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ようこそサンドボックスの大地へ-兄さん編1
萌え 2024/01/05 00:48


・景光さんと麻衣兄同居シリーズ
・麻衣兄さん視点
・何の脈絡もなくマイクラ世界
・親友の名前は***





 無人の大地に若い男女が一組。何もないはずがなく……というエロ同人的オチはない。何もないというか、人工物がない。真面目にない。やたらとカクついた大地に、これまたカクついた木が生えているし、空にはカクついた雲と太陽が浮いている。――またかと言えばまたである。何の脈絡もなく唐突に出所不明の異世界に放り出されるアレである。要は嬉しくない恒例行事だ。俺はいい加減にしてくれというセリフを何度思い浮かべればいいのだろうか。足元には草、近くには林、空には太陽。これだけならただの野外なのに、どれもこれもデザインの主張が激しい。というかデザインとか言ってる時点でもうおかしい。

 異世界に放り出された時点で少々特殊なのは、俺の視界の高さから考えて恐らく麻衣の体のままであることと(ついでに制服姿)、俺の隣に唯さん(普段着姿)がぽやっと立っていることである。唯さんは呆然とするを通り越してぽやっとしている。呆然とするほど事態が飲み込めていないと思われた。分かる。多分、慣れ過ぎた俺も似たような顔をしている。

 大抵の場合、世界の元ネタが分かるまで時間を要する。下手すれば元ネタを知らないパターンもある。だが今回に限っては、おおよそ1m四方のブロックの組み合わせで構成された特徴的すぎる大地や木々で超速理解できた。なんだかとってもサンドボックスなアレである。

「……マインクラフト?」

「Mine(地雷)craft(工作)……!?」

 呟く俺の隣で唯さんが真っ青になった。え、コナン世界にもマイクラって存在していたのだろうか。それなら話が早い。リアルサバイバルよりはもの作りが楽だが、代わりにゾンビやら何やらが暗がりから湧いて出る中で生き抜くという、まさしく試される大地である。そういう場所は北海道とかGUNMAとかで十分なのだが。
 そんなことを考えていると、唯さんが真っ青なまま俺を問い質した。

「地雷なんて一体誰が作り出すんだ」

「……あー……」

 懐かしのマインスイーパーとかではないです。そっちのMineではなく、僕と私の夏休み工作的な意味です(自走する地雷みたいな奴はいるが)。どうやら唯さんはマインクラフトを知らないようだ。マインクラフト、通称マイクラは非常に有名なゲームではあるが、縁のない人は知らなくてもおかしくはない。世の中、ゲーマーだけで成り立っているわけではないので。

「唯さん、マインクラフトってゲーム知ってます?」

「いや、聞いたことがないな」

 念のために確認してみたが、唯さんは首を横に振った。

 Minecraftは世界で最も売れているゲームである。ゲームだが自由度の高さと創造性を必要とされるが故に、学校教育の場でも持ち出されることがある特殊な作品だ。従って知名度は高い。それを知らないのはただの偶然か、コナン世界に存在しないゲームなのか。さすがに判断はつけられない。仮に存在していたとしても、俺の知識とコナン世界のマイクラに差異が出る可能性もある。

(そもそもここに立っていること自体がおかしいんだ。知識の差もそれで言い逃れしておこう)

「マイクラって呼ばれているサンドボックスビデオゲームです。この場所がそのゲームにあまりにもそっくりで。ええと、オープンワールド……何というか、ランダム生成される世界の中で、資源をやりくりして好きに生活するゲームです。ゲーム自体に目的やストーリーが設定されていないので、システム内で出来ることなら何でもできるっていう、自由度が高いものになってます」

 正確に言うと実績解除(トロフィー)要素があったりするのだが、いわゆるRPGのストーリーには匹敵しないだろう。ゲームの自由度が高いと、案外説明も難しい。本当に何をしてもいいので。

「大規模建築をしてもいいし、世界を歩き回るだけでもいいし、モンスターを倒してもいいし」

「待った。モンスターって?」

 今までオカルトやら何やらに巻き込まれ過ぎて不測の事態に慣れてしまったのか、俺の荒唐無稽な話を頷きながら冷静に聞いていた唯さんが慌てて口を挟んだ。

「夜になったらゾンビが出ます」

「嘘だと言ってくれ」

「スケルトンも出ます」

「ゾンビの成れの果てか?」

 まあゾンビから肉が落ちたら骨になるよな。マイクラのスケルトンにそういう設定があるのかは分からないが。素手のゾンビと違って弓矢を使うので、多分ゾンビと無関係だと俺は考えている。なお、弓矢を扱うには弓を引くための膂力が必要であり、当然ながらスケルトンもそれを備えている。そのため、接近戦に持ち込めば簡単に骨をブチ折れると安直に考えていたら痛い目を見ると思われる。というかゲーム上では何回か殺された。集団で撃ってくるのは卑怯だろ……。

