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例の虎徹JKと審神者ゾル兄さん
萌え 2015/05/17 21:02

・審神者ゾル兄さんが政府公認の特殊なアルバイトをしている。
・ブラック本丸の独自解釈を含む。
・虎徹JKちゃんマジ天使。
・兄さん側の刀剣男士が少なめ。(6口フルだと読むのが大変そう)
・虎徹JKちゃんの刀剣男士6口が誰かは微妙なので、説明を省いている。





 審神者(さにわ)と刀剣男士が生活する本丸は、広い武家屋敷のような場所だ。おまけに庭も畑も馬小屋もついており、その気になれば自給自足できる。そんな屋敷の玄関先で、俺は2口の付喪神(刀剣男子は“口”と数えるらしい)と外出準備をしていた。外出準備とは言っても、俺の格好はいつもの審神者ルック――後ろ髪を下ろして前髪を一部編み込み、スローイングナイフを数本仕込んだ和服を着込んでいる――である。

「あるじさま、こんどのほんまるは どんなばしょですか?」

 刀装と呼ばれる防具の調節をしながら、可愛らしい顔をした白い髪の少年が首を傾げる。彼はかの源義経が自刃に使ったとされる今剣(いまのつるぎ)という短刀だ。雪のように白い肌に、うなじで不思議な形に括った長い銀髪、そして真っ赤な双眸はまるでウサギのようである。俺の肩より低い背丈で体つきも華奢、白を基調とした着物の上に青い防具をつけた姿は頼りなく見えるが、戦闘時には素早い動きで相手を翻弄しつつ攻撃を加えるタイプだ。そして無邪気で健気な性格であるため、ひたすら可愛がりたくなる。俺は子どもに弱いので仕方がない。今剣を初めとした短刀はみんな子どもなので、可愛くて何よりだ。

 俺は彼が被っている、天狗のような黒の小さな帽子の位置を直してやりながら答えた。

「危険度は第肆級(だいよんきゅう)だから低い」

“第肆級”とは、俺達がこれから赴く本丸の危険度を指す。本丸とは政府側の審神者の拠点のことなので、本来は危険などありはしないのだが、数ある本丸の中にはワケありのものもあるということだ。ちなみに“第壱級”が最も危険で、“第弐級”、“第参級”、“第肆級”の順に危険度が下がって行く。

 すると、俺を挟んで今剣とは逆隣に佇んでいる若い青年が口を開いた。

「交渉役の審神者(さにわ)は6口連れて来るのか?」

 彼は平安時代に作られた太刀で、天下五剣の一つでもある三日月宗近(みかづきむねちか)だ。濡れたように青く光る、やや長めの黒い短髪を金の房飾りでまとめており、髪と同色の双眸の中には名前と同じ三日月が煌めいている。群青色の着物の上に金を基調とした軽鎧をつけており、隋所に金色が使われているが、全く嫌味さを感じない。そして刀剣男士はどいつもこいつも美形揃いだが、彼の美形っぷりはぶっちぎりで群を抜いている。平安貴族を思わせる穏やかな物腰も、彼の美形っぷりをさらに浮世離れさせるのだろう。

 だが人並み外れた美形だと、某闇の帝王(笑)のようにえげつない性格をしているのではないかと疑ってしまう。ここまでくると条件反射の域である。しかしそれは杞憂に終わる。三日月宗近の実態は、縁側で茶を啜りながらほけほけしているようなマイペースじいさんであった。そして実直な性格であるためか、よく笑う。これでも今のところ、刀剣男士の中では最高スペックであるというから付喪神は分からない。

 ちなみに、俺は三日月宗近をじいさんと呼ぶが、それは自己申告による。彼の見た目は俺と同じくらいであるし、今剣の見た目は幼い少年なのだが、どちらも俺よりうんと年上であろうことは明らかだ。それでも一方をじいさん扱いし、もう一方を子ども扱いするのは彼らの精神年齢ゆえである。

