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ワードから引っ張りだしてみた
萌え 2013/06/03 22:14


・ルク兄さん
・アニス視点
・序盤エンゲーブでルク兄さんとアニスが初めて出会ったシーン





 最初の印象は、“綺麗な人”だった。

 エンゲーブで導師を見失ったアニスは、道という道を走り回り、建物という建物を覗いて回った。彼と出会ったのは、村に1軒しかない宿屋に飛び込んだ時だった。宿屋の主人も導師を見かけていないと知り、アニスが落胆しているところに2人の旅人が現れたのだ。1人はアニスが見慣れた音律師の制服を着た若い女性で、もう1人は地味な色のフード付き外套を目深に被った男性だった。表情が窺い知れない男性に警戒心が働いたものの、彼の隣に同僚が居るという安心感と、導師を探さねばならないという使命感から、アニスはその2人に声をかけた。

「あのぉ、すみません。ちょっといいですか?」

「どうしました?」

 アニスが余所行きの表情で2人を上目遣いに見上げると、意外にも返答したのは男性の方だった。彼は片手で少しフードを持ち上げると、緑色の目でアニスを見下ろした。穏やかな声をしている男性はまだ若く、少年から青年への過渡期に見える。その細面は酷く整っており、日に焼けていない肌はアニスよりも白い。やや目尻が降りている瞳を縁取っている長い睫毛の色は分からないが、少し見える前髪の先が陽の光できらりと金色に光るのが見えた。

(……すんごいイケメン)

 これほどまでの美青年を、アニスは見た事がなかった。実のところ、ここ数週間ほど行動を共にしているジェイド・カーティス大佐も、類稀な容姿の持ち主である。だが、彼の場合は出会って間もなく導師を説得(言いくるめ)し、拉致同然で導師(とアニス)を連れ出しているため、見た目の美しさよりも笑顔の胡散臭さの方が際立った印象だった。そしてそれは現在に至るまで、さして変化がない。

「――あ、の。私、人を探しているんです」

 青年を見上げたままやや黙りこくってしまっていたことに気付いたアニスは、不自然にならない程度に慌てて言葉を続ける。黙って先を促す彼の眼差しは優しげだ。現金なもので、当初は怪しく思えた外套も、今となっては単なる日除けに過ぎないように思える。

「どんな人ですか?」

 子ども相手だというのに、彼は丁寧な受け答えをする。それは彼が律儀な性格だからかもしれないし、アニスが着ている制服の意味に気付いているからかもしれない。どちらにせよ、悪い人間ではなさそうだと判断したアニスは、崩れかけていた笑顔を綺麗に作り直した。玉の輿に値する相手かは分からないが、年頃の乙女として、美青年に優しく接されるのは悪い気がしない。

「髪が緑色で服が白くて、私と同じくらいの年の、ぽやーっとしている感じの男の子なんですけど」

「緑色の髪……見覚えがないですね。ティアは?」

 青年が問いかけるのを見て、アニスは彼の隣に居るダアト軍人の存在を思い出した。まじまじと見てみれば、枯葉色の長髪を背中に流している彼女も、随分と美しい容姿をしている。肉感的な体のラインを惜しげもなく披露している姿は、いわゆる幼児体型のアニスにとっては非常に羨ましい限りである。一瞬、彼女は青年の恋人だろうかとアニスは思ったが、それにしてはお互いに全く甘さを感じられない雰囲気だったため、恐らく違うと判断した。有事以外では内勤が主となる音律師が、旅人と共に居るのは何らかの事情があるのだろうが、アニスとてのっぴきならない事情を抱えている身である。深入りはすまいとアニスは心に決めた。

「いえ、見かけていないわ。力になれなくてごめんなさい」

「はぅ……気にしないでください。もー、どこに行っちゃったのかなぁ」

 色好い返事が得られず、アニスはぷうっと頬を膨らませた。すると、見かねたのか青年が口を開いた。

「食料庫は探してみましたか?」

「へ? 食料庫? 行ってないですけど」

 思いがけない言葉に首を傾げると、青年は悪戯っぽい笑みを浮かべて見せた。そんな表情をすると、急に親しみが湧いてくる。態度はともかく、どことなく近寄り難いほど整った顔立ちに、人懐っこい犬のような愛嬌が生まれていた。

「この村は今、食料の盗難事件が起きているらしいですから。好奇心が旺盛な方なら、現場を見に行っているかもしれませんよ」

「うわっ、ありえる!」

 導師は好奇心があるかはともかく、その立場に過ぎたお人好しだ。食料の盗難事件が起きていると知れば、自分にも何か出来ないかと首を突っ込みたがるのが目に見えている。もっともな意見に、アニスは思わず歓声を上げた。

「ありがとうございます! 今から行ってみます!」

 そう言い残すと、アニスは子ねずみのようにするりとその場を抜け出し、一目散に食糧倉庫へ走って行った。





* * *

 そういえばルークは公式イケメンだったなと今更思い出す。
 ルク兄さん←アニスを投下したので、ついでにルク兄さん→リグレット先生を投下しようかと思ったけど踏み止まりました。



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