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念能力兄さんが麻衣に憑依する話
萌え 2016/01/11 22:30


・念能力兄さんがGHの麻衣に憑依
・GH1巻「旧校舎怪談」の超冒頭部分
・生理ネタあり





 全くもって自慢ではないし、できるならば経験値を積まないで済む平穏な日常を送りたいのだが、俺は異世界渡航歴が豊富である。そもそも赤の他人であるイギリス人少年(しかも魔法使い)に憑依することから始まり、理不尽な目に遭う回数は星のごとし。しかしそれでも、ある意味では最後の一線を守られていたのだと気付く羽目になってしまった。

 現在の俺は谷山麻衣という名前の、色素の薄い髪と目に平均的な体格をした、見た目も明るく可愛らしい15歳現役女子高生である。“女子”高生である。言うまでもないが俺自身は男である。しかし体は女子高生である。……俺はおっぱいが大好きだが、自分の胸にくっつけたいという願望はない。20歳の男が15歳の女子高生になっていたというのは、非常に恐ろしい事態である。トイレに行くだけで犯罪者の気分になれるのだ。勘弁してほしい。だがなってしまったものは仕方がない。嫌だ嫌だと言っても現状が変わらない以上、無理矢理にでも受け入れて生きていくしかないのだ。

 意外にも役に立ったのが念能力だ。そう、俺はこの現代日本の過去に近い世界でも念能力者だった。何も鍛えていない谷山少女の肉体なのでオーラ総量がそこそこ減るが、それでも使えるとかなり違う。体力的に楽ができるのだ。早朝の新聞配達も夜間のコンビニ業務も、想像していたより遥かに楽にこなせる。谷山少女は両親を亡くし天涯孤独になった貧乏苦学生のようだが、睡眠時間と食事、ついでに身なりに気を付けるだけで倒れることがないので、バイトをこなす生活はそれほど苦ではなかった。学費を含めた生活費の計算など慣れているし、高校の勉強は俺にとって全て復習なので難易度は低く、赤点を取る心配もない(苦手な英語も気を付けておけばどうにかなる)。今まで廻った世界に比べれば、状況と俺自身の経験値のお陰でこの世界はぬるゲー状態なのだ。自分の体が女子高生であることを除いて。

 例えば生々しい話であるが、初めてこの肉体で生理を迎えた時は本気で焦った。外見をそこそこ取り繕える性格なのでまだマシだったが、内面は大嵐だった。それはそうだ、何の覚悟もない精神:男の股倉から血が滴り落ちたらパニックになる。流血するし腹は痛いし力が入らないしで大いにビビった俺は、恥をかなぐり捨てて保健室に駆け込んだ。股の恥より命の危機が優先である。

 高校の養護教諭は、生理にパニックを起こす女子高生を見て大変痛々しい顔をした。そして懇切丁寧に世話をした後、ことあるごとに俺の生活状況を気に掛けるようになった。恐らく、ひもじい生活を送るあまり今頃初潮が来たと勘違いされたのだろう。女性の体について優しくレクチャーしてくれるので、勘違いをあえて正すことはしないが。そもそも、正そうとして「俺、中の人は男なんですよ」などと言っても受け入れられるわけがない。それはそれで別の誤解を招きかねない。

 そして制服。心が男である俺がスカートを履き続けるのは地味に辛い。しかし通っている学校は指定のセーラー服の着用が原則である。俺は仕方なく有り金をはたいてスパッツを購入し、それをスカートの下に着用することで心の平安をかろうじて保っている状態だ。ボクサーブリーフなんてどうだろうと考えたのだが、どうやら俺の住む現代日本より過去のこの世界ではまだ流行しておらず、手頃な価格で入手しづらかった。つまり今の俺は乙女のパンツとスパッツを標準装備しているのだ。肉体も男の頃は、偶然女の子のパンチラを目撃できたら「ありがとうございます!」と心の中でお礼を言えていたのだが、いざ自分がパンチラする側になるとあまりの防御力の低さに震える。スパッツを履かなければ、時間経過だけで自動ダメージ判定を食らっていたに違いない。女の子のスカートの下はあんなに薄っぺらい布一枚だなんてけしからんありがとうございます、違う、無防備すぎる。俺一人だけ羞恥プレイしている気分である。俺に女装癖などない。絶対にない。

 そんな望まない女子高生生活を始めて早数週間。変化は唐突に訪れた。





 4月のある放課後。俺は校舎の離れにある特別教室棟に足を踏み入れていた。教師から頼まれたちょっとした荷物運びのためだ。大したことのない用事のため、指定された場所に荷物を置いたらさっさと校舎へ戻り、アルバイトへ行こうと考えていた。だが地下に続く階段を降りきったところで俺は足を止めた。

 視聴覚室の前に黒尽くめの男がいた。身長は元の俺と似た170p半ばくらいだ。すらりとした体型で線が細く、かなり若く見える。まだ高校生くらいだろう。しかし着ているのは制服には見えない、質の良さそうな黒いスーツだ。おまけにシャツまで黒い。仮に制服だとしても、この学校は学ランタイプなので他校の生徒ということになる。気になった俺は、彼に気付かれないようにその顔を遠目で窺った。どうやら彼は、視聴覚室のドアに付いた窓から中を覗き込んでいるらしい。

(……うっわ)

