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刀剣男士と審神者麻衣兄さん
萌え 2016/05/19 23:26


・審神者ゾル兄が審神者麻衣兄になった設定
・麻衣兄さんは審神者の力だけある(念能力なし)





 念能力が使えないのがこんなにも不安になるのだとは思いもしなかった。不安を周囲に悟らせる真似はしないが。それだけでもきついのに、霊能力以外はか弱い女子高生(♂)になるとはこれいかに。しかも霊能力は自分の意思ではほぼ使えないという残念仕様。初期刀であり俺の霊能力のサポートが上手い打刀の山姥切国広がいなければ、早々に俺の人生が終わってそうでつらい。男子人生終了は辛いが、人生そのものの終了はもっと辛い。

 か弱い女子高生になった主を見た刀剣男士たちの反応は十人十色であった。喜怒哀楽は軽々と制覇し、泣く者から歓迎する者まで現れる始末。泣くのはともかく歓迎するのはやめろ。いくら女っ気のない生活だからといって主の性転換で喜ぶな。中身は今まで通りの男だぞ。そんなわけで、喜んだ奴らは山伏国広という太刀の日課である滝行に強制参加させておいた。天下五剣だろうが皇室御物だろうが慈悲はない。俺は野郎に平等である。

 俺の本丸が存在する空間は、俺の女子高生化と同時に他の空間から切り離されたらしい。未来政府ともハンター世界とも繋がらない本丸が唯一繋がったのは、俺の肉体である谷山麻衣少女が一人暮らしをしているアパートの襖だった。貴重な収納スペースが死んだが、本丸が繋がっているのでよしとする。原因はこんのすけでも分からないらしい。多分俺のせいだと思うが、何も言わないでおいた。「俺、異世界渡航癖があるんだぜ」といってもただの頭おかしい人でしかない。

 そんなわけで俺は、未来政府との連絡方法を模索しつつ、女子高生として日常生活を過ごすハメになった。

 未来政府のある日本とは繋がらない異世界日本で女子高生をするにあたって、刀剣男士たちとこんのすけが最も心配したのは俺の安全だった。なにしろ、以前は敵の最前線に丸腰で放り込んでも笑顔で帰宅しそうな俺が、今ではただの女子高生である。強い俺に慣れ切っていた彼らは、俺の弱体化に過剰なまでに慌てふためいた。遡行軍に襲われるかもしれないという懸念は理解できる。暴漢に襲われるかもしれないという懸念もまあ、分からなくもない。ただ、俺が道を歩いただけで誘拐されるという認識はどうなんだ。お前だよ、へし切長谷部。

 刀剣男士たちとこんのすけの強い勧めというか強制により、俺が現世を出歩くときは必ず護衛をつけることになった。

 元々未来政府は、現世を審神者が歩く上で、銃刀法を上手くやり過ごして刀剣男士に護衛させるための方策を編み出していた。それは刀剣男士のデータ化である。実は科学と霊力のハイブリッドであるこんのすけに使われている技術を転用したらしい。平たく言うと、刀剣男士一振りにつき1本のUSBメモリとして携帯することが出来る。その技術は未来政府から隔絶されている俺でも使用可能だったため、俺は現世に行くときは必ず護衛一振りを顕現させ、さらにUSB6本を携帯することにした。6本というのは一部隊の人数である。

 何故、刀剣男士を顕現させて連れ回しても問題がないのか。それは簡単である。普通の人間に彼らは見えないのだ。そのお陰で、学校の教室に刀剣男士がいても誰も気付かない。今までに彼らの存在を見破ったのは――霊媒師である真砂子ちゃんだけだ。



* * *



という設定で以下小話。



▼山姥切国広と心霊調査


「どうしてわざわざ自分から危険な場所に行くんだ」

 ここはリンが運転するバンの後部座席。調査現場に向かう最中なのだが、俺と一緒に後部座席に乗り込んだ山姥切国広は、ずっと俺に説教をしていた。

「あんたは霊能者で、審神者の力は本物だ。でも、今のあんた自身は霊に対抗する手段がほぼないんだぞ」

 運転席にはリン、助手席にはナル君が座っているため、口を開いて返事が出来ない。俺は懐からこっそりと未来政府支給の端末(見た目はスマホに近い)を取り出し、それに文字を打ち込んで答えた。