「蜘蛛も出ます」

「そのくらいなら、まあ」

「人間サイズです」

「ここは魔境か?」

 米花町だって犯罪魔境都市だと思うのだが。人が死に過ぎであるし、一般市民が殺人トリックを考え過ぎである。少なくともマイクラの蜘蛛は殺人計画とか建てない。そんな細けぇことは気にせず殺しに来る。

「日中でもクリーパーが出ます」

「クリーパー?」

「人間大の緑色の顔が付いた棒で、近づいて来て自爆します。自走式TNTですね」

「どこのテロリストだ!?」

 アメリカ産(ゲーム開発者的な意味で)のテロリストです。

「プレイヤーが一生懸命作った家を容赦なく爆破して悲劇的ビフォーアフターする迷惑系キャラです」

「通り魔じゃないか」

 ですよね。他にも好き勝手にブロックを持ち運ぶわ、目が合った瞬間殺しにかかって来るわというヤベー奴もいる。

「あとはゲームのバージョンによってはゲリラが出たりもしますね」

「これは一体何のゲームなんだ」

「サンドボックスビデオゲームです」

 自由度が高すぎるってだけで、サンドボックスなビデオゲームであることに変わりはない。ジャンルは……サバイバル?

「他にも色々いますが、代表的な敵対キャラはそんな感じです」

「まだ色々いるのか……」

 ほんのさわりを話しただけだが、唯さんはぐったりとした様子だった。それでもパニックを起こす兆しもないため、本当に理不尽慣れしてきたのだろう。物言いたいことは山ほどあるだろうに、一旦そのまま飲み込んでくれるのは助かる。大変に頼もしいが、まるで異世界慣れしていくかつての俺を見ているようで心が痛む。……仲間ができそうでちょっと嬉しいとか思ってない。道連れにする連中なら***とリドルがいるのでもう充分だ。

「ひと気も全然ないですし、すぐに脱出できるような広さにも見えませんし、ここは一度マイクラだと思って行動してみません?」

「差し迫った危険がないなら、オレはそれで構わないよ。……まいくらの話を聞く限り、長丁場なら拠点と武器が欲しいな。ああ、食料も必要になるか」

 さすがと言えばいいのだろうか、随分と理解が早い。マイクラの序盤は拠点建築といっても過言ではないだろう。

「全部自分でどうにかするゲームです。というかどうにかできる自由度があります」

「手ぶらなんだが……」

「最初はみんな素手で木を切り倒すんですよ」

「素手!?」

「まあ、物は試しでやってみましょう」

 女子高生に素手で木こりの真似事をするスキルなどありはしないのだが、マイクラ世界なら出来て当たり前である。ひとまず損はないので、近くに生えている木で試してみることにした。

 この辺りは穏やかな気候で草原が広がる平原バイオーム(環境)のようだ。少し歩いた場所には林……いや森林バイオームか? が見られるが、そこまでは行かずに手前に生えている一抱えもある木の前に立つ。木と言われてすぐに思い浮かべるような、特徴のない木だ。とりあえずこぶしを振り上げてぺち、と叩いてみた。痛くはないが、びくともしない。しかしゲーム中でも素手で一発破壊などできなかったので、両手でぺちぺちと叩き続けてみる。叩いていると、木の幹の一部にうっすらと亀裂のようなものが入り始めた。だがそこからなかなか進まない。1分ほど続けたところで、見かねた唯さんが俺の肩を掴んで止めた。

「……麻衣ちゃん、大丈夫?」

「だ、いじょうぶ、です。痛くはないんですけど、これ、疲れますね……」

 腕が痛くて上がらないというより、精神的な疲労が強い。叩いた成果がないわけではないが、結果が伴わないのがつらい。

「まいくら、じゃなかったのかな?」

「いーえ、このスキン(見た目)はマイクラのバニラです! きっとそうです! 叩いたら亀裂が入ったので、そのうち破壊できるはずです!」

 幹を見てみると、入っていたはずの亀裂がきれいさっぱりなくなっていた。そんな不思議現象はマイクラでは起こる覚えがあるので(破壊する行動が途中でキャンセルされたので、通常状態に戻ったのだろう)、ぺちぺち続ければきっと何とかなるはずだ。そうであって欲しい。

「わ、分かった。今度はオレがやってみるよ。ところでバニラって?」

「デフォルトって意味です」

 俺と場所を入れ替わった唯さんが同じく拳で軽く木を叩き始めると、対して力を込めている様子もないのに3秒くらいで原木ブロックに変わった。突然現れた原木ブロックにビクッとした唯さんは、一部分だけ歯抜けて空中に浮かんでいる木を見上げてさらにドン引く。

