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ルク兄さんとリグレット先生
萌え 2012/10/11 00:42


・このルク兄さんは転生設定
・ルク兄→リグレット先生
・リグレット視点
・原作開始1年前の公爵邸
・リグレット先生がルク兄さんに稽古をつける場面





 今日は弟子に稽古をつける日である。リグレットは、ファブレ公爵邸の中庭に佇み、弟子の訪れを待った。しばらくすると、待ち人が離れの建物から現れた。

「リグレット先生!」

 長い髪をみつあみにまとめ、動きやすい服装にガングローブを装着し、腰に2丁の大振りな譜銃を提げた少年がにこりとしてリグレットに声をかけた。赤毛の彼は模造品(レプリカ)ルーク。ヴァンの計画の歯車であり、使い捨ての道具だ。16歳の肉体を持ちながらもその実年齢は6歳程度と思われる彼は、その被験者とは随分まとう雰囲気が違っていた。

 ダアトで見る被験者(オリジナル)ルークは、ようやく10を越えた頃には、常に眉間にしわを寄せているような少年だった。それはダアトに拉致(と表現するのが正しいだろう。ヴァンは半ば彼を騙したようなものなのだから)されてからというわけではなく、元々そういう癖があったらしい。その頻度がより一層増えたため、かつての生真面目な少年は殺伐とした空気を孕むようになった。

 だがファブレ公爵邸に住まう模造品には、そもそも眉間にしわを寄せるような癖は現れていない。そればかりか、周囲に言われたことを真面目に取り組むものの、型に嵌まった生真面目さがなく、何故か力の抜き方を知っているような素振りすら見せる。記憶こそ持たないものの、彼は彼として被験者とは全く違う人間として確立していた。そのため、キムラスカ側はルークのすり替えには全く気づかず、すり替えによるルークの変化を、誘拐事件による強い精神負荷で起きた記憶喪失と人格変化、失語症、髪質の変化、そして長い緊縛状態に置かれたことによる運動機能の低下と判断したのは、仕掛け人であるこちら側にとっては嬉しい誤算ではあった。なおそれらの真相は、10歳の肉体を持つものの、内実は生まれたての新生児同然である彼に、“ルーク”としての記憶などあるはずもなく、生きた経験を持たない故に当然人格形成もされておらず、さらに言語どころか体の動かし方すら知らないからというものだ。髪色の差異は、単純に複写による劣化である。ただ、確立された人格を持つ彼については、その“真相”すら当て嵌まらない面があるのだが。

(誕生してからすぐに置かれた環境は、被験者も模造品もそう変わらない筈。……何故こうも性格面に違いが現れるのか。そもそも、レプリカとは生まれたその時から確固とした個を持つ生き物だというのか?)

 リグレットは、穏やかな微笑みを浮かべる弟子を見る度にそういう疑問を抱くが、抱いたところで所詮専門家ではない彼女には何一つ分かりはしない。そのため、結局は自身の役目である、模造品ルークに対する武術の指南を全うするということにただ徹する。今日もその疑問を頭から振り払い、中庭の中央でルークと向き合った。ルークはリグレットの前で直立すると、真面目な顔になって礼儀正しく腰を折った。

「よろしくお願いします」

「ああ」

 ルークが弟子として頭を下げたこの瞬間、彼とリグレットはただの弟子と師の間柄となる。稽古をつける間だけは互いの身分も関係なく、2人の言葉は砕けたものになるのだ。

 リグレットはまずルークに、彼が提げている銃の整備状態をチェックするよう命じた。銃はいついかなる時も万全に扱えるよう、常に最善の状態にしておくように指導している。整備には僅かな手抜きもミスも許されない。そして有事の際には速やかにそれが行えるよう、正確性と同時にスピードも要求する。銃を抜いたルークの手元を見ようと、リグレットは彼の隣に立った。するとふと顔を上げたルークが、驚いたように目を瞬かせた。

