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ノマ兄さん(一般人)テコ入れ文章
萌え 2014/07/13 16:07


・兄さんの名前:△△△(名字)×××(名前)
・親友の名前:***
・展開が急
・オリキャラ祭状態





「俺にメリーさんからの電話が来た件について」

 とある初夏の深夜。俺は耳に押し当てていたケータイを離しながら、俺の部屋に泊まりに来ていた親友にそう言った。彼はテーブルの上でパーティー開きにされたポテチに手を伸ばしていたが、その手を止めて俺を見た。

「……は?」

 たった一言だが、親友がどう思っているのか如実に分かる反応だった。眉間にしわを寄せ、“何言ってんだこいつ”と言わんばかりのオーラが全開にされている。

「いや本当だって。マジで今、メリーさんから非通知で電話があったんだけど」

「イタズラ電話だろ」

 俺の弁明を、サワークリーム味のポテチを頬張りながら一蹴する親友。まあ、彼の意見が無難な判断である。俺も、度重なる強制異世界留学をさせられていなければ、イタズラ電話だろうと判断していた。だが現実は、科学では証明できない不可解な現象が起こるものである。たとえば、いきなり魔法少年の体に憑依させられたり、殺人鬼がたくさんいる世界に突っ込まれたり、果ては俺の部屋のトイレのドアが闇の帝王志望のイケメンの部屋に繋がったりするのだ。メリーさんくらい実在するかもしれない。

 しかし、リドルという名の異世界生物を未だに親友にきちんと説明していない俺が、メリーさん実在の可能性を熱く訴えることには無理がある。元来、俺はオカルトや都市伝説を心から信じ切って崇拝する人間でもない。下手に騒ぎ立てたところで、親友に引かれて終了となるのが目に見えている。ここは黙ってメリーさんの電話が偽物であると信じる他ないだろう。

 そう俺が決意した矢先、再び俺のケータイが鳴った。やはり非通知だ。俺は恐る恐る電話に出た。

『わたし、メリーさん。今、○○アパート前にいるの』

「マジですか」

 思わずそう漏らした言葉に返事はなく、ぶつりと通話が切られる。怪訝な顔でこちらを見た親友に、俺はケータイを握り締めながら言った。

「なんか、メリーさんがこのアパートの前にいるって言ってんだけど」

「電源切れば」

 親友の言葉は、身も蓋もなかった。

「どうせ、お前の番号知ってる誰かのイタズラだろ」

「……そう、かな?」

 メリーさんが本当にいるならば、電源を切ってスルーしても大丈夫なのだろうかという不安が残る。だが、連絡さえ来なければこれ以上進展のしようがないと思われるのも事実である。俺は親友の言う通り、ケータイの電源を切ってテーブルの上に置いた。

 ――だが、ケータイは三度鳴った。確かに電源を切ったはずなのに、テーブルの上で振動している。ディスプレイには、非通知の表示だ。

 俺はケータイを手に取ろうとした。だがその前に、親友がさっとケータイを掠め取り、通話ボタンを押してしまった。

「あんた誰だ」

 タイミング的に、メリーさんが話し始める前かもしれない。親友は大胆にも電話の相手にそう呼びかけた。程なくして通話が切られたらしく、眉をしかめた彼がケータイをテーブルに戻す。

「この部屋の前にいるんだと」

「うええっ、マジで?」

 まるで知り合いが家に来たかのようにさらっとのたまう彼に、俺は素っ頓狂な声を上げた。俺の知り合いにメリーさんはいません。

「見てくる」

 本当にメリーさんがこんばんはしていたらどうしよう、とびびる俺を尻目に、親友は部屋の片隅に立て掛けてあったクイックルワイパーを手にした。ちなみにこの掃除用具は、親友が手にすると立派な凶器と化す。恐るべし古武道同好会。ちなみに、俺の場合は某家庭内害虫用の中距離武器くらいにしか進化しない。……俺が言語以外に碌な異世界補正を貰えない一方で、彼なら異世界に突っ込まれても、きっと何らかのチートをもらえちゃったりするのだろう。俺と親友の間には、一般人とチーレム勇者(チート+ハーレム主人公+勇者)くらいの差はあると思われる。

