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パクノダ姉さんの兄マチ観察文章
萌え 2012/07/04 22:50


 彼は、所謂“いい人”である。お人好しである。誠実である。優男である。つまりは、パクノダ達の住む世界では大変希少、あるいは存在しないような人間なのである。無論、存在しないことには理由がある。それは単純なパワーゲームだ。そういう“綺麗”な人間は、パクノダ達の住む世界では真っ先に淘汰される。表の世間一般での規範に照らし合わせれば好ましい人間が、そのまま裏の世間一般で好ましいはずがない。ただそれだけの話である。パクノダはそれを身を以てよく知っていたし、彼女と親しい仲のマチも同じだった。そして、自分達の世界に浸り、強かに自由に生きてきたが故に、そういう人間に対して特に憧憬の念を覚えることもなかった、はずだった。

 だがマチは、どうやらそんな彼に惹かれてしまったらしい。彼の何がマチの琴線に触れたのかは分からない。パクノダが知っていることといえば、マチが彼の笑顔と手、そして「おかえり」という言葉をとても好んでいるということだ。

 仕事から帰ってきた今も、仮のアジトでマチは彼の「おかえり」という言葉を大人しく受け入れ、タオルを受け取っている。前者はともかく、後者は汗一つかいていないマチにとって疑問らしく、彼女は小首を傾げていた。それでもタオルが彼女の手にあるのは、好意の表れだ。

 パクノダがさり気なくマチと彼の話を聞いていると、どうやら彼はマチに体に付いた血を拭くように勧めているようだ。確かに、帰ってきた中で肌に血が付いてるのはマチだけだった。他の団員は精々服についた程度だ。これは露出度の差だろう。

「こんなの、全部返り血さ」

「知ってるよ。だからなおさら拭かないと」

 マチの言葉に、彼はさらりと返した。彼は自分と周囲の団員との実力差を理解しているため、こちらを侮ることはしない。だからこその応答だろう。相手の心配をしながらも、相手のプライドを逆撫でしないのは彼らしい。

「人間の血って、マチが思ってるよりも不潔なものだよ。どんな病気の素が潜んでいるか分からない」

 そして彼の心配には、必ず根拠がある。クロロやシャルナークとは違った教養を持つ彼は、恐らく平易な言葉を選んでそうマチを諭していた。

「肌に付いたくらいで感染ったりしないだろ?」

「人間の皮膚には、目に見えないくらい細かい傷が付いているんだってさ。そこから感染する可能性があるんだ」

 興味のないふりをして彼の話を聞きながら、パクノダはこっそりと納得する。そういう理由なら、彼がマチを心配するのも理解できる。だが、人殺しを好まない彼が、殺人を犯してきたマチを純粋に心配するのは些か不思議な光景だった。これがクロロに「聖人君子ではない」と言わせる理由だ。彼は、表の世界の規範意識を持ち合わせながらも、それに反する裏の人間達の生き様にさらりと目を瞑ることができる。それが、本来ならばとっくに淘汰されているはずの彼の命が、未だに紡がれている所以なのだろう。綺麗なはずなのに、全くの潔白ではない。そのおかしなアンバランスにマチが傾いたのだろうか。

「“外側”が強くても、“内側”は普通の人と同じかもしれないじゃないか。用心するに越したことはないよ」

「……ん」

 マチの強さを認めながらも、念能力者の脆さ(あるいは油断であり落とし穴)を指摘されれば、反論はない。マチは今度こそ、受け取っていたタオルで肌に付いていた返り血を拭い始めた。本当ならば、彼の言葉は簡単に突っ撥ねられる。「ゴミだらけの流星街で生きてきたのだから、内側だってそんなにヤワではない」と言えば良いのだ。だがマチはそれを選ばなかった。恐らく、彼に甘やかされるのが心地良いのだ。

 そう、彼は他人を甘やかすのが上手だ。相手が自分より力が強かろうが弱かろうが関係ない。マチのみならず、パクノダも彼に(恐怖からではなく)気を遣われていると感じているし、彼と接したことのある他の団員もそうだろう。彼はシズクにおもちゃにされても怒らずに受け入れるし、シャルナークのパシリにされても気にしない、どころか彼が必要としているものを先に手に入れていることさえある。それらを回避する上手い身のこなし方を考えられるだろうに、彼はそれをしない。彼は便利な人間としてするりと相手の内側に入り、いつの間にか相手を甘やかしているのだ。





 ここまで書いて頭ぱーん。パクノダ視点でした。
 兄マチでイチャイチャしているように見えて、実のところ兄さんは団員は全員同列に扱ってるよという何とも言えない文章。お気遣い紳士な兄さんの必殺技「さり気なく相手の懐に入る」発動です。弱っちいけど便利だしまあいいかと思ってたらいつの間にかという。兄さんが相手に危害を絶対に加えないからできることですけど。危害があるとしたら、うっかり兄さんと仲良くなっちゃった場合、兄さんがあっさり現代日本に帰ったときのメンタルダメージくらいです。奴は未練など微塵も見せない。
 とりあえず兄マチの基本スタンスは、マチが兄さんと一緒にいるとうっかり安心して気が抜けちゃうような感じです。そして兄さんはマチからのフラグを折る← パクノダのように一歩引いて兄マチを観察してみると、あれ兄さんってば別にマチを特別扱いしてるわけじゃないのねと気付く嫌な仕様。マチは兄さんを押し倒した方が話が早い。



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