「らしい。だからこっちは三日月じいさんといまつる君がいれば問題ないかな」

「ははは。おぬしに頼られるのは悪くない」

 三日月宗近はのんびりと笑うと、意味深な目をした。

「まあ、おぬしには刀剣男士はいらぬかもしれぬが」

「じいさん黙って。つーか刀装が緩んでる」

 俺は三日月宗近に振り向くと、彼の鎧の結び目に手を掛けた。彼は着替えが苦手……いや、戦い以外は大抵不器用で、場合によっては他人による世話が必要になる。畑を耕す道具の使い方が分からず、きょとんとしていた頃が懐かしい。今では畑の世話をできるようになったものの、着替えは未だに十分にできないままだ。自分の世話くらい自分でやってくれ。

「おお、いつもすまんな」

 もはや気分は老人介護である。ほけほけと笑う三日月宗近に、俺は思わずじと目になった。

「いまつる君を見習えよ。小さいのにちゃんと一人でできるんだぞ」

「はいっ! ぼくはちゃんとひとりでできます!」

 きちんと自分の手で装備の調整を終えた今剣は、満面の笑みで俺を見上げた。俺は三日月宗近の鎧の結び目を直し終えると、少年の真っ白い頭を撫でた。

「さすがいまつる君。いい子だなぁ」

「えへへ」

 嬉しそうにニコニコと笑う子どもは可愛い。つられて俺もニコニコしていると、じいさんがのんびりとした口調で言った。

「いやあ、世話をされるのが好きなものでな。ついおぬしにさせてしまう」

「自分でしろよジジイ」

 俺の願いが叶う日が来るかは不明である。

 ともかく準備を終えた俺達は玄関から外へ出ると、赤い鳥居の形をした門をくぐり抜けた。





 ハンター世界から唯一派遣された審神者として活動する俺の戦績だが、比較的良好である。付け加えて、俺のスペック(戦闘力に限る)も審神者の中ではぶっちぎりに高い。それはそうだ。一般人とゾルディックの暗殺者を一緒にすること自体がおかしいのだから。要するに、刀剣男士と一緒に戦場に放り込まれてもまず死なない。そんな俺の頑丈さと、それなりに良好な戦績が受けたのだろう。俺は政府からとあるアルバイトを持ちかけられた。

“ブラック本丸の整備”。俺の仕事は、それを力尽くで遂行することである。

 そもそもブラック本丸とは何か。それを説明するには、まず本丸の運営について語る必要がある。

 審神者は本丸で刀剣男士を目覚めさせ(鍛刀と呼ばれる)、彼らを強化し、政府から通達があった歴史修正主義者を討伐し、時には他の審神者と模擬戦(演練と呼ばれる)をしながら日々の生活を送る。その中で、日々の成果を報告するために政府へ報告書を提出する義務がある。それを一定基準以上怠るか、報告内容に問題があると、政府から監査が入る。そこで業務不履行認定された本丸は一定期間、政府の指導を受けることとなるのだ。それで改善しなければ本丸を解体することになり、審神者は解任、所属している刀剣男士は他の審神者の手に渡るか刀解(資材の形に分解すること)される。

 本来は、その手順の中で不健全な運営をされている本丸が摘発されて解決する。しかし中にはやはり例外もある。

 審神者が故意に不健全な運営の実態を隠している場合は発覚が遅れる。また、歴史修正主義者が政府の適性審査を上手くすり抜けて審神者になっている場合や、検非違使(けびいし)と呼ばれる、政府も歴史修正主義者も否定する第三組織が審神者として潜り込んでいる場合も稀にある。それらの場合は、下手に手を出すと逆に返り討ちに遭う可能性が高い。実際、これまで政府の人間や、その代わりに送り込まれた審神者が死傷する例もいくつかあったらしい。

