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審神者補助妖怪、こんのすけー2
萌え 2015/09/13 23:08


 鳥居の前で政府職員を見送った俺は、とりあえずその場で竹筒の蓋を開けた。何も考えず、余計なことはせず、単純に蓋を開けた。するとシュポンという空気が抜けるような小気味の良い音が鳴り、竹筒から白い煙の様なものが飛び出して来た。それは俺の足元で収束すると、小型犬ほどの大きさの子狐を形成した。本物の狐よりもぬいぐるみのよう――悪く言えば短足寸胴体型――な愛らしい狐は、体のあちこちに赤い隈取のような模様がある。そんな不思議な見た目の子狐は、たっぷりとした毛並みの尻尾を振りながら白塗りの顔で俺を見上げた。まん丸な黒い瞳がキラキラと輝く。

「初めまして、審神者様。わたくし、政府に属する陰陽寮の飯綱使い(いづなつかい)によって作り出されました人工の管狐、名をこんのすけと申します」

(なんだこいつ可愛過ぎる)

 モフりたい。すごくモフりたい。頭も胴体も尻尾もモフモフしたい。撫でくり回したい。家に持って帰りたい。だが初対面でそんなことをするわけにも行かず(それ以前に、お持ち帰りしたらカルトに“可愛がられ”て惨殺されかねない)、俺は内心の情熱を表に出さずに微笑んだ。俺の愛想笑いのスキルはEXレベルかもしれない。

「これから審神者様のサポート役としてお傍に付きますので、どうぞよろしくお願いします」

「こちらこそよろしく、こんのすけ。ところで管狐って、75匹まで増えるあの狐?」

 初っ端であるが不安なので遠慮なく尋ねると、想定内の質問だったのかこんのすけは動揺一つ見せずに頷いた。

「管狐とは言っても、審神者様のサポート用に作られているのです。審神者様を不幸になど致しません。通常の管狐のように、こんのすけが75体まで増殖することは変わりません。ですがそれはスペアとして使われます」

「スペア?」

 古風な見た目に反する現代的な単語に首を傾げる。やはり製作者だという飯綱使いが未来の人間だからだろうか。

「はい。通常の審神者様の場合、同期生全員に対して1体のこんのすけが配属されます。例えば10人なら10/75体がそれぞれに憑き、さらに30/65体、つまり1人につき3体分のスペアが分配されます。加えて1/35が政府に保管され、残りの34体が同期生全員で共有する予備となります。予備は必要に応じて消費されていく仕組みです」

 なるほど、管狐を最初から分裂しているものとして捉え、75匹全ての使い道を決めてしまうのか。それならば1人、あるいは1つの本丸で養えないほど分裂されて潰れるという心配がない。この辺りの特殊な調整をするのも飯綱使いの仕事なのだろう。未来の陰陽寮はすごいらしい。

「審神者様個人に最初から支給されているスペアは、通常は顕現されておりません。しかし使い道は多く、単純に最初のこんのすけに異常が生じた場合の代理として使う以外に、機能によって数体を使い分けることもできます。もちろん、同時に複数体を使うとそれだけ霊力の消費量が増えますので、迂闊に増やすべきではありませんが」

 こんのすけのその説明で、俺は何かを閃きそうになった。似ている何かが身近にあった気がするのだが、果たして何だったか。

「審議者様によっては事務処理用と戦場補佐用に分けたり、本丸内で刀剣男士の様子を見て回る内務用のこんのすけを使う方もいらっしゃいます。それから、霊力の扱いに長けた方はこんのすけをカスタマイズすることもできるのです。中には黒いこんのすけもいるようですよ」

(赤いきつねと緑のたぬき、ならぬ黒いきつねかぁ。イカスミ味かな?)

 そんな下らない相槌を内心で打ちながら、俺はようやく思い出した。こんのすけのシステムはPCのユーザー切り替えを彷彿とさせるのだ。ユーザー切り替えとは、1つのパソコンを複数人で使う際に便利な機能だ。パスワードを設定すれば、PCを使うときにそれぞれの専用画面を自分だけが開ける状態にできる。こんのすけを特化した機能によって使い分けたりするのはまさにこれだ。同時に複数体のこんのすけを使うのは、2画面でPCを使うようなものだろうか。それならば、PC(審神者)のスペックによって快適に運用できるか変わってくるのも納得だ。

「同期生でこんのすけを共有することに何か意味はあるのか?」

「例えば本丸が敵からの襲撃を受けた際、こんのすけから同期生のこんのすけと政府保管のこんのすけに、同時に救難信号を送ることができます。同期生限定ですが、政府を介することなく他の審議者に直接助けを求められるのです」

 通常の審神者の場合は、慣れ親しんだ同期生に助けを求められるのはいいかもしれない。「自本丸→政府→他の審神者」よりも「自本丸→同期審神者」の方が動線が短いので、緊急時では迅速な対応を期待できる。

「ただ……審議者様の場合は同期生がおりません。こんのすけもこの本丸と政府保管用の1体のみで運用されております。ですから、政府にしか助けを求められません。その代わり、いざと言うときは口の堅さと実力に信頼のある審神者様がこの本丸へ救援に来る手筈となっております」

「まあ、それなら心配はいらないかな」

 むしろ、下手に何も知らない同期生に救難信号を送られたほうがこちらとしては困るかもしれない。政府の対応としては合っているだろう。

「ところで、俺のことは政府から聞いているか?」

「はい。最重要機密拠点08、本丸ID:0000、仮想ID:A-098。特区所属審神者6代目、本名ルイ=ゾルディック、審神者名を柊(ひいらぎ)。本日より審神者として本丸に着任となっております」

