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演練に向かう審神者ゾル兄さん3
萌え 2015/06/07 13:21


・掲示板のふしぎ様作品とコラボ
・演練場の前にいる場面
・ふしぎ様キャラ登場





 では将来ハゲキャラになりそうな可哀想なイケメンはいるのだろうか。そう考えた俺の目に真っ先に止まったのは、へし切り長谷部であった。今剣の視線の位置も大体その辺りだった。そういえば彼は仕事中毒である。社畜である。ストレスがマッハな役どころかもしれない。近い将来、彼の毛根が過労で死滅したらどうしようか。彼がハゲたら俺の本丸はブラック認定(へし切長谷部限定)されるのだろうか。

 俺は出来る限り慈愛を込めた目をして、へし切長谷部に振り向いた。

「長谷部……日々の暮らしに疲れたらすぐに言うんだぞ。俺はお前の心も毛根も労りたい」

「主……!」

 へし切長谷部は青紫の瞳を輝かせると、背景に花でも散らしそうな笑顔を浮かべた。

「主命とあらばこの長谷部、端末にて現世(うつしよ)に問い合わせ、心を休め毛根を増産する術を探ることも厭いません」

「増やせとは言ってない」

 俺の近侍の名前が“育毛長谷部”になったらどうしてくれる。

「え、何? そいつ将来ハゲんの? うわあ」

 加州清光はドン引きした顔になった。ハゲる確証はないから言いふらさないであげてくれ。そしてそろそろ鶴丸国永が呼吸困難で死にかねないのだが。笑い過ぎて折れる刀剣ってなんなの。

 その時、ほけほけと笑いながら三日月宗近(みかづきむねちか)が口を開いた。

「主よ、恐らく“なまはげ”とは俺のことだろう」

「……は?」

 確かに三日月宗近が立っている位置は、ちょうどへし切長谷部の隣である。しかし、三日月宗近が将来ハゲるとは想像もつかない。何しろ彼は飛び抜けた美形だ。顔立ちは恐ろしく繊細に整っており、長い睫は貴人が携える扇の様、夜空の色をした瞳の中には三日月を飼っている。気の弱い者が見つめたら、それだけで魂を抜かれそうな絶世の美形なのだ。中身はじじいだが。

「なまはげは出羽の国にある行事と聞く。家々を練り歩いて子どもや初嫁、怠け者を引き摺り出して暴れ、怠惰や不和を諌めるのだろう? あの者が知る俺は苛烈な性格なのやもしれぬ」

「一人で服も着替えられないじいさんになまはげが務まるとは思えない」

 どうやら三日月宗近の言う“なまはげ”とは、本来の意味を指しているらしい。しかし俺の中の三日月宗近は要介護老人だった。俺は気を取り直すと、自称刀剣男士の女性に向き直った。話さなければいつまでも演練が始められない。

「話を戻しますよ。この演練場の結界はあなたには機能しないかもしれません」

「うえっ……?」

「結界が刀剣破壊を防いでいるのは知っていますよね? あなたは新種の刀剣のようだから、結界が効くか分かりませんよ。今回は棄権した方がいいんじゃ」

「つまり私の背骨をぶち折る気満々ってことですか!? うええええええ怖いよおおおおお! 荒事担当審神者怖いよおおおおおお!!」

「なにがどうしてそうなった」

 棄権しろって言ってるじゃないですかやだー。この審神者、話聞かない系ですかそうですか。ここに打刀の歌仙兼定(かせんかねさだ)がいたら真顔で「雅じゃない」と言っていただろう。そう言う歌仙兼定は自称文系の筋肉ゴリラだが。文系とは何だったのか。代わりにその場にいる鶴丸国永が俺を指差して「背骨折国広!」と笑っている。それを聞いた五虎退が無邪気な顔で「主様の真名は背骨折国広ですか?」と聞いてきた。ジジイいい加減にしろ。そして加州清光、さりげなく五虎退に「主の真名は“加州大好き清光”だよ」とか嘘を教えるな。愛されたい系男子だからといって、無理矢理自分を捻じ込むんじゃない。

 一方、相手の審神者はいつの間にか謝罪祭りになっていた。

「チンピライケメン様ごめんなさいカツアゲはしないでください! 私の懐事情はそんなにいいわけじゃないんですごめんなさい! チンピラ三条様のお財布を潤せる自信はないんです許してください! せっかく髪の毛が白黒2色なのでパンダのごとき愛らしさと大らかさを私にくださいすいません高望みし過ぎですよねごめんなさい!!」

