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審神者になるゾル兄さん2
萌え 2015/05/17 20:54


「今から40年ほど前だったか。まだシルバが幼い頃のことじゃ。ちょうど今のハンター協会本部のある場所が異世界に繋がった」

「……は?」

 完全に想定外の単語に、俺は再び目を見開いた。異世界。それは残念な事に、俺にとっては非常になじみ深い言葉だ。だがそれが祖父の口から出るとは思いもしなかったのである。しかし祖父は真面目な顔をしている。冗談の類ではなさそうだ。

「ワシとて今でも信じられんよ。この世界以外の世界、地形も歴史も技術も違えたものが存在して、なおかつワシらの住む場所と繋がったなどとは。だが本当じゃ。正確に言えば、繋がったのは世界と世界の狭間にある、得体のしれない空間じゃがのう」

 ふうと息を吐いて祖父は続ける。

「その繋がった場所から、落ち武者のような生き物が数体飛び出して来た。こちらに襲いかかってきたのですぐに仕留められたが……その後、“政府”と名乗る者が現れて説明をしたのじゃ。自分たちがどういう状況に置かれているのかを」

 すぐに仕留められた件については何も言うまい。落ち武者(仮)は相手が悪かったのだ。20代だからといって祖父が弱いわけもないだろうし、祖父が若い頃には既に爺さんだったというハンター協会のネテロ会長など、感謝の正拳突き1万回で音速を超える男である。瞬殺だったに違いない。……ジジイ世代、強過ぎる。

「“政府”が存在する世界はここよりも技術が進んでおるようじゃ。もしかすると、この世界よりも未来なのかもしれんな。確か西暦2205年とか言っておった。その世界では時間を遡り過去へ飛ぶことができる機械が発明されているらしい。元は単純な興味本位で生まれ、将来的には旅行感覚で過去に行く目的に使われる予定じゃったが、そうはいかんかった」

 俺は何となくドラえもんを思い出した。あの作品ではタイムマシンで簡単に過去へ飛べるが、確か過去で過ごすには未来を改変しないためのルールがあった。それから、時間を取り締まる警察もいた気がする。しかし殺伐とした空気は感じなかったので、ドラえもんは時間旅行ができる世界観の中では成功例だったのだろう。

「ある時、“歴史修正主義”という思想が生まれたらしい。当初はただの思想に過ぎんかったが、やがて同士が集まり、ついには時間遡行装置を手に入れてしまったのじゃ。そして過去をより良く改変するために過去の時代へ飛ぶようになったという」

「より良く?」

「歴史上の偉人の死期をずらしたり、戦争の結末を変えたり、技術の発展を操作したりするらしい。要は歴史修正主義者が勝手に考えた“より良い未来”に至るための裏工作じゃな。技術を悪用されたとはいえ、自業自得じゃ」

 過去をやり直せたら。それは人間なら大抵、考えたことがありそうなことだ。だがそれを実現するとなるとワケが違う。過去が変われば未来が変わる。極端に言ってしまえば、死ぬはずだったものが生き延びたせいで、誰かが生まれなくなる未来があるかもしれない。到底、放置できることではないだろう。

「本来ならば、その世界の問題はその世界の者だけで解決すべきじゃろう。じゃが、歴史修正主義者がこちら側にまで来る可能性ができてしまった。だから仕方なく、ワシらも審神者(さにわ)の適正がある者を派遣することになったのじゃ」

「じいちゃん、待って。歴史修正主義者がこっちに来る可能性ができた理由と、対抗するのが審神者である理由が分からない」

「焦るな、焦るな。ちゃんと説明する」

 祖父は身を乗り出す俺を手で制止すると、湯呑に口を付けた。

「全て説明するには、今度は審神者について話す必要がある」

 湯呑を置くと、祖父は淡々と説明を始めた。

「そもそもワシらに襲いかかって来た落ち武者じゃが、歴史修正主義者本人ではなかった。奴らは折れた刀剣から目覚めさせられたと思われる付喪神(つくもがみ)らしい」

 オカルト要素追加ありがとうございます。オカルトは二次元だけでいいっつってんだろ。俺は内心で白目になった。だが表情にもはっきり出ていたらしく、祖父は苦笑しながら教えてくれた。

「付喪神は知っとるか?」

「長い年月を経た物に神や霊魂が宿って生まれる妖怪だろ?」

「“政府”は神の末席として扱っておるようじゃ」

 俺の知る付喪神は、鬼や妖怪が徒党を組んで練り歩く百鬼夜行にも参加するような妖怪であるが、どうやら少し違うらしい。単純な呼び方の違いか、存在そのものの違いかはまだ分からないが。

「審神者とは“眠っている物の想い、心を目覚めさせ、自ら戦う力を与え、振るわせる、技を持つ者”とされる。付喪神を覚醒させて使役できる能力者のことじゃ。そして刀剣から目覚めさせた付喪神は刀剣男士と呼ばれておる。歴史修正主義者にも適正者がいて、目覚めさせた奴らを先兵として戦わせているらしい」

「付喪神に対抗するには付喪神ってことか」

「そうじゃ。まあ、ワシらレベルにとっては脅威でも何でもない相手じゃがの。向こうの世界には念能力者がおらんようじゃから仕方なかろう」

 わざわざ“神”とされているくらいなのだから、その戦闘力は民間人では対抗できないものなのだろう。民間人では。……ジジイ以下略。いや、これは俺にも多少は言えることか。

「“政府”は神を呼び覚まし、神と過ごすための特別な空間を用意した。それが世界の狭間と呼ばれる場所で、通常の方法では干渉できない異空間らしい。その中には“本丸”と呼ばれる“政府”側の審神者の拠点がいくつも存在する。審神者はそこで付喪神を目覚めさせ、歴史修正主義者が現れた時代へ付喪神を派遣して戦わせておるようじゃ」

「そういえば、この世界と繋がったのは世界の狭間だって言ってたよな」

「そうじゃ。ある時、歴史修正主義者の攻撃で本丸と過去を繋ぐ門に異常が生じて、偶然にもこちら側と繋がったらしい」

「うわあ」

 何とはた迷惑な。こっち見んな、という奴である。

「偶然繋がってしまったが故に迂闊に弄るわけにも行かん。今度は何が起きるか分かったものではない。そのせいで、門からこちら側の世界に歴史修正主義者が干渉することを防ぐために、ワシらからも審神者を1人派遣することになったのじゃ」

 確かに迂闊に門とやらを弄ったら、今度はどこに繋がるか分からない。古いテレビではないのだから、斜め45°の角度で叩いて直る代物ではないだろう。しかし俺は首を傾げた。

「“政府”に門を守らせればいいんじゃないか? 門がこちら側と繋がったのはあっちの不手際だし」

「おぬし、自分よりも弱い者を信用できるか? しかも別世界の人間を」

「あ、無理」

 俺は祖父の言葉にあっさりと納得した。そもそも守り切れなかったからこの事態が起きているのである。おまけに相手は異世界の政府。いつこちらを利用しようとするか分からない。だったら、面倒でも理不尽でも、こちら側の門はこちら側で守るのが一番だ。

 だが疑問はそれで終わりではない。

「別に、派遣するのは審神者じゃなくてもいいんじゃないか?」

 落ち武者(仮)は念能力者でも十分倒せる。ならば適正者を探して審神者を派遣するより手っ取り早いではないか。しかし祖父は首を横に振った。

「キリがないのじゃ」

「キリがない?」

「門が繋がった当時、ワシらはあらゆることを調べた。その際、本丸から繋がる門に使用制限があることに気付いたのじゃ。ワシらが使える門はこちら側の世界に繋がる門と、過去の時代へ繋がる門のみ。“政府”がどうやっても、“政府”が存在する未来に繋がる門は開かんかった。だからワシらが未来に飛んで、手っ取り早く歴史修正主義者を根絶やしにすることは叶わん。後手に回るしかないのじゃ。そもそも、歴史修正主義者の暗殺は過干渉かもしれんがの」

「あー……。いちいち付き合っていられないよな。歴史修正主義者の討伐には実力派のハンターを回せばいいかもしれないけど、それだけ外部に情報が漏れる可能性が出てくるし。そうなったら、こっちの世界からも歴史修正主義者が生まれるかもしれないよな」

 恐らく現代日本の一般人とスペックが変わらないであろう異世界の人間が歴史修正主義者になるのと、こちら側の人間が歴史修正主義者になるのでは危険度が段違いだ。その芽は全力で潰さなければならない。

「そうじゃ。だったら、単独で複数の兵を生み出せる審神者を1人派遣した方が余程良い。幸いにも、こちら側に繋がる門がある本丸は1つだけなのじゃから」

「それで、事情を知るこっち側の一部の人間が、秘密裏に審神者を派遣しているってことか。で、今回は俺にその適正が出たと」

「あちら側の世界は何人も適正者がおるようじゃが、こちら側の世界ではほとんど見付からん。もしかすると、念能力の有無が関係しているのかもしれんな。どうやら審神者の力はオーラではないようじゃからのう」

 審神者と念能力者の適正はイコールではないらしいので、何が俺に引っ掛かったのだろうか。そもそも念能力は、素質自体は誰にでもあるものなので、その時点で審神者とは一線を画する。神を目覚めさせて使役するのだから……霊力とかだろうか。ハンター世界では霊能者の力ですらオーラで説明が付いてしまうのだが。さっぱり分からない。

「今代の審神者は20年ほど勤めておって、最も長い任期じゃった。先代は5年、先々代は12年、更に前は3年、初代は1年じゃ。おぬしで6代目になる。5代目は病で、これ以上審神者業を続けられんそうじゃ。本丸から退去次第、隔離病棟に収容される」

 祖父の言葉に、俺の背筋を冷やりとしたものが這った。

「じいちゃん、待った。審神者の任期って決まってないのか?」

「決まっておらん。続けられる限りじゃ」

「拘束時間は?」

「審神者は本丸で生活することになる。こちら側に戻って来ることはそうそうできんじゃろう」

 ――なんだそれ。まず俺の脳裏に浮かんだ言葉がそれだった。ハンター資格取得のために一度教職を辞め、これから再び就職しようと思っていた矢先にこれだ。意味が分からない。分かりたくない。

「……じいちゃん。教師の仕事は」

「すまん、ルイ。諦めてくれ」

 真面目な顔をした祖父に告げられ、俺は一瞬、頭が真っ白になった。気を紛らわそうにも、湯呑に手を伸ばす気にもなれない。痛ましそうな目で見つめられると、かえって「嫌だ」とわめけない。話の流れから、俺が審神者になるのは決定事項だと分かっていた。覆す力は俺にはない。

「じいちゃん。俺、ずっと学校の先生になりたかった」

 思いの外、途方に暮れた幼い声が出た。相手が信頼している祖父だからだろうか。

「やっと夢を叶えたのに、もう捨てなきゃいけないのか?」

「審神者業が軌道に乗れば、可能な限り教師の仕事もできるように取り計らおう。暗殺の仕事もギリギリまで減らす」

(暗殺をやめさせてはくれないんだな)

 腐っても暗殺一家ということだろうか。何とも言えない気分になるが、祖父が俺に協力的なのは幸いだった。祖父ならするといったら本当にそうしてくれる。俺の働き次第ではあるが、教師の仕事も取り計らってくれる筈だ。とはいっても、審神者業が最優先ならば、担任を持てることはないだろう。非常勤講師ができるかどうかといったところに違いない。

「おぬしは今までの審神者と違って特殊な生い立ちじゃ。歴代に比べれば自由に生きられるはずじゃろう。日常での情報規制は既にできておるからの」

 確かに、ゾルディック家は外部に必要以上の情報を漏らさないように普段から生活している。そのため、それ以外の人間が審神者になるよりも機密を守りやすいだろう。不幸中の幸いなのだろうか。

「お主が夢を叶えるために努力してきたことはよく知っておる。じゃがの、こればかりはどうにもならんのじゃ」

「……アルカとナニカは? 2人に会う時間はどうなるんだ?」

「それも、審神者業が安定するまでは何とも言えん。だが、いずれ会う時間が取れるように計らう」

 屋敷の奥に監禁されている彼女をまともに家族扱いするのは、キルアが記憶を失っている今となっては俺だけだ。それを理解している祖父は、すぐにそう言ってくれた。

「おぬしは心根が優しいからの。昔から無理ばかり強いてしまう。すまんな」

「いいんだ」

 首を横に振り、笑う。そもそも祖父は、好きで殺しをやっているわけではない。だから昔から俺の気持ちに、ある程度理解を示してくれていたのだ。それだけで十分だ。

「俺は、じいちゃんの孫になれて幸せだ」

 俺は姿勢を正すと、まっすぐに祖父を見た。

「――審神者業、引き受けるよ」



***



こんな感じで審神者になる兄さんとかどうですか。こじつけです。

・ハンター世界の審神者業はとうらぶ世界のものより情報規制が厳しい。

・とうらぶ世界の方が気楽に審神者業できる。

・気楽にできる分、いろんな本丸があるわけで……。

・先代の刀剣男士は他の審神者に斡旋されたか刀解、もしくは刀の姿で政府に保管。
 兄さんは一から頑張ってください。引き継ぎ特典などない。

・兄さんの所属しているサーバー(笑)は特に決めてない。
 ある意味、検非違使よりヤバいモノと繋がってるサーバーはどこでしょうかね。



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