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物理力高めな麻衣兄その3
萌え 2023/08/21 23:24


・麻衣兄さんの中身がゾル兄さん
・麻衣ちゃんの兄は経由してないパターン
・なんだかんだで景光さんと同居してるIF





 そもそも。俺が通っているのは杯戸高校で、工藤君が通うのは帝丹高校、コナン君は帝丹小学校だ。基本的に生活圏は近いものの重ならない。そのため、必要があればわざわざ会いに行かなければならないわけで。

「なるほど、ここがあの男のハウスね」

「どこから引っ張って来たネタだよ」

 俺の口調がいつもと違うので、元ネタを知らずとも何かしらのネタだと気付いたらしい。なお、ハウスと言ったが正確に言えば喫茶店、もっと言えば毛利探偵事務所の一階にある喫茶ポアロである。俺と工藤君は、喫茶ポアロが見える通り沿いの電柱の陰にいた。いや怪しまれるだろこの位置。俺だけなら“絶”を使って気配を消せるが、そうすると気配がなさ過ぎて工藤君が俺を見失うので何もできない。できるのは電柱と心を通わせ電柱と一体化して背景になり切るくらいである。やっぱり怪しすぎるわ。

 待機場所がクソ過ぎて自棄になった俺が、古のネタを引っ張り出してふざけだすのも仕方がないのではなかろうか。

「アムロ出しなさいよ!」

「だから何のネタだよ本当に出てきたらこえーからやめろ! つーか何だよそのテンション!」

「微塵も興味のない男のためにわざわざ米花町まで来た精神的苦痛を察してくれ」

「ウッ……! いや、近づくなとは言ったけど、そもそも谷山はまともにアイツの顔知らなかったと思って」

 顔は知っている。現代日本の国民の何割かは普通に知っているレベルなので。多分、日本一有名な公安刑事では?

「写真はないのか?」

「撮らせないんだよあの野郎。周到過ぎてますます怪しいぜ」

 喫茶店の男性アルバイターを見張る小学生も十分に怪しいのだが。

 そんなわけで、男子小学生の隣で内心ヒヤヒヤしながら(いつ安室さんにバレてもおかしくないので)リアル安室透を鑑賞していると、工藤君がじとっとした目で俺を見上げてきた。どうしたどうした、そんな顔しても今は可愛いだけだぞ。

「谷山、お前……まさかお前まで安室さんに見惚れているんじゃないよな?」

 それはあり得ないので安心して欲しい。顔がやたらと綺麗な野郎は転生前から付き合いがあるし(リドル)、転生後もやたら顔のいい野郎共が……何だよどいつもこいつも犯罪者じゃねーか!! 工藤君は正義のイケメンだから心が洗われるな!(ただし殺人事件に巻き込まれる)

 俺の正直すぎる内心を言う訳にもいかないので、俺は軽く首を横に振った。

「ん? ああいや、あの人結構強そうだなぁと」

「え?」

「体幹がしっかりしてるし、筋肉も良い付き方してる。あれは相当動けるな」

 劇場版だと人間超えるくらいに動けるのは知っている。あと車の運転が荒過ぎることとか。米花の民は殺意に溢れているが、対する警察も大概なスペックである。いや警察というか一部の方々が。

「……まさかオメーより強いとか言わねぇよな」

 そんなまさか。と言いたいところだが、あの人が念能力者だったら正直勝てる気がしない。

「同じ条件で正面からやり合えば負けるかも。体格差エグイし」

「うっそだろ……!?」

 実際、念能力なしで真正面から殴り合いすることになったら分が悪いだろう。ゾルディックとしての俺の体ならともかく、今はか弱い女子高生なのだ。オーラでブーストかけるのを前提にしなければきつい。

 だが、それはあくまでも同じ条件下での戦いだ。

「そもそも同じ土俵に上がらないから大丈夫。本気でやるなら条件揃えて勝率を9割以上にするから」

 俺が学んだ術は暗殺者としてのもの。真正面からぶん殴ってどうにかするのは本来のやり方ではない。死角からの一撃必殺が本来のスタイルであるし、仮に真正面であったとしても害意を隠しきり、油断させて最接近した瞬間に仕留める方が得意だ。この世界には一本も持ち込めていないが、俺はそもそも特定のナイフを媒体にする操作系能力者なのである。己の筋肉で語る系の強化系能力者ではない。……いざという時の底力を最も発揮しそうなのは強化系だと思うが、俺は性格的に合いそうにない。