《何かあったら逃げる》

「逃げるだけの力があるかも分からない」

《切国がいるから大丈夫》

 山姥切国広は柳眉をしかめて俺を軽く睨んだ。

「俺があんたを守るのは当たり前だ。そうじゃなくて、俺が言っているのは」

《切国は俺の本丸で一二を争う強さだ。それに、一番の相棒だからな》

 文句を言いかけた青年の唇が固まる。

《頼りにしてるよ、切国》

 そう書くと、山姥切国広は真っ赤になって白い布を目深に被り直した。

「……おだてて誤魔化そうとしても分かるからな」

(でも引っかかってくれるんだよなぁ)

 布に阻まれて目が見えないが、未だに頬が赤いのが分かる。俺は前部座席に座る二人にばれないよう、こっそりと笑った。





▼へし切長谷部とラッキースケベ


 全ては鶴丸国永のせいだと主張したい。あのサプライズじじいの仕掛けたトラップが、思わぬ方向に作動したせいだと。

 鶴丸国永は刃生に驚きを求める。それが若さを保つ秘訣だと主張し、日常の小さな感動から大きなトラブルまで、様々な驚きを発見したり巻き起こしたりしては楽しんでいる。それは別に構わない。SPR事務所で、俺以外に見えないからといって他のメンバーに絡んで俺を笑わせようとしたり、ちょっとした悪戯を仕掛ける分には構わない。ただし、その悪戯が思わぬ方向に進んだのならば別である。

 つい最近、鶴丸国永はびっくり箱というアイテムを学んだ。さらにそれを手紙に応用するという技を身に付けたらしい。彼はその新技術を使って俺を驚かそうとして昨日、SPR事務所に仕込みをしていたようだ。だが問題は、事務所に届く郵便物は全てリンかナル君が処理していることである。鶴丸国永はそれをまるっと忘れていた。

 そして迎えた本日。偶然にも俺が近くを通りかかったとき、鶴丸印の封筒を開いたリンが驚いてそれを取り落とした。中から飛び出してきたのは白い紙で作られた折鶴である。頭頂部が赤く塗られ、さらに足が二本生えているという絶妙に気持ち悪い会心作だ。

 まさかこんなものが封筒から飛び出すとは思っても見なかったリンはよろけて、どうやったのか椅子の足を踏んだ。運の悪いことに、リンのデスクの椅子はキャスター付きだった。踏まれた拍子にキャスターが景気良く回転し、体勢を崩した彼はたまたま目の前にいた俺に倒れ込んできた。以前の俺ならば、あるいはリンが立っていたならばこんな悲劇は生まなかっただろう。ああ、何故この時のリンは椅子に腰掛けていたのか。

 俺は咄嗟にリンを支えようとしたが、女子高生の腕に彼の体は重かった。支えきれなかった彼はそのまま俺に倒れ込んでしまう。あろうことか、顔面が俺の胸にダイブする形で。

 ――オフィスにいるのが俺とリンだけであることに全力で感謝した。イレギュラーズがいたら30分は黙らないだろう。……と思った矢先に、俺は重要なことを思い出した。

 本日の護衛はへし切長谷部である。

「――ただちに手討ちの許可をいただきたい!!」

 審神者界隈では主ガチ勢と名高いらしい彼が何もしないはずがない。瞬間湯沸かし器と言っても過言ではない速度でキレた彼は、今にも実体化してリンに斬りかかろうとしていた。ちなみに実体化とは、現世の食べ物を口にした刀剣男士のみ可能となるらしい。仕組みはよく分からないが。実体化すると普通の人間にも見えるし触れるようになるため、手討ちも可能になる。やめてくれ。