「俺は褒められてるの? 貶されてるの?」

 謝罪とはなんだったのか。怒涛のマシンガン謝罪(仮)に俺は遠い目をせざるを得ない。ちなみにパンダは愛らしいがそんなに大らか、というか穏やかな性格ではない。奴らはファンシーな皮を被った肉食獣だ。

 その時、とうとう俺の近侍(きんじ)が動いた。某事情により俺への忠誠心が爆上げされている社畜・へし切り長谷部は、自身の本体の柄に手を掛けた。

「先ほどから黙って聞いていれば、我が主に対する数々の非礼が目に余る。女子(おなご)と言えど容赦はせん」

 そう言いつつも、鯉口を切らずに鞘ごと刀を腰から外そうとしているのは温情だろうか。そしてへし切長谷部も、審神者切国広(仮)が女だと認識しているらしい。だがそれらに気付く余裕がないであろう女性は、一層騒ぎ出した。

「やだああああごめんなさいごめんなさい! 謝るから斬らないでください!」

「長谷部、いいから。あの子の言動は気にしなくていい」

「……主命と、あらば」

 ものすごく渋々と返事をされたので、俺は彼を石切丸の方へ押しやった。石切丸は苦笑しながらへし切長谷部を宥める。さすがパパ。

 一方、キレるへし切長谷部とは対照的に、本丸一のマイペースじじいである三日月宗近は朗らかに笑い出した。

「はっはっは。威勢が良いな」

「ああああああ三日月宗近様ごめんなさい許してください!!」

(やべえ。そのまま五体投地しそうだ)

 今や彼女は額を床に擦り付け、お手本のような土下座を披露していた。三日月宗近はそんな彼女に対して小首を傾げる。

「はて。そなたは何やら疚しいことを胸の内に秘めておるのか?」

「短刀たちと添い寝したり枕投げしたりお風呂に入ったりしてすみません! 神様とそんなことをするなんて罰あたりでしかありませんよねごめんなさい! でも私ブラックじゃないんですブラックのつもりはないんですでもこれブラックなんですかうわああああああああん!!」

(なんぞこれ)

 感想はその一言に尽きる。ブラックブラックと騒いでいるが、一体何が彼女を動かしているのか。しかしマイペースじじいは動じなかった。

「よいよい、幼子を愛でるのは母性の現れだ」

 すると何故か、あちらの短刀達が異様な物を見る目を三日月宗近に向けていた。薬研藤四郎がぼそっと「あっちのなまはげは本物の爺さんだ」とか言っているのが聞こえる。……まさかあちらの審神者も三日月宗近を持っていて、なおかつ性格がなまはげ仕様なのだろうか。何だそれ見てみたい。

 だが、相手の審神者はやはり人の話を聞いていなかった。

「そんなことを言って実は首を斬ったりするんですかそうですか! ひいいいいブラック本丸でごめんなさいいいい!!」

 いつからうちの要介護老人は首狩り族になったのか。誉(ほまれ/戦闘でのMVP)取ったどー! と敵兵の首を持ってくるのか。嫌だぞそんなジジイ。三日月宗近は高性能おじいちゃんだが、そういう性能はいらない。

 そんな中、へし切長谷部がこちらを見た。俺はブラック本丸の制圧をするというアルバイトの関係上、ブラック本丸運営を疑われる審神者の一時拘束権を政府から託されている。もちろん、疑う証拠を提示する必要があるため、政府から支給されたボイスレコーダーを常に持ち歩いている。ともかく俺はへし切長谷部に、その権限を行使するかどうかを訊ねられているのだろう。俺は彼を視線で制してから、彼女を観察した。ブラック本丸がこんなのだったら世界は平和である。

「そちらの三日月宗近様はブラック本丸で出会ったブラック三日月宗近様で、審神者様と一緒にブラック本丸を潰しまくっているんですよね! だから私も潰す気なんですよね!? だって短刀侍らせたブラックとかまじギルティですもんね!?」

(アルバイターとおじいちゃんはそんなことしない)

 どうやら彼女は、短刀のちびっ子組をたいそう可愛がっているようだ。俺も子どもが好きなので、可愛がる気持ちは分かる。しかしそれがどうしてブラック本丸に繋がるというのか。どうにも彼女は思い込みが強過ぎる。

