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ゾル兄さんinゼロ魔その2
萌え 2014/05/11 21:48


「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

(る、ルイズ! ルイズ! ルイズ! ルイズぅぅうううわぁあああ)

 少女の言葉の中にあった名乗りを聞き、俺は愕然とした。ルイズといえば、ピンクの髪をした釘宮ボイスのツンデレ美少女として有名である。ほぼ確実に、俺の目の前に居る彼女のことだろう。彼女のせいで釘宮病を発症した大きなお友達が、全国にどれだけいたことか。しかしながら俺は、ルイズのことをゼロの使い魔という作品の主要キャラクターということ以外はまともに知らない。そして作品の内容も碌に知らない。知っていることといえば、かの有名なルイズコピペくらいである。その最初の文章を思わず内心で唱えながら、俺はその場で頭を抱え込みたくなる衝動を抑えた。今はそんなことをしている場合ではないのだ。

 ルイズの言葉はまるで呪文のようだが、その内容が俺にとって不穏なものを含んでいるのは明白だった。俺を召喚だの使い魔だのと言っているので、魔法が存在する世界だと思ってほぼ間違いないだろう。そうなると、俺は今まさに魔法を使われそうになっているのかもしれない。

(避けるか? でも、何の気配も感じないしオーラも見えない上、魔法の当たり判定も分からない。かといって、下手にあの子を攻撃して、周りの連中と敵対するのも面倒だ。ただ、俺を使い魔にしようとしているってことは、この魔法には服従の効果がある可能性が否めない。そうなると、使い魔化させられるのは俺にとって不利すぎる)

 ゼロの使い魔という作品が、ドロドロのダークファンタジーという話は聞いていないので、ここで殺されることはないだろう。そして、使い魔になるからといって、俺の自我が消滅することもないだろう。だが、使い魔になることによるメリットとデメリットが分からない状態での使い魔化は、俺にとって危険すぎることに変わりはない。

(でも、波風を立てずに上手く使い魔化を逃れる方法が思い付かない。このまま使い魔になるしかないのか……?)

 そうこうしている間に、ルイズは詠唱を終えて杖先をぴたりと俺の額に向けた。それから、俺の目の前まで寄って来た彼女は、つま先立ちした。何やら一生懸命に背伸びしているが、俺とルイズでは身長差がありすぎるらしく、彼女の目的は達せられなかったようだ。ルイズは背伸びをやめると、むっとした顔で俺を見上げる。

「もう、気が利かないわね。しゃがみなさいよ!」

「何のために?」

「契約のためよ!」

「そう言われても。俺に仕事の依頼でもするのか?」

 あえてすっとぼけると、ルイズは頬を膨らませて俺に命令した。

「依頼と言えば依頼だけれど、そうじゃないわ。とにかく、しゃがみなさい!」

 彼女の行動は、使い魔契約のために必要らしい。運が良ければ、彼女を攻撃することなく契約を断れるかもしれない。そう思った俺は、彼女の言う通りに中腰になった。ルイズは俺の顔が近付くと、逡巡するかのように赤面し、だがすぐにそれを吹っ切り、俺に顔を近付けた。なるほど、契約のための必要行動には、召喚者と被召喚者のキスが含まれるらしい。可愛らしい顔がいよいよ近付いてきたので、俺は片手で彼女の額に触れて止めた。ルイズは、片手に杖を持ったままぽかんとした表情でこちらを見下ろした。だがすぐに怒りで顔を歪める。

「ちょっと! 何で邪魔するのよ!?」

「俺は初対面の相手とキスする文化圏の人間じゃないから、遠慮したいんだけど」

「そんな文化、トリステインにもないわよ!」

 ルイズとキスしなければ使い魔契約が成立しないという条件は、俺にとって好都合である。俺は彼女を攻撃しなくても、使い魔契約を拒否できると確定したのだ。

 俺はさっさと立ち上がった。それだけで彼女は俺と契約できなくなる。野次馬が、契約を断られたルイズを見て大笑いした。ルイズは怒りで体を震わせながら、俺を睨みつけた。

「あんた、一体どこに住んでいたのよ!」

「パドキア共和国。聞き覚えは?」

 分からないだろうと思いながら訊ねると、やはりルイズは眉をひそめた。

「……ないわ。それ、冗談で言っているの?」

「本気だよ。反対に聞くけど、ここは?」

「トリステイン王国のトリステイン魔法学院よ。あんたがどれだけ田舎者でも、ハルケギニア一の魔法学院くらいは知っているでしょう?」

「生憎だけど、聞き覚えがないな」

 俺が肩をすくめてみせると、成り行きを見ていたコルベールが口を挟んだ。

「失礼。“共和国”と言っていましたが、あまり貴族に馴染みがないように見えますね。寡頭制ではないのですか?」

 その国名には、もちろん聞き覚えがない。この世界(恐らくハルケギニア)には、民主制の共和国が存在しないのかもしれない。ちなみに寡頭制とは、貴族や軍人といった一部の特権階級が国を運営する政治形態のことである。俺は大人しく説明した。

