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審神者補助妖怪、こんのすけー1
萌え 2015/09/13 22:56


・審神者になったゾル兄さん話
・捏造設定含む
・兄さんが初めて本丸に行った日





 俺が祖父と共に極秘で出向いたハンター協会の会長室には、現職のネテロ会長が1人で待っていた。ネテロ会長は、会長室に入ってきた俺を見ると好々爺然とした笑顔を浮かべ、ひょいと軽く片手を挙げてみせる。

「久しぶりじゃの、ゾルディックの長男坊。確かルイじゃったかな」

「はい。ハンター試験ではお世話になりました」

「いやいや。むしろ一部の受験者の面倒を見てもらって助かったわい。今度は“政府”の面倒……いわば尻拭いをしてもらうことになるがの」

 一部の受験者とは、もちろんイルミやキルアのことである。……最終試験では確かに俺が兄弟喧嘩を始めた2人を試験後に宥めたが、結局は原作の流れと大差なかったように思う。いやまあ、キルアのお友達であるゴン君に(イルミに内緒で)ご丁寧に交通手段まで添えて実家の住所を教えたのは俺だが。気分は完全に“弟の友達が遊びに来るよ!”だった。

 しかし、ネテロ会長にまで審神者(さにわ)の話が通っているということは、いよいよ霊能ファンタジーな世界が実在することに他ならない。俺が苦笑すると、ネテロ会長は俺を安堵させるように笑った。

「基本的にはこちらの世界での過ごし方と変わらんよ。――念能力者は、非能力者にそれを悟られるな」

「ああ……確かにそこは変わりませんね」

 念能力を知らないのならば、知らないまま生きるべき。それはこの世界で通されていることであるし、これから出向く異世界でも同じだろう。むしろ、異世界だからこそこちらの手の内をあまり知らせたくない。ただでさえ戦力を欲しがっている状況にある意世界政府に知られたら、どんなことを画策されるか分かったものじゃない。

 すると、ゼノじいちゃんが口を開いた。

「ルイよ。もしこちらの世界が危ぶまれることがあれば、すぐにワシらに連絡を取るのじゃぞ。既にワシらは十分に譲歩しておる。これ以上はありえん」

 孫を案じる顔が、不意に変わる。

「――所詮は他人の喧嘩だからのう」

 ゼノじいちゃんが目を細める。一瞬、ぞくりと俺の背筋が粟立った。それは僅かな間だけだったが、俺はこの人に勝てないと改めて思い知らされた瞬間だった。暗殺者として念能力者として、弛まぬ鍛錬を長年続けてきたゼノじいちゃんと、生き残るのに(ゾルディック基準で)最低限必要と思われる実力をつけようとしている俺とでは、土台から勝てるわけがないのだ。比べることすらおこがましい。

「40年。ワシらは政府軍と遡行軍の戦争が終わるのを待ち続けた。その結果がこれじゃ。ワシは孫を差し出さなければならなくなった」

「じいちゃん……」

「とはいえ、信頼できる孫が選ばれたのは好都合でもある。未来政府に易々と飼い殺される心配はないしの。いずれ未来へ渡る方法が分かれば現状も変わるじゃろうし、こちらとあちらを繋ぐ門を閉ざす術も見つかるかもしれん」

 今までの審神者は念能力者ではなかったと聞いている。一方、俺は念能力者であり、それなりの戦闘訓練や暗殺者としての処世術もそれなりに仕込まれている。念能力者であるゼノじいちゃんやネテロ会長とは開けっ広げな話もできる立場なので、好都合といえばその通りだろう。ならばせめて、俺の代で何らかの良い変化をもたらしたい。ゼノじいちゃんの世代も俺自身も、永遠に生き続けられるわけではないのだ。自分の世代で厄介ごとを終わらせてしまうか、次に引き継ぐにしても少しでもマシな状態にしておきたい。

 すると俺の意気込みを感じ取ったのか、ネテロ会長がにやりと口角を上げた。

「お前さんは自由にやればよいのじゃよ」

 ネテロ会長にバチコーンとウインクされた。嬉しくねぇ……爺のウインクなんて全く嬉しくねぇ! ともかく、会長からは「自由にやればいいんじゃない?」といった内容のお言葉を頂いた。将来的には毎週実家に帰りたいので、遠慮なく自由にやります。威厳を感じる会長からのお墨付きは安心感がすごい。

 そんな会話を交わしてから、俺はゼノじいちゃんとネテロ会長と一緒に件の門へ向かった。

 ハンター協会本部の会長室には、地下室へ繋がる隠し通路がある。地下深くには巧妙に隠された鉄の扉があり、パスワードを入力して扉を開くと、その奥にある赤い鳥居の形をしたゲートに辿りつけるようになっていた。そもそも会長室にある地下への入り口も隠されていたので素晴らしい徹底ぶりである。おまけに、仮に地下の入り口を見破られても、地下室は重要資料の保管庫だと勘違いされるような作りになっている。これだけ隠せば、そうそう見付からないだろう。

 鉄製の扉が自動で開かれると、真っ白な壁で統一された部屋の真ん中にぽつんと鳥居が立っているのが見える。何の変哲もない鳥居に見えるが、これをくぐるだけで異世界政府が用意した空間内の本丸に行けるという。俺は意を決すると、ゼノじいちゃんとネテロ会長に見送られて鳥居をくぐった。



