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ゾル兄さんテコ入れ文章?
萌え 2014/07/06 21:19

・展開が急
・グロ気持ち悪い描写がある
・すっきりしない終わり方





 きっかけは、授業中にとある生徒の様子がおかしいと気付いたことだ。その生徒は、教室の真ん中辺りに座っている、リオという男子だ。カチューシャを付けて茶髪をオールバックにした彼は、見た目通りのお調子者で、サッカー部でもそこそこの成績を残しているらしい。授業よりも部活が大好きな彼は、特に部活で激しい練習をした翌日の授業で居眠りをする常習犯で、その度に俺にどつかれていた。その彼が、今日はしっかりと起きていたのだ。だが授業を真面目に聞いているかというと、そうではない。彼は不自然に青ざめ、暗い表情でじっと自分のノートを見下ろしている。その様子からは俺の話を聞いているとは到底思えず、むしろ居眠りから起こされた後の方がしっかりしているくらいだ。部活で何かトラブルでもあったのだろうか。

 俺は帰りのHRを終えると、気のせいではなくぐんにゃりとしているリオに声をかけた。彼は俺の受け持つクラスの生徒でもあるので、こういう時に声が掛けやすい。

「リオ。今日は元気がないな。いつもは俺の授業で堂々と寝る勇気があるのに」

 皮肉交じりでそう言うと、彼は机の上に置いたスクールバックを両手で握り締めたまま、逡巡したような顔で俺を見上げた。引き結んだ唇をしばしむぐむぐと動かしてから、覚悟した様子で切り出す。

「……あのさ、先生。俺、相談したいことがあるんだけど……」





 俺はその日の放課後、職員室で、同じサッカー部の友人2人を引き連れたリオから事情を聞いた。曰く、リオのケータイに今朝から非通知で電話が何度もかかって来る。その内容が、いわゆる都市伝説の“メリーさんの電話”のように、徐々に自分の居る所まで迫って来るというのだ。

 心情的にはイタズラ電話だろうと言ってやりたかったが、ここはハンター世界。現代日本では眉唾モノの霊現象も、実は念能力が絡んでいましたというカラクリが成り立つ。つまり、死者の呪いが実在してしまう世界なのだ。話を聞いてからすぐさま目に凝(ぎょう)をしてオーラを集中させ、彼らを観察したが、今の3人に直接念能力が絡んでいる兆候はない。それでも、彼らが何らかの形で念能力者の襲撃を受ける可能性はゼロではないだろう。

 そんなわけで、俺はリオたち3人を教室に居残りさせ、この怪電話の件を解決することにした。とは言っても、彼らはまだ中学生だ。保護者でもない俺が遅くまで独断で残すわけにもいかない。事情が事情なので、校長など管理職の教員に説明して協力してもらうわけにもいかない。そのため、解決するのにもタイムリミットがある。

 現在時刻は夜の8時。教室に立て籠ってから数時間経過したが、未だにメリーさんは現れない。もう部活動の生徒も帰ってしまっており、校舎内の生徒はこの3人くらいだろう。

「――お前らの保護者には連絡は入れといた。でも、残れるのは9時までだ。時間を過ぎたら、メリーさんが来なくても俺がお前らを家まで送り届けるからな」

「先生、気が利いてるー!」

「サンキュ、先生!」

 リオの友人であるチャラ眼鏡(発言がチャラい)とワックス小僧(色気づいている)は、夜の校舎に興奮して恐怖を忘れているのか、明るく俺に礼を言った。

「……ありがと」

 一方のリオは、やはり電話が掛かってきているせいか、礼の言葉も神妙だ。

 その時、初期設定の着信音が鳴り響き、全員がびくりと肩を震わせた。リオのケータイが鳴っていた。彼が恐る恐るズボンのポケットから取り出したケータイの画面には、非通知の表示がある。俺はリオに指示して、スピーカーモードにしてから通話を繋げさせた。すると、鈴を転がしたような可愛らしい少女の声が教室に広がった。

『わたし、メリーさん。今、□□中学校の正門にいるの』

 ブツンと途切れる通話。さすがに恐怖を思い出したのか、チャラ眼鏡とワックス小僧も顔つきが真剣になった。

「マジで来てんのか?」

 ワックス小僧は、引かれたカーテンの隙間から校門を見ようとしたが、俺はそれを止めた。

「覗かなくていい。全員、黒板を背にして懐中電灯をしっかり持っとけ。もし怪奇現象が起きて部屋の明かりが消えたら、すぐに点けろよ」

 懐中電灯は、俺が職員室から3本ほど、こっそり拝借してきた。生徒3人のまともな所持品はそれくらいで、武器になりそうな物は持たせていない。いざというときに混乱して武器を振り回された方が、メリーさんに襲われるよりも悲惨な事になる可能性があるからだ。そうなるくらいだったら、初めから逃げに徹させた方がいい。どの道、本当にメリーさんがやって来たら、俺がどうにかするのだ。

