更新履歴・日記



花嫁に銃口、少女に指先
萌え 2022/12/07 00:03


・景光さんと麻衣兄同居シリーズ
・ハロ嫁時空
・景光さん以外の同期組は原作通りに亡くなっている
・降谷さんと景光さんが再会済み
・場面がかなり飛ぶ
・詳しい状況は是非映画を見て欲しい(ダイマ)
・景光さん視点→ぼーさん視点





 夜中に非通知で掛かって来た電話に出た景光は、風見から告げられた一言に自室で息を呑んだ。

『降谷さんが首輪状の爆弾を付けられた。プラーミャの仕業だ』

(ゼロが……!?)

 風見の言葉に、景光はプラーミャという聞き慣れない単語を記憶から掘り起こした。プラーミャ。正体不明の殺し屋。三年前の日本での活動を最後にしばらくは大人しくしていたようだったが、また日本で動き始めたというのか。

『“前回”のことは降谷さんから聞いている。お前を誘き寄せるためだろう』

(ああ……奴の肩を撃ち抜いたのはオレだからな。特に恨まれていてもおかしくない)

 目撃者を残らず消すというプラーミャに降谷と景光が狙われる理由はあった。プラーミャの爆弾を解体した松田は三年前の事件で、凶弾を防いだ伊達は一年前の事故で他界した。残っているのはプラーミャを追跡した降谷と肩を撃ち抜いた景光だけだが、どちらも庁舎は違うが秘匿性の強い公安所属で、景光に至っては生存すら隠蔽され潜伏中である。調べがつかず、誘き寄せるほかなかったのだろう。

『この件が片付くまで霞ヶ関に近寄らず、普段以上に目立つ行動は避けろ』

「ゼ……無事なんですよね」

『ああ。今は潜伏中だ。居場所は明かせない』

「構いません。生きているならそれでいいです」

 三年前もプラーミャの爆弾には遠隔起爆装置が仕込まれていた。今回降谷に仕掛けられたそれにも搭載されているだろうから、恐らく電波を遮断できる何処かに身を潜めているはずだ。景光は幼馴染を危険に晒したくないし、自分の不注意で足手まといになりたくもない。だから、彼がどこに身を潜めているか知りたいとも思わなかった。

 そして、景光が案ずる相手はもう一人いた。隣の部屋で眠っている少女だ。

「オレは覚悟できていますが、あの子は……もしあの子が巻き込まれたら」

『そうだな。保護も視野に入れているが……彼女まで姿を消すと不自然だ。今まで通りに生活させて、時々様子を見よう』

 上司の温情ある判断に、景光はそっと安堵の息をついた。風見は景光ほど麻衣の能力や価値を知らないが、危険を承知で民間人を見捨てる性質ではない。景光は公安部で、幼馴染の次に風見を信頼していた。

「あの子にしばらく姿を消すことだけ説明していいですか」

『その程度であれば構わないが……詮索されると面倒だろう?』

「詮索してくれませんよ、あの子は」

 思わず恨みがましいような口調になったことを恥じ、一度言葉を切る。少し頭を冷やした上で、限りなく事実に近いと思しき推測を述べる。

「何も説明しないまま消えると、オレと縁が切れたと思って他人の振りされそうなので」

『……お前はその子と仲良くやれていると思っていたが?』

「思い切りが良い子なんです……ものすごく」





 翌朝。麻衣お手製のスクランブルエッグ(卵を巻けないからと指摘してはいけない)を有難く口に運びながら、景光は出来る限り何でもないような口調で切り出した。

「しばらく帰れそうにないんだ」

「分かりました」

 物分かりが良すぎる。ノータイムで了承されてしまうと、肩透かしもいいところだ。思わず動きを止めた景光にようやく事態の深刻さを悟ったのか、鼈甲飴の瞳が神妙な色を帯びた。

「……その言い方だと、帰ってくる気はあるんですよね?」

 案の定、縁切りを視野に入れられていた。ここで景光がNOと答えれば、彼女はあっさり「さようなら」と返すだろう。景光はそれが悔しくてもどかしくて堪らないのだが、この気持ちを上手く伝えられる自信がない。それに今はそんなことよりも優先することがある。景光は「帰って来るよ」とした上で告げた。

