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念能力兄さんが麻衣に憑依する話5
萌え 2016/03/21 16:36


・念能力兄さんがGHの麻衣に憑依
・GH1巻「旧校舎怪談」の超冒頭部分





『1−Fの谷山麻衣さん。至急、校長室まで来てください』

 翌日の昼休み。教室でそんな校内放送を耳にした瞬間、俺は昨日のうちに今日のアルバイトを取りやめていたことが正解だったと確信した。そしてそれから僅か15分後、俺は校長室でふかふかのソファに腰掛け、自分の両膝に肘を置いて顔の前で手を組むという似非ゲンドウポーズを披露していた。主にイケメン君と校長に向かって。礼儀作法は死んだ。沈痛な面持ちの俺とは対照的に、イケメン君――渋谷サイキックリサーチの若き所長・渋谷一也(しぶや かずや)君は済ました顔だ。

 御年16歳という渋谷少年が日を改めて提示した雇用条件は、非の打ち所がなかった。おまけに、再び話を切り出されたら突っ込んで聞こうと思っていたことは、俺が尋ねる前に全て答えられた。最早ぐうの音も出ない。当然ながら、同席している校長の許可もとっくに取られている。何故こうまでして俺を雇おうとするのかと訊ねると、

「助手探しの段階で時間を掛けたくないこちらとしては、近場の君で手を打っておくのがベストだ」

 とのこと。遠い場所にいる有能な人間より、近い場所にいる便利そうな俺ということですね分かります。つまり俺で妥協されたのか。……事あるごとに程々に便利な奴扱いされる俺の人生はいかがなものか。ちなみにポイントは“程々に”という部分である。引く手数多というわけではない。

「ところで昨日の男性は? 彼はこちらの雇用に対して反対のようでしたが」

「リンは病院だ。検査が終わるまで出て来るなと言っておいた。そして彼は助手であって、人事権を握っているのは上司である僕だ」

「そうですか……残念です……」

 本当に残念極まりない。というか渋谷君が偉そうな態度だったのは、単純にリンが彼の助手だったからなのか。……いやいや、別に渋谷君は相手が助手でなくても偉そうだ。もしくは自信家ゆえかそう見える。

 校長は俺の家庭状況を知っているため、むしろ俺を気遣って手伝いの許可を出しているらしい。時折「割のいいバイトだから、受けておいても損はないと思いますよ」だのと渋谷君の助け舟を出してくる。しかし言動の端々から、校長が実は心霊現象に対して懐疑的であるような雰囲気を感じた。その証拠に、成績が良い苦学生に対する俺には優しいが、谷山少女と同じ年頃の渋谷少年に対してはどことなく冷ややかというか事務的なきらいがある。……これは単純に、16歳の所長への信頼感の欠如だろうか。まあ現実として、未成年者が所長を勤める心霊事務所なんて信用する方が難しい。

(……仕方ない。あのでっかい兄ちゃんには助けられたことだし、今回は協力しよう)

 リンはむしろ俺の手伝いを嫌がりそうだが、彼の上司や校長の勧めがあり、なおかつ雇用条件に申し分がない以上、断るのはあまり得策ではない。俺は謹んでお引き受けすることにした。ニヤリと笑う渋谷少年の顔には気付かなかったふりをして。

