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ゾル兄さんinゼロ魔その17
萌え 2014/05/25 22:59


「ぼ、僕は浮気なんてしていない!」

 いきなりルイズに事の発端を指摘され、ギーシュはわたわたしながら否定した。だがルイズの追及は厳しい。

「言い逃れしようったって無駄よ、二股のギーシュ!」

「僕は青銅のギーシュだ!」

 ……ギーシュの二つ名は二股でいいじゃないと思ったのは秘密である。だが、周囲の観客が爆笑しているので、思っているのは俺だけではないだろう。

「ルイズ。頭を低くして俺にしがみ付いて」

 いよいよまともな決闘の再会だが、俺はルイズを下ろさないまま、彼女をしっかりと右腕で抱きかかえる。ギーシュはそんな俺の様子を見て眉をひそめた。

「いつまでご主人様を抱えているつもりだい?」

 素朴な問い掛けに、俺は笑顔で答えた。

「ハンデだよ」

「……何だって?」

「文句があるなら、力尽くでどうにかすればいい。決闘なんだから」

 頭上でルイズも驚いた気配がしたが、気にせず笑い飛ばす。すると、さすがに頭にきたのか、ギーシュがすっと目を細めて造花の杖を振った。

「ルイズ。怪我をしたら、君に似て自信過剰な使い魔を恨んでくれよ」

 薔薇の花びらが舞い、もう1体ワルキューレが出現する。ギーシュの雰囲気が変わったことに気付いたルイズは、俺の首に腕を回してしがみついた。

 同時に2体のワルキューレが俺に襲いかかる。やはりあのゴーレムは、構造も動きも人間に限りなく近く、動きも滑らかだ。――だからこそ、弱点も分かりやすい。

 俺は先頭のワルキューレが突き出した右拳をかわして手首を掴み、そのままゴーレムの腕をくぐるようにして体をくるりと一回転させる。すると、ゴキリと鈍い音を立て、ワルキューレの右肘から先がもげた。これは本来、人間の肘関節を外す、あるいは破壊する技である。人間ならば体か肘から先のどちらかを固定して、逆に一回転させれば元に戻る(関節は傷付いているが)。しかし、青銅の人形であるワルキューレは、それに当てはまらなかったようである。

「人間よりも柔軟性に劣る分、こうやって壊れやすいのは欠点かな」

 俺はもげた右腕を無造作に放り投げた。腕はガシャンと音を立てて、右腕がもげたワルキューレの顔面に当たって落ちる。あっさりと壊された自慢のゴーレムの姿に、ギーシュはあんぐりと口を開けた。あまりの動揺のせいで、ワルキューレの動きも止まっている。

「……ねえ、ルイ。あんたもしかして、めちゃくちゃ強い?」

「殴られたふりして避けられる程度には」

 おそるおそる訊ねてくるルイズに、俺は空いた左手で自分の頬を示した。もちろん、殴られていないので傷はない。ルイズがはっとすると同時に、今まで手を抜かれていたことに気付いたギーシュが、再びワルキューレを差し向けて来た。腕をもがれたワルキューレを下がらせ、無傷の騎士を前に出している。

 俺に掴みかかろうと突進してきたワルキューレを、今度は一歩体を外側にずらして避けた。さらに、騎士が通り過ぎる直前に、ワルキューレの後頭部に左手を添えて前方下へ押し込み、同時に片足を青銅の足に引っかけて、後方上に向けて軽く蹴り上げる。すると、ワルキューレは突進してきた勢いのまま縦に半回転し、顔面から床に激突した。頭部は完全にぐちゃぐちゃになっていた。