「パドキア共和国は民主制なので、国家元首は国民の中から選ばれています」

「国王がいなくて、国民から選ばれる? 貴族と平民の区別はあるの?」

 不思議そう、というよりも信じられないという表情のルイズからは、俺の推測が合っていたことが分かる。この世界は、まだ民主主義が浸透していない王政国家が主流なのだ。

「……貴族制度は随分昔に廃止されているから、身分差は存在しないよ」

 俺が素直に答えると、他の生徒達の声が明らかに侮蔑に染まった。

「貴族制度を廃止するだって?」

「野蛮な場所から来た男だな」

「ゼロのルイズにお似合いね」

 元から貴族を名乗るつもりはなかったが、それにしてもやはり腹の立つ世界である。相手が子どもであっても、ムカつくことには変わりないのだ。

「つまり、あんたは貴族じゃなくて、平民と同じようなものでしょう?」

 周囲の蔑む声を無視し、ルイズは薄い胸を張って俺を睨むように見上げた。俺は肩をすくめると、周囲からルイズに視線を戻した。

「貴族じゃないのは確かだな」

 むしろ、場合によっては下手な貴族よりも性質が悪いもの(教師兼暗殺者)だったりするのだが、それは余計な情報だろう。そんな俺の職業など知る由もないルイズは、いかにも偉そうに片眉を跳ね上げて見せた。

「状況が分かっていないあんたのために説明してあげるわ」

「それはどうもご丁寧に」

「あんたはわたしの使い魔として、わたしに召喚されたの。だからこれからわたしとあんたは使い魔契約を結んで、正式な主従関係にならなければいけないのよ。平民であるあんたが、貴族であるこのわたしの使い魔になれるんだから、光栄に思いなさい」

(本当にすっげえなこれ。俺を選んで呼び出したわけではないとはいえ、見事なまでに俺の事情を完全無視ときた)

 そもそも、この場の責任者である男が俺の人権など欠片も考えていない態度なので、ルイズがそういう態度をとるのも当然と言えるのかもしれない。

(そっちでは当然でも、それを俺が受け入れてやる理由はないけどな)

「報酬は?」

「え? 報酬?」

 俺がゾルディックらしく切り返すと、ルイズはきょとんとした顔になった。

「まさかと思うけど、ただ働きさせるつもりじゃないよな? 悪いけど、無償奉仕(ボランティア)はしていないんだ。家族に怒られる」

「あんたは使い魔なんだから、報酬なんてあるわけないじゃない!」

「本当に?」

 目を眇めて訊ねる。子ども相手に気は進まないが、身の安全のために重箱の隅をつつかせてもらおう。

「使い魔契約をしている人は、他にもいるんだろう? 使い魔たちはどうして契約を交わしたんだ? メリットもなしに契約を交わすのか? それとも、力尽くで服従させることが契約なのか?」

「それは……」

 すらすらと訊ねると、ルイズは戸惑って答えを言い淀んだ。するとその時、考え込んだルイズを冷たく切り捨てる声が聞こえた。やはり、周囲の生徒たちだ。

「ねえ、これっていつまで続くのかしら?」

「召喚されたのはただの平民ですし、これ以上時間を無駄にされたくありませんわ」

「さっさと契約を結んでしまえばいいのに。ゼロのルイズはそんなこともできないのかよ」

 彼らは、お世辞にも優秀とは言えないらしいルイズと、平民らしき俺とのやりとりに完全に飽きていた。しかも、それだけではなく、俺以上にルイズを嘲るような悪意のこもった眼差しの比率が高い。今までの会話を鑑みるに、召喚によって人間が呼び出されることも、呼び出した相手と契約について問答することも異例なのだろう。ルイズは俺を異世界の面倒事に引き込んだ張本人だが、これ以上この場で話を引き延ばし、心無い観客の目に彼女を晒すのは少々可哀想に思えた。

 俺は、できる限り優しく見えるように笑顔を作った。今までに対する不満もあり、つい笑顔に苦々しいものを含んでしまうのは、この話の流れではちょうど良いだろう。

「話が長くなりそうだから、場所を変えようか?」

 本心では「責任者(学校長)を呼べ」と言いたかったのだが、公衆の面前でそれを言えば、ルイズが生徒達からさらに馬鹿にされるのが目に見えている。なにしろその言葉は、平民である俺が、ルイズでは話にならないと思っているという意思表示になるのだから。俺は、ルイズに対して良い感情を持っているとは言い難いが、かといって不必要に彼女を痛め付けようとは思わない。

 俺の提案に真っ先に反応したのは、コルベールだった。

「ミス・ヴァリエール。ひとまず使い魔を召喚できたのだから、留年については保留とする。もう時間がないから教室へ戻るぞ」

 教師の指示に従い、生徒達が杖を振り、宙に浮かんだ。この世界の魔法使いは、ハリポタ世界と違って、空を飛ぶのに箒は必要ないようだ。……女子生徒のパンツが見えそうだと思ったので、ハンター世界の教師として居た堪れなくなった俺は、視線をルイズに固定した。状況も手伝い、ラッキーだという気持ちは全く湧かなかった。セクハラ教師にはなりたくない。

「だが、いつまでも使い魔契約を結べなかったら、やはり進級はできないよ」

「……分かりました、ミスタ」

 ルイズはコルベールの言葉にしょんぼりと頷いた。

「ルイズ、お前は歩いて来いよ!」

「あいつ、“フライ”はおろか、“レビテーション”すらまともにできないんだぜ」

「その平民、あんたの使い魔にお似合いよ!」

 生徒達は口々にルイズにそう言い捨てると、さっさとあの豪華な建物の方へ飛び去って行った。そしてコルベールも去ってしまうと、彼らを見送ったルイズは俺に向き直り、きっと睨みつけて来た。

「あんた、何なのよ!」

 それは俺のセリフである。



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