 こうしてその日の放課後から、俺は晴れて渋谷少年の手伝いとして正式デビューすることになった。





 放課後にまず俺が行なったのは、渋谷君から今回の仕事内容を聞くことだった。旧校舎の近くに停められていたグレーメタリックの大きなバン(昨日、リンが運転して置き去りにしていたらしい)、その後部座席に2人で腰掛けて状況を聞いた。ちなみにリンだが、額の傷は縫うまでもない軽傷だが頭部へのダメージはまだ様子見の段階で、さらに右足首を酷く捻挫して靭帯を痛めたらしい。……という話は、バンの運転席で待機していた本人を前にして渋谷少年から説明された。どうやらリンは、放課後に間に合うように強引に退院してきたらしい。松葉杖を片手にした大男に無言で睨まれ、俺は愛想笑いを返すしかなかった。咄嗟とはいえ庇ったのはあなたの判断ですよね、と言おうものなら、“フォン・ド・ボー”が放たれそうである(焼いた子牛の骨と香味野菜をじっくり煮込み、肉料理に深いコクを与える。相手は死ぬ)。……ああ、たまにはがっつりと肉が食べたい。貧乏学生にがっつりとした肉は滅多に手を出せない嗜好品である。女子高生なら肉よりお洒落を気にしろと言われそうだが、中身が成人男性なので無理な相談だ。同情するなら肉をくれ。金をくれるならもっといい。そしてリンお兄さん、あなたの妙に冷たい視線はいりません。

 それはともかく、ことの始まりは一週間前。旧校舎に問題があるとのことで、校長が渋谷サイキックリサーチに調査を依頼した。体育館を建て直すに当たって旧校舎を取り壊したいのだが、昨年来それが出来ずに困っているとのこと。今まで旧校舎で数々のトラブルや事故が起きたために祟りがあるとの噂が出て、工事に及び腰になる関係者がいるのだ。実際、過去には何度か取り壊そうとされ、その度に事故が起きて中止になっているらしい。校長はそれを“噂に過ぎない”と説得して昨年、強硬に取り壊そうとしたが、やはり事故が起きて中止せざるを得なかったという。

「事故と言うと……去年、グラウンドにトラックが突っ込んだとかいう?」

「旧校舎の怪談は碌に知らないんじゃなかったか?」

「ただの事故として認識していたんですよ」

 工事用のトラックがグラウンドで体育の授業をしていた生徒たちに突っ込み死傷者が出たという事件は、入学したばかりの俺でも知っていた。そんな大事故、知らないはずがない。だがその事故が旧校舎に関係しているだのという話は初耳だった。興味がないので聞き流していたかも知れない。

 渋谷君は俺の言葉に頷いた。

「確かに、ただの事故ではあるな。不審な点は見られなかった」

「それも調べ上げているんですね」

「当然だ」

 彼は本当に当たり前だと考えているらしく、鼻にかけた様子が全くない。

「ところで、生徒から集めた噂というのも、真偽は判明しているんですか?」

「ある程度は」

 そう言って、渋谷君は噂の内容と調べ上げた事実を教えてくれた。簡単にまとめるとこんな内容だ。

 ・建設作業員が事故や病気で死亡することが何度も見られたようだが、どれも不自然な点はない。 

 ・生徒や教師が毎年のように死亡するが、こちらも不自然な点はない。

 ・近所の少女が旧校舎で殺されたが、犯人は既に逮捕されている。

 真偽の確認が取れていない件は、旧校舎で人影を見た話だの一連の事件で死んだ人間が出るだのといった類だという。つまり、人死にがやたらと出るように思えるが、全ての件で理由が判明しており、心霊現象によるものとは言えない。だが、それで旧校舎の中が確実に安全だとも言い切れない。そのため、彼は旧校舎の外側や外に近い場所から内部の観測を始め、安全に屋内に入れるかどうかの確認をしていたようだ。

「慎重ですね」

「十分な調査がなされていない幽霊屋敷(ホーンテッドハウス)に踏み込むのは危険だからな。可能な限り外から調査をする必要がある」

「昇降口にあったカメラもその一つなんですね。他にも何か設置してありますか?」

 そう渋谷君に質問した直後、俺は違和感に気付いた。

(……ん? 待てよ、それだとリンが現れた場所が少し不自然だ)

 リンが現れたのは昇降口の奥、つまり校舎内からだ。しかも一人である。調査不足の幽霊屋敷に単独で入るのは危険だと思うのだが、何故彼は旧校舎の内部から現れたのだろうか。