 俺は教室のドアと窓の鍵を全て締め直し、教室後部のドアだけ鍵を開けたままにした。メリーさんがまっとうな手段でやって来るのなら、鍵が開いている教室後部しか進入路がない。出入り口をひとつにしておけば、警戒するこちらもやりやすい。……テレポートなど、余計な小技を使わないことを願う。

 再びリオのケータイが鳴る。やはり非通知だ。リオが通話ボタンを押すと、先程と同じ声が流れ出した。

『わたし、メリーさん。今、生徒昇降口にいるの』

 通話が一方的に切られると、しばし嫌な沈黙に包まれる。それを払拭しようとしたのか、チャラ眼鏡が明るい声を出した。

「そういえば先生ってさ、何か格闘技とかやってんの?」

「護身用にな。ちゃんと全員護ってやるから、俺の目の届くところに居ろよ?」

「うっす!」

 俺の言葉に、ワックス小僧が元気に答える。

 今の俺は、白のワイシャツに青のネクタイ、黒のスラックスというあまり動きやすくない格好だ。だが足元は室内履きの運動靴であるし、全く動けないわけでもない。相手が凄腕の念能力者でもない限り、どうにかできるだろう。

 俺はワイシャツの袖を肘まで捲り上げながら、周囲の気配を探った。だが、俺達以外に残っている教職員の気配くらいしか感じられない。円をしてオーラの位置を探るにしても、メリーさんにもう少し接近してもらわなければ難しいところだ。

 その時、またしてもリオのケータイが鳴った。俺がリオの目配せに頷くと、彼は恐る恐る通話ボタンを押す。

『わたし、メリーさん。今、2階にいるの』

「う……っ」

 リオは呻くと、震える手でケータイと懐中電灯を握り直した。2階は、この教室があるフロアだ。

「大丈夫だって! いざという時は、先生がメリーさんをボコボコにしてくれるって!」

 チャラ眼鏡は無理矢理笑顔を作ると、リオの背中を叩いた。チャラ眼鏡は、こういう時に他人を気遣える生徒である。ワックス小僧も、蒼褪めながらもリオをチャラ眼鏡と挟む位置に寄り添い、両手で懐中電灯を握り締めた。彼は恐らく、この中では1番のビビリだが、友人を見捨てずにここまで付いてきたイイ奴である。

「何を見ても動くなよ。お前らがちゃんとそこにいないと、俺一人じゃ護り切れない」

 そう言いながら気配とオーラを探るが、不審なものは見付けられない。イタズラ電話だとしたら、こちらがこの場所に居ることを知っている人間でなければできないのだが、真相はどういうことなのだろうか。そうこうしている内に、リオのケータイが鳴った。両側をチャラ眼鏡とワックス小僧に支えられながら、リオが通話ボタンを押す。

『わたし、メリーさん。今、2年B組の前にいるの』

「本当に来てるよ……きもちわりぃ」

「俺、もう帰りたい……」

 チャラ眼鏡が舌打ちし、ワックス小僧が既に半泣きになった。リオは真っ青で俯いたまま動かない。俺も気配を探り続けるが、やはり何も感じない。だが、嫌な予感がする。上手く言えないが、暗殺者としての勘かもしれない。イタズラ電話だと思って油断してはいけないと強く感じる。

 ――刹那、教室の電灯が消え、真っ暗になった。同時にぞわりとする気色の悪い気配が教室内に侵入した。教室後部辺りにその気配があるが、まるで霧のように分散していてうまく掴めない。俺は堅(けん)をしてオーラの防御を固めながら、混乱して悲鳴を上げる生徒達に振り向いた。

「全員動くな! すぐに懐中電灯を点けろ!」

 がちがちと音がして、程なくすると何とか3つの光が灯る。3人とも、ちゃんと同じ場所に固まっているようだ。俺がほっとするのもつかの間、リオのケータイが鳴った。今度は、リオが通話ボタンを押す前に勝手に通話が繋がった。

