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動機論的に善意があっても叱られる
萌え 2023/04/16 23:46


・ゾル兄さん結果論シリーズ
・新一くん視点





 高校一年生になった俺、工藤新一には兄のような存在が二人いる。

「聞いてくれよ! 今日も事件を解決してきたんだぜ。ドアノブを利用したトリックでさ……」

 学校帰り。もっと正確に言うと事件解決帰り。家に帰った俺の第一声に、キッチンから顔を出した唯さん――自称・緑川唯――がにっこりとした。

「すごいね、新一君。ところでオレはこの間、現場保存の大切さを伝えたと思うんだけど、きちんと出来ているかな?」

 その辺りは抜かりない。最初にそれを唯さんに指摘されてから、俺は常に手袋を持ち歩くようにした。それを唯さんに伝えたところ、「そういうことじゃないんだ」と頭を抱えられたのが解せない。指紋を付けたり髪の毛を落としたり、物品の位置を変えたりするなってことだろ? すっかり顔なじみになった目暮警部に話して、警察のデータベースに俺の情報を入れてもらったから、変に混ざることもない。

 深々とため息を吐く唯さんの一方で、リビングで取り込んだ洗濯物を畳んでいたルイが嫌そうな顔をした。

「米花の民は殺意高すぎだろ。今月何件目だよ」

「そういうこと言うなよ」

 唯さんに比べ、ルイは身も蓋もない発言が多い。毎週のように殺人トリックを解いている俺も、さすがに身の回りに殺人事件が多いことは何となく察している。他の町と比べて米花町が何か突出しているポイントがあるわけでもないのに不思議だ。

 話が逸れたと思ったのか、唯さんが眉間にしわを寄せた。

「事件が多いことは問題だけど、その度に新一君が首を突っ込んでいる方が問題だよ」

「居合わせるんだから仕方ねーじゃん!」

「居合わせたとしても、事情聴取への協力以上にすることなんてないけどな?」

 そんなこと言われても、事件現場にいたら違和感ばかりが目に付くからついつい口を出してしまうのだ。今回だって、ドアノブの端っこに付いていた不自然に擦れた跡とか、俺が指摘するまで誰も気づかなかったし。ものによっては、さっさと指摘しておかないと犯人に証拠隠滅されてしまうことだってあるのだ。……と反論したら、「なおさら警察官に言って任せなさい」と怒られるのは身をもって知っている。俺だって少しは分かってる、これまで何度も捜査協力して来た父親の威光で、俺が勝手に現場で推理するのを目こぼしされているんだって。けれど俺にだってプライドがあるから、それを口に出すことなんてできなかった。最近、どんどん俺の推理力が頼りにされているのが分かってきたのだ、今更やめられない。

「うーん、今日も唯のド正論が五臓六腑に沁みる」

「ルイ。他人事みたいな顔してないで」

「いやぁ、俺は唯が来る前に散々新一に言ってきたしなぁ」

 確かにルイがボヤく通り、今でこそ説教の大半が唯さんによるものだが、昔はルイの役割だった。特に「被害者だろうが犯人だろうが傍観者だろうが、他人の事情を人前で吊るし上げるな」とガミガミ怒られた。最初は意味が分からなかったし、探偵がクライマックスで推理を披露するのは普通だと思っていたが、ルイに“仕事で見た話”を交えて懇切丁寧に説明され続けたらさすがに理解できた。フィクションだからやっていいものがあって、いくら俺がインクで描かれた探偵に憧れていても、その一線を踏み越えたら加害者になってしまうってこと。もしくは、恨まれて被害者になるかもしれないってこと。俺が紙の上じゃなくて地面の上にいる探偵になるなら、推理してそれで終わりにしてはいけないってこと。つーかルイ、「こういう殺人依頼があったんだぞ」と例示するのはどうかと思う。異世界とは言え、探偵としてどういう顔で聞けばいいんだよ。ともかく、その部分はルイから口を酸っぱくして言い聞かされてきたので、唯さんから言われたことは一度もない。これってつまり、俺がちっとは成長出来てるってことだよな?

 それから唯さん、説教の視点が大抵取り締まる側なので、多分警察関係者だと思う。警察関係者と元暗殺者が揃って俺に説教するってどういうことだよ。俺、そんなに危なっかしいのか?

 唯さんと同居し始めて一年近く経ったが、俺はずっと彼の正体を教えてもらっていない。探偵相手に素性をいつまでも隠し通せると思うなよ、と暇さえあれば唯さんを観察していたが、確証を得られたのは警察関係者だろうということだけだった。部署などは全然分からない。母さんに変装術を教えられて、外出する時は必ず変装しているから厄介な事情持ちだというのは知っている。それから手を握らせてもらったとき、特有のタコがあったから銃をよく扱う人だと言い当てることは出来たが、そうしたらしばらく警戒されて近づけなかった。少しぐらいいーじゃねえかよ。

「……まったく。事件の話は後で聞くから、手を洗っておいで。今晩は鮭のホイル焼きだよ」

「やった! 俺それ好き!」

 気を取り直した唯さんの言葉に俺は顔を輝かせた。ルイの料理がまずいとは思わないが、唯さんの料理は美味い。蘭といい勝負だと思う。いや、どちらか選べと言われたら蘭の方だけど。

 機嫌良く鼻歌を歌いながら洗面所に行く俺が、ルイと唯さんの言うことを聞いておけばよかった、と後悔するのは一年後のことだった。

 ……つーかルイ。何で俺を生温い目で見るんだよ。





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新一君の鼻歌が音痴だからです。(諸伏さんもこっそり笑ってる)



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