「そんな!?」

「これで終わりか?」

 悲痛な声を上げるギーシュを挑発すると、彼はぎろりと俺を睨みつけた。

「そんな訳があるものか!」

 俺は肩をすくめると、ルイズに声をかける。

「ルイズ、腕の力を抜いて」

「こう? ――きゃっ!?」

 ルイズが腕から力を抜くと、俺は彼女の体を滑らせ、片手ではなく両手に抱き変えた。自然と両手が塞がる形になり、ギーシュが眉をひそめる。

「何のつもりだい?」

「ハンデを追加しただけだ」

「……っ、調子に乗るなよ!」

 ギーシュは傷付いたワルキューレを一旦消してから、同時に7体を作り出した。しかも今度は、剣や槍などを携えている。

「僕は名門グラモン家の息子だ! たかが平民風情に遅れなど取るものか!」

 俺は腕の中のルイズに訊ねた。

「名門なのか?」

「グラモン家といえば、代々続く軍人貴族の家系よ」

「そりゃ、びっくりだ」

 俺の適当な反応に、ルイズは呆れたような顔をした。

 7体のゴーレムが横に展開し、俺を取り囲む。女騎士たちは俺を包囲すると、一気に接近してそれぞれの武器を突き出した。俺はそれをかわして踏み台にし、さらに肩、頭を踏んで跳躍した。ゴーレムの群れを上空に突っ切る形になり、眼下で綺麗に円形に並んだ彼女たちが、これまた綺麗に武器を円陣の中心に向けて突き出しているのが見える。

「それで逃げおおせたつもりかい!?」

 ギーシュが叫び、ワルキューレたちが真上に武器を突き出した。当然、このまま落下すれば串刺しである。ぎょっとしたルイズが焦って喚いた。

「ちょっと! このままじゃ刺さっちゃうわよ!?」

「大丈夫だよ」

「どこが!?」

 俺は右足の爪先にオーラを集中させ、その部分で突き出された長剣の切っ先に着地した。

「ほら」

「このぉっ!」

 ギーシュの意思に応じて、長剣を持つワルキューレの両隣にいるゴーレムが、自身の武器である槍を突き上げた。長剣と槍の長さの差で、槍の穂先は俺の体に届く。だが俺はその前に、体を捻りながら前方に宙返りをして、ギーシュの背後に足から着地した。軽業師のような芸当に、野次馬からは歓声が上がった。

「ここで蹴ったら、俺の勝ちかな?」

 俺はにっこりと笑ってギーシュに訊ねるが、答えが返って来る前に、ルイズが文句を言い出した。

「るるる、ルイ! 何よ今の! ぐるっと回って、ぐるって、ああ危ないじゃない! わたしが落ちたらどうするのよ!」

「……これから、縦には回らないようにするよ」

 縦回転は、さすがにルイズには怖かったらしい。

 ギーシュが慌てて下がり、それと入れ替わりにワルキューレが迫る。俺は突き出された槍を、体を側方に回転させながら避け、その勢いのまま右足を軸に回し蹴りを放った。俺の左足はワルキューレの側頭部を捉え、完全に粉砕する。続いて、蹴り足をスイッチング。今度は着地した左足を軸に、右足でそのまま後方回し蹴りを放つ。それは隣に居た2体目のゴーレムの首を破壊し、頭部を宙に吹き飛ばした。首から上が消えたワルキューレの腰を蹴りつけて仰向けに倒せば、その後ろに居た他の2体を巻き込んで倒れる。その新たな2体の頭部を踏み潰しながらしゃがみ込み、倒れたゴーレムの隣に居たワルキューレの懐に潜り込む。長剣を逆手に持ち、振り下ろすために振りかぶった隙に、脇からするりと背後に回り込み、残っている最後の2体に向けて背中を蹴り付ける。こちらは1体を巻き込んで倒せたので、そちらとまとめてやはり頭部を踏み潰しておく。最後に残った1体は、武器を振り下ろして隙だらけになったところを、頭部に踵落としを叩き込んで破壊した。

 ギーシュがその場にへたり込んだ。

「ま、まいった……」

 彼が負けを認めた瞬間、群衆の歓声が爆発した。平民が貴族に勝つとは思っていなかった、という内容の話が多い。興奮する周囲を尻目に、俺はルイズを地面に下ろした。

(ストレス発散、完了)

 俺がやったのは、一度はやってみたかった舐めプ(相手を舐めてプレイする)である。3日足らずで溜まりまくったストレスを発散する場として、合法的に貴族をフルボッコにしても許される決闘という制度は、非常に素晴らしかった。ルイズの使い魔になったことにより、彼女の後ろ盾が得られたので吹っ切れたという面もある。

 しばらく騒ぐと、興味を失った生徒たちが散り散りになって去っていく。ギーシュも、友人たちに連れられて退散していった。その後姿を眺めていると、ふとルイズが口を開いた。