「……その、オレが帰ってくるまで、あまり出かけないで欲しいんだ。ハロウィンが近いのに申し訳ないけれど」

 普通であれば「何故」と理由を聞くであろうところを、麻衣はさらりと受け流して頷いた。

「気にしないでください。それで唯さんが安心できるならそうします。コスプレなら去年で満足しましたしね」

「ああ……キッドザサンフラワーちゃんの……」

 例の可愛さの欠片もない馬の全頭マスクを思い出す。景光はアレで全然満足してはいないのだが、そこを突っ込むと藪蛇だと身をもって学んだため、追及はしなかった。下手に触れると、今度こそ誰も得しない女装を強いられる羽目になるかもしれない。そう、彼女はガタイのよろしい景光に男性用ナース服を平然と勧めるが、実際に着ようものなら「本当に着たんですね」と壁の染みでも見るような目を向けてきそうな性格である。到底、景光の女装姿を喜びそうな相手ではない。

 身支度を整えて出立する景光を「いってらっしゃい」と送り出してくれる麻衣は間違いなく天使のようだったが、時として彼女はあまり可愛くない小悪魔にもなり得るのである。





 数日後、景光はとあるビルで狙撃の準備をして待機していた。そう、プラーミャが渋谷ヒカリエの屋上に逃げ込むことは、最初から幼馴染の計算通りだった。

(あれはコナン君か)

「ゼロ、ターゲットが屋上に現れた。コナン君も一緒にいる」

『彼ならそうだろうな。そのまま待機してくれ。いざという時は頼む』

 何を話しているのかまでは分からないが、コナンが怯えている様子は一切見受けられない。恐ろしく肝が据わっている。むしろプラーミャの方が追い詰められているようにさえ見えた。ヘリの運転手と入れ替わった降谷が到着してからはプラーミャとの会話が通信に入ってくるようになったが、その印象は変わらなかった。

(ゼロが見込んだだけがあるというか……言動が小学生じゃないんだよなぁ)

 追い詰められたプラーミャが、不意に隠し持っていた手榴弾を取り出し、ビルの向こう側へ向けて放り投げた。

(さすがにヘリの傍を狙撃するのはキツイ……が)

 手榴弾が宙を飛び、ビルの敷地から外へ放り出される。落下する先はハロウィンに湧く渋谷だ。ヘリから離れていくそれを、景光の銃口が追跡する。

(させるか!)

 プラーミャが手榴弾を取り出した時点で照準をそれに定めていた景光は、落下する軌道・距離・風向き・弾道……あらゆる情報を頭の中で計算し――引き金を引いた。刹那、空中で手榴弾が破裂する。遥か視界の下で、突然の破裂音に群衆がざわつく気配を感じた。散り散りになって落下する破片の行方が気にかかるが、それでも民衆の傍で手榴弾が破裂するよりもずっとマシだ。

 コナンがこちらを見た。今の狙撃でおおよその発砲地点を推測したらしい。つくづく小学生らしくない。景光は苦笑いを浮かべながらスコープを覗いていた――が。

『下で待っててくれ』

 聞き覚えのあるフレーズ――それもそうだ、三年前に自分が似たことを松田に言ったのだから――が耳元で響き、ゾワッと総毛立つ。次の瞬間、景光は思わずスコープから目を外して立ち上がった。

「――おいゼロ!? なんて無茶を!!」

 降谷はヘリに向かって屋上から飛び降りたのだ。幸いにもヘリの足に掴まった降谷は、そこから操縦席に乗り込むことに成功した。だが降谷の策略により後部座席が爆炎に包まれているヘリの中で、身体能力の高いプラーミャと殴り合いをするなんて自殺行為だ。景光は祈るような思いでくるくると回転しながら地上へ落ちていくヘリを見守った。

 やがてハチ公前広場に墜落したヘリの影で見慣れた金髪の人影が倒れているのを確認した景光は、そこでようやくいつの間にか止めていた息を吐き出した。通信機は壊れたようだが、どうにか起き上がろうとしているのが小さく見えたからだ。どうにかプラーミャの身柄の確保に漕ぎつけたところまで見届けて安堵した景光だったが、ふと交差点に繋がる通りの奥を見て灰色の双眸を見開く。ピンク色の液体と水色の液体が、スクランブル交差点を目指してあちこちからゆっくりと流れ落ちてくるのが見えたのだ。それは三年前に見たプラーミャの爆弾に使われている特殊な液体だった。

