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刀帳番号九五、山姥切国広−2
萌え 2015/09/27 21:31


・1の続きで審神者ゾル兄さんと山姥切国広の話
・ゲームシステムの話が多い
・さらっと捏造設定が多い
・ぴくしぶ神様の漫画ネタを拝借
・ゾル兄さんの時間軸がTOA編後





 俺と布被り、もしくは布お化け、あるいは布饅頭の山姥切国広(やまんばぎりくにひろ)は、こんのすけに先導されて本丸内にある刀装部屋へ足を踏み入れた。床が板張りのそこは入り口から見て最も奥まった場所に神棚が設置されており、左側の壁には和箪笥が、右側の壁際には木や石でできた衣装箱のようなものがあった。和箪笥には圧迫感を感じるが、部屋としては狭くも広くもないだろう。こんのすけは神棚の正面にある紫色の座布団に俺を座らせ、その斜め後ろにある座布団に山姥切国広を座らせた。

「それでは主さま、右手にある資材箱から木炭・玉鋼・冷却材・砥石を必要なだけ取り出してください。取り出すとは言っても、それぞれの資材箱の蓋にある目盛りを調節するだけですが。ちなみにそれぞれの資材は、最低でも50以上に設定してください。それ以下は必ず失敗すると今までの統計データで証明されています」

「……あー、うん。資材な、了解」

 一気に色々と言われて思考が停止しかけたものの、どうにか持ち直した俺は資材箱をそれぞれ見て回った。大きな衣装箱、もとい資材箱は4つあり、中を覗いてみると手の平にすっぽりと収まる程度の木炭・玉鋼・砥石が整然と積まれている。それらは木でできた資材箱に入れられていたが、冷却材だけは石でできた箱に入れられていた。ちなみに、いわゆる水である冷却材のみ箱の中にどばっと流し込まれている。資材量はそれぞれ1000以上は軽く超えているだろう。蓋には妙に古めかしいダイヤル式の目盛りが1つと、その隣に2000と表示された目盛りがあった。2000は資材の残存量で、ダイヤルで使用量を設定するのだろうか。

「こんのすけ、こっちの引き出しは?」

 資材箱の隣、神棚の最も近くに置かれていた小ぶりの箪笥を指差して訊ねると、こんのすけはハッと思い出した顔をした。

「失礼しました! そちらは御札入れとなっています。御札には高ランク順に富士・松・竹・梅があり、これを使って刀装作りをすると高品質なものが作成しやすいのです。今回は初めての作成ですので、そちらを使用せずに行なってみましょう」

(駅弁みたいなランクだな)

 ものすごく俗っぽい感想を抱いたが口にはせず、俺はこんのすけに頷いてから山姥切国広を見た。することがなく所在なさげにしていた彼は、俺の視線に気づくと布を目深に被り直した。どれだけ俺に顔を見られたくないのか。

「なあ、資材はどのくらいがいいと思う?」

「写しの俺に聞いてどうする。……初めてなら50ずつでいいんじゃないか?」

 山姥切は文句だか何だか分からないことを言ったものの、そのすぐ後にぼそぼそと呟くように意見を述べた。彼はツンデレなのかしゅんデレ(しゅんとしつつデレる)なのか、もしくはじとデレ(じっとり落ち込みつつデレる)なのか。ともかく内心で「デレいただきましたー」と本人にはとても言えないことを考えながら、俺はダイヤル式の目盛りをそれぞれ50に設定した。

「次はどうするんだ?」

「神棚に向けてそちらの座布団に座り、神棚最前列の段にある長膳の上の玉(ぎょく)を1つ手に取ってください。無色透明のそれです。そちらを後列――扉の前にある朱塗三方の上に置いてから霊力を込めるだけです。もし御札を使う場合は、先に御札を扉の中――内陣ですね、そこにお供えしてください」

 またしてもこんがらがりそうになる指示をどうにかこなし、俺は座布団に座り直した。あとは玉に霊力をこめるだけである。……それこそが最大の難関なのだが、こんのすけは期待の眼差しでこちらを見上げている。床の上に行儀良くお座りする子狐は可愛らしいが、俺に要求されていることはあまり可愛くない。

 しかし、このまま固まっていても話は進まないので、俺は仕方なく玉に霊力を込める振りをしてそれを見つめた。ここまで来ると最早開き直っており、ほぼ最初からオーラをぶち込んでやる姿勢である。もしかすると奇跡が起きて、刀装:ゴンさんとかできるかもしれない。遡行軍をジャン拳で倒してくれるような。……あれ、それ刀剣男士いらなくね? だがそれを実行する直前、山姥切国広に右肩を掴まれた。