「……よく考えてみたら」

「ん?」

「あんたがわたしとミセス・シュヴルーズを庇った時、瞬間移動かってくらいに素早かったわよね。弱いはずがないんだわ」

「今気付いたのか?」

 むしろ、今までツッコミがなかったのが不思議である。自分と使い魔の被害で手一杯だった生徒と、気絶したシュヴルーズを除き、ルイズは間近で俺の行動の異常さを見ているのだから。単純にそこまで頭が回らなかったのだろうか。ルイズは頬を膨らませると、眉根を寄せて俺を軽く睨んだ。

「どうして今まで黙っていたの?」

「聞かれなかったからな」

「聞かれたら素直に答えた? あんた、平民だって言われても否定しなかったじゃない」

 確かにその通りだが、否定もしないし肯定もしないのは、俺の得意技である。

「嘘は言ってないよ。俺は貴族じゃないし、平民ってわけでもない。身分制度がない場所から来たんだから。それに」

「それに?」

「ただの平民だなんて、一言も言わなかっただろ?」

 にっこりと満面の笑顔を浮かべてやると、ルイズは半眼になった。

「……あんたって、実はイイ性格しているわよね」

「今気付いたのか?」

「あんたねええええっ」

 犬歯を剥き出しにしてルイズが怒鳴ろうとする。俺はそんな彼女を遮って、ようやく名乗った。

「ゾルディック」

「え?」

「俺の名前はルイ=ゾルディック。これからよろしく、ルイズ」

 姓まで名乗ったのは、ルイズが初めてである。このハルケギニアでゾルディックの名は何の意味も持たないが、名乗ることに誠意があると思ったのだ。

「家名があったのね」

 ルイズは怒鳴りかけた口をおさめると、背筋を伸ばして俺を見上げた。

「わたしの名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。……よろしく、ルイ」

 だが彼女は、はにかんだような表情を勝気なそれに一変させると、指を一本立てて俺に宣言した。

「これからあんたが素直になるように、しーっかり調教してやるわ」

「できるといいな、お嬢様」

 召喚の門の効果はもう感じない。やれるものならやってみろとばかりに、俺もにやりと悪い顔をした。俺の懐には、学院長と交わした誓約書がある。それは、ルイズたちに危害を加えない代わりに、国の犬にもならないという密約だ。要するに俺は、ルイズをあしらってさえいればいいのだ。俺の生活の保障は使い魔契約の引き換えとしてルイズがするし、使い魔の役目を放棄するのも俺の自由。

(俺を本気で調教したいなら、あの学院長のクソジジイくらいにはならないとな)

 そんなことは不可能だと分かっている俺は、奮起するルイズを笑い飛ばしたのだった。





* * *



Q.左手のルーン(ガンダールヴ)の力は?

A.使っていませんが何か?

 兄さんのナイフの使い方は、通常ならともかく念能力が絡むと変則的になるので、あらゆる武器を使いこなす力を与えるガンダールヴの能力は微妙です(ナイフ以外なら役立つ)。ガンダールヴの能力は、あくまで手にした武器のスペックを最大限に発揮できるだけの技術と運動能力を与えるというものであって、兄さんの念能力まではカバーしていないかと。本気の兄さんは念能力を上乗せしたナイフを使う=本来のナイフの使い方から外れているので、余計な情報を頭に突っ込むガンダールヴの能力はむしろ邪魔だったりします。

 もしかして:ナイフを捨てればいいじゃない!

 今回は、原作ではちょこちょこ挟んである他者視点(オスマン)を完全に省いています。ゼロ魔は、閲覧者の層から考えると知らない人が多そうなので、兄さん視点で統一した方が読みやすいかなと。オスマン視点を追加していたら、多分「このクソジジイ」と思うような展開かもしれません。ジジイはいろいろ知っている。

 ルイズ視点は、兄さんの行動にイケメンフィルターがかかって見えるとか、ルイズの事情が少し分かるくらいなので、需要はなさそうだなと思って放置。

 最初は5pくらいで決闘イベントまで行き着くと思っていたんですけど、予想外に長くなりました。何故だ。でも書いてて楽しかった! ゼロ魔兄さんネタ小話はこれで終わりです。先の展開が気になる方は、ぜひ原作本を買ってください←



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