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TOAでもお兄さんと一緒:カルト編
萌え 2014/01/09 21:38


・とりあえず序盤
・フーブラス川辺り
・ルーク視点
・ガイ様華麗に不憫





 アニスと同じか年下くらいに見える少女は、年齢的には可愛らしいと評するべきなのだが、美しいと思える不思議な容貌だった。ルイと同じように新月の夜空の色をした髪は、肩口で綺麗に切り揃えられており、癖ひとつなく真っ直ぐだ。小さな顔は整っており、無表情な様が手伝って精巧な人形を思わせる。吊り目の大きな黒い瞳は、やや青みがかった白目に囲まれていてやたらと美しい。低めだが筋の通った鼻は愛らしく、小さな唇に添えられた黒子が艶やかだ。そして、濃紺に鮮やかな蝶が描かれた布地を、紅の腰帯で留めた独特の服装は、ルークが屋敷に居る間に家庭教師から習ったホドの民族衣装とよく似ていた。それは白が強い象牙色の肌によく似合っている。

 現れてからずっと無表情なことも手伝い、ルークの目には、彼女が神秘的にも不気味にも映る。ルイが少女に対して親しげな態度を取っていなければ、ルークは彼女を遠巻きに眺めていたかもしれなかった。

 ルイは少女の背後からその細い双肩に手を置くと、いつものように人好きのする笑顔で口を開いた。

「こっちは俺の弟のカルトだ」

 なるほど、親密なのは家族だからかと納得しかけたルークは、しかし聞き捨てならない言葉が含まれていることに気付いた。

 ルイは彼女のことを弟と呼んだ。だが目の前の彼女は、どうみても少女である。顔立ちも格好も少女にしか見えない。しかしルイの弟である。妹ではなく、弟である。つまり男だ。

「へー……って、弟!? 妹じゃなくて!?」

「……この格好は母さんの趣味だ」

 ルークが思わず素っ頓狂な声を上げると、少年が少女の格好をしている可笑しさの自覚はあったらしく、ルイは遠い目をした。

「随分とイイご趣味で」

 カルトを見たジェイドは、ふっと口の端を意地悪く歪めて笑った。ルークから見ても分かりやすい、相手を皮肉った顔だ。するとルイは、貼り付けた笑顔で言い返した。

「ロリコンは滅べ」

「違います」

「ショタコンも滅べ」

「違います」

 ルークが、ふふふと不気味に笑い合う大人2人を遠巻きに眺めていると、隣に居たガイが呆れたような苦笑いをこぼした。

「衣装は似合っているけど、男の子に女物はなぁ」

 その意見には、ルークも全面的に同感だった。同じ男として、女物の衣装を着せられることには抵抗を感じる。もし、ルークがそんなことを強要されたのならば、執事のラムダスに叱られることも顧みず、屋敷中を逃げ回ることだろう。

 だが、ガイの言葉にティアが反論した。

「可愛いから良いと思うわ」

 彼女は熱い眼差しをカルトに固定したまま、断固たる口調でガイに反対する。可愛いもの好きの血が騒いだのかもしれない、とルークは思った。ティアは、ルークにはブタザルにしか見えないチーグルを可愛がっており、ルークとは価値観が違う。ルークにとってはそうでなくとも、ティアにとってカルトは可愛い生き物なのだろう。

「いや、でも」

 ガイは眉尻を下げながらさらに反論しようとした。

「良いのよ」

 妙に据わった目つきのティアが1歩、ガイの方に踏み出す。彼女にとっては大した行動ではないが、ガイは飛び上がるほど驚き、ガタガタと震えながらルークの背後に避難した。相変わらず女が苦手な親友に呆れたルークは、そういえば女装少年であるカルトの場合、ガイはどんな反応をするのだろうかと疑問を覚えた。だがその前に、そういえば自己紹介をしていないことを思い出したため、ルークはカルトの前で名乗りを上げた。ちなみに、背中に張り付くガイは放置である。ルークは心優しいので、親友を庇ってやっているのだ。別に、面倒臭くなって放り出したわけではない。

「俺はルーク。ルイの雇い主だ」

 すると、カルトはまばたき1回分だけルークを見つめると、傍らの兄を見上げた。

「兄様、仕事を請けたの?」

「ああ」

 頷く兄に、だがカルトは不思議そうに首を傾げる。

「どうして一緒に居るの?」

 その問いかけに、ルイは言い辛そうに戸惑いながら――どうしてそんな顔をするのだろうか――笑った。

「ルークの護衛が仕事だから」

 ルイがそう言った瞬間、カルトの目が初めてルークをまともに捉えた。その目には覚えがある。バチカルの屋敷でもたまに見かけることがあったあれは、ルークを嫌う目だ。ルイの面影を感じる目にそういう視線を向けられると、ルークは胸が軋むような感覚に襲われた。初めて見た表情らしい表情が嫌悪だったので、ルークはあっという間にカルトのことが苦手になってしまった。