 イケメンだった。すんごいイケメンだった。しかも、よりによってリドルと同じ系統の美形である。リドルの顔立ちをもう少し日本人に寄せて、張りぼての愛想(しかし鉄壁)を投げ捨てたらこんな顔になるかもしれない。

 しかしながら来校証を付けていない彼は不審者である。残念ながらイケメン無罪は適用されない。イケメンだろうがなんだろうが、この場にいる理由によってはアウトである。この時代の日本は、まだ歴史に残るような学校における凶悪犯罪に晒されていない。そのため、未だに学校の敷地内へ足を踏み入れる人間に対して寛容であり無防備である。ヤバい方もヤバくない方も割りとホイホイ入れてしまうのだ。警備が強化された未来の学校を知る俺は、だからこそ彼を警戒しなければならない。

 俺は警戒心を隠し、親切めかした笑顔を浮かべて彼に声をかけた。

「視聴覚室に何かご用ですか?」

 青年と少年の過渡期にあるイケメンは、少しだけ瞠目してこちらに振り向いた。驚いたリアクションがこれだけだと、何と言うか年相応の若さに欠ける印象だ。彼は薄く笑うと、あっさりと答えた。

「いや。興味深い話が聞こえたから足を止めただけかな」

「興味深い話?」

 俺は彼の隣に並んで教室を窺った。スライドドアはぴったりと閉じられており、ドアについている擦りガラスの窓の向こう側は暗い。しかし蛍光灯ではない小さな明かりがいくつも見え、中からは少女たちのひそめた声がぼそぼそと聞こえてきた。どうやら怪談話のようだ。1つの怪談話が終わると、明かりがふっと1つ消える。

「……百物語、ですかね」

 百物語とは、日本に昔から伝わる怪談会のスタイルだ。本当はもっと決まりごとがあるが、集まった人が一人ずつ怪談を話し、終わるごとに明かりを一つ消していくという部分は守られているらしい。100話目を話し終わった後に本物の化け物が現れるとされているが、定かではない。

「多少やり方を変えているが、そうだろうね」

 俺の言葉に、彼はさらっと相槌を打った。その内容から、彼が本来の百物語のスタイルをある程度知っていることが分かる。百物語は“怪談を話し終わるごとに明かりを一つ消す”、“100話目が終わった後に何かが起こる”という2つの要素はよく知られているが、それ以外の条件はそうではない気がする。

(オカルト好きのイケメン、ねぇ……)

 碌でもない予感しかしない。何と言ってもここは異世界日本だ。リドルという強烈な前例があるせいで、黒尽くめの彼の中身がゲスかったりトラブルホイホイだったりする可能性に怯えざるを得ない。うっかりトラブルに巻き込まれて、いつの間にかリアル肉フェス(比喩)を目撃する未来を迎えてしまっては後悔しても遅すぎる。必要以上に関わらないのが得策だろう。そう考えた俺は、彼の相手を教室内の女子高生に押し付けることにした。

「興味があるなら、教室に声をかけましょうか?」

「自分で話しかけるから構わない」

 やはりさらりと断られ、内心で肩をすくめる。そう言うのなら俺が食い下がる理由は何もない。教室内に女子生徒は複数いるようだし、彼が何か無体を働こうとしても数の暴力でどうにかなるだろう。彼が武器を隠し持っているのなら話は別だが、話をしていても“これから人を殺してきます”的なヤバさを感じない。……その感覚を経験的に知っている自分が非常に嘆かわしい。殺人犯に腹をぶっ刺されたり、犯罪者集団に首根っこ掴まれた経験のある人間なんてそんなにいませんよね知ってる。それぞれが誰とは言わないが。

「それじゃあ、これで」

「いや、一つだけ質問がある」

 さっさと立ち去ろうとした俺だが、呼び止められて足を止めた。

「旧校舎の噂を何か知らないか」

 旧校舎とはその名の通り、現在の新校舎の前に使われていた場所で、今は放棄されている。学校の敷地の西側にあり、俺が所属している1−F教室からはその外観を遠目に見ることができる。見た目は木造の古い校舎で、いかにも幽霊が出そうな雰囲気を漂わせている。それだけならば面白がった生徒が入り込みそうだが、建物の老朽化が進んでおり危険だからという理由で、関係者以外の立ち入りは禁じられていた。

 この流れで出た話題なのだから、噂というのはオカルト方面のそれだろう。俺は首を横に振った。

「特には。噂にはそれほど詳しくないので。それこそ、教室の中の子たちの方が詳しいと思いますよ」

「そうか」

 会話は今度こそそれで終わりだった。俺は踵を返すと、足早にその場を立ち去った。



* * *



こんな兄さん。一人称は俺なのですが、女子高生の言葉遣いとしてはおかしいので、できるかぎり使わないように頑張っている兄さんです。そしてナルを襲う熱い風評被害。大体リドルが悪い。
念能力兄さんは、目に凝をすれば幽霊が見えます。さらにオーラを使えば幽霊相手に戦えます。それもう霊能者。
霊媒師の真砂子との違いは、霊がある程度強くないと声が聞こえないこと。憑依霊の見分けは真砂子の方が上かなと。
真砂子は麻衣の体に兄さんが憑依しているのががっつり見えるので兄さんに懐かれます。真砂子の身に危険が迫っても、兄さんが最優先で守りに行くと思います。兄さんの姿は真砂子にしか認識できないので……
兄さん、リンさんの式が見えるんじゃないかな。



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