『わたし、メリーさん。今、先生の後ろにいるの』

「わたし、メリーさん。今、先生の後ろにいるの」

 声が俺の正面と背後で二重になって響いた。3人が一斉に俺を照らし、俺も同時に振り向く。

「ひぃっ!」

 リオが頼りない声を上げた。

「あれ、マネキンか!?」

 チャラ眼鏡の言う通り、俺から3mほど離れた場所に、俺より少し背丈が低い女性のマネキンが立っていた。この目で確認する前はっきりと気配を特定できなかった事実に、俺は内心で戦慄する。マネキンからはオーラが読み取れない。思っていたよりもヤバい相手かもしれない。それでも、俺一人なら苦戦はしないだろうが、今は背後に3人の生徒が居る。生徒の目の前で人間離れした行動を取らずに、なおかつ攻撃されたら回避せずに全て受け流さなければならない。面倒だが、それでもやるしかない。

 俺は、ギィギィと関節部分が軋む音を立てるマネキンを正面から見据えた。埃を被った赤いカクテルドレスを着たマネキンの両手には、鈍く光る大振りの裁ちバサミが握られている。生徒を殺しに来たとしか思えない奴を、野放しにするわけにはいかない。

 リオの服を掴んで震えていたワックス小僧は、怯えた声で叫んだ。

「やっぱり祟りなんだ!」

(……“やっぱり祟り”って、こいつらは案の定、自分が襲われる原因に心当たりがあるんだな)

 俺に説明した時は、メリーさんの標的に選ばれる心当たりがないと言っていたが、嘘だったらしい。まあ、説明する様子からしてそんなところだろうと思っていたが、やはり後で聞き出す必要がありそうだ。

 マネキンが右手を振りかぶり、錆付いたハサミを投げる。狙いが少し外れているが、明らかに生徒を狙った軌道だったので、俺はそれを後ろ手に掴み取った。さらにマネキンは左手のハサミも投げたが、俺は掴んだハサミを投擲する。俺が投擲したハサミの閉じた切っ先は、生徒に向かうハサミの取っ手の輪を捉え、壁に凶器を縫い止めた。

「どこに投げてんだ。俺をどうにかしないと、後ろの連中には手を出せないぞ」

「先生、ちょーカッコイイ。アクション映画みてえ」

 鼻水を啜りながら、ワックス小僧が俺を褒める。チャラ眼鏡も、場違いに感心した声を上げた。

「絶対オニガワラより強えー。何で数学の先生やってんの?」

 ゾルディック補正のある俺が体育の先生をやるのは、何だかずるいと思う。何となく。それに、体育にはあまり興味がない。

 ちなみに、“オニガワラ”とは我が校が誇る強面の体育教員(42歳既婚)である。全生徒がびびる生徒指導の主任でもあるが、同時に奥さんはモデルもびっくりの美人で、おしどり夫婦としても有名だったりする。俺(24歳独身)もそんな奥さんが欲しい!

 その時、突然リオが床に這いつくばるようにして土下座をし始めた。

「ごめ、ごめんなさい! ごめんなさい! 謝るから許してください!」

 それに触発されたのか、ワックス小僧もリオに寄り添って再び震え始める。「どういうことだ?」と俺がマネキンを見据えたまま問い質すと、観念したのか、チャラ眼鏡が言いにくそうに説明し出した。

 どうやら彼らは昨日、部活帰りに公園でサッカーボールを使って遊んでいたらしい。その時、リオの蹴ったボールが公園近くの民家の庭に入ってしまい、庭に隣接したベランダのガラスを割ってしまったようだ。塀に囲まれた民家をそっと窺うと、割れたガラスの向こう側にある部屋に、おびただしい量のマネキンが置かれているのが見えとか。怖くなった彼らは、住人に謝りもせずに逃げ帰ったのだという。……正直、家の中にマネキン部屋があったら、俺でもびびる。逃げ帰る気持ちは分からないでもない。

 要するに、彼らの説明から考えると、その家のマネキンが復讐しに来たとでもいうところなのだろうか。俺は両手をだらりと下げると、マネキンに向かって声をかけた。

「ウチの生徒がご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません。明日、必ず彼らと謝罪をしに伺いますので、今晩はこれでお引き取り願えませんか?」

 マネキンは、落ち窪んだ眼窩で俺と生徒たちをじっと見つめると、ゆっくりと後ずさりを始めた。そして、懐中電灯に照らされていない暗闇に溶けるようにして、ふっと消える。マネキンが完全に消えた途端、教室の電灯が復活して、室内が煌々と照らし出された。

「……そこの3人。明日必ずその家に謝りに行くから、絶対に欠席するなよ?」

 俺が振り返ってじろりと睨みつけると、3人組は真っ青な顔でこくこくと頷いた。





 翌日の朝10時頃。俺は3人の生徒が民家のガラスを割ったことだけを報告し、校長・学年主任・生徒3人というメンバーで件の家を訪問していた。校長の手には、事務に急遽用意してもらった菓子折りが握られている。