「ええええやめろよ。本当に何かいたら怖いじゃん!」

「いないことを確かめるんだよ」

 そう言い残すと、彼は大股で玄関に近付いて行く。この狭苦しいリビングから玄関までは、短い直線の廊下しかない。仕切りも何もないので、玄関の覗き穴から外を窺う彼の背中がよく見える。親友は、ドアスコープから顔を放すと、今度はチェーンロックをかけた。そして慎重にドアを開ける。開かれたドアの隙間から、得体の知れない何かが入って来ないだろうかと、俺はローテーブルにしがみ付いて目を凝らした。その時、またしてもケータイが震え、俺は飛び上がった。恐る恐る通話ボタンを押して、耳に押し当てると。

『わたし、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの』

「わたし、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの」

 何故か、声が二重に聞こえた。電話と、俺の背後だ。

 あなたって、誰だ。こちらに背中を向けている親友の背後には誰もいない。ならば、俺の背後は?

(絶対、何か居る。振り向かないと。早く振り向いて確かめないと)

 だが、振り向きたくない。振り向くのが怖い。確かめて、安穏なはずの現実が非現実に浸食されていると思い知るのが怖い。それでも振り向かないと。振り向いて自分を護らないと。

 異世界に居る頃は警戒慣れしていたのか、もう少し早く行動できただろうと思う。だが、ここが現代日本で、しかも親友と一緒だったからだろうか。俺は予想外の事態に思わず硬直してしまっていた。その一瞬の隙が致命傷に繋がるのだと、俺は何度も学んで来た筈なのに。

 ――ひたり、と。何かが、背後から俺の腰に抱き着いた。痛くはない。攻撃されてはいないのだろうか。だが、俺に抱きつく小さな腕が、このまま俺の腰を捻じ切らないとも限らないではないか。嫌な想像ばかりが膨らみ、声を上げようにも、音が乾いた喉に絡みついて上手くいかない。

「う、あ」

「×××? どうした?」

 異変を感じた親友が、ドアを閉めながらこちらを振り向く。

「何かが、俺の腰に、抱きついてる」

 正直、めちゃくちゃ怖い。泣き出さないだけ上出来である。俺は、ローテーブルを挟んだ向こう側の廊下の奥にいる親友に、半泣きになりながらどうにか現状を訴えた。

 すると、瞬く間に親友が俺との距離を詰めていた。素早く戻って来た彼はローテーブルに乗り上がり、俺の頭上から俺の背後を見た。そして、俺の背後に居た何かをクイックルワイパーで突いた。

 ごとん、と鈍い音を立て、何かが床に転がった。俺は這うようにして慌ててその場から離れると、背中を壁に貼り付かせた状態で、床に落ちた何かを振りかえる。そこに落ちていたのは、長い黒髪をハーフアップにし、袴とブーツを身に付けた大正時代のいわゆる“ハイカラさん”の格好をした日本人形だった。一抱えもあるサイズのその人形は、何故かどこかで見たような気がする。俺は首を捻って自分の記憶を探したが、どうしても思い出せなかった。

「叩いた」

 人形は倒れたまま、可愛らしい少女の声でそう言った。やがて、ずるずると手足を床に這わせ、自分で起き上がる。みだれ髪が白い顔に掛かっている光景は、まさしく呪われた人形といった風情で不気味だった。

「叩いた。叩いた。叩いた」

 ぎしぎしとあるか分からない関節を軋ませながら、人形――メリーさんが親友を見上げる。何度も同じ言葉を繰り返すその声は、繰り返すごとに剣呑に低くなっていく。それにつられる様に、あどけない少女の面差しは徐々に般若のように歪み出した。明らかにヤバい気配である。

 だが親友は、淡々とクイックルワイパーの切っ先をメリーさんに向けた。こいつの心臓には、剛毛がふさふさと生えているに違いない。

「追い出すぞ」

(こ、こいつ、都市伝説を物理攻撃で撃退する気満々だ!?)