 そういった、手を入れるのに危険が伴う運営不全の本丸のことを“危険運営不全拠点”――通称ブラック本丸と呼ぶ。

 当然ながら、そのような本丸をいつまでも放置するわけにはいかない。不良債権状態の本丸を持っていても良いことなどなく、そういう本丸は時間が経つほど状況が悪化する。おまけに政府が保有できる本丸の数は限られているらしく、増設するのも相当な労力と資金が必要になるという。そのため、ブラック本丸を発見したらその都度、処理していくのがベストだ。しかし本丸を整備、言ってしまえば奪還するのには危険が伴う。そこで白羽の矢が立ったのが俺である。刀剣男士の戦績はそれなりで、審神者自体が反則的に強いので、放り込んでおけば何とかなってしまう。おまけに、他の審神者と違ってハンター世界の門番の役割も果たしている俺は、政府がこちらに不利益をもたらさない限りは決して裏切らない。便利な事この上ないのだ。

 こうして俺はただの審神者としてだけでなく、時折ブラック本丸整備の危険作業を担うアルバイターとしても働くこととなった。ちなみに、三日月宗近が言っていた“交渉役の審神者”とは、ブラック本丸に所属している刀剣男士の保護とメンタルケアを主に行う役割の審神者のことである。要するに戦闘担当の俺と分業している。刀剣男士は、元は武器に宿る付喪神だが、人の形を持ったことで心も手に入れている。そのため、場合によっては心のケアも必要になるのだ。その役割を政府から任される審神者は皆、温厚なお人好し揃いなので、俺の仕事はそんな彼らを守ることも含まれる。

 本丸にある赤い鳥居型の門をくぐると、すぐに目的地であるブラック本丸に着いた。本丸の正面玄関では、既に今回の仕事のパートナーである審神者と、その6口の刀剣男士が立っていた。俺は人好きのする笑顔を浮かべると、緊張感あふれるオーラを漂わせている彼らに声を掛けた。

「ご利用ありがとうございまーす。危険作業は大体イケる、審神者デリバリーサービスでーす……ってあれ?」

 審神者の少女がこちらを振り向く。その顔を見た俺は、思わず目を瞬かせた。素朴な可愛らしい顔立ちに、肩につかない程度の髪をハーフアップにして飾りを付けたその姿には見覚えがある。少し考えるとすぐに思い当たったので、俺はぽんと両手を打った。

「君、ひょっとしてこの前の演練にいた虎徹JKちゃん?」

「ひゃああああっ! 三条様!?」

 俺の顔を見てしばし硬直していた少女――JKと名乗りの通り、女子高生くらいに見える――は、俺の呼びかけで我に返ると、バネ仕掛けのオモチャのように飛び上がった。ちなみに俺が“三条様”と呼ばれているのは、彼女と会った時の俺の刀剣男士が皆“三条派”と呼ばれる分類に入るからである。なお、たまたま今回連れて来ている三日月宗近と今剣はどちらも三条派なので、今日の俺も三条様である。そして虎徹JKちゃんの名前に“虎徹”とついているのも、俺と同じような理由である。

 虎徹JKちゃんは慌てて金ピカの青年の背後に隠れた。金ピカの青年――もとい、金一色の上着と軽鎧に身を包んだ青年は蜂須賀虎徹(はちすかこてつ)。腰まで届く長い紫色の髪を垂らしているという、ものすごく派手な見た目の打刀(うちがたな)だ。刀の大きさは太刀である三日月宗近の方が勝っているが、その派手さでは足元にも及ばない。武人とは思えない滑らかな白い肌をした彼は、上品な顔立ちをやや引き攣らせていた。ああはい、その節(演練)はどうも。ご主人様の内気なようでいて高いテンションは相変わらずですね。