 だが、目的の家に付いたものの、俺達はその異様な雰囲気に戸惑うことになった。

「……旅行にでも行っているんですかね?」

「だとしたら、新聞の配達は差し止めるだろう」

 学年主任の呟きに、校長が首を横に振る。家の玄関脇に設置されたポストからは、大量の新聞が溢れかえっていたのだ。俺は地面に落ちている新聞を拾い、日付を確認してみる。新聞の大半は雨に打たれてぐちゃぐちゃになっていたが、いくつかはもともと雨の日に配達されたのか、ビニール袋で包装されていたため無事だったのだ。日付は数年前のものだった。ポストには新聞配達の契約更新通知らしき封筒も捻じ込まれていたので、先払い式の新聞配達の契約が更新されなかったため、その時点で配達が止まったのだろう。玄関の異様な様子は、塀に囲まれた格子門を開けた奥にあるので、道路からは目につかない。

 その時、風に乗りふとある臭いが俺の鼻腔を擽った。その臭いに覚えがあった俺は、顔には出さないものの内心で眉をひそめる。放置された新聞といい、この臭いといい、碌な予感がしない。

「俺、ベランダに回って様子を見てみますね」

「じゃあ、僕も一緒に行きますよ」

 そう申し出た学年主任と一緒に、俺は玄関からベランダ側へと回り込んだ。

 ベランダは、割れたガラスが散乱したままの状態だった。住人が居るのなら、割れたままにしておくはずがないだろう。俺は学年主任と顔を見合わせてから、部屋の中を窺う。確かに、チャラ眼鏡が言っていた通り、部屋の中にはおびただしい数のマネキンが置かれ、折り重なるようにして倒れたマネキンの中には、サッカーボールが転がっていた。

「……何だか、変な臭いがしますね」

 ベランダに来て少しずつ強くなってきた臭いに、学年主任も気付いたようだ。部屋の中の惨状と相まって顔を顰める彼に、俺は神妙な顔で言った。

「俺、この臭いに覚えがあります。確か、肉が腐った時の臭いです。家族が一度腐らせたことがあったので、分かります」

 正確に言うと死臭であるが、それを馬鹿正直に言うのはさすがによろしくない。

「冷蔵庫の中身が腐った、のでは、臭いはこんなに漏れませんよね……?」

 俺と同じ想像をしたのか、学年主任の顔色が悪くなる。俺は彼を玄関の方へ背中を押しながら言った。

「中を確認してきます。もし、住人が倒れて動けなくなっていたら、助ける必要がありますし。……生徒には臭いの事、黙っていましょう」

 学年主任は何とか頷くと、よろよろと玄関へ戻っていった。俺はそれを見送ると、そっと室内へ足を踏み入れた。サッカーボールや倒れたマネキンをそのままに、マネキンの林を擦り抜けるようにして奥へ向かう。死臭の強くなる方向へ、ひたすら歩いた。

 臭いの元は、床板といくつかの扉の向こう側にあった地下室だった。地下室の扉を開けると、常人ならば間違いなく嘔吐しているであろう臭いが溢れ出す。

 そこは物が雑多に積み重ねられた裁縫部屋のようだった。部屋の奥に一つだけある椅子に腰かけた老人が、机に突っ伏した状態で絶命している。死後、数年経っているせいか、肉が腐って溶けている。地下室の室温が低いため、辛うじて原形を保っているのかもしれない。

 腐った老人の傍らには、学校で襲いかかって来たマネキンが佇んでいた。赤いカクテルドレスを着たマネキンは、その立ち位置のせいで、老人をじっと見つめているように思える。そういえばあのマネキンは、裁縫に使う裁ちバサミを投げ付けてきたものの、狙いは生徒自体からは外れていた。もしかして、あえて外していたのだろうか。

「……本当は、誰かにこのことを気付いてもらいたかったのか?」

 相変わらず念能力の気配がしないマネキンに問いかけると、まるで俺の言葉に応えるかのように、突然マネキンが倒れた。老人の上に倒れ込んだマネキンは、変な位置をぶつけたのか、首や手足の関節が折れてしまう。折れた部分から白いものを見付けてしまった俺は、この家に入ってからずっと行っていた凝を強化し、何度も老人とマネキンを観察した。だが、とうとうオーラの気配は見当たらなかった。

(これは一体、何だったんだ?)

 俺の疑問に答える者は誰も居ない。



* * *



リオくんは某ぴくしぶ神様の部活少年から勝手にお借りしました。あの子好きなんです……散々な目にあわせてすみません;



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