更新履歴・日記



ジムトレーナーの新生活続き
萌え 2022/06/15 01:03


・ゾル兄さん:ガラルのすがた。
・ガラルリーグ後
・兄さんはラテラルタウンに引っ越しました





 ラテラルタウンに移住した俺の朝は早い。仕事と環境がガラッと変わったお陰だろうか。

 朝目が覚めたらまず、俺のTシャツに潜り込んでいるミミッキュを優しく引っ張り出す。まだ眠いとイヤイヤするミミッキュを宥めながら布団に寝かしつけ、しかし俺自身は誘惑に負けずに起き上がる。そして適当に軽いものを腹に入れ、洗顔と歯磨き。ジャラランガとの朝の日課でかなり動くので、本当に軽くしか食べない。終わってから改めてしっかり食べるようにしているのだ。俺と一緒に早く起きたジャラランガにもポケモンフーズを軽く食べさせてから、一緒にひと気のない街の高台へ向かう。ちなみに、ポケットにはロトムもいる。

 ラテラルタウンは高低差が激しく、低い位置には露天街などがあるので、高い場所の方がひと気がなくて開けている。やや薄暗い朝っぱらからTシャツにジャージのズボンとスニーカーというラフすぎる格好で、ジャラランガと一緒に手合わせするにはちょうど良い場所だ。ナックルシティにいる間は、ワイルドエリアが近いとはいえ都会でそうそう手合わせはできなかった。これはゾルディックの自分としても悪くない日課なので有難い。

 いつもの場所に到着したら、念入りに柔軟をしてから手合わせに入る。もちろん無計画に殴り合っているわけではない。まず地面に円と、少し離れた場所に線を一本引く。俺はこの円の中に立ち、最初の2分は円の中から出ないようにジャラランガの攻撃を捌く。その間俺は自分から攻撃をしない。そしてその後30秒は円から出て俺からもジャラランガに攻撃する。この際、ジャラランガが線の向こう側に退避したら俺は攻撃を止める、というルールだ。なお、ダウンは双方3回まで。あまりにもあからさまなハンデを付けているが、ジャラランガは俺を完全に格上だと認めているので不満はなさそうにしている。実際、今のところ負けたことがない。

 ところで、念能力者同士の戦いは頭脳戦である。だからというわけでもないが、俺は親父殿や祖父殿から“考えながら戦え”と口を酸っぱくして言い聞かされている。馬鹿正直に真正面から突っ込んでどうにかなるのは強化系能力者だけ……とは言わないが、突き抜けた実力者くらいなものだ。俺がやったら普通に死ぬ。ゾルディックの中でも特筆して強いわけでもない俺は、“考えろ”というお達しを主に“相手の土俵に立つな”と捉えてきた。殴り合いが得意な奴にわざわざ殴り合いで挑まない。不意打ち騙し討ちエトセトラ、近距離得意な奴は遠距離から射殺し、遠距離得意な奴は懐に潜り込んで刺殺しと、ある意味ゾルディックの中では最も古典的な暗殺者なのかもしれない。そんなわけで、考えながら戦いなさいという先人の教えは、そのままジャラランガにも適用させている。我が家の真面目なジャラランガは、それを素直に受け取って毎朝頭を捻っている。

 本日のジャラランガは、その頑強な尾で俺の足元の土を草ごとこそげ取った。どうやら足場崩しを考え付いたらしい。それがまた、上手いこと俺の体をひっくり返すようなやり方をしてくる。視界が上下反転する瞬間、トカゲ顔の強面がニヤッとしたように見えた。多分これ、ドヤ顔だな。

 俺は両腕を地面について激突を避けつつ、足をグッと自分の体に引き付ける。そして倒立したまま体の捻りを加えた蹴りを放ち、俺を捉えようとした追撃の爪を下から上へ蹴り上げて逸らした。蹴りの勢いと腹筋の力でさっさと立ち上がった俺は、仰け反った姿勢でびっくりした顔をしているジャラランガにニヤッとし返した。

「今のは良かった」

 ジャラランガは目をしぱしぱ瞬かせてから、不満そうに地団太を踏んだ。悔しかったんだろうな。うん、残念でした。今ので一発貰っていたらむしろ俺が親父殿にシバかれるので、こちらとしても貰うわけにはいかない。イルミにも「兄さん、疲れてる? 一緒に鍛錬しようか」と前後が一致しない心配の言葉を掛けられるに違いない。