 俺の疑問に気付いていない渋谷君は、さらりと質問に答えた。

「校舎の裏にマイクを設置してある。異常音は特になかったから、まずはそのマイクの回収から始めてもらう」

「分かりました」

 返事をしながら立ち上がり、車外へ出る。

(既に異常音がないというデータは揃っていて、これから機材を回収というところであの場所にいたのか? それとも、リンは単独で校舎内に入っても大丈夫だという何かがあるのか? ……どうにもはっきりしないな)

 推測を確信にまで高めるには、あまりにも情報が少なかった。俺は推測を諦めてアルバイトに精を出すことにした。

 校舎裏にはずらっと設置されているのは、カラオケで見られるようなマイクではなかった。テレビの撮影で使われるような大型のマイクだ。昇降口のカメラといい、バンに詰め込まれた大量の機材といい、渋谷君の財産は潤沢のようだ。渋谷君というより、彼の背後についている何かの資産が潤沢なのかもしれないが。

「一度、解体の仕方を見せてください。多分、それで十分理解できると思います」

 一緒に後者裏に来た渋谷君にそう言うと、彼はてきぱきと解体作業を見せてくれた。得手不得手に分類するとしたら、機械系は苦手ではない。専門家ではないが、理解は早い方だろう。……外国語で書かれたマニュアルを押し付けられなければ。現に、渋谷君の手順を見ればやり方はすぐに理解できた。この程度の作業なら、アルバイトも難なくこなせそうだ。

 結局、その日は校舎外の機材を回収し、校舎に入ってすぐの教室を拠点(ベース)とした調査環境を整える作業に終始した。超高感度カメラや赤外線カメラ、サーモグラフィーをを運ばされたときは、改めて財力に驚いた。子どもの自由研究でできるレベルではなく、企業並みの装備だからだ。もちろん、その教室に機材を設置するだけで調査環境が整うはずもなく、1・2階の廊下と玄関に暗視カメラを設置し、さらに温湿度計を渡され各教室内を巡らされた。後者に関しては、霊が現れるとその地点だけ気温が下がるかららしい。俺は室温を測るついでに、カメラの死角で目に凝(ぎょう)をして校舎内を見て回った。だが、軽く見たところ何の異変もない。少なくとも、念能力者が感知できる何かは存在しないようだ。時折、身動きを取らなくても木が軋むような音が聞こえてきたが、ボロボロの旧校舎だからだと思えば不思議でもなんでもない。今まで魔法生物やら念能力者やら見てきた俺にとって、今のところは恐怖するに値しない場所だった。

 一通り仕事を終えてベースに戻ると、リンがずらりと並べられたモニターの前で何やら作業をしていた。随分と手馴れた様子なので、この男は元々メカニック担当なのだろう。なるほど、怪我の影響で控えるべき肉体労働以外ならば業務にさして支障はない。俺が運ばされた機材の量は結構なものだったので、どの道、肉体労働担当のアルバイトを雇う必要があっただろうが。

「明日も放課後、車のところに」

 俺が帰る間際、渋谷君がそう言った。調査期間と見込まれる数日間は働く契約になったので、彼の言葉は真っ当だ。モニターと見詰め合っていたリンが不意にこちらを物言いたげな目で見たが、何も言わない。俺の雇用に納得はしなくても理解はしたのだろう。彼の何とも言えない表情に意味のない愛想笑いを返すと、俺はさっさと帰宅した。





 翌日、いつもより一つ荷物を多く持って登校した俺に、昇降口のところで恵子が話しかけてきた。荷物の中身が気になるらしい。中身は何てことのない、ただの私服だ。それも、肉体労働に向いたTシャツとパーカー、ジーンズ、スニーカーである。乙女心の欠片も感じられないが、俺の精神は成人男なので全く問題はない。むしろ、女子高生制服という装備を続けるとメンタルダメージが蓄積するので、それを和らげるために必要な措置である。