 元々プラーミャの爆弾に備えて中和剤を手配していると聞いているが、到着予定時刻はまだ先だ。このままスクランブル交差点で二種類の液体火薬が混じり合い爆発する方が早いだろう。そうなれば、渋谷の町全体が吹き飛ぶこととなる――と想像した景光は、ふと同居人の少女を思い出した。それと、彼女のアルバイト先がどこにあったのかを。

 一気に血の気が引いた景光は、コートの内ポケットから取り出したスマホをタップして麻衣に電話を掛けた。これが杞憂であればいい。彼女が出勤していない可能性は十分にある。

「――はい。どうしました?」

「麻衣ちゃん、今どこにいる!?」

 明らかに冷静さを欠いた声色に驚いたのか、電話口で息をのむ気配がした。だが彼女はすぐに平静さを取り戻して答える。

「バイト先の事務所ですよ。帰ろうと思ったんですけど、人が多いのでもうしばらく様子見しようかなと」

「すぐにそこから避難してくれ!!」

 麻衣の素晴らしいところは、飲み込みが異様に早いことだ。彼女は詮索一つせず、即座に「分かりました」と返事をした。

「……バイト先のスタッフにはどう説明すればいいですか?」

「スクランブル交差点付近でテロが起きる可能性がある。出来る限り駅方面から離れて欲しいと」

「道玄坂を流れているあの水色の液体が拙いんですね」

 本当に飲み込みが早い。麻衣の「そちらも気を付けてくださいね」という物分かりの良い言葉を聞いた景光は通話を切り、スナイパーライフルを片付け始めた。嫌というほど繰り返したこの動作は、一分もかからない。

 スナイパーライフルをケースに片付けて背負った景光は、ビルの非常階段を駆け下りた。スクランブル交差点の中央に、あの小さな名探偵がいるのを見つけたのだ。ゼロが信じる彼ならきっと、最後の最後まで爆発を回避するための策を諦めないだろうから。










 滝川には少し変わった妹分がいる。その“少し変わった”という部分が、素直に妹分と称するのに首を傾げる要素ではあるのだが、傍から見ればそういう関係性にしか見えないだろう。滝川も、それ以外の表現が思い浮かばない。時折依頼が掛かる仕事先にいるアルバイト、とだけいうには他人行儀過ぎるので。

 麻衣から突然「スクランブル交差点方面でテロが起きるかもしれないらしい」と真顔で告げられ、事務所にいた滝川は麻衣、綾子、真砂子、リンと共に徒歩で避難していた。冗談だと笑い飛ばすにはあまりにも突拍子もない話で、彼女はそういう類の悪ふざけはしない性格だった。そして実際、道玄坂は避難する人の波で溢れ、足元は得体の知れない水色の液体が不気味に流れており、明らかに異様な雰囲気だった。

 滝川とリンで壁になりながら、人の波に流されて怪我をしそうな女性陣を気遣いつつ駅から離れるように歩く。こちらに来る予定だった安原とジョンには、既に麻衣がメールを送って来ないように注意していた。最初からハロウィン当日の渋谷に来る気がなかった所長殿には、リンから現状報告のメールを送っているようだ。今回ばかりはナルの判断が正しかった、と滝川は内心で大きなため息をついた。

 走るとかえって危険だと判断したため、道の端を歩いて移動する滝川たちの避難は比較的ゆっくりとしたものだった。だが、時折ぶつかったり転倒する者を見ると、特に着物姿の真砂子を走らせる気にはなれない。綾子もそう考えているのか文句ひとつ言わずに堂々としており、麻衣も真砂子を気遣って彼女と手を繋いでいた。リンは冷静に辺りを観察しているようだが、いつも通りの無口である。種類は違えど調査現場で“普通でない”経験を何度もしているせいか、こういう時は比較的落ち着き払っているメンバーであった。

