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演練に向かう審神者ゾル兄さん2
萌え 2015/06/07 13:18


・掲示板のふしぎ様作品とコラボ
・演練場の前にいる場面
・ふしぎ様キャラ登場





 実際に刀剣男士たちがしのぎを削る演練場は、建物の中心にある広い中庭のような屋外だ。審神者(さにわ)や政府関係者は、建物内にある演練場が眺められる部屋か、もしくは屋外の観戦席で演練を見ることとなる。そして演練場に入る前に、2組の審神者は互いの顔と刀剣男士を見せ合うのだ。それには親睦を深める意味もあれば、お互いに不正行為がないことを確認する意味もある。

 演練場に繋がる門の前には、既に相手の刀剣男士が勢揃いでこちらを待っていた。どうやら短刀を中心とした構成らしく、制服姿の小柄な少年達の姿が目立つ。俺が連れている五虎退(ごこたい)と同じ粟田口の刀は皆制服姿だ。だが五虎退以外のメンバーの方が軍服らしく見えるような気がする。ともかく、相手の演練メンバーは短刀5口と打刀1口で構成されているようだ。

 しかし、肝心の相手の審神者が見付からないので、俺は辺りを見回そうとした。だがその前に1人の青年がこちらに進み出た。明るい金髪に澄んだ碧眼を持つ若いイケメンだった。あれは打刀である山姥切国広(やまんばぎりくにひろ)だ。コンプレックスから自分の容姿を隠そうとしている彼が、いつもの大きな白い布を頭から被らずにいるのは非常に珍しい。おまけにこれから演練だというのに、彼の本体たる打刀を腰に佩いていない。しかしながら顔を隠していない彼は、RPGの主人公のような正統派イケメンだった。山姥切国広は物憂げな顔をして口を開いた。

「……俺が演練相手の審神者……山切(やまぎり)だ」

「えっ」

 予想外の言葉にこれはどういうことだろうかと思っていると、こちらの目から隠れるような位置にいる黒髪の女性が目に入った。短刀の最後尾にいる彼女は山姥切国広の布を目深に被り、腰にはその本体を括りつけている。年の頃は10代後半か20代前半くらいだろうか。素朴で大人しそうな顔立ちをした彼女は、琥珀色の目を恐怖に染めていた。

「いや、あれ……」

「あっちは審神者切国広(さにわぎりくにひろ)、国広が第二の傑作だ。一見女のように見えるが、乱藤四郎(みだれとうしろう)の打刀版のようなものだから刀剣男士だ」

 あちらのメンバーにいる乱藤四郎が大きく頷くが、残念ながら俺の目は見逃してはいなかった。自称・審神者切国広の胸元にはふっくらとした母なる丘があることを。一方、刀剣男士が誇る男の娘である乱藤四郎は安定のつるぺただ。たとえ円らな碧眼に背中を覆う金髪を持つ美少女顔で、うちの五虎退(ごこたい)のような制服に下半身がミニスカ+ニーソックスでも男である。……残念なのは俺の目か。でもバレなきゃいいよな知ってる。俺の面の皮の厚さは瓦割りができるレベルである。

 しかし胸のサイズ以前に、俺は念能力者である。人体の生命力(オーラ)を見抜くなど朝飯前だ。人間である審神者と付喪神である刀剣男士の見分けは一瞬でついてしまう。そしてその結果、審神者切国広は間違いなく人間である。

「ねえ、主……」

 加州清光(かしゅうきよみつ)がものすごくツッコミたそうな顔をして呟く。だがその先を遮るように、死んだ魚の目をした山姥切国広が言った。

「……そういうことに、しといてやってくれ」

 上司と部下の間に挟まれて疲れ切った中間管理職のような顔だった。

「あっ、ハイ」

 俺と加州清光が一緒になってそう返事をしたはいいものの、実際には「じゃあ戦いましょうか」とはいかない。演練場には治療担当の霊能者(審神者も霊能者だが、審神者とそれ以外を区別する意味でそう呼ばれる)が控えているため、どんな怪我でもすぐに治療可能であるし、特殊な結界が張られているため修復不可能な刀剣破壊も起きない。しかし、それらは刀剣男士にしか適用されないのだ。人間である彼女は霊能者の力で怪我が治ることはないし、致命傷を防ぐ結界も機能しない。……まあ、この理屈が通るのはハンター世界出身の俺だけで、彼女は違うのかもしれないが。

 そもそも彼女は何故、刀剣男士に成りすまそうとしているのか。見たところ、彼女の体つきやオーラは一般人のそれだ。オーラを隠す“隠(いん)”に長けているのなら話は別だが、異世界の住人である彼女が念能力者であるはずがない。ハンター世界に繋がる門は俺が見張っているので、ハンター世界の住人でもないだろう。つまり霊力面などの特殊性がない限り、彼女が刀剣男士に代わる戦力とはなり得ない。ただ危険なだけだ。