「……初対面から感じていたが、霊力の扱いが苦手か?」

「そもそも霊力の感じ取り方すら分からない」

 俺が答えた途端、山姥切国広は間違いなく絶望した顔をした。お前の主がぽんこつなのはお前が写しだからではなく、俺が不器用だからである、と先に言っておいた方がいいだろうか。

 山姥切国広は一度俯いてから顔を上げた。青い双眸は妙に澄んでおり、何かを決意したような表情に見える。最初からそういう顔をしていれば主人公級のイケメンなのだが、こじらせネガティブ系とは罪深い。

「写しの俺でよければ、代わりに作ろう。下手にあんたが作ろうとすると資材が破裂しかねない」

「お前が神か」

「一応、低級だが神格持ちだ」

「そうだった」

 資材が破裂しかねないとはなかなか酷いたとえだが、資材側で体験済みの彼にとってはあながち冗談ではないのかもしれない。本当に悪いことをした。だが、恐らく自力で俺から霊力をもぎ取って顕現した彼のことだ、俺よりもよほど上手く刀装を作れるのではないだろうか。そう思った俺は、山姥切国広と座る位置を入れ替えた。こんのすけも何も言わなかったのが少し切なかった(後から、刀剣男士も審神者に代わって刀装作りをすることが多いと知った)。

「俺の本体に手を。そうすれば後は俺がやる」

 そう言われたため、俺は右手を山姥切国広の本体――つまり刀の柄に手を添えた。本当に手を添えるだけで、余計なことは一切しない。すると朱塗三方に置かれた玉が白く発光し、光が収まった頃には緑色に染まっていた。

「……これでいいんだろう」

「これは軽歩兵・並ですね。十分使用に耐えうる出来ですよ!」

 確か刀装にもランクがあり、上から特上・上・並となっているらしい。並は一番下だが失敗するよりずっといいし、俺に至っては失敗を通り越してランク無である。……俺は何故審神者に選ばれたのか。

 俺は柄から手を離すと、山姥切国広を褒めちぎろうとした。

「おっ! すごいな、えーっと……山姥!」

「俺は婆さんじゃない!」

「ですよねー」

 ふと呼び方を決めていなかったことを思い出して適当に呼んだら、案の定拒否された。妖怪人食いババアと呼んだも同然なので当たり前である。

「じゃあ山姥切?」

「それは本科だ」

 本科とはオリジナルのことだろう。そちらの名前で呼ばれても困るということか。かつて俺はルークというレプリカ少年とそのオリジナルであるアッシュに出会ったことがあるが、ルークをアッシュと呼んだらルークは際限なく落ち込むだろうし、アッシュは俺を殺しにかかるだろう。なるほど、納得だ。

「だったら国広?」

「国広と名の付く兄弟は他にもいる」

 どうやら彼には兄弟がいるらしい。それでは今後、兄弟が来た時に国広呼びではややこしいかもしれない。彼の兄弟もこじらせ系だったらどうしよう。

「え? じゃあ……まんば」

「は?」

 今度は胡散臭そうな顔をされた。駄目らしい。俺も呼んだ後にマンドリンとかタンバリンみたいだと思った。……このことは黙っておこう。

「うーん……(ヤマンバ)ギャルとか」

「ぎ、ぎゃる?」

「ごめん今の嘘だから忘れろ」

 渋谷や原宿に生息している野生の少女たちほど、彼は気が強くなさそうだ。むしろ少女たちに囲まれて何もできず、しおしおと布の中に引き籠る姿が目に浮かぶ。

「あとは……そうだ、真ん中を取って切国(きりくに)とか!」

「それなら構わない」

 これなら大丈夫らしい。呼び名一つでここまでややこしいとは思わなかった。俺はゴホンと咳払いをして気を取り直した。

「よし、決まりだな。というわけで……刀装作りの一発成功おめでとう、切国」

 にかっと人好きのする笑みを浮かべて見せると、山姥切国広はすっと目を逸らした。

「別に……このくらい、写しの俺でもできる」

「俺はできなかった件について」

「う……それは」

 俺の自虐的な訴えに対して、山姥切国広は困ったように視線を彷徨わせた。俺の残念な審神者力は、初期刀にすらフォローできないレベルのようだ。いいよ別に、俺は念能力者だから! 自分の肉体と生命力で勝負する系だから! ……こういう言い方をすると、俺がまるで筋肉さえあれば何でもできる筋肉信望者のように思われそうだが、脳筋では決してないと主張したい。では何者かと問われたら、凡人捨てきれない暗殺者だろうか。なんだそれ。

