標的は人か霊か
萌え 2017/12/03 22:16
・審神者麻衣兄さん×コナンのクロス
・告白ものなるものを書いてみた
・告白ものと言い張る
・死ネタ
誤解を受けやすいが、彼の性質は至って真面目だと思われる。そして、我がアルバイト先の所長のような目の覚める美形とは比べるべくもないが、顔立ちは整っている方に分類される。だが、いかんせん生まれ持った目つきが悪い。整った部類の顔が、ただでさえ悪い目つきをより一層悪く見せているという魔の相乗効果で、彼は年頃の少女たちから遠巻きにされがちだ。染めているわけでもないのに、俺が体を間借りしている少女よりも色素が薄い髪も悪かった。要は、彼は不良少年と思われている。加えて、口数が少なく口下手であるため、イメージを払拭する機会もない。輪を掛けて遠巻きにされるのも無理はなかった。
一方の俺は、彼レベルの目つきの悪さなど歯牙にもかけない。整った顔ながら凶悪な犯罪者の知り合いがいるせいでもあるし、何よりハンター世界では俺自身が犯罪者である(暗殺家業が合法とはあまり思いたくない)。目つきが少々悪いだけの少年など、恐れるのが馬鹿馬鹿しいのだ。だから彼とは普通に話す仲である。だからこそ、彼が外見に反した硬派な少年であることを知っているとも言う。
理由はまあ、そんなところだろう。普通に、愛想良く接してくれる女の子。外見も悪くない(と俺は思う。谷山少女には華やかさこそないが、素朴な可愛らしさがある)のだから、恋心を抱いてもおかしくはない。
「……俺と、付き合ってくれないか」
俺をこっそり学校の体育館裏という王道スポットにまで呼んで思いを告げたのは、口下手な彼にしては快挙であった。彼の不幸は、告白相手の少女が中身成人男性であったことと、告白の一部始終を美形の付喪神に見られていたことだろう。只人には見えない霊体ではあるが、気を遣ってこちらから距離を取っている一期一振の視線を感じ、俺は内心で肩をすくめた。不幸中の幸いは、本日の護衛が(相手に伝わらなくても)こういう気遣いをする付喪神だったことだろうか。刀剣男士の中には、少年の告白を真横で聞いた挙句、困って棒立ちになる奴もいると思われるので。
「ごめん。気持ちには応えられない」
諸々の理由から断る一択の俺にできることは、心の底から誠実に対応することだけだ。期待を持たせず、蔑ろにせず、真摯に御断りを入れる。今後、彼と今まで通りに話すことができなくなるかもしれないが、それはそれで仕方がない。
彼は口を開きかけ、しかし閉じた。「誰か好きな人がいるのか」とか「友達からでもいいから」とか、何かしらの食い下がる言葉を告げようとしたのかもしれない。それをやめたのは、俺の意志が固いことに気付いたからだろう。ぎゅっと唇を噛み締めた彼は、落胆した声で「そうか。変なこと言って悪かったな」と言ってその場から立ち去った。
彼の気配が完全になくなったタイミングで、俺の隣に来た一期一振が口を開いた。
「青春ですな」
「青いまま枯れるけどな」
実る余地のない春だ。彼は本当に運がない。しかし、一期一振は何故か楽しそうに笑った。
「彼は目の付け所が良いと思いますよ。私の自慢の主に恋慕するというのは」
「俺は男なんだが」
「相手にとっては与り知らぬことです」
水面のような不思議な色をした睫毛に囲まれた、美しい金の双眸が愉快そうに細められる。たまに刀剣男士に真正面から見つめられると、彼らが決して人ではないことを理解する瞬間がある。ハンター世界にも色々な色彩の目を持つ人間はいるし、現代日本にもカラーコンタクトが存在するが、彼らにそう言う感情を抱かないのは、あくまで人間の域を出ないからだろうか。
「知らぬ者から見れば、今の主は可愛らしい女子(おなご)ですよ」
……この男、これで口説いているつもりはないのである。彼は至ってクソ真面目に、かつ素直に自分が思っていることを言っているだけなのだ。
「色々引っかからんでもないが、誉め言葉と受け取っておく」
「ええ。そうしてください。弟たちも喜びます、特に乱が」
「ああ……」
俺が少女化してから、一部の刀剣男士がより一層俺の身なりに厳しくなったが、乱藤四郎はそのうちの一振りである。アイドル系刀剣男士の彼を思い浮かべ、俺は乾いた笑いを漏らした。
それで、この件は終わりとなるはずだったのだ。
一週間後、彼は廃ビルの屋上から転落死した。
「幽霊だ! あの高校生は、このビルに出る幽霊に取り殺されたんだ!」
