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ゾル兄さんinゼロ魔その6
萌え 2014/05/18 21:46


「誰よあんた!」

 ルイズの寝起きの第一声は、そんな言葉だった。ネグリジェ姿の少女に言われると、強姦魔にでもなった気分で切なくなる。俺はそんな彼女に「召喚された人間だ」と答えると、さっさと身支度をすることを勧めた。周囲の人間の気配は、もう随分と活発に動き始めていた。寝起きでゆっくりしていては、朝食に遅れてしまうかもしれない。まあ、俺の分の朝食は用意されていないだろうが。

 ルイズは寝惚け眼を擦ってどうにか覚醒すると、しばらくじーっと俺を見上げた。それから、思いついたように告げる。

「下着を取りなさい」

「は?」

 予想外の言葉に首を傾げるが、ルイズは構わず続けた。

「そこのクローゼットの一番下の引き出しに入っているわ」

 昨夜、下着を履き替えたと思っていたのだが、実は脱いだだけで、新しい下着を履かずにネグリジェを着ていたらしい。それはともかく、ルイズは男の俺に自分が身につける下着を取らせる気なのか。俺を男と認識していないとしても、現代人としては「恥じらいを持て」と強く言ってやりたい。あるいは、先程思い付いたような顔をしていたので、単純に俺を小間使いとして扱い、どうにかして自分よりも下の地位に押しやりたいだけなのかもしれない。昨日泣いたと思えば、俺に夜襲をかけるわ、朝っぱらから大胆に命令するわと、なかなか切り替えが早い少女である。そこは尊敬する……かもしれない、多分。

 だが生憎と、俺は彼女よりも年を食った大人である。意地っ張りな少女を乗せるのは難しくなかった。俺は、「ふーん」と物言いたげな返事をすると、にっこりと作り笑顔を浮かべてルイズに顔を近付けた。

「俺の、趣味で、選んでいいんだ?」

「だから何よ」

「俺がクローゼットを開けて、下着を一枚一枚広げて、じーっくり吟味したものを今日一日着て過ごすんだ?」

 わざとらしく言葉を区切りながら言うと、さすがに羞恥心を刺激されたのか、ルイズは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。

「……っ、自分で選ぶからいいわよ!」

 勝った。そう思いながら俺はルイズに背中を向ける。……向けた後に、どうして自分はほぼ初対面の少女と下着についてやり取りをしているのだろうか、と考えて深い溜息を吐いた。ああ、家に帰りたい。





 廊下で洗顔用の水を配り歩いているメイドから水を受け取り、部屋で身支度を済ませ、俺の時計とルイズの杖を交換した後、彼女は朝食を摂るべく昨日の食堂へ向かおうとした。俺は適当にどこかで時間を潰すべきかと思っていたのだが、今日は食堂の中まで連れて行かれるらしい。貴族しか入れないのではなかったかと思ったが、黙って彼女について行くことにする。

 ルイズと一緒に部屋を出た時、ちょうど廊下を挟んで目の前にある木製の扉が開いた。中から現れたのは、炎のような赤い髪をした褐色の肌の美少女だ。長い睫毛まで同じ色で作り物のような風情がないため、ファンタジックだが地毛らしい。170p前後の背丈に見える彼女は、非常にスタイルが良かった。出るところは出て引っ込むところは引っ込むという、いわゆるナイスバディである。巨乳である。素晴らしきおっぱいである。ルイズと同じ制服姿だが、ブラウスのボタンは2つ目まで開けており、張りのある胸の谷間が、男を挑発するように剥き出しになっている。朝から最高の眺めだ。そして、金属でできた金色のチョーカーがまた、褐色の肌にセンス良く映える。太股丈のニーハイブーツも、彼女の色気に一役買っているようだ。どう見てもルイズとは対照的なエロいお姉さんですありがとうございます。見た目だけなら、俺はルイズよりもこちらのお嬢さんにお相手してもらいたい。魔法学院の“生徒”だと思うと、ぞっとして何もできないが。そしてそれ以前に、異世界の相手にホイホイ手を出すほど無節操でもない。

 気だるげな色気を醸し出す美少女の赤い瞳は、朝から楽しそうに輝いている。ルイズと同じ色のマントを被っているので、同じ学年のようだ。そんな彼女は、ふっくらとした唇に弧を描かせてルイズを見た。

「おはよう、ルイズ」

「……おはよう、キュルケ」

 ルイズはキュルケという少女の顔を見た途端に表情を歪め、嫌そうに返事をした。キュルケは慣れているのか、ルイズの不機嫌そうな様子など意にも介していないようだ。

「貴女の使い魔って、彼?」

 キュルケはそう言って俺を見上げ、楽しそうに笑い出した。

「あっはっは! 本当に人間なのね! すごいじゃない、ヴァリエール! ……ああ、そういえば契約を拒まれたんだっけ? まだ使い魔ですらないのかしら?」

「余計なお世話よ!」

 ルイズは腕組みすると、キュルケに怒鳴った。

「あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って、一発で成功したわ」

「あっそ」

 適当な返事をするルイズに構わず、キュルケは自身が出てきた扉の奥に向かって、上機嫌で手招きした。

「どうせ使い魔にするのなら、こういうのがいいわよねぇ。フレイム〜」

 扉からのそりと現れたのは、体高が俺の腰くらいもある巨大な赤いトカゲだった。イメージとしては、コモドオオトカゲをさらに巨大化させたようなものだろうか。円らな黄色い双眸は、爬虫類らしく瞳孔が縦に裂けており、尻尾は炎に包まれていた。その炎は特殊なものらしく、木製の扉や壁に触れても燃え移る様子がない。

(……可愛くないリアルヒトカゲじゃね?)