「***、待った!」

 俺は、今にもメリーさんに攻撃を繰り出そうとする親友を咄嗟に止めた。親友は、メリーさんに視線を向けたまま不満そうな顔をしたが、ひとまず手を止める。このままメリーさんをフルボッコにして部屋の外に叩き出したところで、何だか憑り殺されそうな気がして怖かったのだ。

 俺は壁からゆっくりと離れると、膝をついてから背を丸め、出来るだけメリーさんの視線の高さに合わせた。

「……いきなり叩いたりしてごめん」

 そう言うと、ぽかんとした親友に同意するかのように、メリーさんが俺に振り向いた。相変わらず般若のような顔つきで怖い。怖いが、話を聞いてくれそうなので、このまま話し続ける。

「痛かったよな? 怪我してないか?」

 メリーさんは何も答えないまま、じっと俺を見つめている。

「急に抱き着かれて怖かったんだ。そこにいる奴も、俺を心配して君を叩いたんだよ」

「わたし、居場所を教えたわ」

 不意にメリーさんが返事をした。どうやら、会話する気になってくれたらしい。しかし、居場所を教えたとは、まさかあの怪電話のことだろうか。あれが訪問先への気遣いだったとは、メリーさんの常識力は恐ろしい。

「……できれば、呼び鈴を押して欲しかったかな」

 ぼそっと本音を漏らすと、メリーさんはとてとてとこちらに歩み寄って来た。相変わらず顔は般若のままだが、猛然とこちらに襲いかかって来る様子は見られない。俺の目の前までやって来たメリーさんは、何もせずに俺を見上げる。

「触っても、いいかな?」

「どうして?」

「髪が乱れているから、直すよ」

 人形はこくりと頷いたため、俺は恐る恐るメリーさんに手を伸ばした。引っ張ったりしないように気を付けながら、出来る限り丁寧に髪の乱れを整えていく。すると、ストレートの髪が元通りになった頃には、メリーさんの顔は元通りの少女のものに戻っていた。

「とにかく、ごめんな。許してくれないか?」

「わたしのお願い、聞いてくれたら許してあげる」

 俺のお願いに返って来たのは、そんな言葉だった。俺は少し考えてから返事をする。

「……何でも聞いてあげられるわけではないけど、努力する」

 命にかかわることを要求されては困る。それを匂わせつつ承諾すると、メリーさんは身を乗り出して俺に訴えた。

「わたしをお家に帰して欲しいの」

 予想外の言葉に、俺と親友は顔を見合わせた。





 メリーさん来襲から丸二日かけて、俺と親友は人形がもともと住んでいた(?)家を探し出した。どうやらゴミ捨て場に捨てられていたメリーさんは、道を歩いている俺と目が合い(俺は覚えていなかった)、お人好しそうだからと思って俺の家にお邪魔したらしい。そもそも彼女に俺を襲う気はなく、家に帰る手伝いをしてもらうつもりだったそうだ。お人好しという評価は、ハンター世界の金髪情報屋からも言われた気がするが、まさか都市伝説からも言われるとは思わなかった。がっくりと肩を落とす俺に、さすがに親友が同情したのも無理はない。

 該当したお宅は、隣町にある古い一軒家だった。メリーさんと出会ってしまってから3日後の昼間、日本家屋の玄関前までやってきた俺と親友、メリーさんだが、俺はチャイムを鳴らすことを躊躇う。

「そういえばメリーさんの事、どうやって家主に説明しようか」

 さすがに、馬鹿正直に「お宅のメリーさんに頼まれてお届けにあがりました」と言えるわけがない。完全に頭がおかしい人扱いされるだろう。しばし困る俺を尻目に、親友はさっさとチャイムを鳴らしてしまった。

「ちょ、おまっ」

「置き逃げすればいいだろ」

 言われてみればその通りである。俺達はちゃんとメリーさんを家まで送り届けたのだ。あとはメリーさんに頑張ってもらうこととして(人形がどう頑張るというのか)、俺達はさっさと退散してしまおう。そう思っていたのだが、俺が腕に抱えているリュックから顔を出したメリーさんは、がしっと俺のシャツを掴んで離れるのを嫌がった。

「だめ。行かないで。千夏に会ってあげて」

「ちなつ……?」

「知るか。放せ」

 この3日間でメリーさんに愛着が湧きつつある俺は、彼女を引っぺがすのも気が引けたので、好きにさせたまま首を傾げる。一方、同じ期間中にしょっちゅうメリーさんと言い合い(じゃれ合いのようなものだが)をしていた親友は、容赦なく彼女を俺から引き剥がそうとした。厄介払いをする気満々である。だが彼女もなかなかの剛力の持ち主らしく、俺のシャツが伸びるばかりで全く離れない。そうこうしている内に、俺達の背後から突然声を掛けられた。