「あ」

「どうした?」

 リグレットは片眉を釣り上げてルークに尋ねた。すると彼は目尻を微かに染め、頬を指で掻きながら面映ゆそうにリグレットを見た。

「いや……俺、先生と同じ目線の高さになったんだと思って」

 予想もしていなかった言葉を返され、リグレットは少しだけ返事に悩んだ。

「……あ、ああ。確かにそうだな。私がお前の師となった頃と比べると、随分と大きくなったものだ」

「もう少しで追い越せますね」

 ルークはそう言ってにこにこと笑う。その穏やかな顔は、作りが同じはずである被験者とは何故か似ても似つかない。何となく気を逸らすように表情の重要性を考えながら、リグレットは彼の笑顔に言及した。

「妙に嬉しそうだな」

「俺、先生を見下ろすのが楽しみなんです」

 特に男性は身長が高くありたいと望む者が多いため、ルークの言葉は納得できた。リグレットの身長は女性にしては高めなので、それを越すことは1つの目標にもなるだろう。だが次にルークがさらりと言った言葉に、リグレットは今度こそ返事に窮した。

「……俺も男ですから」

 被験者よりも色素の薄い目が、じっとリグレットの目を見つめていた。彼の言葉を何度か脳裏で反芻すると、彼女の白い肌が僅かに血色が良くなる。

(私は……まさか、口説かれているのだろうか?)

 リグレットは、過大評価でなく見た目が良い。彼女は高い身長に見合った肉感的な肢体と、切れ長の青い目が涼やかな顔立ちを持っている。また、怜悧な印象を持たれる外見を裏切らない仕事振りと、滅多にないが時折覗かせる女性らしい気遣いは、異性にも同性にも受けが良いのだ。勿論、恋愛対象としてもよく見られるため、愛の告白をされた経験は何度もあった。ヴァンに惚れ込んでからは誰からの申し出も受け入れていないが、思わせぶりなルークの言動はあまりにも予想外だったため、さすがに動揺してしまった。普段のルークはそんなことを匂わせない態度なのだ。

「あと2、3年はヒールが高い靴を履かないでくださいよ?」

 リグレットの動揺に気づいているのかいないのか、ルークは冗談めかしてそんなことを言った。それに救われた気分になったリグレットは、話を終わらせるためにこれ幸いとその話に便乗する。

「――今日の模擬試合で、私から1本取れたら考えてやろう」

「先生、それは無茶振りですって」

 自分の実力を過大評価しない弟子は、そう言って苦笑した。



 彼は模造“品”である。ヴァンの計画の道具である。彼の真実を知らないキムラスカの上層部からも、彼の真実を知るヴァンからも、計画された死を切望される存在である。そしてリグレットの弟子である。笑いもすれば怒りもする、ありふれた人間らしい感情を持つ生き物である。

(……私は、ただただ善良な弟子が死んでいくのを、黙って見ていられるのだろうか)

 リグレットは、自分にとって彼が2番目の愛弟子となっていることを否定できなかった。





 1番目の愛弟子はティアです。つまりティアとルク兄さんは姉弟弟子。原作ルート冒頭で姉弟子に誘拐されるルク兄さんとか。
 転生設定のルク兄さんは、リグレット先生にモーションかける未来もあるかもとか思ってみる。……あれ、ひょっとすると、兄さんがまともに誰かにロックオンするのはこれが初めてかな? しかしリグレット先生はヴァンが好きなので、下手すると横恋慕という。誰が得するんだこの三角関係。



ルク兄「こういうテコ入れは大歓迎です」
リグ「……私は閣下をお慕いしているのだが」
ルク兄「真剣に俺に乗り替えません? 身分差の問題は、俺がキムラスカ王家にアッシュを捩じ込んでどうにかするので」
リグ(被験者よりも腹黒いのではないか、この男)
リグ「しかし、閣下には崇高な理念と」
ルク兄「グランツ謡将よりも高い将来性が必要なら、公爵位を継げるように頑張りますから。玉座にはアッシュを押し込みます。あ、預言(スコア)は俺も否定派なので安心して下さい。だからグランツ謡将はやめて俺にしましょう」
リグ「だから私には閣下が」
ルク兄「あまりグランツ謡将のことを連呼しないでくださいよ。俺だって嫉妬するし、傷つくんですからね」
リグ「そ、そうか……」



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