 工藤君は俺の言葉でげんなりとした顔になった。

「それもどうかと思うぞ」

「あのなぁ、こちとら友情・努力・勝利で生きてるような週刊誌の主人公じゃないんだよ」

 お前と違ってな、という注釈は心の中だけで留まるため、本人には永遠に伝わらない。あ、こいつはサンデーの方だったか。

「そもそもあの人と殴り合う予定なんてないし。今のところ」

「今のところって」

「それこそお前次第だろ」

 俺は今のところ、安室さんと殴り合って友情を獲得する予定がない。なんならそもそも関わり合いになる理由自体がない。関わるとしたら、それこそ工藤君の都合でしかないのだ。

 何やら考え込むような顔になった工藤君に、真面目にアルバイトしている安室さんの観察にも飽きた俺は余計な口を開いた。

「つーかさ、安室さんの存在は他人事じゃないからな」

「へ?」

「29歳男性・探偵志望のアルバイター。一歩間違えば同じルート辿るぞお前」

「うぐぅっ!?」

 なお、安室さんは実際は公務員()なので、工藤君の方が立場的には弱い。ただし、立場が弱いとは言っても工藤君本人がやたらと優秀だし、警察にもFBIにもCIA以下略で伝手が多過ぎるので、食いっぱぐれることは万に一つもあり得ないだろう。さすがは日本警察の救世主と高校生を兼任しているだけはある。

「お、俺は学生時代に事務所の設立資金稼ぐつもりだし……っ」

「蘭ちゃん泣かすと、毛利さんに投げられるから気を付けろよ」

 困ったときは蘭姉ちゃんを出しとけば何とかなる。別に困ってはいなくとも、工藤君を弄りたいときは蘭姉ちゃんを出しとけばそれで済む。工藤君は難しい顔を総崩れさせて赤面した。うーん青少年。俺も青い春を満喫したかったが、ゾルディックにそんなものはなかった。

「なな、なんっっでそこに蘭が出てくるんだよ!」

「何で出てこないと思ったんだよ」

 とか何とかやり取りをした数日後に、SPRの出張先で件の安室透と鉢合わせるのだからやっていられない。途中からリンさんが対応してくれたが、工藤君もといコナン君が威嚇するポメラニアンのごとくキャンキャン言っている人物から接近されると心臓に悪い。え? お前は心臓を握り潰す一家だって? いやいや、コナン世界でモツ抜きの類はしねーよ。





「そんなわけで、小学生の知人に29歳フリーターから色目を使われるのではないかと心配されておりまして」

「どんなわけ???」

 俺の身辺に探りが入る可能性がある以上、唯さんにふわっと情報共有した方がいいだろう。そう考えて自宅で唯さんに説明する過程で細かい事情を捻じ曲げたところ、着地点を大幅に間違えた気がする。何だか日頃絡まれる変態連中と似たような扱いをしてしまった気がしないでもない。恐らく俺の「めんどくせえな」という気持ちが混ざったのだろう。俺の内心など知る由もない唯さんが盛大に心配するのも仕方のない話で、「オレがガツンと言ってあげるよ」と実に頼もしいお言葉を賜ってしまった。ちなみに、世間的には安室さんより唯さんの方が余程怪しい人物であるのは指摘してはならない。

 そして後日、俺が唯さんと工藤君を伴ってポアロに入店したところ、安室さんを見た唯さんが真っ青な顔で棒立ちになった。ついでに安室さんも不自然に笑顔を凍り付かせて棒立ちになった。こいつら知り合いだろ。そういうパターンだろ。

 唯さんは心なしか引いた顔で安室さんを指さす。普段はやらない仕草なので、かなり動揺しているらしい。

「29歳男性探偵志望の喫茶店アルバイターで車に収入をつぎ込み女子高生に色目を使っている不審人物……?」

「待ってください」

「麻衣ちゃん、コナン君、ちょっと待っててもらえるかな? この人と大人の話をしてくるから」

「本当に待ってください」

 恐らく過去一で顔色の悪い安室さんが、ドスの効いた笑顔の唯さんにより店の外へ引き摺られていく。俺と工藤君はその後の修羅場を想像して震えるしかなかった。普段穏やかな人ほど、キレると恐ろしいのである。



+ + +



こうして、とんでもねぇ不審者(冤罪)にガンつけようとしたら相手が幼馴染で愕然とする諸伏氏が誕生したのである。



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