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結果的な人助けで全部上手くいくわけでもない
萌え 2022/12/28 22:57


・ゾル兄さんがコナンの原作7年前に放り込まれたら





「タイマーが!?」

 炊飯器のタイマーか何かだろうか。いやさすがに自室に炊飯器とかないけど。そもそも自室に家族以外の他人がいるとかあり得ないけど。つまりここは自室じゃないしなんなら異世界ということだなオーケー理解した。いい加減にしろよマジで。

 自室で瞬きした一瞬後に全く覚えのないどこかの一室に棒立ちしていた俺である。これから家業で外出するところだったので完全装備だったのは良いことなのか悪いことなのか。――目の前におもくそ日本警察らしき男がいるから悪いことだなやべーぞおい。推定日本の一般住居に俺と警察(通常制服ではないので特殊部署だろうか)と、その間に変な箱一つ。タイマーとか叫んだ男の視線の先にはその箱とついでに俺。俺は本当にオマケで、メインは箱。……え、爆弾だったりする?

 ドラマで親の顔より見た(誇張表現)赤いデジタル表示が無情にも動いている。10秒もないように見えるのだが、つまり俺は突然異世界日本に放り出されていきなり爆死するルート?

(いや冗談じゃねーわ!!)

 俺は片手でフードを目深に下ろしつつもう片方の手で爆弾(推定)を確保。家具に固定されたタイプでなくて良かった。さらに運良く外に面したガラス戸を見付けたのでそちらへ突進する。お行儀良くガラス戸を――開けようにも鍵がかかっていたので鍵を破壊しつつ窓枠をスライドさせ、ここがマンションの上階であることを理解すると思い切り上半身をベランダの外へ乗り出す。そして上空に何も浮かんでいなかったため、思い切り爆弾(推定)を投擲した。ちなみに念能力者の本気である。

 人間の腕力にあるまじき剛速球となった爆弾は、無事に上空で汚ぇ花火となり、マンションの周囲にいた警察と野次馬とマスコミの目を楽しませた。フードを被っているし、さっさと体を引っ込めているので顔を撮られていないと信じたい。

 室内に目を戻すと、警察官の男がこちらに片手を伸ばしたまま呆然としていた。気持ちは分かる。そういえば爆発物の前にいる割に防護服を着ていないが、どこの所属だろうか。ついでにやたら顔がいい。少し長めの黒髪にやや垂れ目がちの黒目で、なんかチャラい雰囲気でモテそう。別にひがんではいない。俺より身長高いとか別に気にしてない。恐らく年齢は俺と大差ないだろう。

 俺はへらっと笑って彼に話しかけた。

「……咄嗟に投げちゃったんですけど、セーフですかね?」

「……お兄さんの腕力はセーフでいいけど、持ってるものはアウトだなぁ」

 警察官の男の目は、俺の腰に向いていた。……このグルカナイフはレプリカですと言って通じるだろうか。本物だから通じないね知ってる。多分ルミノール反応も出る奴。血に濡れた痕跡があるナイフ持ちとか、行き過ぎたサバゲ―マニアの痛々しい装備と言っても許されないに決まっている。待ってくれこのままだと異世界渡航史上最速で逮捕される。そもそも俺、なんだかんだ言って逮捕されたことってあったっけ? 逮捕されることは山ほどしてきたけど。

「善意の第三者ということでお目こぼしいただいたりとか」

「しないねぇ。俺としてはお兄さんがいきなり現れた方法とか理由も教えて欲しいし」

「それは俺も知りたい」

 ほんとそれ。教えてくれたらもう二度と異世界に行かないよう頑張れるのに。

「恩人に悪いけど、別件逮捕ってことで」

「お巡りさんよく見て。これ、そんなに刃の部分長くないかも」

 どう控えめに見ても銃刀法違反ですありがとうございます。どの道爆発物と一緒にいた一般人()ってことで聴取は免れないだろうが。

「長いなぁ〜。ちょっと鞘から抜いてみて」

「ええ〜初対面なのに破廉恥では?」

「股間のナイフの話じゃなくてね」

「息子の方はせめてエクスカリバーくらいの見栄を張らせてほしい」

「えっなんかごめんね」

 俺と彼はサッカーのゴールキーパーのごとく構えつつ左右にずれながらすっとぼけたやり取りをしているが、実際は俺の前科がつく瀬戸際である。非能力者である彼を物理的にどうにかするのは簡単だが、そうすると俺が公務執行妨害でどうにかなってしまう。渡航後数分で指名手配されたくはない。……待てよ。俺のナイフはまだ本物だとバレてない(思われてはいるが断定ではない)。今なら逃げれば重要参考人逃走くらいで済ませてもらえるのでは?

「おい! 萩原、大丈夫か!?」

 その時、不意に部屋の外から年嵩の男性の声が近づいてきた。彼――萩原の意識が逸れた一瞬の隙に、俺は抉じ開けていたガラス戸から外に飛び出す。仕事前だからと手袋をしていて正解だった。お陰様で指紋が残らない。ついでにオーラを体内に留める絶をしておけば、人の目もなんならカメラの目でさえほぼ欺ける。

「嘘だろ!?」

 俺が飛び降りたことだけ分かった萩原の声を背中にしつつベランダの柵を軽々と越えた俺は、他の部屋の柵などを足掛かりにさっさとマンションを降り、現場から逃走したのであった。





+ + +





ゾル兄さんが萩原さんの横をすり抜けてマンション内部から逃げなかったのは、一応萩原さんを警戒していたため。京極さんをはじめとした人間やめてる勢もいる世界なので、初見対応として正解ではある。



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