「あの、どちら様ですか?」

「うわっ!?」

 完全に不意をつかれた俺は、咄嗟にリュックごとメリーさんを抱え直して飛び上がった。いい年した男2人が他人の家の前で人形を囲んで騒ぐ光景は、はっきり言ってホラーである。俺は慌てて人形を隠そうとしたが、逆にメリーさんは嬉しそうに叫んで俺の腕から飛び出した。

「千夏!」

 声をかけて来たのは、俺達と同じ年齢くらいの若い女性だった。テキストが入りそうな大きさの鞄を持った彼女は、俺達を不審げな目で見ていたが、俺の腕から飛び出したメリーさんを受け止めると破顔した。

「メリー! 帰って来てくれたの!?」

「千夏! 会いたかったわ!」

 どうやら、彼女はこの家の住人らしい。突然目の前で繰り広げられた再会劇に、俺と親友は顔を見合わせる。メリーさんが喋って動けるのは、少なくとも千夏という人物にとっては当然のことのようだ。ならば説明の手間が省けて幸いである。そう思っているのと、千夏さんは再び俺達に声をかけて来た。

「ひょっとしてこの子、そちらのお家にお邪魔したりしませんでしたか?」

「ええ。家に帰るのを手伝って欲しいと言われました」

 嘘をつく意味もなさそうなので大人しく肯定すると、彼女はまた顔を綻ばせ、お礼にと俺達を家の中に招き入れた。





 畳敷きの客間に通された俺と親友は、お茶をご馳走になりながら、事の顛末を千夏さんから聞くことができた。

 千夏さんは大学1年生で、メリーさんの持ち主である。メリーさんは曾祖母の代から娘に受け継がれて来た人形らしい。千夏さんとメリーさんは小さな頃から仲良く過ごして来たのだが、つい最近、メリーさんが突然いなくなってしまい、探し回っていたという。

「この子は、ひいおばあちゃんが子どもの頃に親から買ってもらった人形だそうです。ひいおばあちゃんはこの子に“芽衣(めい)”って名前を付けて可愛がっていたとお母さんから聞きました」

「芽衣? メリーじゃないんですか?」

「元は芽衣なんです。私が小さい頃、“芽衣”をうまく発音できなくて、“メリー”って呼ぶようになってからは、自分のことをメリーだと言うようになったそうです」

 それはつまり、 “芽衣”が“めいー”になり、“メリー”になったということだろうか。都市伝説のメリーさんかと思っていたが、それとは別物だったということか。まあ、目の前のメリーさんが動く理由はさっぱり分からないままなのだが。

「まるで動くのが当たり前みたいに言うんだな」

 けったいな物を見る目でメリーさんを眺めながら、親友が言う。俺が思っていたことを的確に言ってくれたので、俺もその疑問を答えを求めるように千夏さんを見た。すると彼女は、にこにこしながら教えてくれた。

「付喪神(つくもがみ)って知っていますか?」

「確か、古い道具に神様とか魂が宿るとそうなるんですっけ」

 俺は頭の片隅から、雑学として覚えている知識を引っ張り出した。付喪神、あるいは九十九神。長い年月(九十九)の経過を必要とする存在で、万物に神が宿るという日本らしいアニミズム精神の象徴のようなものだ。確か、丁重に扱われたため付喪神となって恩返しをするパターンと、逆に粗末に扱われたため付喪神と化して恐ろしい目に遭わせるパターンがあった。目の前のメリーさんは、千夏さんの一族と懇意にしているようなので、前者だと思われる。

 俺が考えていたこととほぼ同じことを説明した千夏さんに対し、俺は納得を示して頷く。一方の親友は、胡散臭そうな顔をして、ローテーブルの上で寛ぐメリーさんに手を伸ばした。