「主、はしゃぎすぎじゃないか?」

「だって! 三条様が! 守ってくれるっていうことで!」

 蜂須賀虎徹の上着の裾を掴んで、恐怖のためではなくブルブルしている虎徹JKちゃんにどう接すればいいというのか。俺は蜂須賀虎徹の目を見た。早くどうにかしろという顔をされた。仕方がないので、彼の隣にいる明るい茶髪の脇差少年――浦島虎徹(うらしまこてつ)に視線を移した。蜂須賀虎徹に弟として可愛がられている彼は、快活な笑顔を浮かべてスルーした。おい。俺に対応を投げるところは兄にそっくりである。更に視線を横にずらすと、今度は襟足だけが金色をした黒髪の打刀青年――長曽祢虎徹(ながそねこてつ)と目が合った。逞しい胸筋と腹筋を不必要なほど露出した見た目土方青年は、真面目な顔をして言った。

「おれには無理だ。すまないが何とかしてくれ」

 普通に頼まれた。虎徹3兄弟以外の3口も頼りになりそうにないので、仕方なく俺は口を開いた。

「あー……。JKちゃん、中堅どころで人が好さそうだからお鉢が回って来たのかな。まあ、無理しない程度に頑張ろうな」

「あわわわありがとうございます!」

 虎徹JKちゃんは耳まで真っ赤になると、蜂須賀虎徹の上着をぎゅーっと握り締めた。

「主、上着が伸びるからやめてくれ」

 そこかよ。まあその通りだが。虎徹JKちゃんが上着から手を離すと、蜂須賀虎徹は少しむっとした顔になって言った。

「俺は本物なんだ。もっと丁寧に扱って欲しい」

 蜂須賀虎徹は、贋作が多い虎徹において本物であることを誇りに思っているらしい。そのため、発言のあちこちに本物アピールが含まれている。そして同じく本物である浦島虎徹を弟として可愛がり、贋作である兄の長曽祢虎徹を毛嫌いしているのだ。……まあ、ここで兄弟喧嘩しないなら好きにしてくれ。

 虎徹JKちゃんは蜂須賀虎徹に謝ってから気を取り直すと、だがふと思い出した顔をして首を傾げた。

「……デリバリーサービスって何ですか?」

「ごめん、その口上は完全に悪ふざけ」

 特に意味はないので答えようがない。俺は軽く謝ると、目の前にある不良債権攻略のための説明を始めた。

「この本丸は、放棄されてから政府にブラック認定されるまでの間が比較的短いから、危険度はそんなに高くない。歴史修正主義者や検非違使が潜んでいる可能性は低い。でも万が一のことがあるから、JKちゃんは自分の刀剣男士から離れないようにね」

「はいっ」

 再び緊張した面持ちに戻った虎徹JKちゃんは素直に頷く。それを確認すると、俺は自分の刀剣男士たちに振り返った。

「じゃあ、三日月じいさんはJKちゃんと一緒に刀剣男士の保護。JKちゃん、保護するときは刀剣男士の名前と負傷度を控えておいてくれ。後で目録にしないといけないから」

 三日月宗近を虎徹JKちゃんに付けるのは、彼の実力が高いということと、ほけほけしているので相手の警戒心を解きやすいこと、そして実はどんな状況でも動じず、相手に真意を読ませない泰然さを持っているからである。ブラック本丸初体験の虎徹JKちゃんの補佐にはちょうどいい。

「俺といまつる君は危険地帯と物資の確認をしに行くから。何かあったら、大声を上げてくれればそっちに行く」

 そして今剣は機動力が高いため、伝令役に適している。また、一人でもそれなりに戦えるので、こういう場所に連れ回しても問題がない。俺と二人で行動するには非常に相性がいいのだ。

 だが虎徹JKちゃんは不安そうな顔をした。

「あの、その子一人で大丈夫ですか?」

「だいじょうぶです。ぼくもあるじさまもつよいですから」

 今剣はそう言って胸を張る。俺も虎徹JKちゃんにひらひらと片手を振ると、軽い足取りで本丸の中へ踏み込んだ。

「はっはっは。心配はいらぬよ。さて、俺達も参ろうか」

 背後から聞こえる三日月宗近の声は、いつもと変わらずのんびりとしていた。



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