 俺は新しいアルバイトのためだと答え、旧校舎や渋谷君のことが明るみにならないよう適当にはぐらかしながら教室へ向かう。黒田さんをやり込める渋谷君を目撃した恵子なら、いくらイケメンだからといって渋谷君会いたさで仕事現場に押しかけることはないと思う。しかし念のためだ。それに、あまり大っぴらにするようなことでもないだろう。そう考え、教室でミチルと祐梨ちゃんから色々と話しかけられたが、それにも同じような返しをしていた。

 ……タイミングをずっと見計らっていたような様子の黒田さんが俺に話しかけてくるまでは。

「あの、谷山さん」

「ああ黒田さん、おはよう。どうかした?」

「新しいアルバイトって、もしかして旧校舎の調査?」

 一瞬、答えに窮した俺が言葉を探している間に、それを聞き咎めた恵子が声を上げた。

「えっ、それってどういうことよ麻衣! 旧校舎って危ないところじゃないの?」

「昨日の昼休み、あの黒尽くめの人と一緒に校長室から出てきたでしょう? たまたま見かけたから……」

「ええーっ!?」

 黒田さんのいらない追加情報に、恵子たちが3人揃って叫ぶ。俺は思わず遠い目で空を仰いだ。ああうん、知ってる天井だ。

「麻衣! あの転入生と旧校舎とアルバイトってどんな関係があるの!?」

 イケメンの魔力に惑わされてグイグイ迫ってくる恵子たちに、俺はこりゃ誤魔化せねーわと諦めた。リドル並の飛び抜けたイケメンなんて、滅多にお目にかかれないから仕方がないのかもしれない。しれないが、お兄さんは何だかしょっぱい気持ちでいっぱいです。

 結局、俺は問題なさそうな部分だけを簡単に説明した。ついでに、彼が転入生ではないことも説明しておく。渋谷君は仕事で短期間学校に滞在するだけだが、俺はこれから数年ほど滞在予定なのである。渋谷君はどうして転入しないんだと後から絡まれたらものすごく面倒臭いしやるせない。

 一通り話を聞くと、恵子が首を傾げた。

「おとといのあの人、霊能者なの?」

「いや、違うらしい。ゴーストハンターだったかな。心霊現象を科学的に調査するようだから、科学者とか超心理学者畑の人間じゃないかな? 直接聞いたわけではないけど」

 俺の説明に祐梨ちゃんが目を瞬かせる。

「超心理学って何? スーパー心理学?」

 何だよ祐梨ちゃん、その言い方可愛いなあと内心でほっこりしていると、黒田さんが俺に話しかけてきた。

「――谷山さん、あの人を紹介してもらえない?」

「紹介? それはまたどうして」

 あまりいい予感はしないがそう問い返すと、彼女はにこりとした。

「ほら、あたしにも霊能力があるじゃない。何かお手伝いできるかもしれないわ」

 困った。渋谷君たちは報酬を貰って仕事として旧校舎を調査している。しかし彼女は自称霊能少女であり、業界では完全な無名だ。職業人として働いている渋谷君たちの邪魔にしかならない予感が満載だ。とはいえ、ここで無理に断ろうとしても黒田さんは強引に旧校舎に押しかけてくる可能性が高い。

 俺は出来る限り優しく見える笑顔を浮かべた。

「そっか。でも心配だな。黒田さん、最近体調が悪いんだよね? 旧校舎に行ったら余計に体調を崩すかもしれないよ」

 すると、黒田さんはほんの少しだけ嬉しそうな顔をした。

(純粋に優しくされるのに弱いのかな?)

 もしくは、霊能力を肯定するような発言が嬉しかったのか。しかし黒田さんはすぐに顔を戻した。

「でも、お手伝いできることがあればしたいのよ」

「うーん……」

 俺は悩んだ。悩んだ挙句、人事権があると自分で言った奴に丸投げすることにした。

「分かった、話してみるよ。ただ、あの人は科学的検証を重視する傾向に見えるから、あまり期待はしないで欲しいな」

「あたしには霊感があるんだから、大丈夫よ」

 その自信は一体どこから来るのだろうか。つい先日、主に渋谷君に大敗を喫した面で大丈夫ではなかったのだが。しかしそれを言及するのは確実にやぶ蛇である。あとは人事担当・渋谷君がどうにかしてくれるだろう、多分。

