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念能力兄さんが麻衣に憑依する話2
萌え 2016/01/17 16:30


・念能力兄さんがGHの麻衣に憑依
・GH1巻「旧校舎怪談」の超冒頭部分





 翌日は何事もなく過ぎ、あっという間に放課後になった。

「ま・い!」

「っと……恵子?」

 放課後、俺が帰り支度をしているとセミロングの髪の女子生徒に背中を叩かれた。彼女はクラスメイトの恵子だ。人懐っこい性格で、積極的に女子グループに属そうとしていない俺にも声をかけてくれる。……そう、女子というのは仲良しグループを形成するものである。男子もグループを形成するものだが、女子とはどうやら質が違うらしい。何が違うと言われると説明がしづらいが。ともかく、精神が男子大学生の俺が女子高生グループでやっていくのは辛い。そのため、グループには入らないが仲の悪い相手も作らないように立ち回ることにしている。そんな俺にとって、積極的に接してくれる恵子は貴重な存在だ。

「ねえ、今日の放課後ってまたバイト入ってる?」

「今日は家で内職するだけだよ。あまり遅くまで残れないけど」

「うーんそうか。じゃあ微妙かなあ。どうしよう」

「何か困ったことでもあったのか?」

 難しい顔をする恵子にそう尋ねる。そんな恵子の後ろから興味深そうに2人の女子生徒がこちらを見ていた。彼女達は恵子と同じ仲良しグループだ。今日の放課後にグループで遊ぶ約束でもしているのかもしれない。その予定に俺も誘ってくれようとしたのだろうか。

「困ってるわけじゃないけど……こら、足っ」

「あいてっ」

 べしりと恵子に太股を叩かれる。俺は酷いがに股ではないが、女子力が高そう(勝手な判断)な恵子からすると気にはなるらしい。「内股になれとは言わないが、がに股は絶対にやめろ」と初対面の時に言われ、それ以来たまにこうして教育的指導を受けている。

 恵子は姿勢を正した俺に「うむ」と満足そうに頷いてから話を続けた。

「今日ね、百物語をするんだ。昨日もやったんだけど、今日はなんとゲスト付きだよ! すっごいハンサムな転入生の!」

(視聴覚室の女子集団は恵子たちだったのか。……というとゲストってのは)

 すぐに脳裏に浮かんだのはあのイケメンである。どうやら彼はあの後、宣言通りに自分で彼女達に声をかけた上に、自分を仲間に加えさせたらしい。少女の集団に単独で突っ込んで行くとは度胸のある男だ。……何となくだが、度胸があるというよりも無頓着なだけの気もするが。

 俺の内心など知る由もない恵子は、腕を組みながら唸った。

「せっかくハンサムに会えるし、何より百物語は人数が多い方が盛り上がるから麻衣も一緒にどうかなって思ったんだけど」

「――ちょっと」

 不意に恵子の言葉が遮られた。口を挟んだのは黒田という少女だ。真っ黒で胸元まである長さの髪を、昭和風の二つおさげにしている。さらにお堅い印象の黒縁の眼鏡に校則をきちんと守った膝下のスカートは、彼女の硬い表情と相まって神経質そうな雰囲気を漂わせていた。現に黒田さんは、黒板を爪で引っかいた音を耳にしたような、何とも嫌そうな顔をしている。

「あ、黒田さん。さようなら」

 確か恵子と同じグループの祐梨といったか、そんな名前のツインテール少女がほんわかと無邪気な笑顔で黒田さんに挨拶をした。何だこの子天使か。今度から心の中で祐梨ちゃんと呼ぼう。しかし黒田さんは天使の挨拶を邪険そうに切り捨てた。

「さよならじゃないわ。あなたたち、今何の話をしていたの?」

 まるで咎めるような口調で問われ、恵子たちが口ごもる。おしゃべりな恵子や天使の祐梨ちゃん、そして仲良しグループ最後の一人である強気なミチルも気まずそうにしている。雲行きの怪しさを感じ取った俺は、彼女達の代わりに口を開いた。

「今日の放課後、みんなで怪談話をしようかっていう話だよ。それがどうかしたかな?」

 すると黒田さんは眉を吊り上げた。どうやらお気に召さないらしい。何が彼女の怒りに触れたのか分からず、対応に困る。

 教室のドアが外から開かれたのはそんな時だった。

「――失礼する」

 現れたのは昨日のイケメンである。相変わらずかっちりした黒いスーツに黒いシャツを着込んでおり、来校証は付けていない。恵子たちは薄い笑みを浮かべる約束のイケメンの姿に、黒田さんの存在を忘れて黄色い声を上げた。これが“約束された勝利のイケメン(エクスカリバー)”の力か……侮れない。

