せた。

「じゃあボク、無理やりにでも類さんについて行っちゃうから。ボクが吹き飛ばされても、類さんは気にしなくてもいいよ」

 脅しである。小学生一人連れていける状態でないのなら、そもそも外へ出るのを諦めろということだ。人を捜索しに行こうという人間なら、無視できることではないだろう。その言葉を聞いた青年は――噴き出した。コナンが目を丸くするのも気にせず、片手で口を覆って肩を震わせている。そしてこう言ったのだ。

「いい度胸だ。それじゃあ、吹き飛ばされないようにお兄さんの背中に括りつけてやろう」

 と。まさかその後、本当に彼の背中に背負い紐のごとく括り付けられ、その上から防水性のパーカーを羽織った状態で外に出られるとは思いもしなかった。予想以上に類という青年は頭のネジが飛んでいたのである。

(本当に頭のネジが飛んでるなら、今頃二次遭難して終わってたんだけどよ……)

 コナンにとって予想外の出来事は続いた。類の身体能力がとんでもなく高く、体力お化けだったのである。強い逆風に晒されても体幹が強いのかびくともせず、平然とした顔で男が分け入ったと思しき山へ進んでいる。しかもペースがやたらと早い。涼しい顔で歩いているが、足が長いので一歩の距離が長い。コナンが小走りで追いつけるかどうかというくらいだ。さらに彼は凹凸が激しい上に雨でぬかるむ地面も、無秩序に生い茂る木々も軽々と乗り越える。風で折れた枝が飛んできた時は悲鳴を上げかけたが、類はそちらを見もせずに枝をキャッチして捨てていた。どこの化け物だ。あまりにも自然体で山を踏破しつつあるので、一瞬だけパルクールでもやっているのだろうかと考えたが、この身体能力はそんなものではないと切って捨てる。これをパルクールと認定したら、関係団体に怒鳴りつけられるだろう。

 紐で括りつけられているために感じる類の背中は、見た目に反して筋肉質だ。背筋ヤバい、とコナンは男子高校生のノリで考えた。脱いだら実はすごそうだ。洗練された身のこなしの安室も大概、顔が綺麗なゴリラではないかと思しき力業のできる男だが(コナンひいては新一はあくまで探偵であり、サッカー好きな一般男子高校生である)、類はそんなレベルではない。ゴリラというよりハルクである。共通点は文字数しかない。やはり化け物である。ハルクとゴリラの間には化け物と動物という越えがたい溝が横たわっている。原作のハルクは大量のガンマ線を浴びた悲しき超人だが、この青年にそういう過去を期待したくない。むしろ考え過ぎると疲れるので考えたくない。

「あの、類さん。もう少しゆっくり歩かないと、見逃しちゃうんじゃないかなぁ?」

 ついコナンがそう尋ねると、類は場違いにものんびりした声色で答えた。

「大丈夫。今のところウサギとかタヌキしかいなかったから」

(どこにいたんだよ!?)

 コナンは震え上がった。そんなファンシーな山のお友達など、コナンの目では全く認識できなかった。この男は視力まで化け物らしい。昼間とは言え天気と環境のせいで薄暗い山中で、どうしてそこまで判別できるのか。

「クマがいない山で良かったなぁ」

(出ても平気そうな口調だな!?)

 山に逃げた犯人の男はともかく、類はクマに遭遇してもどうにかなるのではないかと思ってしまう落ち着きであった。実際に出ても片手で投げ捨てそうな気配がするので、コナンはぞっとした。ハルクとクマのバトルは求めていない。そういうのは漫画だけでいい。

「それで名探偵君。こういう時に逃げそうな場所を思いつかないか?」

 逆に問われ、我に返ったコナンは必死に頭を回転させた。体力お化けに対抗できるのは頭脳しかない。ここで何もできなければ本当にただの荷物だ。ひとまず自分と類が間違いなく生還できると確信したコナンは、高校生探偵の素晴らしい頭脳を発揮するべく口を開いたのだった。



+ + +



ハルク扱いされたゾル兄:これでも控えめに動いてる。いつもの武器祭り上着も着ていない。円の範囲内に入れば逃げた犯人のオーラを追跡できるので割と余裕の姿勢。コナンがいれば早く見つかるかも、くらいは考えている。

小学生探偵:ゾル兄の身体スペックに引いた。

ゴリラ扱いされたイケメン:常識的に考えて捜索を諦めたのにゴリラ扱いされて遺憾。

普通に考えれば犯人に誰か付き添うと思うので、こういう事態にはならないと思います。あくまでIF展開です。コナン君抱えて町中のビルからビルへ飛び移りつつ車を追跡するようなカーチェイスする気のないゾル兄さんも考えたことはあります。人間に法定速度は設定されていないからセーフである。なおビルに関しては不法侵入罪。


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