 心なしか満足げな雰囲気で席に戻る黒田さんの背中を眺めていると、恵子がこそこそと話しかけてきた。

「ねえ、麻衣。あいつとはあまり関わらない方がいいよ」

 何となくだが、言いたいことが分からないでもない。黒田さんは最早疑いようもなく変人の部類である。人好きのする性格ではないだろう。俺が苦笑するに留めると、今度はミチルが口を開いた。

「麻衣ってさばさばしているかと思いきや、意外と世話焼きみたいじゃない。変に首突っ込んでトラブルに巻き込まれそう」

 さばさばというのは、放課後の付き合いの悪さも関係しているのだろうか。アルバイト中心の生活をしていれば、自然とそうなってしまうのも仕方がない。おまけに女子グループと積極的に関わることもなく、一人で飄々と過ごしているならなおさらか。

 しかしトラブルに関しては何も言えない。俺が普通に過ごしていてもトラブルの方から勝手にやって来るのだからどうしようもない。そもそも、こうして女子高生プレイ(不可抗力)をさせられているのもトラブルのうちである。

「そんなことは……ないといいなあ」

 俺の笑い声が乾いているのは仕方がなかった。

 ふと、祐梨ちゃんが席で教科書を読む黒田さんをちらりと見てから言った。

「あの子、ちょっと怖くて話しづらいかも……中学生の頃からああいう子だったよね」

 言葉を聞くに、目の前の3人組と同じく黒田さんも内部進学組らしい。ミチルがうんうんと頷いた。

「神懸ってて危ないとか、霊感があるっていって、ああしろこうしろってうるさかったんだよ。中学の頃は、それがすごいって集まる取り巻きもいたけど……」

 軽く黒田さんを睨むミチルに、恵子が苦笑して話す。

「あたしも、中学の頃はすごいって思ってたクチだけど……今は違うって言うか。そういう話は好きだけどさ、本気で信じてはいないんだよね」

 恵子はさらに声を潜めた。

「信じてないのにどうしてやるのって言われると、我ながら不思議に答えにくいんだけど。でもさ、中学生くらいまでは結構本気だよね。無邪気って言うのかな、自分には見えないけど幽霊は絶対にいるはずで、霊能者みたいに幽霊が見えるすごい人はいるはずだって」

(ここに得体の知れないオーラが見えたり得体の知れない怪力を持つ異世界出身のすごい女子高生(不本意)はいますが)

 ふっと遠い目をしたくなった俺は悪くない。特別って、そんなにいいことではないよ(実体験に基づく真理)。

「でもそういうのって、だんだん信じられなくなるじゃない? だからああして取り巻きが減って……」

 ミチルがため息をついた。どこか呆れたような顔だ。

「一人でいるところをよく見るようになったよね。たまに声を掛けようかなって思うこともあるけど、楽しく男の子の話をしていたのに突然“そこに変なものがいる”って言われたら盛り下がっちゃうじゃない? だからちょっと、ね」

(そりゃダメだなあ)

 本当に霊が見えていようがいまいが、世間の大半は恐らく霊が見えない人間だ。大多数に合わせなければ不気味がられて排斥されてもおかしくない。それ以前に、ある程度は場の空気を呼んで発言しなければ集団から睨まれるものである。常に話の腰を折る人間が煙たがられるのは当然だろう。

「でも、珍しいよね。あの子が誰かを紹介して欲しいって言うなんて」

 祐梨ちゃんがそう言うと、ミチルがにんまりとした。

「だよね。どうしてだろう。もしかしてあの子もハンサムさんに一目惚れとか?」

「えーっ! 意外なライバル出現っ!?」

(ライバルって何だ)

 叫ぶ恵子に思わず半眼になる。その後すぐに黒田さんがこちらをぎろりと睨み付けたので、俺は曖昧に笑って流した。



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