 カルトがルークを注視したのはそれっきりだった。彼はルークに何も言わず、兄に視線を戻した。表情はすでに、人形のような無表情に戻っている。彼には、ルークと会話をする気が全くないようだった。カルトが苦手になったルークにとって、それはありがたくもあった。ルークには、カルトとまともに会話できる自信がなかったのだ。





 それ以降、カルトはルークはおろか、ルイ以外の人間全てに話しかけようとしなかった。そもそも、ルイ以外の存在を蔑視しているのか、他人に話しかけられてもあからさまに無視していた。当初は人見知りの激しい少年として解釈し、カルトへ積極的に接していたティアも、1週間経った今ではそうではないと判断せざるを得なかったらしい。ティアは可愛らしい彼にちらちらと視線を向けるものの、話しかけることはなくなった。

 だが、ルイは今までと何ら変わらず、ルーク達と接してくる。弟に倣ってルイも冷たくなるのではとひそかに心配していたルークは、心底ほっとした。何しろ、ルイはカルトのことを、とても可愛がっていることが見て取れたからだ(その様子を見て、ルークがひそかに嫉妬してしまったことは秘密である)。その代わりに、ルイがルークと話している間、カルトの鋭い視線を感じるようになった気がする。“気がする”というのは、ルークがカルトを見たときはいつも、カルトは明後日の方向を見つめているからだ。見られている気がするが、目が合ったことがないので確証が持てなかった。

 そんなある日、ルーク達は開けた林の中に流れる川に直面した。フーブラス川というらしいそれは、見た目こそ浅そうに見えるが、ところどころに深みがあり、また流れも速いため、何の準備もなく歩いて渡ると危険だという。ルーク達は、飛び石が連なっている地点を探し出し、その石の上を伝って向こう岸に渡ることにした。

 ルークは、ガイに続いて渡ることになった。ルークのすぐ後ろからは、ルイが渡ってくることになっている。これならば、もしよろけてもガイかルイに助けてもらえるのだ。とは言うものの、ルークには、この川渡りはとても簡単な作業に思えたので、転ぶことはないだろうと予想していた。むしろ、護衛である彼らの手を借りず、1人で渡って自慢してやろうとすら考えていた。

 だが、その考えはカルトの声で遮られた。

「……兄様」

 初めて聞く弱々しい声に、ルークは驚いてカルトを見た。カルトは相変わらず無表情のまま、上目遣いで兄を見上げている。その様子に、ルイは珍しく分かりやすく呆気にとられた顔になった。2回ほど瞬きをしてから、ようやく頭が動き始めたらしい彼は、弟の訴えを理解していつものように困ったような笑顔を浮かべる。この笑顔はガイとよく似ていた。ルークの我儘を許容するときと同じ顔だ。人好きのするガイと同じ面を持っているから、ルークはルイをすぐに信用したのかもしれない。

「仕方がないな。おいで」

「はい、兄様」

 ルイから手を差し伸べられたカルトは、彼の顔に向けて両腕を伸ばした。するとルイは、あっという間にカルトの小さな体を、軽々と片腕で抱き上げる。カルトは無表情で兄の首に腕を回した。無表情だが、仕草に親愛が滲んでいるように見えるのは、気のせいではないだろう。そしてカルトは――ルイには見えない位置で、ルークを見て嘲笑う。そう、確かに笑ったのだ。彼の目は、ルークを完全に小馬鹿にしていた。その目を見て思わずかっとしたルークは、咄嗟にカルトを睨み付けて叫んだ。

「――おっ、俺も疲れた! もう歩けねぇ!」

「しょうがないなぁ。ほら、ルーク」

 カルトを睨みつけてはいたものの、ルークのお目当てはルイだった。しかしルイが何か答える前に、世話焼きのガイはその場でしゃがむと、ルークに背中を向けた。おぶってやろうというのだろう。だが違う。今、ルークが求めているものは親友の背中ではない。

「違う、そっちじゃねぇ」

「えぇっ!?」

 思わず口からこぼれた本音を聞いたガイは、心底予想外だと言いたげな顔で叫んだ。そのすぐ横を、イオンとアニスを引き連れたジェイドがすり抜けて川へ向かう。ルーク達を置いて、さっさと先に川を渡ってしまうつもりだろう。その一方で、ティアは律儀にルークを待っていたらしい。頭が痛そうに顔をしかめた彼女は、呆れたようにルークに言った。

