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ルク兄さんとジェイドの初対面
萌え 2016/01/05 21:24


・ジェイド視点→ルク兄視点
・原作序盤エンゲーブ
・ルク兄さんはシュザンヌ(母)似





 雲の上しか歩いたことのない青年。それが、ジェイド・カーティスがルーク・フォン・ファブレに対して抱いた第一印象だった。本来、合理性を好み、詩的な表現を用いないジェイドにしては珍しい評価である。その評価は青年が猫を被っていたせいだと気付くのは随分後になるが、穏やかな気性を指すのであれば的確な表現だとジェイドは自負する。

 ジェイドが初めてルークと出会ったのは、導師をキムラスカへ護送する最中に立ち寄ったエンゲーブだ。当時のエンゲーブでは食料の盗難事件が起きており、部下にイオンの護衛を任せたジェイドは一人で村の中を歩き回っていた。解決そのものはエンゲーブから最も近いセントビナーの駐屯軍に任せるつもりなので、ジェイドがわざわざ出歩くのは単純に牽制のためだ。ジェイドの佐官服は、盗難犯が迂闊な行動に出ることを防げるだろう。現在のジェイドの最優先任務は導師を守り抜くことなので、導師の身に危険が迫らなければそれで良い。それをエンゲーブの村人に知られると心証がよろしくないので、表面上は村を気遣っているが。

 そんな中、ジェイドは露店が並ぶ通りで明らかな余所者を見つけた。茶色のフード付き外套を目深に被っているため、表情が窺い知れない。あからさま過ぎるのでかえって怪しくないようにも思えるが、ジェイドは通り過ぎる振りをしてさり気なくフードの人物に近づいた。

 謎の人物は、露天に積み上げられたリンゴを眺めているようだった。フードから覗く顎は細く、肌の白さと相まって、市井の民にはあり得ないほど繊細に見える。荒事に携わっているようにはとても思えない。だが、今は導師の身を預かる立場にある。不審な人物は見逃すわけにいかなかった。

 ジェイドは露天から離れた彼に声をかけた。

「失礼。少々お時間をいただいてもよろしいですか?」

 声を掛けられた青年が、ジェイドに振り向く。フードの下にある青年と目が合った瞬間、ジェイドは確信した。

(――貴族か)

 青年は予想よりも若かった。むしろ幼さすら匂わせており、成人しているかどうかも怪しい。やはり正面から見ても分かる線の細さは、キムラスカよりも平均身長が高いマルクトでは、ドレスを身に付けていれば貴族令嬢で通じそうな雰囲気がある。

 髪はフードの中に収められていて見えなかったが、夏の木々を思わせる瞳を縁取る長い睫毛は眩い朱金だ。

(赤毛と緑眼はキムラスカ王家の血筋のみに現れる遺伝。現在、彼くらいの年齢で公式発表されているキムラスカ王族は――ファブレ公爵家のルークのみ? そんな馬鹿な)

 貴族の青年――恐らくルーク・フォン・ファブレはジェイドを見て軽く目を見開くと、口角に笑みを浮かべた。

「何か?」

(そつのない表情だ。容姿を隠しきれていれば、今の驚きは軍人に声を掛けられたからだと解釈できた)

 ジェイドは咄嗟に計算した。キムラスカ王家の特徴を有する青年を利用するにはどうすれば良いのか。どのような対応が最適か。一人でフラフラと出歩く青年は抜けている面があるが、素早く表情を隠せる時点で馬鹿ではない。まずは下手に出るのが良いだろう。

「やんごとなき方とお見受け致します。現在、この村では盗難事件が頻発しております。差し出がましいですが、供も連れずに出歩かれるのはいささか軽率ですよ」

 すると、青年は小さく噴き出した。

「随分、はっきりとした物言いをされるのですね」

 若々しいが落ち着いた声で返される。意味が分からないが、少なくとも彼は自分が高貴な人間であることを否定しなかった。貴族であるのは間違いないだろう。

「“差し出がましいですが”、軽率という表現をもう少し柔らかくされた方が、角が立たないと思いますよ」

 ジェイドには意識的にも無意識的にも相手を挑発する傾向がある。彼が稀有な実力者であるが故に可能である攻撃的な交渉術は、非常に敵を作りやすい。確かにそれはジェイドが抱える悪癖の1つだった。それを皮肉を交えて返してみせるとは、繊細そうな見た目に反してなかなかしたたかな青年である。

 指摘された内容に反論はなかったため、ジェイドは軽く頭を下げてみせた。

「……肝に銘じておきましょう」

 青年はまたおかしそうに笑い出した。口調こそ丁寧だが、意外にも気さくな印象を受ける若者だ。彼はジェイドの肩章に素早く目を走らせ、再びこちらを見上げた。

「ええと――大佐殿、でよろしいですよね。大佐殿は既に推察されているでしょうが、私がこの地に居るのは不測の事態によるものです。できる限り、内密に保護していただきたい」

「では、ちょうどエンゲーブ近郊に私の師団が所有する陸艦を待機させておりますので、そちらへご案内します」

「陸艦を待機“させて”……失礼ですが、指揮官でいらっしゃるのですか?」

「ええ」

 ジェイドが頷くと、青年は少し考えてから感心したような眼差しをこちらに向けた。

「なるほど。佐官の身で師団長を務めていらっしゃるのは知る限りでは唯一人。貴方は第三師団師団長のジェイド・カーティス大佐でしたか」

「ご慧眼で」

 やはり馬鹿ではないようだ。そうなると、恐らく青年はジェイドの功績を知っているだろう。キムラスカでは恐れられ嫌われている自分に対してどのような反応をするのだろうか。ほんの少しの興味を持って青年の言葉を待っていると、彼はまた笑った。

「貴方ほどの方でしたら、窃盗犯など恐るるに足りませんね」

「ありがとうございます」

 予想以上に寛大で好意的な反応であった。案外、肝が据わっているのかもしれない。





 という初対面。以下、タルタロスに乗り込むときのちょっとしたやり取り。公式美形で剣術捨てたインドアだと、うっかりこういう勘違いをされてもいいかもしれない。
 兄さん視点で。





 タラップを目の前にした時、隣に立っていた兵士が俺に手を差し伸べた。

「お手を」

 その瞬間、俺とジェイドは笑顔のまま、ぴしりと音を立てて凍り付いた。これは明らかに女性への対応なので当然だ。確かに俺の正体を知っているのはまだジェイドくらいだが、肉体年齢17歳でこういう勘違いをされるとは思わなかった。しかし俺の口から「実は男です」と注意すると角が立つ。ジェイドが注意しても同じだ。さて、どうしようか。

 悩みに悩んだ末、俺は笑顔で手を差し出すことにした。俺が手を重ねると、手を差し伸べた兵士はしばし硬直した。そして羞恥で赤面し、失態に蒼褪める。

(ですよねー。俺の手、普通に男の手ですからねー)

「もっ、申し訳っ」

「お気遣い、ありがとうございます」

 明らかな男の声で、周囲に居た兵士が「あっ」という顔になった。同僚がやらかしたことに気付いたのだ。

「歩き疲れているので、もし階段で転んだら助けてください」

「承りました!!」

 うっかり気遣いを間違えた兵士は、もう泣きそうだった。頑張れ。





 きぞくってたいへんですね。
 そんな妄想。



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