 どこまで避難すれば安全なのか分かりかねるが、道玄坂から目黒方面へ向かい、池尻大橋まで歩けば一区切りだろうと判断した。あの気味の悪い液体は路面から消えている。

 スマホで情報を確認したところ、路面を流れていた液体はどうやら可燃性で、警察が手配した特殊車両が渋谷駅を中心に中和剤を撒いているらしい。幸いにも、事を起こした犯人は既に逮捕されており、詳細の公表はこれからになるようだ。何にせよ、渋谷駅方面はまだ危険なので戻れない。徒歩避難のためリンも車は道玄坂に置いてきている。タクシーも長蛇の列が出来ており、乗るのも容易ではないだろう。バスも突然の大事件で路線が混乱しているはずだ。長時間待つことを覚悟でタクシーを待つか、徒歩で別の駅に向かうか。

 滝川は、熱心にスマホを見ている麻衣に声を掛けた。

「麻衣、兄貴がいただろ。連絡したか? とりあえず家まで送ってくから心配するな」

「……迎えがあるから大丈夫。それより、真砂子ちゃんと綾子さんを送ってあげて欲しい」

(こういうところなんだよなぁ)

 彼女は自分が気遣いを受ける対象であることを理性的に理解してはいるが、優先はしない。しかし理解はしているので、その気遣いを周囲に回す。あるいは、“自分はかつて気遣いをする側の立場であった”とでも言うような、不思議な雰囲気を持っている。安原であればもう少し上手く言語化できるのかもしれないが、滝川にはこの程度しか説明できない。ひとまず断言できるのは、彼女は決して自暴自棄に等なっていないし、他者に対して悪意のない親切心で接しているということである。

 ともかく、自分以外の女性二人のエスコートを頼んできた麻衣は、迎えが近くまで来ているからと言って一人でその場を離れた。近くまで迎えが来ているとはいえ、この状況下で一人にするのは気が引ける。せめて迎えにきた者と合流するまでは一緒に待っていようと考えた滝川は、麻衣を呼び止めようとして追いかけた。通りの角を曲がったところで少女の背中を見付けたので声を掛けようとしたが、しかし音になる前に口をつぐみ、反射的に身を隠した。

 麻衣の前に茶髪の青年が立っていた。年頃は滝川とそう変わらないだろう。何度か見かけたことがある彼は麻衣の兄だ。名前は唯だっただろうか。前に見かけたときは眼鏡を掛けていたはずだが、今は掛けていない。コンタクトを使っているのか、あるいはそれほど視力は悪くないのだろう。また、彼は背中に通常よりも大きなギターケースを背負っているため、もしかすると滝川と同業なのかもしれない。しかし、妙に傷だらけなのが目に付いた。

 滝川は直感で唯が“普通ではない”と察した。スクランブル交差点方面から逃げてきた周囲の通行人は、自分も含めてあそこまでボロボロではない。唯のスラックスが膝下辺りまで濡れた形跡があるので、流れ落ちる液体の終着点であるスクランブル交差点にかなり近い位置にいたのだろうと推測される。

「……仕事、終わりました?」

「うん。……怪我はない?」

「はい。唯さんは……ちょっとくたびれてますね」

「人混みに揉まれたんだ」

 嘘だろうなと滝川は思った。顔の傷やコートの擦過痕はその程度でできるような軽いものには見えない。恐らく、聡い麻衣も気づいているだろう。

 それでも麻衣は何も追求しなかった。ただ微笑んで、労いつつ歩み寄るだけだった。

「おかえりなさい。お疲れさまでした」

 優しい声。何でもない言葉。それでも、聞いているだけの滝川でさえぐっと胸を掴まれるような何かを覚えた。懐かしくも温かい我が家に帰り付いたような感覚とでもいうのだろうか。恐らくそれは、唯にとってもそう感じられたのだろう。麻衣と似ていない灰色の猫目が火に晒されたバターの様に蕩け、聞いているこちらがむず痒くなるほど甘い声色で彼は応えた。

「…………ただいま。無事で良かった」

 青年の腕が伸び、少女の小柄な体がすっぽりと収められる。兄が妹の無事に心から安堵して抱き締めているだけ――なのだが、滝川は奇妙な居心地の悪さを感じていた。むしろ、最初から何かしら感じるものがあったからこそ、咄嗟に身を隠したといえる。

(兄妹、だよな?)

 そのはずだ。唯からは麻衣に対する慈しみが感じられるし、麻衣も抱き締め返さない点に彼女の戸惑いを感じられるも、拒絶する様子はない。疑う余地はないはずなのに、滝川はどうしても違和感が拭えなかった。

(……そういえば、はっきりと兄妹だと言われたことはないな?)