 黒田さんはきゃあきゃあと騒ぐ恵子たちを嫌そうに一瞥してから、黒尽くめのイケメンに問いかけた。彼女は輝かしいご尊顔に気圧されない貴重な人材かもしれない。

「……何年生? 何の御用ですか」

「彼女達と約束があって」

「約束?」

「怪談話をしようと」

 それで恵子たちを迎えに来たのだろうか。律儀なイケメンだと思っていると、突然黒田さんが沸騰した。

「そんなことはやめなさい!」

 急に叫び声を上げられ、全員の目が彼女に集中する。俺も目を瞬かせて彼女を見た。黒田さんは神経質そうに眉を吊り上げて俺を睨んでいた。

「怪談は危険なの。知らないの?」

(まあ怪談というか、百物語自体がそんなものだからなあ)

 そもそも“最後に人間じゃない何かがやってくるかも? きゃー(棒)”的な楽しみを求めるのが百物語ではないかと俺は思う。百物語に限らず、怪談話をすると本当にそういう類が寄ってくるという話も珍しくない。それをどこまで信じるかとなるとまた違った話になるが。

 俺は苦笑しながら黒田さんに答えた。

「昨日もやったらしいけど、別になんともないみたいだよ?」

「昨日も? 道理で今朝、学校にきたら頭が痛くなったと思ったわ」

 香ばしい黒歴史の匂いがする。嘘か本当かは分からないが、自称霊感少女の気配をとても感じる。恵子たちから「あっちゃー」と言いたげな雰囲気がするので、恐らくこの感覚に間違いはないだろう。

 黒田さんは自分の頭に手を添えて言い放った。

「谷山さん。あたし、霊感が強いのよ。霊が集まってくると頭痛がするの。だから今日も一日頭が痛いのよ」

「……なるほど」

 何というか、こう、胃の辺りがきゅっとするのは気のせいではあるまい。俺は頑張った。頑張って苦笑を保った。苦笑も笑顔のうちである。

 残念ながら俺は霊能者ではないので、彼女の真偽を判断することはできない。そういえばハンター世界の幽霊は念能力で説明がついていたなと思い出し、こっそり両目にオーラを集めて“凝”をしてみる。だが周囲の景色には何の変化も見られなかった。黒田さんのオーラが非能力者と同じ状態だと分かったくらいだ。

(ていうか他人のオーラも存在するし見えるんだな)

 少なくとも、念能力の観点から黒田さんに幽霊が見えるわけではないと言えるだろう。誰にも証明できない上、そうする意味も理由もないので何も言わないが。

「怪談をすると低級霊が集まってくるの。悪さしかしないし、集まってきたら強い霊を引き寄せるかもしれないわ。そうなったら大変よ。だから面白半分で怪談話をしたらいけないの」

 怪談話を軽々しくするなというタブーの説明としてはありがちな内容だ。真偽はともかくとして。俺が特に反論せずに聞いていると、黒田さんは俺から恵子たちに目を向けた。

「谷山さんは外部組なんだから、ここのルールを分かってないのね。だったら、あなたたちが教えてあげなきゃダメじゃない」

 確かに俺は本来の校区とは少し違う場所から来ている。全ては学費のためだ。いやそんなことは今はいい。怪談話をしちゃいけませんだなんてルールのある学校があるものか。ここはそういう世界だと言われればそうなのかもしれないが、恵子たちの反応を見るにそうではないだろう。そういう“俺ルール”を押し付けると嫌われたり煙たがられたりするものだが、大丈夫なのだろうか。……という心配をするには遅く、既に彼女は霊感少女として遠巻きにされているのだろう。

 恵子たちが困った顔で黙り込んでいると、今度はイケメンの方に矛先が向けられた。

「あなたもよ。年長者がそんなことじゃ困るわ。一応、私が除霊しておきますけど」

「――君の気のせいということは?」

(おおっと?)