「背中に電池とか入っているんじゃないか?」

「触るな、破廉恥男!」

 親友の手をメリーさんがぺしっと叩き落とす。乙女的に、着物を引っぺがして背中を確かめるのはアウトらしい。それもそうか。だが、親友もその程度の拒絶では引かない。

「男の家に上がり込むお前の方が破廉恥だ」

 そんなことを言い返しながら、親友はなおも手を伸ばす。彼の手から逃れて俺の懐に飛び込んで来たメリーさんは、俺の袖をぐいぐいと引っ張りながら親友を指差した。

「あの男はいつも失礼ね。友達は選んだ方がいいわ」

「余計なお世話だ。いいから背中見せろ」

「破廉恥! 千夏、×××、この男を何とかして!」

「単3電池か? それともボタン電池?」

 メリーさんは、俺と千夏さんを盾にしながら、ちまちまと走り回って親友の手から逃れる。親友は途中から完全に面白がって、わざとメリーさんを追いかけているように見える。そうでもなければ、彼はとっくにメリーさんを捕まえているに違いない。表情では分かりにくいが、彼は案外ふざける男だ。メリーさんもそれが分かっているのか、あの般若顔にはなっていない。

 すると、親友とメリーさんのやりとりを見ていた千夏さんがくすくすと笑い出した。

「メリー、△△△さんたちが気に入ったのね」

「……×××だけよ」

「そうかしら?」

 千夏さんが首を傾げて見せると、メリーさんは彼女の膝の上に座ってむすっとした……ように見える。相変わらずの日本人形顔なので、表情は雰囲気でしか分からない。

「わたし、粗暴な男は嫌い。あなたの彼氏も嫌いよ」

「ちょ、ちょっと!? 余計なことまで言わないで!」

 メリーさんのカミングアウトに、千夏さんはリンゴのように真っ赤になった。千夏さんは取り繕うように俺達に説明し出す。

「別に、彼氏が暴力的ってわけじゃなくて、メリーのことを気味悪がったり、扱いが雑だったんです」

(彼女が日本人形を大事にしていたら、多少はびびるかもな。しかも喋ることまで分かったら、心臓が弱い人は泣いて逃げてもおかしくない)

「あいつはわたしを勝手に捨てたわ。許さない。呪ってやる。だから住所を教えて」

 なんと、メリーさんが行方不明になったのは、千夏さんの彼氏のせいらしい。彼氏に若干同情していた俺は、それを聞いて考えを改めた。おい彼氏、何故捨てた。不気味かもしれないが、捨てた方がヤバいと思わなかったのか。それに、他人の持ち物を勝手に捨てるのもよろしくない。

「教えるわけないじゃない! それに、彼とはもう別れたからいいのよ」

 千夏さんはそう言ってメリーさんを宥めると、少し寂しそうな顔になった。メリーさんが行方不明になってから別れたのだろうから、彼氏と破局してそう日は経っていない。まだ思うところがあるのだろう。すると、メリーさんは嬉しそうになって俺に話しかけて来た。

「×××、あなたなら千夏の婿になってもいいわよ」

「メリーッ!」

「見合い写真を勧めるお節介ババアか」

 千夏さんがまた真っ赤になって叫ぶ一方で、親友は呆れたようにツッこむ。メリーさんは親友を睨むと、千夏さんの前にある個包装のせんべいを彼に投げ付けた。

「あなたは婿になったらだめ!」

「お前みたいな姑なんて願い下げだ」

 親友は涼しい顔でせんべいをキャッチすると、遠慮なくそれをバリバリと齧る。……我が親友ながら、本当に図太い神経の持ち主である。俺と千夏さんは、顔を見合わせて苦笑した。気分はお互いに“うちの子がすいません”である。

 それから、俺達はしばらく千夏さんやメリーさんと話した。嬉しそうにメリーさんとの生活について話す彼女を見て、メリーさんはずっと嬉しそうにしていた。ひょっとすると、メリーさんが玄関で俺を引き留めたのは、千夏さんに自分の存在を気軽に話せる人を作ってやるためだったのかもしれない。

 千夏さんとは、時々遊びに来ることを約束して別れた。なお、メリーさんからは、遊びに来なかったらこちらから出向くと脅された。……もうホラーは勘弁して欲しい。

 しかし、メリーさんと接触したのがきっかけなのか、もともと俺達にそういう素質があったのか。その事件以降、俺と親友が頻繁に人ならざるものを見るようになったのは別の話である。



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