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演練に向かう審神者ゾル兄さん
萌え 2015/06/02 20:03


(怯え審神者と審神者ゾル兄さん)

・掲示板のふしぎ様作品とコラボ
・演練場に向かう場面
・まだふしぎ様メンバーと会っていない





「お前らのくじ運は絶対におかしい」

 未来世界の政府が用意した、近未来と和風建築が混在する演練(えんれん)用の建物、その廊下を歩きながら俺はぼやいた。俺が従えて歩いているのは6口の刀剣男士である。俺の隣を歩く黒い制服姿の小柄な短刀少年――五虎退(ごこたい)は、その名の通り5体の子虎を侍らせながら首を傾げた。その拍子に、黒い制帽の下にあるふわふわとした淡い金糸の髪が揺れる。髪の色は真っ白な子虎とよく合っている。まさしく絵に描いたような天使のショタと愛くるしいネコ科動物である。俺は気弱な彼に「こた君は悪くないよ」と告げてから、ちらりと背後の3人組を見た。すると、群青色の狩衣を着た抜群の美青年――三日月宗近(みかづきむねちか)という太刀が穏やかに笑う。

「はて、何のことやら」

「三条派のことだよ、三日月じいさん」

 演練とは、他の審神者(さにわ)が所有する刀剣男士と模擬戦を行い、互いを高め合うものである。唯一のハンター世界出身である俺は、異世界の人間と必要以上に関わる意味がないため積極的には参加しないが、政府からせっつかれたノルマ分は行うようにしている。演練自体は自軍の連携や戦い方の癖、相手軍の戦法など学ぶ面が多いため忌避するものではない。とはいえ、さほど重要視しているわけでもないので、俺は演練メンバーをいつもくじ引きで決めていた。どんな相手とでも連携を取れるようになるという意味くらいはあるだろう。

 しかしどういうわけか、三条派――平安時代の刀工・三条宗近が手がけた刀剣を指し、刀剣男士の中では古株にあたる――のくじ運が良過ぎた。それはもう、抜群に良過ぎて気持ちが悪いほどだった。付喪神は古いほど霊格が高いというので、三条派には何かが憑いているのだろうか。ともかく、三条派の刀剣男士は毎度当たりくじを引き当て、演練に出まくっていた。お陰で俺は、いつの間にかインターネット上の審神者ちゃんねる(通称さにちゃん。2chのようなものだ)で“三条様”と呼ばれる羽目になっていたくらいだ。それを絶望視した俺は、三条派に限り上限枠2口というルールを設けた。……その上限枠をきっちり埋めて来る三条派のくじ運は一体何なのか。正確に言うと、三条派5口が当たりくじを全て引き当てたため、三条派の中でも争いが起こった。三条派が顔を突き合わせてじゃんけんをする姿は実にシュールだった。もうこいつらの枠は1口で十分かもしれない。

 そんな俺の心を読んだようなタイミングで、俺のすぐ左後ろを歩いていた青年が口を開いた。

「次回からは、三条派の枠を1口に修正することを提案致します」

「採用」

 紫色のカソックと黒の和鎧が付いた黄土色のストラを身に付けるという、失敗したキリスト教神父姿の打刀イケメンはへし切長谷部(へしきりはせべ)。薄い青紫の双眸でこちらをガン見する彼は、一言で表すと“よく訓練された社畜”である。主命第一の彼は、俺の返事を聞くと煤色の頭を軽く下げた。実に生真面目である。ちなみに彼は俺の近侍(きんじ)を勤めている。近侍とは第一部隊部隊長のことであり、刀剣男士の装備品である刀装作りなどで審神者の助手を務めることもある役割である。社畜根性丸出しのへし切長谷部は有能過ぎて、現代で言う秘書のような役どころも担っている。彼はゾルディック家の屋敷でも執事としてやっていけそうで怖い。どのくらい社畜かと言うと、近侍を交代させようとすると切腹しそうな顔をするくらいである。長谷部、あなた疲れているのよ……。