 しかしもしかすると、俺に褒められたのに味を占めたのか、あるいは一瞬でも体を浮かせたことでイケると思ったのだろうか。数十秒後にまた足元を尻尾が狙ってきたので、今度は遠慮なくそれを片足で踏みつけた。「ギャン!」と可哀想な悲鳴を上げるが、もちろん足は上げない。尻尾にも発達した竜鱗が生えているが、面を押さえるように上手く踏んでやればこちらは傷つかないのだ。混乱したジャラランガは必死に尻尾を引き抜こうとぴょこぴょこ跳ねているがびくともしない。一応、かなり手加減して踏んでいるので大した怪我はしていないだろう。俺の脚力で本気を出したら地面ごと無残なことになってしまう。

「同じ手は続けて使わないこと。相手に手の内を知られると、付け入られる隙になる」

 リーグ戦で散々シャンデラファイヤーを使いまくった俺が何を言うのかといったところだが、あれは先手必勝なので別である。最近、ゴーストタイプジムにいるシャンデラ使いのオッサンに「ロマン砲いいぞ!」と火炎放射とオーバーヒートの差し替えを勧められている。俺はロマン大好きな男の子なので結構悩ましい問題である。

 そんなこんなでジャラランガを程よく転がした後に帰宅。家に戻ったら玄関前でジャラランガの体についた砂埃を綺麗に払ってやり、終わったら自分は浴室へ直行。シャワーを浴びて汗を流したら、改めて朝食の準備だ。ポケモンたちの食事はポケモンフーズ頼りだ。ポケモンごとに個体差や体調に合わせて手作りで調整などという神業はできない。キバナからは「困ったときはガラルカレー食っとけ」と言われたが、毎日毎日朝昼晩カレー生活は耐えられないので、結局市販品の力に頼りまくっている。食事メニューと手間とコストに悩む専業主婦の気持ちが少しだけわかった気がしないでもない。それでも俺の場合、ゴーストタイプ持ちはおやつ感覚で俺のオーラを甘噛みしていくので、恐らく他のトレーナーよりも楽できてると思われる。トレーナーとして正しくはないだろうが。

 程良い時間にゴーストタイプジムに出勤して仕事。書類仕事系はロトムの全面協力があれば、手書きでないなら何とかなる。文字はその場でロトムが翻訳してくれるし、スマホからPCに憑依し直せば音声入力方式で書類作成もしてくれるのだ。うわ……俺、ロトムがいないと社会生活がままならないのでは。文字くらいとっとと覚えろよと思ったそこの人、ガラル文字を見てくれ。俺は無理だ。それはともかく社会人として仕事をするのがルーチンである。定職についているって、すごくメンタルが安定する……(遠い目)。

 昼はオニオンと一緒に屋台で食べる。オニオンは内向的だが根っこは好奇心旺盛なので、日替わりであちこちの屋台を除いては試している。たまに飯の最中にキバナから映像付きの電話が飛んでくるので、オニオンと一緒にスマホを覗き込みながら話したりもする。内容は8割9割がポケモンのことだ。タイミングが合えばサイトウさんと一緒に食べることもあるが、やっぱり話題はポケモンである。SNS上でほんの一瞬だけ俺とサイトウさんの交際説が流れたようだが、気付いたら姉弟コンビ(サイトウさん・オニオン)と親戚のお兄さん(俺)という扱いになっていた。テオさんとのやり取りも「ルイ君、サイトウさんと付き合ってるって本当?」「えっそうなんですか?」「やっぱりガセかぁ」で終了だった。“やっぱり”と言われる辺り、謎の信頼感がある。信頼感だよな??? なお、キバナともほぼ同じやり取りをした。

 そろそろお気付きだろうが、俺は大体オニオンとセット扱いである。モデルの仕事が入っている時はさすがに一緒ではないが、朝はジム(という名の公民館に近い)に出勤する際、学校が休みの日ならオニオンを自宅へ迎えに行き、仕事、昼食、仕事、大体定時退社で自宅へ送り届け、たまにお手伝いさんも交えて夕食、と冗談抜きで親戚のお兄さんムーブをかましている。もちろんオニオンのご両親の許可と顔見せは済ませてあるので問題ない。今まではサイトウさんが時々俺と同じようなことをしていたようだが、リーグ後から何かと忙しそうにしているため、俺が喜んで代わったのだ。オニオンもすっかり俺に懐いてくれて、今では俺をルイ兄さんと呼んでくれるようになった。可愛い。





「……僕、ルイ君の一日のスケジュールを聞いて“もっとモデルとして気を遣って!”って言おうと思ってたんだ。でもね、朝の日課で全てを持っていかれてしまったというか」

「適度な運動は適度な筋肉の源ですよね」

「確かにルイ君って脱ぐと筋肉バッキバキだけど、言いたいことはそこじゃないんだ」

 テレビ電話でテオさんが淀んだ目をしているのは俺のせいだろうか。





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お前のせいだよ。

ゾル兄さんもオニオン君もお互いの呼び方が他人行儀ではなくなってます。


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