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ゾル兄さんを進撃にぶち込む
萌え 2013/06/08 23:58


・進撃の巨人世界にゾル兄さんを意味もなく突っ込んだよ
・設定は原作準拠だったりアニメ準拠だったりうろ覚えだったり
・巨人vsゾル兄さんだけ
・ゆるい目で読んでね





 懐古趣味的未来(スチームパンク)の世界を思わせる周囲の建物の凹凸を足掛かりにして飛び上がり、屋根から屋根へ、より高い場所へ移動する。付近では1番高い鐘楼の上に立つと、堅牢な要壁に囲まれた街の異様な光景が広がった。

「……何だこれ」

 思わず声にして呟く。街の中には、壁の穴から侵入してきた巨人がのさばっていた。全員全裸で、男性である(生殖器が見当たらないので、上半身の形で判断している)。人間の形をしてはいるが、腕と胴体が長く足が短い傾向にあり、それぞれの表情が似ている。上手くはいえないが、無邪気にも見えるし、虚脱しているようにも見える。さらに全員が人間を襲い、掴み、食らっている。人が人を食らうおぞましい光景だった。

 その時、俺の背後から、身長が10m以上はある1体の巨人がこちらに手を伸ばしてきた。俺は横に体をずらしてそれを避けると、そのついでに一抱えもある親指を片手で掴み、関節とは逆側に折り曲げてやる。巨人はそれに僅かに不思議そうな顔をして見せただけで、すぐにまた俺に手を伸ばしてきた。どうやら痛覚はないか、もしくは非常に鈍いらしい。しかも折り曲げた指はごきごきと骨が擦れる音を立てながら再生を始めている。なかなかタフなつくりをしているようだった。おまけに。

(……熱い?)

 手袋越しに感じた熱に、俺は目を細めた。僅かに触れただけだが、巨人の皮膚は異様に熱く感じられた。高体温の生き物なのだろう。そんな高熱を発する上にあの巨体では、体を維持するだけでも莫大なカロリーを消費するはずだろう。それをたかだかちっぽけな人肉程度で補えるとは思えないのだが、それでも巨人達は選り好みして人間を食らっているようである。

 ともかく、俺には大人しく彼らの胃袋に収まる気がない。俺は伸ばされた腕に飛び移ると、腕の上を駆け抜けて接近し、その横っ面に拳を叩き込んだ。特にオーラを使ってはいないが、脳が揺れて行動不能に陥るはずである。思い切りよく殴ったので、それを通り越して脳と頭蓋骨が衝突し、脳挫傷を起こしていてもおかしくはない。

 だが巨人は殴られた反動でぐらりと上体を揺らしただけで、特にダメージが入った様子はなかった。そもそも手ごたえも何故か軽く感じた。巨人はゆっくりと首だけでこちらに振り向き、腹が減ったと訴えるように口を開ける。頬の内出血もみるみるうちに消えていく。

(――凝)

 俺は右足の足首から下にオーラを集めると、やや助走をつけて跳び蹴りを放った。俺の蹴りは巨人のこめかみに命中し、そこを中心として一気に爆裂するかのように大きく抉れた。巨大であっても、構造や体組織は人間と大差ないらしく、皮膚が裂け、骨が砕け、髄液が噴出し、柔らかい脳が潰れるのが見える。これで確実に死んだだろう。そう思ったのだが。

(やっぱり軽すぎる)

 俺の身長よりも巨大な頭だ。さぞかし重いだろうと思ったのだが、足に感じた感触は異様に軽く、見た目にそぐわず巨人はあっさりと首を真横に折る。次いで巨体が揺れ、石畳の上に倒れ伏した。その前に俺は再び鐘楼へ戻ったのだが、その最中に頭部が再生している様を見てしまった。

(頭は急所じゃない!?)

 巨人は体が大きいだけで、はっきり言ってしまえば今の俺にとっては弱い。だが致死たらしめるものがなければ、その評価も変わる。あれだけの巨体と数である、封じるのは難しいだろう。ならば殺せなければ勝つことは出来ない。長期戦になれば、消耗するのはこちらばかりだ。

 その時、視界の端を何かが横切った。そちらに顔を向けると、豆粒ほどの大きさに見える距離で、複数の人間が宙を鋭く飛び回っていた。全員が茶色で丈の短い上着にぴったりとしたズボンと膝丈のブーツを装備している。自警団や軍といった何かの制服だろうか。彼らはそれぞれ、腰の両側に一抱えもある銀色の箱とガスボンベを提げており、それらとワイヤーで繋がっている長剣を二振り携えていた。さらによく観察してみると、彼らは腰の辺りから頑丈なワイヤーを2本射出し、その先端にあるフックを建造物に引っ掛けては巻き上げ、ガスの噴出で加速し、縦横無尽に移動しているようだった。腰のワイヤーは左右別々に出せるらしく、その射出のタイミングと位置で体勢を維持しているのだが、巧みな様子は、彼らがかなり高度な訓練を受けているためと見て間違いがなさそうだ。あの立体的な機動力を以ってして、巨人達を翻弄しているのだろう。

 だが、それでも数人は巨人に掴まれ、叩き落とされ、最後に食い千切られている。凄惨な仲間の最後に、怯えた悲鳴を上げる者も見えた。同時に、果敢に巨人に立ち向かっていく姿も見えた。後者は、その全員が巨人の背後を取ろうと動いているのが分かる。そう、背後でも特に――

(うなじを狙っている?)

 彼らが相手取っている巨人の肩や背中に、斬り傷が付いている。それらはうなじを狙って付けられているように見えた。しかもそれらの傷は変わったことに、“斬り付ける”のではなく、“斬り取る”ような口を晒している。

(うなじの肉を切り取ることが、巨人を殺す方法か?)

 頭部がダメでうなじが弱点という理屈がよく分からないのだが、他に思い付くことはないのでやってみる価値はあるだろう。おあつらえ向きに、先程、石畳に転がした巨人がのろのろと起き上がって来ている。俺は腰からグルカナイフを1本引き抜くと、刃毀れしないように周でオーラを纏わせた。

 ようやく起き上がった巨人が俺に手を伸ばす。学習しないその仕草に無感動な目を向けつつ、俺はさっさと巨人の腕の跳び移り、駆け抜け、そのうなじの肉を斬り飛ばした。巨人が無造作に生やしている髪を片手で掴んでおけば、体勢を維持しながらうなじを攻撃するのは容易だった。かくして巨人は呆気なく倒れたのである。巨人は再び石畳に倒れ伏すと、今度は再生する様子もなかった。それどころか自らの体温に焼かれるかのように皮膚を黒くしていき、ぶすぶすと白煙を上げ始めた。つくづく分からない生き物である。炭化し続ける黒い皮膚から白い骨格が覗いた辺りで、俺は巨人の死体を観察するのを止めた。

(とりあえず、狩るか)

 これがイルミ辺りなら容赦なくほったらかしそうであるが、巨人をどうにかできる力を持っている以上、襲われている人々を放置するほど俺は薄情で居られなかった。仕事料の請求をするべきか、慈善事業とするべきか。そんなことを考えながら、俺は屋根の上を駆けた。





* * *

安定のゾル兄さん。
ゾル兄さんはチートスペック(ハンター世界を除く大体の世界で)なので、進撃世界でも元気に生きていけると思います。
それ以外の兄さんは本気で生存を危ぶまれるような。



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