彼が廃ビルの屋上から転落したその時、俺はSPRのバイトでそのビルにいた。もちろん、他のSPRメンバー(ナル君、リン、ぼーさん、松崎さん)も一緒だ。何年も前から、誰も出入りしていないはずのビルから物音がする、といった現象を調べるために来ていたのだ。このビルには嘘か本当か、肝試しでビルに入った人間を幽霊が殺すという噂があった。
我が所長殿は、幽霊屋敷(ホーンテッドハウス)にいきなり侵入するほど浅慮ではない。ビルの周囲に撮影機材などを設置し、数日かけて徐々に観察範囲を狭めていき、ようやくビル内部に足をまともに踏み入れたのだ。その矢先に起きた予想外な出来事だった。――つまり、撮影範囲内で彼がビル内部に侵入し、屋上まで至る姿は捉えられていない。明らかに異常である。ビルのオーナーも幽霊の仕業だと騒ぐわけだ。
さらに異常な点はある。“俺にとっては”異常というのだが。
「幽霊はともかく、事故や自殺というには不自然ですね。屋上以外にもビルの内部を見せてもらいましょう、先生」
「たまたまカメラに写ってないってだけじゃねえかぁ? コナン、お前は付いてくるなよ」
「おじさんの邪魔はしないから、一緒に行くよ。いいよね、安室さん」
彼が落下した地点から目と鼻の先の場所には、眠りの小五郎と名高い毛利探偵とその助手、さらには名探偵の黒幕である小学生が揃って歩いていたのだ。……俺はいつの間に名探偵コナンの世界に両足を突っ込んでいたのだろうか。コナンの世界にSPRなどというハイテク心霊調査事務所は存在していなかった気がするが。存在していたが、原作内で取り上げられていないだけなのか?
ちなみに、通報で駆け付けた警察の見解は自殺。ビルのオーナーの見解は心霊現象。探偵組の見解は何らかの事件(殺人含む)である。……この流れだと、探偵組の見解が的を射ているのだろう。世界の流れはそういうものだ。
「なあ、麻衣。あの高校生の制服……お前さんのとこのだよな?」
そしてぼーさんの素朴な発言により、俺にフラグが立つのも世界の流れだろうか。
「――仮にあの少年の死因が自殺だったとしたら、主に振られたことが原因だと邪推されかねませんな」
霊体のまま護衛として傍にいる一期が呟く。そうだよな、一期。俺もそう思う。自殺に走るほど俺に心底惚れていたように思えないし、自殺したくなるような酷い振り方をした覚えもない。だが、告白現場にいたのは彼自身と俺、そしてノーカウントの一期一振のみ。俺がどう言おうと信じてもらえないこともあり得る。そもそも告白されたことを黙っている手もあるが、彼が俺に告白する前にそのことを誰かに告げていたとも限らない。変に隠すと妙な疑われ方をする可能性があるだろう。それに何より、告白をなかったことにするのは、彼に対して不誠実に過ぎる。
「しかし、何者かに殺されたのだとしたら到底許せんことです。あの真っすぐな若者の命を散らすとは」
それにも目で同意する。放っておいても名探偵が事件の真相を暴いてくれるだろうが、もし犯人がいるとしたらそいつは許せない。彼は認めないかもしれないが、俺にとって彼は友人と呼んでも良かったかもしれない人間だった。
「主、何なりと。この一期一振、主の刀として如何様にも振るわれてみせましょう」
自殺の動機として疑われるかもしれないが、そんなことはどうだっていい。幽霊だろうが人間だろうが、誰かが彼を殺したのなら相応の裁きを受けてもらう。犯人がいるかいないかは分からないが、そいつは審神者と刀剣男士を敵に回したのだ。幽霊ならば彼岸の、人間ならば司法の下へ引きずり出してやろう。
人ならぬ金の双眸が俺の命を待つ。誰の目もこちらに向いていないことを確かめた俺は、細く唇を開いた。
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一期さんは「うちの主は自慢の主。男の主も女の主もいいよね。目の付け所がシャープですな」と思ってるので、名もない告白少年に好意的です。自殺しそうとも思ってないので、犯人に激おこです。
兄さんは、現代日本の自分だったら友人になれてそうだなと思ってた相手なので、やっぱり怒ってます。
でも実際に犯人見つけるのは探偵組なんだよなぁ。こっそりアシストくらいはできるだろうか。
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