「ルーク、我儘言っていないで早く渡るわよ」

「わっ! 我儘じゃ、ねぇし……」

 ルークはティアに、口ではそう言ってはみたものの、思い返してみれば、確かに我儘にしか聞こえないのだと気付いた。ルークはぶすりと黙り込むと、不貞腐れた顔のまま水面に顔を出している飛び石の前に立った。大体、ルークはあの小さなカルトのような軟弱な男ではないのだ(ルイの弟であるという一点で、本当に軟弱かどうかは不確定ではあるが)。ルイの手を借りなくても、立派に川を渡ることができるはずだ。

 ルークの様子を見たガイが、予定通りに先んじて飛び石を渡る。その後に続こうとしたルークは、だが不意に頭に乗せられた手で足を止めた。

「ちゃんと足元に注意さえすれば、お前なら1人で渡れるよ」

 くしゃりと朱色の髪をかき混ぜる類の言葉は、まるでルークのことを認めてくれたかのようだった。落ち込みかけた気分が急速に浮上したルークは、現金にも張り切って飛び石に足を踏み出した。

 ……そして、張り切り過ぎた結果、ルークは前方のガイを巻き込んで川に落ちたのだった。ルークは水面に接触する寸前に、ルイによって小脇に抱えられたため無事だったが、ガイは哀れにも全身ずぶ濡れになってしまった。川の向こう岸で、ルークを責めることなく、1人焚火に当たる親友を目にしたルークは、これからはもう少しだけガイに優しくしようと心に決めた。



***



「……兄様」

 ハンター世界に生まれて25年。まさかあのカルトから、そんなしおらしい声を聞くことになるとは、予想すらしなかった。なにせ、彼はカルト=ゾルディック、泣く子も泡を吹いて死ぬ恐怖の暗殺一家・ゾルディック家の末子である。彼は動物を飼うという、一見すると微笑ましい趣味に、だが飼った動物の全てを惨死させるという但し書きがつく少年なのだ。実際、チーグル族のミュウを初めて目にした時に、「兄様、アレが飼いたい」とおねだりされたが、いたいけな小動物の惨殺死体を想像して、即座に却下した俺は悪くない。

 さらに付け加えるならば、カルトは扇子を持たせれば、手首を一捻りするだけで大抵の相手を一掃できるだけの実力がある。そして、俺を除くメンバーで随一の俊足を誇るガイを超える俊敏さを持ち、それに付随して体力もある。

 つまり、イオンやルークを差し置いて、カルトから“もう疲れた”“川なんて渡れない”というニュアンスを滲ませる声が出てくる可能性など、天文学的確率なのである。それらの事実から導き出される結論はただ一つ。

(あのカルトが“ぶりっ子”をした……だと……)

 何もせずとも、母親から溺死するほどの愛情を受けてきたカルトは、基本的に可愛子ぶるという手段を使わない。そもそも、考え付くことすらほぼないだろう。今までそうする必要など全くなかったのだから。その彼が、わざわざ弱々しい自分を演じてまで俺の気を惹くという行動に出た理由は、大方想像がつく。

 俺はルークの柔らかい髪をくしゃりとかき混ぜて元気づけてやった後、横目でカルトを見た。

「どうして急に甘えん坊になったんだ?」

 理由を推測していながらも、それでも俺は、あえてカルトに問いかけた。カルトにしか聞こえない声で尋ねると、彼は一度、俺から目を逸らしてから、再び俺を見つめた。イルミとカルトはよく似ている。彼らは表情に乏しいようでいて、実は目が雄弁だ。カルトはイルミよりも幼いので、なおのこと分かりやすい。無言のまま目で訴えかけてくる実弟に、俺は笑って囁いた。

「そんなにベタベタしなくても、俺もカルが大好きだよ」

「……知ってる」

 カルトはぼそりと呟くと、これ以上は喋りたくないとばかりに、顔を俺の首元に伏せた。





 ガイ様華麗に不憫(大切なことなので2回言いました)。
 そういえば、この突発続き物小話のイルミさん話はどこですかという質問がありました。イルミさんは初っ端なので、この共通タイトルがついていません。……というか、200万打人気CP投票のときのテコ入れ文章なんです。タイトルは「ゾル兄さんとルークとイルミ」。萌えカテゴリーで探せば後ろの方に出てきます。短いよ!



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