 何やら雲行きが変わった。イケメンは薄っぺらい微笑を消し、何ともいえない無表情で黒田さんに訊ねた。黒田さんは「これだから霊感のない人は困るのよ」と不快そうに眉をひそめる。

「そういう人って、いつも頭ごなしに否定して。自分たちがどれだけ無責任なことをしているのか分かっていないのよね」

「……霊感があるんだったら、旧校舎について何か感じないか?」

 イケメンは旧校舎が気になって仕方がないらしい。俺が昨日、恵子たちに丸投げした質問に、黒田さんはさらりと答えた。

「旧校舎? ああ、あそこは戦争で死んだ人の霊が集まってるみたいね。窓から外を覗いている人影を何度も見たわ」

「戦争で死んだ?」

「ええ。戦時中の人に見えたわよ。自分たちが苦しい思いをしたことを恨んでて、あたしたちが平和で豊かな暮らしをしているのを快く思っていないみたい。あまり性質がよくない霊ね」

 やはり真偽を判断する材料を持っていない俺は、黙って黒田さんの話を聞く。この世界に本当に幽霊が存在するかも分からないし、そもそも俺はそういうオカルトに関わりたくないので、ピリピリして話の内容を吟味する必要もないのだ。黒田さんやイケメンと違って。また、恵子たちにとっては日常生活や遊びのフレーバーとしてオカルトに興味がある程度と思われるので、どちらかと言えば俺に近い立場だろう。だから口を挟むことはない。

 イケメンは冷静に黒田さんの話を聞くと、小首を傾げた。

「へえ。それはいつの戦争?」

(……そろそろやめた方がいいと思うなぁ)

 俺は内心で顔を引き攣らせた。幽霊の正確な時期の情報を言ってしまうと、歴史調査によって黒田さんの言葉の真偽が間違いなく分かってしまう。つまり、常人には分からないという言い訳を使えなくなるのだ。俺にはイケメンが黒田さんを追い詰めているようにしか見えない。これでイケメンが完成度の高い笑顔でも浮かべていたら、リドルと完全に一致しそうだ。リドルはリドルでも、獲物をいたぶるリドルだが。

 だが俺の心配など知る由もない黒田さんは、心なしか得意げにすらすらと答えた。

「第二次世界大戦に決まっているじゃない。看護婦みたいな霊がいたから、きっと戦時中に病院があったのよ。それが空襲を受けたのね」

「それはすごいな」

 俺は心の中で黒田さんに合掌した。イケメンの声が完全に相手を皮肉るそれだったからだ。

「大戦中、あの場所に病院があるとは知らなかった。この学校は戦前からここにあると聞いていたんだが、昔は医学部でもあったのかな?」

(うーわー……。これ、喋るたびに墓穴増やすパターンだ)

 このイケメンは恐らく、旧校舎の下調べを入念に行って頭に叩き込んでいる。憶測での迂闊な発言は論破されるしかない。このまま意地で発言を続ければ、黒田さんは自分のみならず一族分の墓穴を用意するハメになりかねないだろう。

 案の定、黒田さんは顔を赤くして取り繕うように言った。

「そ、そんなのあたしが知るわけないじゃない。とにかく見たのよ。どうせ霊感のない人にはわからないでしょうけど」

「あの旧校舎は取り壊しを嫌うらしいな。なんなら、君が除霊してあげれば?」

(もうやめてさしあげろ)

 そんな俺の心の声が届くはずもない。イケメンの容赦ない言葉に、黒田さんは悔しそうに表情を歪めた。

「簡単に言わないで。できたらやってるわ」

「そう」

 イケメンの短い返事は、相手をやり込めてやったという達成感もなく、ただ興味を失ったような素っ気無さを感じさせる言葉だった。黒田さんは唇を噛み締めると、自分の通学鞄を乱暴に掴んで教室から飛び出して行った。

(ご愁傷様です)

 若干のリドル臭がする鬼畜(仮)に女子高生が敵うはずがなかった。黒田さんは犠牲になったのだ……。あっという間に消えたおさげ姿の背中を見送りながら、俺はしみじみとそう思った。

 その後、百物語が行われることはなかった。完全に気を削がれた恵子たちが、イケメンにそう申し出たのだ。乗り気そうに見えていたイケメンは意外にもあっさりとそれを受け入れ、何事もなかったかのように教室から去って行った。……僅かな時間で疲れた出来事である。



* * *



しかし麻衣兄さんはこれから首どころか全身でオカルト事件に突っ込むのである。という話。
原作麻衣ちゃんと違って除霊の力持ちの兄さんですが、幽霊も見た目人間なのでそれは最終手段かと思います。兄さんにとって、人間殴るより壁に穴開けたり2階から飛び降りた方が気が楽。
ちなみに兄さんの内職はお花作りとかではなく、講演会等の録音を聞いて借り物のワープロかPCで逐語録を作成する奴です。兄さんのタイピング速度ならやりやすい仕事。



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