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まあこうなるわな
萌え 2017/11/24 01:01


・ゾル兄さんがコナンの世界に放り込まれたパターン





 世の中にはTPOというものが存在する。Time(時)とPlace(場所)とOccasion(場合)を考えて行動しろということだ。それが出来なければ白い目で見られることも少なくない。社会人なら必須スキルである。

 俺も考えた。社会人として考えて……長い銀の後ろ髪を思い切ってぶった切ることを決めた。すまない、キキョウママ。あなたのご要望に反して息子は髪を切ります。長い銀髪がお好きなようですが、いつかまた伸びると思って我慢していただきたい。

 前髪の一部と後ろ髪の銀髪を若白髪と言い張る俺ことルイ=ゾルディック。これから現代日本と思しき異世界でアルバイトの面接に行ってまいります。





 一言でいえばまたである。性懲りもなく本意でもない異世界トリップにより、俺はゾルディック家長男の姿のまま異世界日本に放り込まれた。今までの世界と比べて格段に安全な場所であることに安堵した俺は、法整備された現代社会に無一文・無戸籍で放り出された現実に絶望した。ゾルディックのスペックがあろうが(念能力や身体能力が普段通りだと確認済である)、資産家()の息子だろうが、現代日本では何の役にも立たない。ただの住所不定無職で白黒ヘアの不審人物である。付け加えるならば、上着のポケットに入っている無線機もケータイも使えない。ちょっと泣いた、心で。

 早急に身一つでできるアルバイトを探そうにも、まず風体からして突っ撥ねられる確率は低くない。想像して欲しい、自分の職場でバイトしたいとやってきた男が、白黒の派手な長髪で腰と太腿にナイフを大量に吊るし、履歴書すら持ってこない状況を。即座に通報されても文句は言えない。というかナイフの要素だけで犯罪者まっしぐらである。いや元々犯罪者枠の身分だが。

 とりあえず、腰から下のあからさまな武装は、脱いだ上着に包んで隠した。上着の内側も武器祭りなので絶対に晒せない。髪紐の装飾に仕込まれた毒薬も上着のポケット行きだ。髪を切った時点で必要なくなったのは良かった。そもそも俺は短髪の方がいい。そしてブーツの紐に仕込んであるピアノ線はセーフだろう。だがブーツナイフは取り外した。靴底の超小型ナイフは、靴底から刃先をほんの少しだけ覗かせる程度に埋め込まれているので放置だ。じっくり見つめてもなかなか気づかないし、靴底を注視する機会なんてあるはずがない。

 俺の服は大概が防刃繊維で出来ているが、見た目では分からない。現代日本で通じるカジュアルな服装だ。職種にもよるだろうが、このまま面接に雪崩れ込んでも大丈夫と思いたい。

 ……振り返ってみると、武器が多すぎて犯罪者待ったなしである。石橋を叩いて渡る、備えあれば患いなし根性が思い切り裏目に出たパターンだが、異世界で使い慣れたナイフがなくなる方が怖い。操作系能力者の俺は武器が命だ。ハンター世界にいる特定の職人にオーダーメイドしているナイフなんて、異世界で手に入るはずがない。今後も俺が丸腰になることはなさそうだ。風呂に入っている最中に全裸トリップしなくて良かった。本当に良かった。それこそ被害者面して交番に駆け込むしかないかもしれない。大の男が服を毟り取られる被害って何なんだ。

 ともかく俺は、できる限りのことをして無料のバイト情報誌を最速で読み漁り、バイト面接に臨んだのであった。私の名前はルイ=ゾルディック。長所は高い生存本能と切り替えの早さです。





 とまあ、悲しいことに手慣れた現状把握と危機管理により、俺は奇跡的にも住み込みのアルバイトにありつくことができた。奇跡も奇跡、とんでもない幸運である。恐らく、俺が磨かれてしまった演技力で、付き合っている(と思っていた)女性に騙されて身ぐるみ剥がされ無一文で家を放り出された可哀想な青年アピールをして、旅館の旦那さんに頭を下げまくったからだろう。何でも雑用をこなすのでこき使ってくださいと土下座する勢いで頼み込んだら、根負けしてくれた。ものすごくいい人らしい。若くして白髪が点在するほど苦労していると思われたとか、女を見る目がない可哀想な男と見られているとか、その辺りは気にしない。プライドより衣食住である。

 ちなみに、その旅館は郊外にあるのだが、ゾルディックスペックを駆使した俺が向かえない距離ではなかった。公共交通機関(バス)よりも早くて無料の両足である。

 まずは自分の生活基盤を整え、ある程度異世界に馴染む。それから今後の身の振り方を決め、いずれ帰還する日を待つ。その流れが異世界トリップの基本だ。帰るための条件があるようなないような、そんな感じだが、大体どうにかなる。

 なるはず、だったのだが……。

「いやぁ〜楽しみだなぁ、露天風呂に美味い酒! たまにはクジを引いてみるもんだな!」

「もう、お父さんってば。お医者さんから飲み過ぎちゃ駄目って言われているでしょう?」

(――ってウオォォォイ!? 何で眠りの小五郎と蘭姉ちゃんがいるんだよ!?)

 旅館の制服である作務衣を着て、竹箒で周辺の掃除をしていた俺は、某漫画雑誌で長年連載している推理漫画の登場人物二人に驚愕した。思わず竹箒の柄をへし折るところだった。やだこわい。ある意味幻影旅団よりも怖い。正確に言うとその二人がというより、その二人とよく一緒にいる人物が。

 案の定、旅館の駐車場から車を降りて入口に向かう二人に続き、さらに二人の人物が歩いているのが見えた。見えてしまった。

「毛利先生の酒の飲みすぎは僕が止めるのかな?」

「無理だと思うよ」

 束の間の平穏が崩れ去る気配しかしない件について。俺は竹箒を放り出して地面に這い蹲りそうになった。

 砂色の金髪に褐色肌のイケメンは、機動戦士的なお巡りさんだったような気がするし、その隣にいる小柄な小学生は、キック力増強シューズで人でも殺せそうなシュートを放つ名探偵だった気がする。気がするというか、そのまま本人だ。

(もう駄目だこの旅館で殺人事件が起こる!!)

 米花町が育てた死神、もとい名探偵の事件吸引力はダイソンを遥かに超える。今回の事件現場はこの旅館に違いない。

(やべー……武器が絶対に見つからないようにしないとまっとうな人生が終わる)

 真犯人は名探偵がどうにかしてくれるが、副産物としてアルバイターの銃刀法違反まで暴かれる確率があまりにも高すぎる。恐怖に震えた俺は、竹箒を握り直して高速で自室へ撤退した。久し振りに気配を断つ“絶”をフル活用したのは言うまでもない。



+ + +



小学生(偽)に絡まれるのは確定的に明らか。



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