「いいじゃないか、写しの切国にギリギリ審神者の俺で。いいコンビじゃん。要は敵に勝てばそれでいいんだよ。勝てば官軍っていう便利な言葉もある」

 俺は開き直った。もう自虐コンビでいいじゃない。山姥切国広は今のところ、自虐するほど残念なスペックとは思えないが、俺は完全に残念な審神者スペックである。従って自虐ネタに抵抗はない。プライドは実家に帰った。いや、実家に帰ったらものすごくしごかれそうなので、やっぱり旅に出たことにしておこう。ゾルディック家のしごきは可愛がり(物理)である。

 すると、会話が一旦途切れたのを見計らったこんのすけが口を挟んだ。

「それでは、今度こそ出陣ですね。出陣時に必要なゲートの操作をお教えします」

 この本丸には通常の本丸と同じくゲートが2つ存在する。通常は正門と裏門といった具合で、裏門に当たるゲートは緊急時の脱出や正門側にトラブルが生じた場合に使用される。だがこの本丸の場合、正門側がハンター世界に繋がってしまったので、原則として俺や特定の政府関係者以外の使用は禁じられている。ゲートの転移先もハンター世界以外の設定は消去されているらしく、俺か政府関係者のみが使用できるように特殊なプロテクトを施されているという。つまり、通常時はただの鳥居だ。そのため、未来政府が存在する世界やさらにその世界の過去にある戦場、政府が用意した演練場、万屋と呼ばれる物資の販売所などに繋がっているのは裏門側のゲートのみとなる。俺の場合は、何かあったら正門側ゲートから自分の世界へ退避しろということだ。

 ちなみに、先ほどの政府関係者が帰る際に使用したのも裏門側のゲートである。こんのすけや山姥切国広を顕現したのもその付近だ。

 俺は座布団から立ち上がると、部屋から出て行こうとするこんのすけの背を追う前に山姥切国広に声をかけた。

「それじゃあ一緒に出陣しに行くか、切国」

「ああ。……は?」

 何気なく言ったつもりだったが、どうやら不可解なセリフだったらしい。山姥切国広は整った眉を歪めた。

「おい待て。まさかあんたもついてくる気か?」

 俺は笑顔でサムズアップした。

「威力偵察って大切だよな」

 威力偵察とは、平たく言えばあえて敵と交戦することで相手の戦力を測る行為である。異世界政府から事前に渡された資料で、ある程度は遡行軍のデータを頭に入れているが、やはり実物は見ておきたい。ついでに言うと、山姥切国広の実力も見ておきたい。

 すると、こんのすけがガバッとこちらに振り向いて金切り声を上げた。

「主さまァァァァ!?」

 小さな狐は全身の毛がぶわっと逆立ち、ひどい有様だった。おまけにまん丸な目は潤んでいる。

「あなたさまに何かあったら、こんのすけはどうすればよいのですか!?」

「無茶なことはしないから大丈夫だって」

 要するに人間離れした動きを控えておけばいいのである。若者の人間離れが進む社会なんて笑えないですよね。大丈夫、空気を読んでちゃんと自重する。それに遡行軍も、まさかハンター世界のまだ見ぬキメラアントほどの強さはないだろう。奴らは基本スペックから人間を超越している上に、進化の度合いがえげつないのだ。キメラアント編には死亡フラグの濃厚な香りがするので、正直関わりたくない……。あんな凄惨な戦場の真っ只中に将来、俺の弟が突っ込んでいくなんて今でも信じられないくらいだ。とまあ、そんなわけで遡行軍には油断しなければ負けないだろうと思っている。なにせこのゾルディックスペックだ、逃げ切ること自体は難しくない。勝てるかどうかとなると、それは遡行軍次第である。だからこそやはり、偵察は必要だと思われる。霊力で動く相手に、念能力者がどこまで戦えるかはどうしても知っておきたい。

 しかしこんのすけはブルブルと勢い良く首を横に振った。そんなに激しく振ったら首がもげそうだ。

「万が一を想定するのがこんのすけの仕事です!」

「じゃあそれを想定して、準備して、いい子でお留守番しててくれ」

「主さまァァァァ!?」

 とうとう耐え切れなくなったのか、こんのすけが俺に飛びついてきた。恐らく全力なのだろうが、子狐のタックルを受け止めきれないはずもない。軽々と俺にキャッチされたこんのすけは、キャンキャンと喚きながら俺に撫で回されるという意味不明な状態になった。

「おい、いいのか? こんのすけがひきつけを起こしそうになっているが」

「大丈夫。こんのすけは簡単にバグらない子だから」

「ばぐ……」

 言葉の意味を何となく察したらしい。山姥切国広は半眼で俺とこんのすけを見つめた後、深いため息をついた。



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