 放置するわけにはいかない以上、気が引けていても口出しするしかない。俺は恐る恐る彼女に話しかけた。

「あー……審神者切さん」

 その途端、彼女は白い布をぎゅっと握りしめて叫んだ。内気そうな見た目に反して、行動はなかなか激しい。もしくは、少しの刺激で爆発するほど(出所不明の)恐怖を押し殺していたのだろうか。

「ひいいぃっ! なんでございますか私は何も悪いことしてません悪くない審神者切国広なんです許してください!」

 五虎退が飛び上がって俺の背後に隠れたのは仕方がないと思う。

 素っ頓狂な声で紡がれた言葉はなかなかおかしなものだった。俺は思わず吹き出しそうになるのを、いつもの営業用笑顔で堪える。そもそも名前が“審神者切”の時点で政府側にとっては悪役でしかないのだが。刀剣男士を名乗るにしても、何故そんな名前にした。

「あ……審神者切、落ち着け。無理だと思うが落ち着け。相手が困っている」

 山姥切が半ば諦め顔で主(明らかにそう呼ぼうとしていた)を宥めようとするが、彼女の恐慌状態は全く収まりそうになかった。一方、こちらでは鶴丸国永(つるまるくになが)が笑いを堪え切れずに変な顔をしていた。

「審神者切……っ。主、あの子に斬られるかもしれないなぁ……」

「思ってもいないことを……」

 そもそも俺が彼女に斬られる前に、鶴丸国永がへし切長谷部(へしきりはせべ)に斬られる方が早いと思われる。俺のセコムは忠誠心が高過ぎて、たまに同士討ちも辞さないのではないかと不安になる。そういえば彼の前の主である織田信長は、彼を使って家臣を手討ちにしたこともあると聞いた。鶴丸国永が斬られるフラグは順調に立っているようだ。

 俺と鶴丸国永が下らないことを話している間に、あちらの短刀勢が寄ってたかって主を宥めていた。

「たい……審神者切、落ち着かねえと演練を始められないぜ?」

 そう言ったのは薬研藤四郎(やげんとうしろう)。長めの焦げ茶色をした前髪を横に流し、一重の眼差しで主を見る彼は、10代前半の少年姿に反して低い声と男前な気質を持つ。見た目もイケメンだが中身もイケメンである。インターネット上では、“お前のようなショタがいるか”と評判なのも頷ける。

「たい……審神切のことは必ず守ってやるよ」

「そうですよ、しゅ……審神切さま。警護はお任せください!」

 次いで声を掛けたのは厚藤四郎(あつとうしろう)と平野藤四郎(ひらのとうしろう)だ。2人ともやはり似た制服を着ており、厚藤四郎は黒髪をベリーショートにした少年で、平野藤四郎は樫色の髪を短いおかっぱに切り揃えた少年だ。そして後者は自己申告の通り、護衛を得意としている。

 さらに男の娘が主に擦り寄った。

「あ……審神者切、ボクと一緒に乱れよ? ボク、楽しみにしてたんだから」

 先ほども触れた金髪碧眼の見た目美少女は、アイドル系刀剣男士・乱藤四郎である。何を言っているのか分からないかもしれないが、刀剣男士である。こちらにも愛されたい系とか社畜系とかジジイ系などいるので、アイドル系がいてもおかしくないのである。

 しかし審神者の女性は頭を抱えた。

「でも、でも、ダブルで斬られるううううううう」

「だいじょうぶですよ、あるっ……さにわぎり。あちらのなまはげはこわくありません」

「もし斬られても……復讐してあげる」

 その場にしゃがみ込んだ女性の背中を、今剣(いまのつるぎ)と小夜左文字(さよさもんじ)が撫でる。今剣は鞍馬天狗を彷彿とさせる銀髪の少年で、小夜左文字は短刀勢の中でも一際細っこいが、青い前髪の奥にある眼光が鋭い少年だ。

 俺はふと、今剣がこちらを見て言った言葉が気になった。

(え、今こっちを見て“なまはげ”って言った? 俺のメンバーになまはげキャラっているのか!?)

 イケメン揃いの刀剣男士に、今のところハゲキャラはいないはずだ。山伏国広(やまぶしくにひろ)という筋肉僧侶や、岩融(いわとおし)という筋肉僧兵もいるが、彼らの頭もフサフサだ。……寺系刀剣男士には筋肉が豊富である。神社系刀剣男士の石切丸(いしきりまる)は俺(183p)より遥かに背が高いものの痩せ形である。これが神社と寺の違いなのだろうか、いやそんなことがあってたまるか。



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