* * *



「良いのか? おぬし、大事な孫に何やら嘘を吹き込んでおるようじゃが」

 ネテロの半分も生きていない年若い青年が、実家から持ち込んだらしい荷物を小脇に抱えて鳥居をくぐる。ハンター試験の受験者として顔を合わせた頃から、一体誰に似たのか青年の性質が極めてお人好しであることを感じ取ってはいた。しかし自身の将来を棒に振るような通達を受けても、今まで選ばれてきた審神者より比較的あっさりと受け入れたと聞いたときには、さすがに耳を疑った。彼の優しさは、果たしてお人好しという言葉で片付けてもいいのだろうかと。

「本丸にあるゲートからワシらが未来の世界へ行けん理由など、とっくに分かっておるじゃろう」

 ゼノが孫に嘘をついているのは、優しいのか危ういのか分からない彼への差し入れだろうか。

「構わんよ。その気になればすぐに気づく程度のものじゃが、あやつは嘘をつかれた理由も察するはずじゃ。あとは政府の狐が間抜けでないことを祈るしかない」

 やはり孫への餞別らしい。しかし回りくどいと指摘すると、「そうでもせんとあやつは仕掛けようとせんのじゃ」とゼノが肩をすくめる。どうやらあの青年は進んで騙し討ちをする性格ではないようだ。相手を欺く頭がそれなりにあったとしても、使わなければ意味がない。ゼノの嘘は単なる餞別というより、発破掛けも兼ねているのだろう。

「政府は精々、他の審神者のようにワシの孫を棺に放り込めないことを恐れていれば良いのじゃ」

「棺か。言いえて妙じゃのう」

「棺じゃろう? そもそも、こちらのジャポン並に国土の狭い土地に、本丸を数百以上設置するのは“不可能”なのじゃからあんな手段を取っておるとは言え、していることはそれじゃよ」

 ネテロはかつて未来政府に見せられた動画を思い出して眉をひそめた。

「……それだけ政府が苦慮しておるのじゃろうが、あちらの世界の審神者は随分と奇怪な目に遭わされるのじゃなぁ」

 青年の姿が完全に消えた鳥居を鉄の扉で再び堅く閉ざすと、ネテロは極めて明るい声を出した。

「それにしても、随分と気合の入った格好じゃったの。一体誰のセンスじゃ?」

「息子の嫁じゃ。和服にも洋服にもこだわりがあるようじゃから任せたら、すっかりあの通りじゃよ」

 なかなか似合ってるじゃろう? と笑うゼノに、ネテロも笑った。



* * *



 鳥居の向こう側は、まるで山間部に建てられた武家屋敷の様なところに繋がっていた。武家屋敷の玄関口に立っている、かっちりとした黒スーツに緑色の腕章をつけた政府職員1人以外は誰の気配もしない。政府職員の格好が現代的なスーツだったため、俺は自分の格好を思ってふと羞恥心が沸いてしまった。というのも、今の俺は審神者に着用者が多いという和服姿だからだ。だが神職が着るようなものではなく、キキョウママのセンスで選ばれている。花浅葱色の着流しを宗伝唐茶(そうでんからちゃ)の帯で締め、その上に裾へ向けて松葉色から白へのグラデーションを描く中羽織を着ている。羽織紐は朱色だ。ついでに赤と黒の首飾りを付けている。足元は白い足袋と動きやすいが紐が多くて着脱が面倒な草鞋だ。髪に至っては銀の後ろ髪を下ろし、ひと房だけ白い前髪を黒髪部分と一緒に三つ編みにして金の鈴(鳴らない)と朱色の房飾り、白い切り玉飾りをつけていた。……説明するとごちゃごちゃしているが、つまり和装である。俺も着方以外はよく分かっていない。事情を知らないがおしゃれ大好きな母親の手で着飾られた俺とシンプルスーツ男性の組み合わせがどう見えるのか、あまり想像したくない。

 俺が政府職員である中年男性に話しかけると、簡単な挨拶と本丸内の案内がされ、俺用の新品のマニュアルと前任たちが集めた年代物の資料が詰まった審神者の執務室で今後の説明を受けた。そして最後に小型の水筒くらいの大きさの竹筒1つと1口の打刀を渡された。打刀は5口の中から1口選べと言われたので、深く考えずに選んだ。

 なお、竹筒の中には管狐(くだぎつね)という妖怪が入っているらしい。この妖怪は審神者のサポート役として調整(チューニング)してあるため、審神者としての最初の仕事は管狐を顕現させることになるようだ。管狐が万が一にでも審神者と政府職員の霊力を混同してはならないため、政府職員が本丸から去った後にする必要があるとのことである。

 ちなみに管狐とは、名前の通り筒の中に入っている狐の妖怪である。確か、憑いた家の主人の意思で他家から品物を調達し、次第に家を裕福にするとか。ただし、管狐の数も徐々に増殖して最後は75匹になるので、結局家が食い潰されて不幸になるらしい。……サポート役は本当に管狐でいいのだろうか。

 政府職員は本丸を去る前に、爽やかな笑顔で「霊力を込めながら竹筒の蓋を開くだけで顕現できますよ」と言った。霊力ってどう込めるんですかお兄さん分かりません(真顔)。俺が意識的に込められるのはオーラ(生命力)くらいである。そしてそれは霊力とイコールではないことが分かっている。どうしろと。



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