 すると、ようやく笑いによる腹筋崩壊の危機から脱した鶴丸国永が口を挟んだ。

「なるほど! 君は現世の言葉でいう“しょたこん”という奴だな!」

「いやああああああああ! ショタコンでごめんなさい! 短刀たちが可愛過ぎて我慢できなかったんですごめんなさい! みんなが可愛過ぎるからあああああああ!!」

「鶴じい。やめて差し上げろ」

 彼が相手の審神者を“つつくと面白い”と認識したのは明らかである。すかさず俺が止めると、鶴丸国永はにやにやしながら引き下がった。

 彼女のあまりの狂乱ぶりに、加州清光が「うわあ」と言いながら俺の腕にくっついた。逆側の袖を掴む五虎退に対抗しているつもりかもしれない。それを肯定するようにちらちらとこちらを見上げてくるので、俺は抱え込まれた腕を動かして背中をぽんぽんと叩いてやった。すると加州清光はむふーっと嬉しそうに笑う。うん、彼が女の子だったら俺ももう少し嬉しかった。

 三日月宗近は軽く腕を組むと、少しだけ目を瞬かせた。

「ふむ。難儀な女子よな」

 難儀と言う割に、あまり困ったようには見えない。さすがマイペースじじいである。ところで、うちの三日月宗近がしれっと自称・刀剣男士を女扱いしたのだが、そこは指摘しなくてもいいのだろうか。……誰も指摘しないからスルーしよう。

 これは強引に話を進めないと本格的に演練ができなくなる。そう思った俺は、主をすっ飛ばして頼りになりそうな相手に話しかけた。

「えっと……山切さん」

「何だ」

「今日の演練はルール……決まり事を少し変えましょうか」

「どう変えるつもりだ」

 話が通じることがこんなに素晴らしいなんて、と会話のキャッチボールの大切さを噛み締めながら俺は提案した。

「お互いの刀剣男士を一人抜いて、代わりに審神者が参加する」

「ひえっ!?」

 女性審神者は飛び上がったが、山切、もとい山姥切国広はほっとした顔になった。この話が通れば、自分の主を観戦席に入れられるからだろう。

「なるほど。俺は構わないが、あんたは本当にそれでいいのか?」

「いいですよ。どうせ一番後ろに引っ込んでおくつもりですから。じゃあ……こた君。今回は俺と交代しようか」

 五虎退(ごこたい)を指名した。彼は見た目が子どもで性格もそのままなので、極度のビビリ症とと思われる彼女と一緒に観戦させるのに向いているだろう。彼女は短刀なら優遇しそうな気がする。温厚な三日月宗近でも良かったのだが、彼女は何故か彼に怯えているようなのでやめておいた。

「主様がそう言うなら」

「悪いな。おわびに今度、俺に粟田口の子と一緒に遊ばせてくれ」

「はいっ!」

 俺と五虎退が指きりをして約束している間、あちらも山切(仮)が審神者切(仮)を説得していた。

「では、俺は審神者切と代わろう。それでいいな」

「え……でも、でも」

「い・い・な」

 説得と言うよりも決定事項の通達だが、それでいいのだろう。

 どうやら向こうも話がついたようなので、俺は追加の条件を山切(仮)に伝えた。

「それから、もし最後に審神者同士が残ったら引き分けで」

 無論、審神者(仮)の山姥切国広と一対一の殴り合いをしたら圧勝する自信はある。剣術はともかく、素手の戦いで刀剣男士に負けることはないだろう。しかし、演練は刀剣男士同士が切磋琢磨するものであり、そこに審神者が出張っても意味がない。俺は自軍が優勢になろうが劣勢になろうが、手を出すつもりはなかった。

「異論はない」

「ではそうしましょう」

 最後にそんな会話をすると、俺は自軍を率いて演練場の扉を開いた。





 後日、政府を通じてあちらの山姥切国広からみかんが一箱、本丸に届いた。あちらの山姥切国広は生粋の苦労人らしい。プライドはあるがコンプレックスをこじらせたネガティブ系刀剣男士(訳:面倒臭い)を保護者に変貌させるとは、なかなかぶっとんだ審神者である。

(頑張れ、山切)

 要介護老人(三日月宗近)の分のみかんの皮を剥きながら、俺は苦労人である彼の成功を祈ったのだった。



* * *



これでコラボ文終わりです!
楽しかった^^
ふしぎ様、素敵な文章ありがとうございました!



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