 今後の演練くじのルール変更を決定すると、三条派ではないがその弟子によって作られた真っ白な青年が肩をすくめて文句を言った。

「そいつはつまらないぜ。驚きのくじ運を無駄にするなんて」

 やや長めの真っ白な短髪に白い肌、金無垢の目、白い衣姿の美青年は鶴丸国永(つるまるくになが)という太刀だ。見た目は吐血でもしそうな儚げ美青年なのだが、中身は他人を驚かすことが大好きな迷惑じじいである。驚きを求めて本丸に落とし穴を掘った時は、さすがに俺が彼の首根っこを掴んでその穴に放り込み、罰としてしばらく放置したこともあった。そんな風だから、インターネット上の俗称がサプライズじじいなんだよ……。これで見た目がビスクドール並みに繊細なのは最早詐欺である。

「私達以外にも演練に参加したい刀剣男士が大勢いるからね。機会は望む者に等しく与えられるのがいいだろう」

 むすーっとわざとらしく頬を膨らませる鶴丸国永を宥めたのは、綺麗に切りそろえた茶髪の上に公家の黒い冠を乗せ、緑色の狩衣を着た背の高い青年だ。この石切丸(いしきりまる)という大太刀の彼もまた三条派である。さすが御神刀と言うべきか、柔和な顔立ちに見合う穏やかな声で窘める彼に、俺を挟んで五虎退の逆隣にいた少年が大袈裟に頷いて同意した。

「そうだよ。俺だって、今回の上限枠がなければ参加できなかったんだから」

 真っ黒な長い髪をうなじで縛り、黒いスラックスに黒いコート、黒いインナーという洋装姿の彼は加州清光(かしゅうきよみつ)。へし切長谷部と同じ打刀である。日本人形のようなやや切れ長の目をしたやはり綺麗な顔立ちの彼は、真っ赤に塗った爪の具合を確認しながらこちらを窺った。……刀剣男士の顔面偏差値は高い。これは常識である。

 すると、鶴丸国永は苦笑しながら否定した。

「違う違う。俺が言いたいのはだな、枠を減らすなら代わりに驚きを増やすべきだってことだ。例えば当たりくじに“ただし、主の顔面に饅頭を命中させた場合に限る”とか条件をつけるのはどうだ?」

「不採用。食べ物で遊ぶんじゃありません」

「遊んでないさ。主なら口で受け止めてくれるだろう?」

 鶴丸国永が余計なことを言うので、セコム長谷部の眉間のしわがすごいことになっている。多分、しわで紙が挟める。へし切長谷部の新たな特技が目覚める前に、鶴丸国永は黙ってくれ。

 一方、じとりとした赤い目を鶴丸国永に向けた加州清光は、ぱっと表情を切り替えて俺に話しかけた。

「主! 今回の演練で勝ったら、新しい爪紅が欲しいな」

 加州清光は男の娘ではないが、女性らしさが覗くお洒落に人一倍気を遣っている。爪紅――現代で言うマニキュアはもちろん、耳にはピアス、足元はまさかのハイヒールである。ハイヒールでも問題なく戦えるのはさすがの刀剣男子だろうか。……実は最も足が遅い石切丸の足元はただの草履である。親指と人差し指の間で紐を挟むだけのアレである。戦う気がないのかこれは。

 それはともかく、加州清光は俺を見上げると上目遣いでおねだりした。世間一般では“あざとい顔”に区分されるのだろう。男だが。

「現世で流行ってる“でこねいる”がいい」

 たまに請われて購入している雑誌にあったのか、ピンポイントなおねだりである。特に問題はないため、頷く。

「女子力高いなー。ま、生活に邪魔にならない程度ならいいぞ」

「やったあ!」

 ぱああっと顔を輝かせた加州清光は、うきうきしながらデコネイルのデザインを考え始めた。まだ勝ってもいないのに気が早い。これで負けたらボロ泣きしそうな気がする。それは嫌だなあと考えながら、俺はもじもじしている五虎退に話しかけた。