 滝川が唯と初めて会ったのは、麻衣のバイトの帰りが遅くなったからと彼が現場まで迎えに来た時だ。「彼氏か?」と揶揄い混じりに尋ねた滝川に麻衣は「違うから」と否定はしたが、「顔が似てないからたまにそう言われる」と唇を尖らせて“みせた”だけだ。兄妹だと明言されてはいない。

(兄妹だと思わせているだけで、実際はそうじゃない……?)

 もしその推測があっているとするならば、麻衣と唯の本当の関係性は一体何だと言うのか。親族だというのなら、わざわざはぐらかす必要もないはずだ。嘘を吐かずに都合の良い誤解を周囲に与える理由は何なのか。血の繋がりもない青年と少女が家族だと偽る理由とは。

 唯と麻衣の距離が少し空いた。抱き締められた拍子にぐしゃぐしゃになった麻衣の猫っ毛を梳く唯の手つきは優しいばかりで、悪意はどこにも見当たらない。そう、顔は全く似ていないのに、穏やかな優しさが似ていたから兄妹なのだと滝川は思い込んでいたのだ。

 手を繋ぐような幼さは見せないが、それでも仲睦まじい兄妹のように並んだ二人が歩き去っていく。二人の間にもどかしいような、儘ならないような気配を感じ取った滝川は、実は妹分が厄介そうな事情を抱えているのではないかという疑惑を抱いた。滝川はそれなりに麻衣と仲が良いと考えていたが、思い返してみれば彼女のことをあまり多くは知らない。麻衣の気遣いの仕方とか、周囲に比べて大人びているとか、そういう性質にはきちんとそうなるだけの理由があるものだ。滝川が知らないその理由こそ、あの二人の関係性に関わるものなのかもしれない。

(さて、どうしたものかね)

 麻衣は自分の事情に首を突っ込まれることをよしとはしなさそうである。だからこそ、彼女もむやみやたらと他人の事情に首を突っ込まない。そしてそういう距離の取り方に慣れているから、注意して見ておかないとそもそも距離を取られていることに気付けない。なんだか空気のような輩である。気付いて無理に距離を詰めようとすると逃げられるだろうから、きっと息苦しい思いをする羽目になる。

(何かあった時、駆け込み寺になれる立ち位置を確保しておくのが関の山ってところか)

 坊主なだけに、というわけではないが。

 麻衣だって全くの子どもではないのだから、意思というものがある。嫌がる相手に問い詰めたところで何の解決にもならないなら、相手が安心して近寄れるように待っていてやるしかない。滝川とて妹分は可愛いのだが、何もかもから守ってやれるわけではないし、そうしなければならないこともない。傷付く可能性がある道を選ぶことさえ、大人になろうとしている彼女の自由だ。もし傷を得るのだとしたら、それが立ち上がれなくなるほどのものでなければよいとは願っているが。

(よく分からんが、悪いことはしてくれるなよ、“お兄ちゃん”)

 滝川の胸中の願いは誰に知られることもない。当然ながら唯は振り返ることなく、麻衣と共に夜道の奥へ消えた。





+ + +





傷だらけの景光さん:クライマックスで例の綱引きに参加するときに散々な目に遭った模様。結ぼうとして壁とか看板にぶつかったのでは。多分佐藤刑事とか哀ちゃんとは別の誰かのところでこそっと協力してささっと退散してそう。

今のところ、麻衣兄が明確に景光さんが「兄」と嘘ついた相手はナル君とリンさんだけ。兄がいないとバレてバイト拒否されてもそれはそれでいいと思っているため。(自分のスペック+同居人の厄介さは自覚できてるので、SPRと関わらないのも一つの道)受け入れられるならそれはそれで、何かあった時に「嘘を吐かれていた」と切り捨てる理由に使ってもらえればいいと思ってる。

通常よりも大きなギターケース:ミュージシャンのぼーさんだから気付いたこと。通常サイズのギターケースだとスナイパーライフルは収まりきらない。とはいえ、違和感が出過ぎない程度には抑えてある。でも二重底にして偽装用のベースも入れてるので非常に重い。



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