「……色々嘘だろこの木、浮かんでるし俺の腕が回らない太さだし、そもそも素手で木こりの真似ができるわけ」

「ほーらやっぱりマイクラ! ていうか何で唯さんだけ!?」

 こちらは1分続けてダメなのに、唯さんは3秒で許されるとか贔屓にもほどがある。さすがに不満を訴えると、唯さんが少し困った顔をした。

「もしかして、オレと麻衣ちゃんの体力差が反映されてるとか?」

「なるほどー……ええー……」

 確かにそれは一理ある。試しに根気強く木を叩き続けてみたところ、俺は約5分くらい掛ければ破壊できることが分かった。ええ……唯さんの約100倍かかるのは酷過ぎないか? いくら何でも効率が悪すぎる。素手でこの調子だと、斧を装備したところであまり恩恵を得られないかもしれない。通常、石の斧を使えば1秒未満で原木を切れるが、俺に道具補正がそっくりそのまま適用されるなんて都合の良いことはないだろう。

「自分と唯さんってこんなに体力差あります!? ちょっと大袈裟すぎません!?」

「うーん……少なくとも腕相撲なら、麻衣ちゃんが両手を使って全体重を掛けても勝てる気がする」

「上腕二頭筋に一体何が住んでるんですか」

 筋肉の妖精とか住んでいるのかもしれない。ちょっと本気で唯さんに筋肉の秘訣を聞いた方が……聞いたところで参考にならないだろうな、知ってる。今の俺と唯さんでは頭一個分以上の身長差があるし、体の厚みも段違いだ。恐らく手の大きさ一つとっても、本来の俺と比べても唯さんの方ががっしりしている気がする。羨ましい!

 しかしいくら羨んだところで現実は厳しい。俺のいいところは切り替えの早さなので、木こりは唯さんに丸投げすることにした。

「木を切り倒すのは唯さんに任せた方が効率的ですね。この分だと、力仕事系は全滅かな……」

「力仕事以外にも何かできることはある?」

「そうですね。ゲームではクラフトはアイテムを並べるだけで出来ますし、アイテムの持ち運び自体はあまり重さは関係なさそうです。あとはその辺りに生えている使えそうな植物の採取でもします。……あ、その前に」

 何故マイクラ民は最初に木を切るのか。全てはクラフトのためである。

 マイクラの超基礎と言えば作業台制作。これが出来なければ生きていけない。マイクラのクラフトは指定のマスの中にアイテムを並べることで可能となるが、作業台なしでは2×2の4マスの中でしか並べられない(作業スペースなしの手作業の限界ということだろう)。しかし作業台は3×3の9マスの中で並べられるので、作れるアイテム数が段違いだ。その作業台の制作は、1マスに原木――木を切った際に入手できるブロックを置いて木材をクラフトし、さらにそれを4マスに並べるだけだった。そうやって作業台を作り、続いて斧やシャベル、クワなどの道具を作って材料調達の効率を上げる流れが一般的だろう。

 俺がゲーム上のクラフト画面を思い浮かべると、目の前に30p四方のディスプレイの様にマス目が現れる。……こういう時、イギリス人魔法使いとか一般念能力者の経験を持っているとイメージが湧いてやりやすいのか。全然嬉しくない。そもそも普通はそんな経験しなくても生きていけるので。唯さんは突然現れたマス目にぎょっとしているが、説明は後回しだ。どうせ唯さんにも使えるようになってもらう必要があるが、恐らく俺よりは習得に時間がかかりそうだ。

「唯さん、手に入れた原木を1つもらえますか?」

 発泡スチロールより軽いオークの原木ブロックを唯さんから受け取ってマス目に当てると、ブロックは吸い込まれるようにマス目に嵌り、ぽんと木材ブロック4つに変換された。さらにそれを全て使って作業台を作って見せる。

「これが作業台ブロックで、これを使えば大半のアイテムをクラフトできます。斧も作れるので、作業効率が上がります」

「すごいな……! 魔法みたいだ!」

「これ、多分唯さんも出来ると思いますよ」

 大丈夫、マグルにも出来るクラフト魔法です。

 唯さんは俺の言葉に目を輝かせると、俺の助けを得ながら手元で原木から木材、木の棒を作ったり、作業台を設置して木製の斧とシャベル、ツルハシを作り出した。ツールにはそれぞれ対応ブロックがあり、斧は木材、シャベルは土、ツルハシは石や鉱石類の採取に補正がつく。実際に俺が目の前でやってみせたのが良かったのか、思ったよりも唯さんのクラフト習得は早かった。

「唯さんは木と石を集めてください。それが道具類や家の材料になります。夜を無事に乗り越えるには絶対に必要です。自分は草むしりでもしておきます。食材の種が手に入るので、畑を作れば食料を量産できます」

「畑って……育つまで相当かかるよね? もちろん、長期的に見ると必要なことだけど」

「数分で育ちます。ゲーム時間だと数日だと思いますが」

「……すごいなー」

 唯さんは理解することを放棄した。もうそれでいいと思う。



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