更新履歴・日記



久々にルク兄さん話
萌え 2013/07/20 21:51


・バチカル帰還後
・王から「ルークお前、アクゼリュス派遣ね」と言われた後
・ファブレ公爵邸
・ルク兄とアニスの密談
・恋愛感情があるかどうかは各自で妄想





「アニス」

 囁く様に呼ばれ、アニスはどきりとして傍らに居るルークの顔を見上げた。すると、彼の顔は別の方向を向いているものの、目線だけがアニスに寄せられていた。彼は人差し指を自分の唇にこっそり押し当てると、僅かに顎を動かして“ついてくるように”と示す。すぐに逸らされた視線に、忍ぶ逢瀬を想起させられたアニスは、自然と熱を持っていた頬を両手でぺちりと叩いた。





 愛の告白があると本気で思っていたわけではない。どんなにアニスに優しくとも、彼は雲の上の人間である。アニスの甘えを許してくれても、それが永遠でないことは分かっている。だが、それでもルークの発した言葉は予想外だった。

「イオンを連れてダアトに帰れ」

 ファブレ公爵邸のある一室に通されたアニスは、ルークから開口一番にそう告げられた。導師がルークと共にアクゼリュスへ行きたがっていることは、ルークも承知しているはずだった。アニスが抗議する目で見上げると、彼は僅かに眉尻を下げる。

「導師の役目は和平の口添えであって、その後の親善大使派遣にまで携わる必要が無い」

 確かに、イオンがジェイドを通してマルクト皇帝から頼まれたことは、マルクトがキムラスカへ和平を申し出る際の口添えであり、それ以外を望まれてはいない。だが、両国の和平を強く願うイオンは、ローレライ教団の導師として、親善大使との同行を望んでるのだ。アニスはそれを悪い話だとは思えなかった。

 だがルークは首を横に振る。

「目的地は瘴気が蔓延するアクゼリュスだ。向こうでは鉱夫ですら倒れていると聞いている。体が弱いイオンには荷が重い」

「ルーク様だって体が強いってわけじゃないですよね」

 ルークは非公式の場で時折、自虐で「俺はもやしっ子だから、放っておかれると死んじゃう」と言って笑いを取る。実際のところ、虚弱体質ではないが平民と比べるとやや運動不足で、体力に優れているわけでもないので、護衛が居なければ魔物にあっさり殺されるという意味合いである。だが瘴気で鉱夫が倒れる場所ならば、イオンのみならずルークとて危険だ。今まで行動を共にしたメンバーの中では、イオンの次に倒れそうな人物である。

「俺には王の命令がある。向かえと言われたから向かわなければならない。ただ、イオンまでそれに付き合う必要はない」

 それでもルークはアニスの言葉に耳を貸そうとしない。アニスは必死にルークに食い下がった。それがイオンの望みであり、同時に、アニスももう少しルークと共に旅がしたかったということもある。あまりにアニスがしつこかったのだろう。やがてルークは深いため息をつくと、突然目の色を深くした。彼から不意に醸し出された異様に深刻な空気に、アニスは思わず怯んで口を閉ざす。

 ルークは端的に告げた。

「キムラスカとマルクトで戦争が起こる可能性が高い」

 あまりの言葉にぽかんとするアニスに構わず、彼は続ける。

「だからダアトに戻るんだ。そこが1番安全な場所だ。……キムラスカにはマルクトと和平を結ぶ気がない」

(そんなの嘘だ)

 アニスは思い切り首を横に振った。あんなに苦労してダアトからキムラスカへ向かい、謁見の間でイオン達があんなに真剣に訴えた。キムラスカ王はそれを確かに受け入れたのだ。それなのに、それを覆すなんて嘘だとしかアニスには思えなかった。