「こた君も何か欲しいご褒美は?」

 彼は金色の大きな目をぱちくりとさせてから、恥ずかしそうに答える。

「えっと……主様に、粟田口(あわたぐち)のみんなと一緒に、遊んで欲しいです……」

(なにそれ天使)

 粟田口とは鎌倉時代の刀工・粟田口吉光が手がけた刀を指す。短刀が多いため、ちびっ子が揃っていると思えば大体合っている。つまり、俺がちびっ子たちと遊ぶのがご褒美ということになる。鬼ごっこだろうがかくれんぼだろうがおままごとだろうがいくらでもやってあげるよ!

「そんなの、ご褒美じゃなくてもいっぱい遊んであげるよ」

 そう言うと、五虎退はにぱーっと笑った。心がぴょんぴょんするというのはこういう気持ちだと思う。ああ、実家に帰って(可愛い方の)弟妹たちと触れあいたい。

 それから俺は、物言いたげな顔をしながらも黙っている男に声を掛けた。

「長谷部は?」

 上下関係に厳しい彼は、俺に対して刀剣男士が馴れ馴れしい態度を取るのをあまり快く思っていない。だが黙っているくらいには許容もしている。へし切長谷部は眉間に寄っていたしわを消し、僅かに瞠目した。

「俺ですか? 俺はそんな、褒美など恐れ多い。主命とあらばいくらでも勝利を献上致します」

「まあそう言わずに。普段世話になってるお礼だとでも思ってくれ」

 正直な所、俺は彼が何をもらえば喜ぶのかさっぱり分からない。主君と定めた人間に重用されると大喜びするのは知っているが、これ以上仕事を任せたら過労死するかもしれない。付喪神だが。

 へし切長谷部はしばし固まっていたが、やがて俺の顔を窺うようにしながら申し出た。

「では……主とゆっくり話す機会を持てれば、と」

(そんなんでいいのかよ)

 思わず「趣味とかないの?」と口から出そうになるのを懸命に堪え、俺は笑顔を作った。彼は下手すると「仕事が趣味です」と言いかねない男である。「もっと仕事をください」と言われたらどうすればいいか分からない。馬の世話を任せたら嫌がる癖に。

 俺が申し出を了承すると、へし切長谷部はギラリと瞳を輝かせた。

「主のために、必ずや完全なる勝利を捧げます」

「……普通でいいから」

 どうも主命ブーストが掛かった気がする。しかし俺は気付かないふりをしてスルーした。対戦相手の刀剣男士よ、すまんかった。

 話が途切れたところで、再び鶴丸国永が俺に絡んできた。

「俺に褒美はないのか?」

「顔面に饅頭を投げ付けてやろうか」

「骨折するから遠慮しておこう」

 にっこりと笑顔を作って返すと、鶴丸国永も笑顔で即答した。まさか饅頭で顔の骨を折るなど、俺でもできるわけが……あるかもしれない。頑張れば鼻の骨くらいならイケそうな気がする。しかし渋い顔をした石切丸に無言で首を横に振られたため、それ以上物騒な事を考えるのをやめた。刀剣男士のパパの意見は尊重すべきである。思考を切り替えた俺は、残る三条派に声を掛けた。

「悪いが三条組のご褒美は自重してくれ」

 三日月宗近や石切丸といった三条派はしょっちゅう演練に出ている。そのせいで、特に戦闘大好きなメンツがじりじりしているのだ。ここで褒美を与えようものなら不満が爆発しかねない。

「そうだね。ここは他の刀剣達の気持ちを考えて辞退しよう」

 俺の気持ちを理解している石切丸は笑顔でそう言ってくれた。そして三日月宗近は褒美に執着を示すことなく呑気に笑っていた。さすが最強のマイペース。



* * *



こんな感じでえっちらおっちら演練場に向かいます。
ふしぎ様のキャラと出くわす続きは後日に!



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