 可愛い方のヒトカゲを思い浮かべながらそんなことを考えていると、ルイズが目を見開いてフレイムを見た。

「これってサラマンダー?」

「うふふ、そうよ。こんなに鮮やかで大きな炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーね。すごいでしょう、ブランドものよー? 好事家に見せたら、きっと値段なんか付けられないくらいだわ」

「そりゃ良かったわね」

 フレイムは余程素晴らしい召喚獣らしい。ルイズは素っ気ない返事をしながらも、少し羨ましそうな目でフレイムを見ていた。一方の俺は、ブランドものと聞いて、フレイムの鱗柄のバッグを有名ブランドロゴ付きで想像した。フレイムとその主人には絶対に言えない想像である。脳内で俺に皮を剥がれたなどとは予想もしていないであろうフレイムは、主人を見上げて瞼をぱちりと瞬かせた。

「素敵でしょ? あたしの属性にぴったり」

「あんた、火属性だもんね」

 この世界の魔法にも、王道RPGに漏れず属性があるらしい。お決まりの属性と言えば、火・水・風・地の4つだろう。それらに加えて、光・闇や聖・邪、あるいは氷・雷など色々と想像できる。なるほど、キュルケは鮮やかな赤毛も使い魔も、見るからに火属性である。一方のルイズは、何属性なのか全く想像がつかない。

「ええ、あたしは“微熱”のキュルケだもの。ささやかに燃える情熱は微熱。でも、男の子はそれでイチコロなのですわ。胸も“ゼロ”の貴女と違ってね?」

 キュルケは色っぽく髪を掻き上げた。ルイズの“ゼロ”やキュルケの“微熱”といい、この世界の魔法使いには二つ名が存在するのだろうか。中二病な二つ名が付いたらすごく恥ずかしい思いをする羽目になりそうだ。この世界のメイジに生まれなくて良かった。そしてハンター世界に帰りたい。……まあ、ハンター世界の俺の実家や俺の職業も、中二病っぽいと言えばそうなのだが、それは考えないでおく。

「わたしは、あんたみたいにいちいち色気を振り撒くのは趣味じゃないの」

 ルイズはそう言って鼻で笑うが、負け惜しみなのは明らかだった。大平原と大山脈では勝負にならない。おっぱいを愛でる人間としては、「大きいおっぱいに小さいおっぱい、みんな違ってみんないい」の精神を主張したいが、ぐっと来る方をこの二択から選べと言われれば、個人的には大きなおっぱいである。現実は厳しい。

 ルイズの心情が分かっているキュルケは余裕に満ちた笑みを浮かべると、ルイズの隣に立っていた俺に近寄ってきた。そして人差し指で俺の顎をなぞり、小首を傾げてみせる。誘うような上目使いと、俺の位置だとちょうど真上から見える豊かな胸の谷間は、完全に計算尽くされているようでいて、非常に自然な仕草に映った。かなり男慣れしているのだろう。

「貴方、とってもハンサムね。お名前は?」

「ありがとうございます。ルイと申します」

 にっこりと営業スマイルを返すと、キュルケの笑顔がさらに魅力的に華やいだ。それとは対照的に、ルイズの表情がさらに不機嫌そうに歪む。使い魔(予定)にちょっかいを出すキュルケが嫌なのか、そのキュルケに愛想が良い俺が嫌なのか、あるいはその両方か。

 そういえば、俺がこの世界で名前を名乗るのはこれが初めてだ。俺もルイズ達に直接名前を訊ねることはしていないので、お互い様といえばそうである。俺がファーストネームしか名乗らなかったのは、ルイズに対するちょっとした遠慮なのかもしれない。

「覚えておくわね、イケメンさん」

 キュルケは俺が名前を訊ね返す前にウインクをすると、するりと俺から体を離した。それとほぼ同時に、ルイズがキュルケに噛み付く。

「人の使い魔に色目を使わないで!」

「使い魔じゃないんでしょう?」

 図星を指され、ルイズはむっとした顔になって口籠った。キュルケはそんなルイズを笑うと、俺達を残して廊下を歩き出した。

「それじゃあ、お先に失礼」

 後ろ手にひらひらと手を振る彼女の背を、ごつい見た目のオオトカゲが追う。外見とは裏腹に、尻尾を振りながら四足歩行でよちよちと歩く姿は、意外にも愛嬌があった。ギャップ萌えが狙えるかもしれない。

(歩き方は可愛い……だと……)

「何をじろじろ見ているのよっ」

 俺が思わずフレイムの揺れる尻尾を眺めていると、キュルケに見惚れていると勘違いしたらしいルイズが、俺の袖を引っ張った。誤解を解くべく、俺はフレイムの背中を指さす。

「ああ、いや、フレイムの歩き方が可愛いなぁって」

「って、そっち!?」

 そっちなのである。可愛いは正義。しかしおっぱいもまた正義。後者はルイズには内緒だ。



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