「イオン様は和平を真剣に望んでいます! だったら、イオン様も居た方が戦争だって起こらないですよ!」

「声が大きい」

 ルークは咄嗟にアニスの口を手で押さえた。「一応、防音室だけど」と呟き、アニスが落ち付いたのを見計らって手を放す。アニスがじろりと睨んでも、ルークは怯まなかった。

「キムラスカの王族がマルクトの地で死ねば話は別だろう?」

 彼の言葉の意味を図りかねていると、ルークは分かりやすく爆弾を投じた。

「アクゼリュスで俺は殺される」

 その言葉を脳内で反芻した瞬間、アニスの周囲から一気に音が遠ざかった。アクゼリュスで、ルークが、殺される。それはあまりにも現実味が無い言葉だった。だがそれを告げるルークの表情は真剣で、否定を許さない。

「恐らく、俺の死を大義名分に掲げて戦争を起こすのが上層部の狙いだ」

 アニスが微かに震えていることなど気付いているだろうに、彼は気付かないふりをして話を続ける。

「モースのあの態度を考えると、案外秘預言(クローズドスコア)に詠まれているのかもしれないな」

 確かモースは、アニスがイオンの守護役になってから、キムラスカに出入りすることが多くなった。最近ではキムラスカでの滞在期間が伸び、教団内、特に導師派では、モースの内政干渉がまことしやかに囁かれるほどであった。教団はその性質上、布施を受け取る代わりに預言(スコア)を各国に提供するが、預言を利用した内政干渉は決して行わないという不文律がある。歴史は預言によって定められているが、あくまで歴史を作るのはそれぞれの時代の為政者であり、預言士(スコアラー)は予定されている轍を伝えるのみと考えられているのだ。そのため、神聖視されている預言を利用して、私腹を肥やしたり自我を押し通すことは、預言を穢す行為として忌避されている。導師の守護役としてイオンに張り付いていたアニスは、モースの態度は噂で聞く程度しか知らなかったが、先日、キムラスカの謁見の間で次期国王であるルークに暴言を浴びせる様子を見て衝撃を受けていた。元々アニスは、モースが殊勝な人間であるとは思っていなかったが、そこまで醜悪な態度を取るとも思っていなかった。今思い出しても、アニスのように非公式の場でのおふざけが許されているわけでもないのに、公式の場でのあの態度は異常だ。ルークがそう遠くないうちに死ぬと知っているから、横暴な態度なのかもしれない。

 ちなみに、秘預言というものは、聖女ユリアが詠んだ惑星預言(プラネットスコア)であり、預言の中でも歴史の根幹に携わるものを指す。ユリアがその預言が刻まれた譜石を隠したためそう呼ばれている。それは導師にしか詠めない代物だが、イオンを軟禁してのけるモースが知っていてもおかしくはない。そして、そこにルークが推測した内容が刻まれていても、アニスにはその真偽を追及できない。アニスは導師守護役である。僅かでも導師に危険が及ぶ可能性があるのならば、ルークの忠告には従わなければならない。それがイオンとアニスの意思から外れていても。

「で、も。ルーク様が危険でも、傍に居ると危険って理由には」

「王はジェイドからのキムラスカ側の街道の使用許可と、マルクト兵の増援の申し出をあっさりと受け入れた。しかも増援に関しては、ほぼ無制限でだ」

 ルークはやはり、きっぱりとアニスの言葉を否定した。

「キムラスカ側の兵は増やさない癖に、マルクト側のそれを許すというのは不自然だ。普通に考えたら、キムラスカ側のアクゼリュスへの貢献度が下がるからありえない。おまけに、いくら首都と別大陸とはいえ、他国の軍を自国に入れるのは火種の元になる。それでも通すということは、自国の兵を行かせたくない理由が、もしくはマルクト兵を行かせたい理由があるからだ。――アクゼリュスに近付く事自体が危険なのかもしれない」