「す、すみません!!」

「許可できるか!?」

 リンの脊髄反射謝罪と俺の瞬間却下がほぼ同時に決まる。リンにはへし切長谷部の声は聞こえていないので、会話が噛み合っているようないないような、わけのわからない状態である。

 しかしさらに悪いことに、慌てていた俺は思わずリンを庇うように腕を動かしてしまった。つまり、彼の頭を抱き込む形である。急いで顔を上げようとしたリンを胸に押さえつける謎行動だ。そんなつもりは全くなかった。今にも人を殺しそうな顔のへし切長谷部が悪い。

「許さないと言いつつ何をするんですかっ!?」

「え!? 違う違う事故ですよね分かってます怒ってない!」

「貴様! やはり俺が圧し切る!!」

 大混乱である。

 全員が微妙にズレたやり取りをする中、しかし不意にリンが態度を変えた。いきなり俺を肩に担ぎ上げると、その場から飛び退く勢いで立ち上がったのだ。まさに火事場の馬鹿力である。俺を担いだまま、空いた手を指笛に似た形にして口元に当てていた彼は、それを吹かずに何かを探るように宙を見ていた。

 後からへし切り長谷部に聞いた話によると、この時、リンが使役している式がキレた刀剣男士の気配を察知して「おいこいつやべえぞ」と大騒ぎしていたらしい。思い出してみれば、リンが警戒している辺りには、今にも抜刀しそうなへし切長谷部が立っていた。見えないのに位置が大体合っているのが恐ろしい。

 しかしその緊迫した空気は、所長室からナル君が顔を出したことで崩れた。うるさかったのだろう。眉間にしわを寄せた彼は、だが俺とリンを見て真顔になった。そりゃそうだ、リンが俺を肩に担いでいたのだから。事務所で何やってんだ。

「…………何をしている」

「……天井の電球を替えようと」

「つくならもっとマシな嘘をつけ」

 俺の嘘は一瞬でバレた。

 ナル君は「仕事をしろ」と言い残して所長室に引っ込んだ。事務所に気まずい沈黙が落ちる。リンは無言で俺を床に下ろした。俺は無言で散らばった鶴丸印の贈り物を片付けてゴミ箱に放り込む。

「……リンさん。全てなかったことにしましょう」

「賛成です」

 こうして鶴丸事件は一応の終息を見せたのである。ちなみに鶴丸国永はへし切長谷部の手できっちりと罰を受けてもらった。





▼三日月宗近と孫娘


「真砂子や、俺に茶を淹れてくれないか?」

 SPR事務所のソファに堂々と座る無駄に美しい天下五剣が、俺以外に唯一刀剣男士を視ている真砂子ちゃんに注文をつける。優しい真砂子ちゃんは、にこにこしながら給湯室へ引っ込んだ。

 三日月宗近は真砂子ちゃんがお気に入りだ。優しいし可愛いし、何より甲斐甲斐しく自分の世話を焼いてくれるところが好きらしい。さすが「世話をされるのは大好きだ」と豪語するだけはある。「主も少し見習うといい」と言われたときは謹んでお断りした。ジジイだろうがなんだろうが、自分で出来ることは自分でしてほしい。頑張り屋さんな短刀のちびっ子たちを見ろ、健気さで胸がときめく。

 実は鶯丸直伝の方法で淹れた茶を真砂子ちゃんから受け取った三日月宗近は、それを啜って嬉しそうな顔をした。孫に構ってもらって喜ぶ爺である。

「ああ、真砂子の淹れる茶は美味い。きっと良い嫁御になるなぁ」

「まあ、嬉しいですわ」

 小声で真砂子ちゃんが答える。……一連のやり取りを、全てリンに怪しまれないようにやってのける二人のスキルが恐ろしい。

「今日は和菓子をお持ちしましたの。皆さんで一緒に召し上がりません?」

「やあ、嬉しいなぁ。真砂子はじじいと一緒に食べような」

 仕事中の俺に構ってもらえないからと、彼はひたすら真砂子ちゃんを構い倒す。孫馬鹿め、と何度も思うが、真砂子ちゃんの楽しそうな顔を見ると止められない俺であった。



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