 審神者名とは審神者にとって第二の名前で、審神者業に就いている間はそれが公的な名前となる。わざわざ本名を隠すのは歴史修正主義者からの特定を防ぐためらしい。なお、神の末席たる刀剣男士から真名を掴まれると神隠しされるとか何とかという噂もあるらしいが、実際はそんなことはないとのこと。そして異世界人の俺が歴史修正主義者に本名バレしたところであまり意味がない。そのため今後の流れ次第では、刀剣男士にゾルディックの名前を明かす可能性もなくはないだろう。むしろ歴史修正主義者にはどんどんお越しいただいて、俺がバンバン始末をつける方が話は早い気がする。審神者って何だっけ。

 ちなみに、何故俺の審神者名が柊なのかというと、それは花言葉を初めとした柊のスペックを調べて欲しい。柊の別名が鬼の目突きという時点で、大体お察しいただけると思う。まあ、俺の本業はどちらかと言うとハンター世界に繋がる門の門番であり、審神者業での立ち位置は主力部隊ではなく遊撃部隊に近い。花言葉については門番的な意味になっているだろう。

「本来ならば、最低でも政府にて半年から1年間の教育と既存本丸での1ヶ月の研修を経た後、初期刀を贈られて正式な審神者となるのですが、主さまの場合は特殊ですのでそれらが免除となります」

「ど素人でもいきなり初期刀を貰えるわけだ」

「はい。この本丸の審神者様は、特区へ繋がる門の守護が第一任務ですので、長期にわたって本丸を空けるわけには参りません。この本丸の場合、通常ならば前代が任期中に次代の教育を担うのですが、今回は前代が急遽体調を崩されたので不可能となりました。従って、このこんのすけが主さまに審神者業の教育をさせていただきます」

 そういえば、前任と俺がいない空白期間に誰がこの本丸を守っていたのか問うと、前任の刀剣男士だと言う。彼らは俺が本丸に入る直前にここから引き上げていったらしい。

 俺は刀剣男士を一度だけ見たことがある。前任が入院している病室に訪れた時だ。前任の初期刀だという赤い目と爪を持つ黒尽くめの付喪神は、まるでただの人間のように涙を流していた。彼のような刀剣男士たちが、今までここを守ってきたのだろうか。

「……本丸を運営しながらお勉強か。荷が重いな」

「主さまは武術や兵法について既に学ばれていると窺いましたので、授業や研修なしでもある程度は審神者業が務まるかと思われます」

「武術はともかく、兵法は雑学程度しか知らないぞ。刀剣の扱いも、通常の武器としてしか知らないし」

「それをお教えしてサポートするのが、こんのすけの役目です」

「そうだったな」

 ふむ、と俺は頷く。しっかりしているように見えるこんのすけは頼りになりそうだ。

「それから、この本丸に限っては他とは全く違うノルマが課されます。まず、着任より最長半年間は出陣等の戦争に関わるノルマが免除されます。これは主さまが審神者業の教育をまだ受けておられないためと、第一任務はあくまで門の守護ですので、そちらが疎かにならないための配慮とのことです。この免除期間内に、主さまには一人前の審神者となっていただきます」

「分かった。他は?」

「他の本丸では戦争の主戦力となるためのノルマを課しますが、主さまには主戦力というよりも遊撃部隊としての活躍を期待しておりますので、その方針に沿ったノルマを課すこととなります。そのため、通常よりもノルマが少なく、特殊なノルマを課す場合もあると思われます」

「まあ、異邦人の俺を当てにされたら困るから当然か」

 俺がいないと戦線が保てないなんて言われたら困るので、そうしてもらえるとありがたい。

「不測の事故とはいえ、こちらの都合で主さま達に全く関係のない戦争に参加していただくのです。これでも心苦しいのですが……」

 演技なのか性格なのかは分からないが、耳をぺたんと垂らす様子には敵意を感じられない。俺はにこりとしてみせた。

「無理のない範囲で力は貸すよ。歴史修正主義者がこっちに来られたら堪ったもんじゃない」

「ありがとうございます」

 ぴこぴこと耳を震わせ、尻尾をふさふさと振る姿を見ると、俺の警戒心がガリガリ削られてしまうので怖い。小動物のナビゲーターは反則だと思う。ただし、某魔法少女アニメの悪徳営業マスコットは除く。

「その他にも、主さま個人のお力を見込んで、政府から特別な依頼をさせていただく場合もあります。もちろん、受けるか受けないかは主さまの意思に従います。平常時のノルマに関しても、主さまに不利な事があればいつでもお申立てください。政府への繋ぎはこんのすけが致します。特に重要な内容については本丸備え付けのPCではなく、必ずこんのすけを使ってください。PCからは通常の審神者様と同じ連絡窓口になりますが、こんのすけならば主さまの事情を知る者へ直通です」

「俺個人の力というと、歴代の審神者での前例はない類か?」

「はい。恐らくそうなるかと思われます」

「内容と条件、報酬次第だな」

「かしこまりました」

 俺個人への依頼となると、立ち回りによっては異世界政府に良い貸しを作れそうだ。今のところは特に俺に不利なことを言われていないと思われる。頭の中で話を整理しながら、俺はこれからの生活を思って自分に活を入れた。





こんのすけが管狐という公式情報からかなり妄想の翼を広げました。実際はそこまでごちゃごちゃしてないです。黒いこんのすけも二次創作でみかけたのでちらっと。有名な神隠しネタについては都市伝説的な噂扱いにしました。神隠しする妖怪と言えば狐もいるので、狐に関係する刀剣にはときめきますね。あと天狗なあの子とか。山姥もそういう部類に入るので、写しでも山姥切国広で妄想が広がりそうです。
前任の初期刀はもちろんあの子です。「俺も主と一緒にいく!」と言い張って病院についていきました。



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