 一度にたくさんのことを喋られたから、飲み込むのに苦労していることを察したのだろう。ルークはアニスの目をじっと見つめて分かりやすく告げた。

「イオンとアニスは、俺と一緒に居ない方が安全だよ」

 ルークはアニスよりも頭が良いし、イオンよりも色々な事に気が付くし、ジェイドと難しい話をしていることも多い。その彼がそこまで言うのだから、ルークが殺されることも、ルークの傍に居ると危険だということも、全て真実に限りなく近い推測なのかもしれない。最早食い下がることも出来なくなったアニスは、黙って彼を見つめ続けた。するとルークは、ふっと表情を緩めて微笑んだ。

「今までありがとう、アニス」

 それはとても優しい笑顔で、とても優しい声で告げられた別れの言葉だった。

 もう2度と会えないかもしれない。そう思った途端、アニスの鼻の奥がつんと痛んだ。次いで取り繕う間もなく両目からぼろぼろと涙がこぼれ、自分でも驚く。こんなにルークのことを好いているとは思わなかった。思い出してみれば、ルークはいつもアニスとイオンに優しかった。今だって、手っ取り早くイオンの申し出を突っ撥ねてしまえば良いだけなのに、わざわざアニスとイオンのために、こっそりとアニスを呼んで話をしてくれた。……恐らく、より確実にイオンとアニスをアクゼリュスに向かわせないために。イオンとアニスを護るために。イオンがこの場に呼ばれなかったのは、きっと導師であるイオンをこそこそと呼びだすことができないからだろう。アニスは、今頃ファブレの精鋭に護られているイオンを思い浮かべて、新しい涙をこぼした。ルークは、アニスにイオンを説得させようとしているのだ。アニスはあの優しい少年に、何と言えば良いのだろうか。

 ルークは泣き出したアニスに瞠目すると、笑顔に苦みを足した。アニスが見慣れた優しい苦笑いだ。

「……泣いてくれてありがとう」

 職業軍人よりは細いが、アニスよりもずっと大きな男の手が彼女の頭に触れる。もう随分と前から、両親に対して素直になれなくなっていたアニスにとって、慈しむように触れてくる相手はルークくらいだった。この手がアニスに触れる機会は、永遠に失われてしまう。

「でもあまり泣かないでくれ。泣き腫らした目を見られたら、何か勘繰られるかもしれない」

 いつの間にか取り出されていた、白い絹に緋糸の刺繍が施されたハンカチが、アニスの目元にそっと押し付けられる。感極まったアニスは、肌触りの良い布をすり抜け、正面から青年に抱き付いた。非公式の場ならば、アニスが抱き付いても青年はそれを必ず受け止めてくれることを知っていた。

「……ルーク様に労いのお言葉をもらったって言います。平民はそれで泣いて感激するものですよね」

 ルークの胸元に顔を伏せたまま、アニスはそう返した。すると、頭上から少し呆れた声と優しい腕が降ってくる。

「アニスは導師守護役(フォンマスターガーディアン)だろ? 平民よりは為政者を見慣れているし、泣くまで感激するのは少し不自然だ」

「アニスちゃんは感受性が豊かなんです」

「……そうか」

 アニスはルークの胸に顔を埋めて深呼吸した。涙を止めるための行動だったが、鼻腔にあまり嗅ぎ慣れない香りが届いたので目を瞬かせて彼を見上げる。軍人貴族であるファブレ公爵の嫡男だけあり、国王との謁見のために軍服染みた正装をしているルークは、アニスの背を優しく叩きながら首を傾げた。

「……ルーク様、いつもに増していい匂いがします」

「……さすがに変態っぽいぞ、それ」



***



 書きたかったこと:ルク兄さんはいい匂い。

 王族な公爵子息様は身だしなみにも気を遣わないといけないなら、きっといい匂いさせてるよねというひどい妄想。

 ルク兄さんは死亡フラグ回避のために色々考える癖がついているので、アクゼリュスのことは色々と推測できそうです。アニスにはあんなこと言ってますが、大人しく死ぬつもりは全くありません。



prev | next


×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -