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審神者になるゾル兄さん1
萌え 2015/05/17 20:49

・ゾル兄さんが審神者になったきっかけ話。
・捏造を大いに含む。
・兄さん25歳。ハンター資格取得済み。
・キルア家出済み。





 ある日、俺の元に1通の手紙が届いた。それは“政府”と名乗る者から送られた物で、平たく言うと「あなたは審神者(さにわ)の適正が認められたので、指定の日時にある場所へ来てください」といった内容だ。何が何だか分からない。しかし、この手紙が俺の手元まで届いたということは、ただの悪戯ではないことになる。そのため俺は自室で一人、頭を捻る羽目になった。

 審神者という単語の意味はかろうじて知っている。神道の祭祀において神託を受け、それを解釈して伝える役割のことだ。要するに神様専用の通訳みたいなものである。どうやら俺にはその適正があるとのことだが、当然ながらそのような心当たりは全くない。俺はビックリ人間枠のゾルディック一族だが、念能力者になった覚えはあっても、宇宙人ならぬオカルト相手に交信できるような電波系暗殺者になった記憶はない。そもそも手紙で示されている審神者が、俺の知識通りの存在であるかは分からないが。

 それはともかく、手紙にある文言を信じるのならば、俺はどこかで審神者とやらの適性を調べられたことになる。だが俺には、そのような得体のしれない検査を受けた覚えはない。そして、俺が身体検査を受ける場面は限られている。

 俺は少し前まで教師として働いていた(ハンター試験を受ける際に離職している)。そのときは1年に1回、健康診断を受けることが求められるのだ。しかし俺の体は特別製であり、家庭の事情もあるので、公の場で健康診断を受けることははばかられる。従って、今のところ学校内での健康診断を避け、外部で受診した結果を提出するという形を取っていた。その外部の病院はもちろんゾルディックの息がかかっているので、情報が漏れることはない。もちろん、大学生時代の健康診断も同じようにやり過ごした。

 しかし例外はある。

 ハンター世界の人間は、流星街に捨てられた赤子以外は全て“国際人民データ機構”に登録される。戸籍や国民番号はもちろんのこと、DNAを初めとした生体データすら全て登録されているのだ。ゾルディック家も、流星街出身のキキョウ母さん以外は登録されている。そしてそれらのデータは“3つ子システム”と呼ばれる3つのコンピュータによる監視システムにより厳重に管理されており、外部から不法侵入してもすぐに発覚する。……そのデータを閲覧できれば、もしかすると審神者とやらの適正を知ることができるのかもしれない。だがデータを安全かつ自由に閲覧できる人間は限られている。

(まさかこの“政府”って)

 ぞわりと背筋が粟立つ。俺の想像以上に大きな力が動いているのではないかと気付いてしまったからだ。

「ルイ、少しいいかの」

 その時、自室のドアが叩かれた。俺は思考を一度中断して口を開く。

「ゼノじいちゃん? ああ、いいよ」

 俺が返事をすると、一人の老人が部屋に入って来た。普段はどこか飄々とした態度すら見せる祖父は、珍しく神妙な顔をしている。

「ワシの部屋まで来てくれんかの」

 その必要があるのなら、誰か執事を呼びにやればいいのにと思った俺は、ゼノじいちゃんが“あえてそうしなかった”のだと思い当たり、何となく嫌な気分になった。手紙といい祖父の様子といい、あまりにもタイミングが良過ぎる。まるで示し合わせたかのようだ。そう思いながらも今は問い質すべきではないと考えた俺は、大人しくゼノじいちゃんの後について部屋を出た。

 廊下には誰もいなかった。





 ゼノじいちゃんの部屋は和室である。い草が香る畳が敷かれた部屋は、いつも俺に一抹の懐かしさを与えるが、今回ばかりはそうもいかなかった。ここに来るまでに誰にも会わなかったことが、俺の不安に拍車をかけていた。

 俺と祖父は、ちゃぶ台を挟んで向かい合って座った。ちゃぶ台の上には最初から茶の入った湯呑が2つ置かれており、俺がここに呼び出されるのは最初から決まっていたことなのだと分かる。湯呑に手を伸ばす気にもなれず、俺は視線で祖父を促した。祖父は「単刀直入に聞こう」と前置きしてから告げた。

「“政府”から通知が来たじゃろう」

 本当に単刀直入だった。俺が目を見開いたのを見ると、祖父は深々とため息をついた。

「相変わらず、分かりやすい顔をするのう」

「あ、ごめん」

「構わんよ。今回はワシも驚いとるからの」

 家族の中では比較的表情が豊か――即ち、感情が表情に出やすい部類であるのを咎められたのかと思ったが、そうではないらしい。祖父は「取引をするわけでもないからな」と言うと、先を続けた。

「ワシはおぬしに通知が行くよりも前に知っておった」

「……何について?」

「全てじゃ。全てとは言っても、おぬしが審神者だと知ったのはほんの数日前じゃが」

 それはつまり、審神者とは何かとか、この通知が何を意味するのかとか、祖父は全て知っているということになる。

「ワシの他に知っているのは、ワシより上の世代の一族とハンター協会の会長、それから“政府”のほんの一部じゃろうて」

 祖父は深い溜息をつく。今日はよくため息をつくものだ。それほど、俺にもたらされた通知が予想外だったのだろう。

「まさか孫から適正者が出るとはのう」

 俺に向けられた眼差しは憂いに満ちていた。祖父が孫を思うそれに喜びを感じる余裕はなく、俺の胸中ではただただ不安だけが膨れ上がって行く。

「ルイ。これからワシが持つ限りの知識を与える。それを一生、誰にも口外せんと誓えるか?」

 不意に祖父の目が鋭く光る。まるで鷹の目に射止められたネズミのような気分になった俺は、自然と背筋を伸ばしていた。

「友人はもちろんのこと、ワシ以外の家族にもじゃ。できるか?」

「……できる」

 祖父の言葉は疑問形であったが、実質的には強制的に同意を取るものだった。俺は偉大な祖父に気圧されるまま頷く。理由はどうあれ、頷いたからには約束を守る。契約は必ず守るのがゾルディック一族の人間だ。俺もその端くれなのだから、これから教えられることは墓の下まで持って行くことになるだろう。恐らく今、祖父が直面しているようなイレギュラーがなければ。

 俺はあえて手を伸ばし、湯呑に口を付ける。ちょうどいい温かさの煎茶は、俺の心を少しだけ解してくれた。俺が湯呑をちゃぶ台に戻すと、祖父は話し始めた。



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